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宇宙船墓場で古代エイリアンのアンドロイドとして転生した件  作者: 謎村ノン
第II部 ナヴーピ編

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第二十六章 究極魔法とレベルアップ


 極大火球魔法が解き放たれた瞬間、前方表示の中の宇宙が、赤く歪んだ。

 火球、という名前では足りないと、僕は思った。

 それは、どこかの恒星の一部を無理やりもぎ取って、そのまま投げつけてきたみたいだった。

 球形ではある。けれど表面は絶えず崩れ、吹き上がり、再び圧縮されている。

 熱だけではなく――圧力、輻射、重力井戸のゆらぎ、局所的に狂わされた物理条件、その全部が一つの災厄としてまとまっていた。

 あれがナヴーピへ落ちれば、神殿も、田園都市も、郊外の集落も、僕たちが歩いた風受け塔も水路も、まとめて焼けのが分かりきっていた。

 おそらく、何メガトンの核兵器とか以上の惨事になるだろう。

『艦首重力磁場バリアー、最大出力で展開』

 青葉が告げた。

 その声は、驚くほど落ち着いていた。

 時間が早くなったように感じられる。青葉と、僕とは、リンクを最大限に合わせて、人間では反応できないスピードで情報交換していた。

『全艦分子機械構造体制御、艦首へ移行。シャドーマター(フィールド)、最大。偏向板、角度固定』

 巡洋艦『青葉』の前面へ、見えない壁が何枚も重なる感覚が伝わってくる。

 重力磁場バリアー――重力子キャパシターから引き出された重力磁場の(フィールド)が、前方空間へ薄く広がり、極大火球魔法の進路に対して傾斜した井戸を形成している。

 青葉から聞いた知識だと、そのバリアー内では、超伝導体のマイスナー効果で磁気が通らないのと似た感じで、質量と放射を両方防ぐことができるんだそうだ。

 でも、それは、一定の負荷までに限られる。

 そこで、この艦では、その外側に、シャドーマター(フィールド)による緩衝層を配置していた。

 さらに、その奥に、前面装甲と艦内構造を一体化する応力分散用の装甲網を構築している。

 『青葉』は、ただ頑丈な船じゃなかった。

 攻撃を受けることも想定した軍艦なのだと、改めて思った。

『弓良』

『うん』

『前面(フィールド)の位相を同期してください。バリアー単独では、極大火球魔法の質量化した熱流束を完全偏向できないと推定されます』

『わかった』

 僕は、接続座へ手を深く沈めた。

 青い光が指先から腕へ、肩へ、背骨の感覚へ流れ込んだ。

 そして、そのまま『青葉』の前面構造が、自分の体の延長みたいに感じられ始める。

 艦首、偏向板、重力磁場バリアー――その全部が、今は“僕が支えるもの”になっていた。

 極大火球魔法が、きた。

 次の瞬間、それは『青葉』へ衝突した。

 宇宙が、一瞬だけ白くなった。

 音はない。でも、衝突そのものが、船体を通じて骨の中へ直接響くみたいに感じられた。

 重い。

 とんでもなく重い。

 熱い、ではない。

 熱よりもっと手前で、“世界がこの方向へ壊れようとしている圧力”が押し寄せてくる。

「っ……!」

 僕は、思わず歯を食いしばった。

 重力磁場バリアーが、受けた瞬間に歪んだ――目には見えないはずの場が、感覚としてはっきりと分かった。

 巨大な見えない膜が、内側へ押し込まれていた。

『重力磁場バリアー、第一層、三十五パーセント減衰』

 青葉が、淡々と読み上げる。

『第二層へ荷重移行』

 火球の表面が、バリアーにぶつかった部分だけ平たく広がる。

 でも、それで終わらない。

 押し潰されるように広がった外殻の下から、さらに高密度の芯が前へ出ようとしていた。

 ヅゴダは、ただの大きな火球を投げてきたわけじゃない。

 中心核をもち、まるで形成炸薬のような構造を持った火球を打ち込んできたのだ。

 おそらく、これは、戦艦を打ち破るような魔法なのだろう。

『まずい』

 気づけば、そう声が出ていた。

『はい』

 青葉は、即答する。

『このままでは、第三層以降に過剰荷重が集中します』

 第三層――つまり、艦そのものの受け止めだ。

 そこまで押し込まれたら、『青葉』が守れても、無事では済まない。

 ジェプラが後ろで、小さく息を呑む音がした。

 たぶんブライアントも、シャトル(ゼカタ)の回線越しに、これを見ている。

 でも、今は外のことまで意識を割けない。

 僕は、前方へ意識を伸ばした。

 極大火球魔法の内部は――ただの炎ではなかった。

 高密度のシャドーマターが、局所的な熱の持続定数と電磁気の圧力係数を狂わせた状態で、無理やり一つの形へ縛り上げられていた。

 だったら――

「青葉」

『はい』

「これ、壊すだけじゃなくて……」

 言いながら、僕は、自分でも何を考えているのか分かりきってはいなかった。

 でも、ひとつの直感だけはあった。

 押し返すのでは足りず、偏向するだけでも足りなかった。

 この術式の“中身”そのものを、こちらの側へ奪わなければ、圧力は減らない。

「中のシャドーマター、取り込める?」

 ほんの一拍、青葉が黙る。

『……理論上は可能です』

「やる」

『危険です』

「わかってる」

『術式により励起状態が変化したシャドーマターを直接取り込むと、弓良自身の制御域へ異物が流入します』

「それでもやる」

 答えながら、自分でも少し驚いていた。

 怖かった。

 でも、それ以上に、いまはそれしかないと感じていた。

 火球の外殻を、僕は見ていた。

 見ているうちに、その向こうの“芯”が少しずつわかるようになってきたのだ。

 圧縮――固定――熱化――破砕――

 ――支えているのは、中心部に束ねられたシャドーマター流だ。

 ――なら、その束ねたものを――少しだけ、こちらへ引く。

『弓良』

 青葉の声が、今度は少し近かった。

『本艦が補助吸引場を作ります。あなたは、制御に専念してください』

「うん」

 その瞬間、『青葉』の前面のシャドーマター(フィールド)の形状が変化した。

 ただ押し返すのではなく、極大火球魔法の表層をなぞるように、細いトゲのような吸引の谷がいくつも生まれる。

 火球の表皮が、その谷へわずかに引かれた。

 僕は、その引かれた一筋へ意識を合わせた。

 熱かった。

 違う……熱ではなかった。

 熱になる前の、世界を焼くための条件付けされた、シャドーマターの塊だ。

 それが僕の感覚の中へ流れ込もうとしてくる。

「っ……!」

 一瞬、視界がぶれた。

 知らない。

 重い。

 暴力的だ。

 ヅゴダの怒りそのものみたいな圧が、そのシャドーマター流の奥に残っていた。

 でも、青葉の場が、それを完全にはそのまま通さない。

 船が一度噛んで、細くし、分け、僕の手に持てるくらいまで、解いてくれている。

『制御してください』

 青葉が言う。

『ただ受けるのではなく、再配置を』

 再配置。

 その言葉が、鍵になった。

 奪う――取り込む――そして、僕の側の場へ並べ替える。

 僕は、流れ込んできたシャドーマターを、自分の中のシャドーマター結晶ではなく、それが食い込んでいる時空構造そのもの、ブレーンの“構造を見る層”へ通した。

 すると、見え方が変わる。

 ただの敵意の塊ではない――高密度の計算結果――局所的に熱的宇宙定数を偏らせた術式の形状が見えた。

 なら、方向さえ変えれば、散らせる。

「……これ」

 小さく声が漏れた。

 僕の中で、また一つ扉が開いた。

 “成立条件を握る”感覚だ。

 敵が構築したものを、こちらから少しずつ取り上げていく。

 重力磁場バリアーの外側で、極大火球魔法の輪郭がほんのわずかに崩れた。

 押し込んでいた圧が、一瞬だけ揺らぐ。

『有効です』

 青葉が即座に言う。

『継続してください』

 僕は、さらに引いた。

 敵のシャドーマターの熱になる前の条件を――一筋ずつ、細く、こちらの場へ吸い上げる。

 もちろん、既に物質とこの四次元時空に影響を与えている箇所は無理だった。

 でも、一部でも芯から抜ければ、極大火球魔法全体の圧縮率が落ちる。

 そのたびに、僕の中へ変な感覚が走った。

 知識……?

 いや、違う――理解の速度が上がっている。

 火球の構造が、さっきより早く、はっきりと見えてくる。圧縮の継ぎ目が、読める。

 シャドーマターの励起された構造の癖が、少しずつ分かってきた。

「……レベル、上がってるみたいだ」

 そんな、ゲームみたいな言葉が頭をよぎる。

 多分、正確ではないけど、感覚としては近かった。

 昨日まで見えなかったものが見えて、できなかった制御が、今はできる。

 敵のシャドーマターの制御の構造を学習し、取り込み、組み替えていた。

 それは、自分でも少し怖いくらいだった。

『弓良』

 青葉が低く言う。

『重力磁場バリアー、第二層がもう保ちません』

 その一言で、僕は現実へ引き戻された。

 見れば、前面バリアーの内側がもうかなり押し込まれている。

 『青葉』は耐えているけど、無限には耐えられない。

『このままでは突破されます』

「わかってる!」

 僕は、叫ぶように答えた。

 だったら、もう受けるだけじゃ駄目だ。

 取り込んだ敵のシャドーマターを、今度は外へ返す。

 でも、撃ち返すのではない。

 散らす。あの光のブーメランや小さい火球と同じようにできるはず!

 僕は、両手を前へ伸ばした。

 重力磁場バリアーの外側で、極大火球魔法の芯から引き抜いたシャドーマターが、こちらの場へ再構成される。

 赤かったものが、白く、さらに薄い金色へ変わる。

 圧縮ではなく、分散だ。

 破壊ではなく、解放させる――束ねられた熱的条件を、宇宙へ返す。

「散れ!」

 その瞬間、『青葉』の前面で、極大火球魔法の中心核が割れた。

 爆ぜたのではなく、ぱくりと開いて――赤い巨塊の内側から、無数の光の筋が四方へ走った。

 既にエネルギーに変換されていた熱は、消えなかった。

 でも、一点へ落ちるはずだった災厄が、細かい流れへ分かれて宇宙へ逃げていった。

 『青葉』の前面を押し込んでいた圧が、一気に軽くなる。

『荷重、急減』

 青葉が、告げる。

『敵極大火球魔法、中心構造崩壊』

 前方表示の中で、巨大だった赤い塊は、もう都市を焼くひとつの災厄ではなくなっていた。

 何百、何千もの燃える流星雨みたいに散った。

 それぞれが危険ではあっても、ナヴーピの大気上層で消えるだろう。

 『青葉』の前面装甲に、いくつかの散った火の筋がかすめる。

 それでも、さっきまでの“世界を焼く一撃”に比べれば、どうということはなかった。

 僕は、その光景を見ながら、ようやく浅く息を吐いた。

 止めた。

 しかも、ただ弾いたのではなく――敵のシャドーマターを取り込み、制御し、こちらの側で組み替えて、散らしたのだ。

『……弓良』

 青葉の声が、ほんの少しだけ近かった。

『極大火球魔法は、完全に消滅しています。ナヴーピ地表への直撃は回避されました』

「うん……」

 それしか返せなかった。

 ジェプラが、後ろで小さく息を呑む。

 シャトル(ゼカタ)の回線の向こうでは、ブライアントが完全に黙っていた。

 ヅゴダの側は、もっと酷い状態だろう。

 あれほどの術式を、真正面から受けられたうえに、散らされたのだから。

 でも、今は向こうを見る気力がなかった。

 僕は、自分の手を見た。

 白い機怪人形の手だ。

 少し前まで、移動と修理魔法くらいしか、よく分かっていなかった手だ。

 その手が今、極大火球魔法の中身を掴み、取り込み、制御した。

 怖かった。

 でも、それ以上に、もう一段、扉が“開いて”しまったという感じがした。

 前方表示の中では、散った火の筋が遠ざかっていく。

 その向こうに、まだ燃え残る怒りみたいにヅゴダの旗艦があった。

 けれど、少なくともナヴーピは、まだそこにある。

 僕はそれを見て、ようやく少しだけ肩の力を抜いた。


***


 極大火球魔法が、無数の燃える筋となって宇宙へ散っていくのを見た瞬間、黒狼族の艦隊全体も、わずかに静止したように見えた。

 実際には、慣性で動いていたのだろうし、艦内では警報も鳴っていたはずだ。

 しかし、前方表示越しに見えるその沈黙には、明らかに“起きたことが理解できない”という種類の硬直があった。

 ヅゴダの旗艦からの映像回線が、不意に開いた。

 今度は、脅しを続けるのではなく、反射的につながってしまったみたいな開き方だった。

 画面の向こうで、ヅゴダはさっきまでの怒りに任せた顔のまま立ち尽くしていた。

 血走っていた目はまだそのままだったが、その奥に、怖れのような感情があるように見えた。

『……何をしやがった? おい、何なんだよ!』

 その声には、もはや余裕も威圧もなかった。

『こちらからは、映像、音声とも接続しておりません』

 青葉が、淡々と告げた。

「うん」

『前面重力磁場バリアー、第二層損耗大。第三層は維持。前面装甲、軽中度熱損傷あり』

 青葉が静かに状態を読み上げる声だけが、制御区画の現実をどうにか繋ぎ止めていた。

 その報告を聞いた瞬間、ジェプラが後方で小さく息を吐いたのがわかった。

 ブライアントからの回線は、数秒遅れてようやく戻ってきた。

「……弓良」

「うん」

「今のを、本当にやったのか?」

「やった、とは思うけど……」

 自分でも歯切れの悪い返事になった。説明できることと理解していることは違う。

 すると、ブライアントは息を一つ吐いてから、少しだけ声を低くした。

「青葉」

『はい』

「今のは、グラブール人の言葉なら“極大火球魔法を破った”となるんだろうが、シャドーマターをどう制御したんだ?」

『敵術式に含まれる高密度シャドーマターの奪取と、局所的な物理条件の再配置です』

「再配置、か……」

 ブライアントは言葉を噛むように繰り返した。

 その声音には驚きと、理解しようとする現場屋の癖と、それから少しだけ怖気に似たものが混じっていた。

 映像の中で、ヅゴダの横にいたあの下卑た部下が、ようやく我に返ったように何か喚き始めた。

『お、お頭……あ、あれ、ただの古代船じゃねえでやすよ……!』

 ヅゴダは、そいつを殴りそうな勢いで振り返ったが、実際には殴らなかった。

 その代わり、画面のこちらを食い入るように睨みつけてきた。

 こちらからは、接続していないのに、まるで内面まで見透かされたような、居心地の悪さを感じる。

『……機怪人形、か?』

 ヅゴダは低く吐き捨てた。その一言だけなのに、そこには侮蔑と、恐れと、認めたくない記憶の残り香みたいなものが重なっていた。

『取り返された、って聞いたのに、まだいたのか?』

 僕は、その言い方に妙な引っかかりを覚えた――取り返された?

『お前ら地球人が、そこまで神域を汚してるとはな!』

 ヅゴダの声が再び荒くなった。

 だが、その怒りはさっきまでとは質が違っていた。今の彼は、こちらを軽んじてはいない――だから、怒りが深くなっているように思えた。

『なら、まとめて潰すしかねえ!』

 その言葉と同時に、黒狼族の艦隊にまた別の動きが走った。

 しかし、さっきの極大火球魔法のように、旗艦前方へ全てを集中させる動きではない。むしろ逆だった。

 各艦が、それぞれの位置で小さく、しかし一斉にシャドーマターの(フィールド)を立ち上げ始めた。

 突撃艦、護衛艦、旗艦――その全部が微妙に違う周波数のシャドーマターの制御された振動をまといながら、艦隊全体として一つの編み目を作ろうとしているように感じられた。

『敵艦隊、再構成中』

 青葉が、即座に言った。

『各艦ごとに独立術式ではなく、艦隊レベルでの相互接続を試みています』

「どういうこと?」

 僕が問い返すと、青葉は一瞬だけ沈黙し、それから慎重に言葉を選んだ。

『おそらく、艦隊全体を一つの制御系として再編しようとしています。個艦が止められるなら、群として圧殺する意図です』

 その説明を聞いた瞬間、僕は前方表示の中の違和感を別の形で理解した。

 個々の艦が火球や光刃を放つのではない。全体でつながり、全体で一つの意思を通そうとしているのだ。

 ブライアントが回線の向こうで唸った。

「やっぱり、か」

「何が」

「グラブール人の艦隊は、時々、こういう風に攻撃してくる。単に、同期して艦を制御するんじゃなく、一気にまとまる感じだ」

 その言葉と、いま目の前で起きている変化が、妙にぴたりと噛み合った。

 向こうの艦隊が一つの群として働くための、何かの作用があるはずだ。

 そして、その瞬間、僕の中で別の扉が開きかけた。

 ――光、輪郭、封止、優先順位、上位指令――そんな言葉が、こちらの意志とは少し違う速度で浮かび始める。

 先程、敵のシャドーマターを取り込み、制御し、散らしたあの行為そのものが、次の理解の扉を押し開けたのだ。

 それは少し怖くて、でも今は頼るしかない種類の変化だった。

「……青葉」

『はい』

「今、変な感じがする」

『具体的には』

「敵の艦隊を、壊すんじゃなくて……静かにさせられる」

 そう言った瞬間、青葉はほんの僅かに沈黙した。

 その沈黙は、驚きというより照合のためのものだった。

『続けてください』

「術式の外側じゃなくて、もっと中。各艦がつながってる、そのつながり方の優先順位みたいなものが見える。そこへ輪をかけるみたいに、光で閉じる」

 自分で言っていて、ひどく曖昧だと思った。しかし、曖昧なのに確かな感触があった。

 火球を散らした時とは違う。今度は敵の“群としてのまとまり”へ干渉することができそうな気がした。

 青葉が、今度は少しだけ低く、しかしはっきりした声で答えた。

『本艦が増幅補助に入れば、成立する可能性があります』

 その一言で、僕は自分の中の直感が気のせいではないことを知った。

 後ろでジェプラが、小さく息を呑んだのが分かった。

『現時点では断定を避けます。広域妨害ではなく、統制系への干渉とみるべきです』

 統制――その言葉は、僕の中へすとんと落ちた。

 向こうの艦隊はいま、群として一つの術式を揃って使おうとしている。けれど、僕は、その揃い方に対して、別の“上位”の輪をかけようとしている。

 ヅゴダの艦隊では、各艦の周囲に薄い火や光が立ち上がり始めていた。

 新たな攻撃が来る前に、こちらが動かなければならない。

 僕は、前方表示を見つめたまま、ゆっくりと接続座へ手を沈め直した。

「青葉」

『はい』

 先程、取り込んだシャドーマターの残滓が、まだ僕の中で熱を失わずにいた。その熱は、もう暴れようとはしていなかった。

「やる」

『了解しました、弓良』

 その返答のあと、『青葉』のシャドーマターの(フィールド)が静かに広がった。

 場は、広く、もっと静かに、そして敵艦隊全体を包み込んでいく。

 僕の胸の奥では、その(フィールド)に乗せるための制御が、まだ完全ではないまま少しずつ輪郭を持ち始めていた。



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