第49章 史上最強の鈍感少年
長らくお待たせいたしました・・・汗
今回はバイクはお休みです。汗
「テスト・・・テストテストテスト・・・はぁ」
7月に入り、急激に日が長くなった。夕暮れが照らす部屋の中で由美は1人机に向かっていた。
「毎年毎年・・・なんで夏休みが目の前って所でこんな障害物があるのかしら・・・」
由美と圭太の通う学校は7月前半に試験があり、それが終わるとすぐに夏休みに入る。なのでこの時期は生徒も教員も忙しくなる。
そして、夏休みに入っても一部の生徒は補習で夏休みが延期になったり進学のための準備があるため、今年の夏休みは去年に比べると驚くほど時間が無いのだ。だから少しでも長く夏休みを過ごしたい、補習を受けたくない・・・そんな一心でとりあえず数学のノートと課題のプリントを開いたは良いが、もう頭の中はここ数日の出来事と夏休みイベントの事で頭がいっぱいいっぱいなのだ。
「翔子ちゃんは・・・もう大丈夫よね。美春ちゃんのサンパチも多分大丈夫だと思うし・・・真子さんと玲花は・・・なるようになる・・・かな?」
背もたれに寄りかかり椅子をウィリーさせ、シャーペンを回しながらぶつぶつと呟く。由美ははっとなって椅子を地面に下ろすとシャーペンを握りなおした。そしてすぐに投げ出した。
「あーもう!全っ然集中出来ないわ・・・はぁ」
反り立つ壁のように立ちふさがるテスト期間勉強。この登れそうで登れない壁を前に、由美はため息をついた。
後もう少しで手が届く夏休みという名のファーストステージのゴール。それを目前にしても、集中が出来ないのだ。
「もう少し・・・もう少しなのに・・・あ!」
ピカンと電球が光った。自分がテスト期間と言うことは、つまり同じ学校、同じクラス、そして幼なじみの圭太もテスト期間なのだ。
「・・・あ、遊びに行くワケじゃないわよ・・・!?ちょっと一緒に勉強しようってだけなんだから・・・!決して変な事なんて考えてないんだから・・・!!うん、そうしましょう」
こうして、由美は学校のカバンにノートやら筆記用具やらを押し込み、圭太の家に何故かスキップで行くのであった。
靴を履き、玄関を飛び出すと向かい斜めにある中山家に向かう。家の前にたどり着くと、そこは勝手知ったる人の家。門にあるインターホンを押さずに敷地内に入る。
そして玄関にたどり着いて、漸くインターホンを押した。
ごくごく普通のベルが鳴り、玄関から出てきたのは予想通り圭太だった。
「あれ?どうしたの?」
「い、いやね・・・その、一緒に勉強しようかなぁ・・・なんて思ったりして」
この場合一緒に勉強ではなく勉強を教えてもらいに来たになるのだが、そこには突っ込まず、圭太は2つ返事で了承した。
「マジメにやるなら構わないよ。上がってよ」
「ま、マジメにやるわよ!」
そんなやり取りをして、由美は圭太の家に上がった。2階にある圭太の部屋は6畳間の普通の部屋だ。ベッドに勉強机、クローゼットや本棚ももちろんある綺麗な部屋だ。本棚には様々な小説の他、意外にもマンガ、雑誌もあった。
「そういえば久しぶりだよね、由美が僕の部屋入るの」
「そう言えばそうね。でもあまり代わり映え無いわね」
窓から差し込む夕陽が良い感じなムードを作る。
「じゃあ勉強用に机取ってくるから、その変でゆっくりしててよ」
「あ、お茶もよろしくね」
「はいはい」
適当な返事をして部屋を出て行く。何もすることが無くなった由美はとりあえず床に座って部屋をぐるりと見渡した。
「さて、と・・・何か無いかなぁ〜・・・ん?」
視線を止めたのはベッド。いや、ベッドの上にある雑誌である。
「・・・・・・まさか、ね・・・」
ベッドの上、雑誌、そして現場は男の部屋・・・由美は少し緊張した表情で床を膝歩きでベッドに近づくと、顔をベッドの上に出して表紙を見る。
「・・・はぁ、よかった・・・ただのバイク雑誌みたいね」
ホッとして胸を撫で下ろす。そのままベッドに乗っかると、寝転がりながら雑誌を開いた。
「ふーん、圭太も一応バイク雑誌を読むのね。ん・・・?」
適当に開いたページに、三角折りがされていた。どうやらその次のページのようだ。
捲ってみると、カラーページで特集が組まれていた。
『旧車カスタム!!いぶし銀、カワサキ特集!!』
タイトルからしてどこぞの3姉妹が喜びそうなタイトルである。そこにはぶっ太い足回りと17インチでカスタムされたMkⅡやドラッグ仕様マッハⅢ。当時を意識したオールブラック塗装のZⅡ等々、大々的に写されていた。
そんな中、由美の目を惹いたのがローソンカラーをアレンジしたカラーでカスタムされたFXだった。黒の手曲げ管にセパレートハンドル、グリップミラーにバックステップ。セミシングルシートが当時仕様を主張する。
「ん〜、カッコいいわね・・・」
ビッカビカに輝く車体。傷1つ無いタンクはため息をつく程の完成度だ。自分もこれぐらいゼファーを改造出来たら楽しいだろうなと妄想を膨らませていると、下に書いてある改造費を見て諦めた。いくらなんでもそりゃ無理だと思う金額に、由美はコツコツ地道に頑張ろうと心に決めた。
そんな感じで意識が現実に引き戻されると、ふと気付いた。
「こ・・・これが圭太の・・・ベッド・・・!!」
白いカバーに白いシーツ。なんの変哲も無い普通の布団に、一瞬にして顔が赤くなっていく。
「・・・な、なによ、ただのベッドじゃない・・・!!こんなので何焦ってるのよ私は・・・!」
真っ赤になった顔で首を横に振る。そう、これはただのベッド。普通に布団があって普通に寝るだけの寝具である。しかし・・・
「こ・・・ここで圭太が・・・」
もう一度ベッドに身を投げる。ぼふっという音とがして由美を受けとめた。そして由美は少し変な気分になってきた。
「そしてこれが・・・圭太の・・・」
目の前にある枕を見て、由美はそれを手に取ると顔を埋めた。
「すんすん・・・これが圭太の・・・」
少し危ない目で少し危ない行動をする由美。もう一度顔を埋めると、再び匂いを嗅ぎはじめた。
「すんすん・・・はぁ、圭太ぁ・・・」
み・な・ぎ・っ・て・き・た!!!!
由美の内なる圭太への想いが爆発寸前にまで高められる。もういっそこのままでいたい!由美がそんな思考に至りかけたその時・・・
がちゃり
「・・・っ!?」
扉のノブが動く音で目が覚めた。そして瞬間的になんとかしなければならないと考えた由美は布団からマッハで飛び降りると、枕を顔の位置に抱えて・・・
「どりゃああああああ!!!!」
一気に仰け反った。
「いやぁ、机を持ってくるの大変だったよ・・・って、なにやってんの?」
「み、見てわからないかしら・・・!?」
「・・・ゴメン、わからない。ジャーマンスープレックスしてるのはわかるんだけど、ジャーマンスープレックスしてる理由がわからない」
呆れ顔で圭太が見つめる。
そう、由美は圭太の枕をベッドにジャーマン式スープレックスでノックアウトしていたのだ。
「い、いや、その・・・!そう!この枕がなんか気に入らなくて、その、旭さん風に言うと気合いが入ってなかったから気合い注入してたのよ!!」
嘘もここまで来るとワケがわからなくなってくる。しかし、そんな由美の嘘を鈍感少年圭太が見抜けるハズもなく。
「ふーん、まぁ構わないけど壊さないでね」
と、注意するだけに止めた。
「さて、と。そろそろ勉強始めようか」
机を床に置くと、圭太は部屋の隅にあった自分の学校のカバンを引っ張り出した。
「ほらほら、いつまでもそんなことしてないで早くやろうよ」
「え、あ・・・え、えぇ」
なんとか誤魔化せたことに安堵して、由美はジャーマンスープレックスの体勢を解いて机に向かった。
ちょうどその時、圭太達の住む街の側の街道にあるコンビニに、3台の旧車が停まっていた。
「フフフ・・・時はきた・・・!」
「どっかの破壊王か全く・・・なぁ姉貴〜・・・本当に行くのか?アイツん家・・・」
「当たり前じゃないか、テスト期間中は圭太君と会えなかったしなにより旧車物語は来週まで活動が無い。これ以上圭太君に会えないなんて・・・私には我慢出来ない」
キリッとした顔で、どうしようも無い発言をする姉。そんな姉に呆れ顔を隠せない姉妹達。
「はぁ・・・つーかさ、一体アイツのどこがそんなにいいんだよ、あんな鈍感野郎」
長い髪をポニーテールに束ねた武士みたいな勝ち気な少女がたずねると、次の瞬間姉からマッハでげんこつを食らった。
「〜っ!!」
「圭太君のどこが好きか?そうだな・・・全てだ」
またしてもキリッとした顔である。恥じらいも何もないその表情に痛みを堪えながら悶える少女も瞬時に呆れ返した。
「でも・・・やっぱり行くの止そう・・・?圭太さん達、まだテスト期間中だし・・・」
今まで事の流れを見ていた少女がおずおずと言った。勝ち気な少女と双子なので顔は似ているが、小さなツインテールで全然女の子っぽい。
「わかってないな・・・テスト期間『だから』いいんだ」
「え・・・どういう?」
「高校3年の試験は絶対に落とせない物・・・頑張って勉強しているハズ・・・そんな時、現役大学生のこの私が圭太君の家にいきなり行って、2人きりで勉強すれば自然と距離は縮まり、その後の展開次第ではちょっと違う『大人の勉強会』になりうる可能性も・・・もちろんこれは無理矢理では無くて・・・じゅるり」
((だ、ダメだコイツ・・・早くなんとかしないと・・・!!))
ヤバい目をしてヤバい脳内妄想をヤバい事に世間の目のある屋外で口に出してダダ漏れさせる姉に、2人は内心恐怖した。
「てか今日の姉貴ヤバいぜ・・・?何があったんだ・・・?」ヒソヒソ
「きっと試験勉強が終わって一時的にテンションが上がっちゃってるだけだよ・・・多分・・・」ヒソヒソ
「おい、聞こえているぞ」
((ビクッ!!))
内緒話をしているのがバレて焦りまくる2人。しかし姉は「ふっ、まぁいい」と言ってバイクに跨がった。
「とにかく私は行く。なにがなんでもだ」
「それはいいけどよぉ、じゃあオレ達いらなくね?」
「いや、2人には敵を釣り上げてもらう」
「「敵?」」
声が重なる。
「そう・・・私達の仲間にして恋敵である由美ちゃんを、あなた達は外に連れ出す又は家に押し入り、圭太君との接触をシャットダウンする役目。家が向かいだから、念には念を・・・フフフ」
((うわぁぁあ!!とんだとばっちりだぁ!!!!))
「フフフ、この煮え切らない戦いに、今日終止符を打つ・・・!」
そう言うと、愛車に跨がり走りだした。あとの2人も渋々嫌々、ついていくこととなった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
コチコチと秒針が鳴る音とシャーペンを走らす音だけがする部屋で、由美は向かいにいる圭太をチラッと盗み見た。
そこにはペンを走らせ、参考書と睨み合う圭太の真面目な表情があった。
一方自分はと言えば、はかどるどころかノートは真っ白。こんな状況で真面目に勉強できる程人間出来ていないのだ。
なんとかして、圭太と話さなければ・・・
しかし今の状況でバイクの話などの雑談を振れば、圭太に嫌な顔をされること必須。間違い無く流されるであろう。それならば・・・
「ねぇ圭太」
「ん?」
「そのぉ・・・ちょっとわからない所があって・・・」
申し訳なさそうな。心底申し訳なさそうな表情で由美が言う。すると圭太は由美のノートと課題プリントを覗き込む。
「あ、これはちょっと難しい奴だね」
「わかる?」
「うん、ちょっと待ってね」
自分のノートを持って立ち上がると、由美の横に移動した。
「隣座るよ?」
「へ!?あ、はい!どうぞ!!」
「・・・?どうかした?顔赤いけど・・・」
「な、なんでも無いわよ!ほら、それより・・・」
「あ、ゴメンゴメン。えーっとこれはね・・・」
構わず説明する圭太の言葉を余所に、由美は心の中で「圭太キタァァァァァア!!」とガッツポーズをしていた。
普段から一緒に行動する事は多いが、ここが学校でも喫茶店でも無く、圭太の部屋で2人きりというシチュエーション。そして今、少しでも身体を動かせば触れる場所に圭太がいる。そんなシチュエーションに由美の脳内ははっちゃけていた。
そう、この時までは・・・
ピーンポーン♪
「あれ?誰か来たみたいだね」
「ん・・・どうせ新聞屋かなにかよ。無視よ無視」
「新聞屋さんならとにかく、宅急便とかだったらそうもいかないでしょ。ちょっと下降りてくるから待っててね」
「しょうがないわね・・・」
立ち上がって部屋から出ていく圭太を見送り、由美は来客を恨むが、すぐに早く圭太戻ってこいと念じはじめた。
すると、階段を上る足音が聞こえてきた。しかし由美はふと嫌な予感を感じた。
「足音が・・・2人分・・・?」
がちゃり、とドアが開く。圭太がニコニコしながら入ってきた。
「由美ー、家庭教師さんが来てくれたよ」
「はへ?家庭教師?」
意味のわからない発言に由美が首を傾げると、後ろから入ってきた人物と目が合った。
「ん?由美・・・?げっ・・・!」
「な・・・!?真子さん!?」
圭太に連れられてきたのは、赤城家長女の真子だった。
「なんか偶然通りかかったみたいで、勉強教えてくれるって。僕ちょっと真子さんのお茶も取ってくるから、2人で待っててね?」
「え、あ・・・うん・・・」
成り行きを理解できず・・・いや、理解したく無く目の前の現実から目を背けることに全力を注いでいた由美が、心ここにあらずな声で返事をすると、圭太は部屋から出ていった。
「ん、こほん・・・や、やぁ由美ちゃん、元気かな?」
「最初に『げっ・・・!』って言っておいて今さら態度変えたって遅いわよ」
「チッ」
「露骨に舌打ちするな!!」
めちゃくちゃ嫌そうな顔で上から見下ろす真子に由美が突っ込みをいれる。
「まさか先手を打たれていたなんて・・・由美ちゃんもなかなかやるわね」
「ふんっ・・・偶然通りかかったなんて見え見えの嘘で圭太を騙そうなんて思考の悪者から守る為にいるのよ」
「なんとでも言いなさい、今どき幼なじみ属性が最強なんて理論は通じない。由美など恐れるに足らず・・・なぜならこちらには援軍がいるのだからな」
そう言うと、真子はケータイを取り出してどこかにメールを飛ばした。
「あなただけ圭太君と2人きりにさせるなんて、そんな計画は即刻白紙に戻した後、私が圭太君と2人きりになる」
「な、させないわよ!!」
そんな時、また下でインターホンが鳴った。しばらくすると圭太が驚いた顔で部屋に入ってきた。
「真子さん、凛と紗耶香ちゃんが来ましたよ?」
「なぁ!?」
「フッ・・・」
圭太の言葉に愕然とする由美。たいして余裕の表情の真子。
圭太の後ろから、凛と紗耶香が現れた。
「いやー参ったナー!偶然圭太ん家の近く走ってたら姉貴のマッハが停まってて・・・なぁ紗耶香!?」
「う、うん・・・その、偶然って凄いですよ、ね・・・?」
すんごい下手くそな演技で偶然を装う2人。しかしそんな演技にも騙されてしまうお人好しの圭太は頷きながら言った。
「偶然とは言え、真子さんが来てくれてよかったね由美。これなら2人とも教えてもらえるよ!」
「え、えぇ・・・そうね・・・」
ニコニコ顔の圭太に表情を見られないようにして、由美が言った。心の内では真子達に対する呪咀で溢れていたが・・・
「・・・」
「・・・」カリカリカリカリ
「・・・」
勉強開始から数十分が経った。小さな机を囲むように5人が座っている。もちろん真子と由美は圭太を挟むようにして座っている。
「由美ちゃん、手が止まってるわ。圭太君を見習いなさい」
「そんなことより、真子さん圭太に近すぎないかしら?真面目に勉強してる圭太の邪魔なんじゃないかしら?」
「いや、由美も十分寄ってるからね?」
圭太がツッコミを入れる。しかし由美は鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「私はいいのよ、圭太と一緒に勉強してるんだから」
「じゃあなんでノートが真っ白なんだ?」
「うぐっ・・・!」
真子に痛い所を突かれた。確かにあれから、由美のノートは全く手付かずになっていた。
「な、なによ!私のノートが真っ白だって別にいいじゃない!心の純白さが滲み出てる証拠よ!!」
「ふ・・・ついに開き直ったか情けない・・・」
「あの、真子さん。由美をあんまり煽らないでください、後・・・その、腕にしがみ付くのやめてください」
「・・・・・・!?す、すまない圭太君・・・」
「あ〜あ、真子さん圭太に怒られちゃったわね〜!ひっひっひワロスワロス・・・」
「由美も、なにもしないならせめて邪魔はしないでね?」
「は・・・はぃ・・・」
「ぷぷぷぷっ・・・!バカスバカス」
「なんかあの2人壊れてきたな、紗耶香」
「そうだね・・・真子姉さんなんかバカスバカスとか言ってるし・・・」
今まで事の成り行きを黙ってみていた2人が面倒くさそうに呟いた声は誰にも届かなかった。
そんな中、圭太は「はぁ」とため息を漏らすと由美と真子を交互に見た。
「だいたいなんで今日の2人はそう仲が悪いのかな・・・」
「「!?」」
由美と真子の2人に衝撃が走る。2人が争う元凶がようやくその事に触れたのだ。
「さっきから睨み合ってばかりだし・・・何かあったの?」
「そ、それはその・・・」
「なんと言うか・・・」
2人が小声で呟く。すると意を決したように、由美が大きく出た。
「その・・・なんて言うか・・・そう!真子さんが圭太に近すぎるからよ!!」
「何で僕に近づいてるだけで睨み合いにのさ」
「それはその・・・あの、その・・・えっと・・・良いじゃない!ただ圭太に近すぎるのが気に入らないだけよ!文句ある!?」
「おぉ・・・!?なんか展開が?」ヒソヒソ
「ちょ、マズイよ真子姉さん・・・!!」ヒソヒソ
由美の照れ隠しに、外野も盛り上がる。しかし当の本人は意味がわかっていないらしく、顔を傾げていた。
「まぁ確かに真子さん近すぎるけど・・・由美も十分近いからね」
「え・・・?あっ・・・!!!!」
言われてから、顔が真っ赤になっていくのがわかった。無意識のうちにさっきよりさらに接近したらしく、鼻先がぶつかるくらいの距離に圭太の顔があるのに今さら気付いて爆沈した。
「ま、そういうわけだから、由美ちゃんは早く圭太君と距離を取って座ってなさい?」
「あの、真子さんも近いんですけどね・・・その、少し離れてください・・・」
「な・・・!?」
離れてください・・・
離れてください・・・
離れてください・・・
圭太の言葉が頭の中を駆け巡る。圭太からすれば何気ないひとことなのだが、真子にはかなりの大ダメージである。その表情はさながらミッドウェー海戦で勝つ気満々だった矢先、空母4隻を目の前で沈められた日本軍の提督のような、驚きと悲しみで満ち溢れた表情であった。
「あ。姉貴も死んだぞ」
「・・・」
外野が見つめる中、2人はジョーもビックリするくらいに真っ白な灰になって燃え尽きていた。
そんな2人を交互に見て、圭太はため息をついた。
「なんかよくわからないけど・・・なんか勉強する気が湧かなくなっちゃったね」
「いや、勉強する気が無くなるのはわかるけど、どーしてそうなったのかはわかってやれよ・・・」
「真子姉さん、突いたら崩れそう・・・由美さんも・・・なんか溶岩みたいになってるし・・・どうしよう」
呆れすぎてどんな表情をしていいのかわからなくなってしまった凛と、犠牲者(?)2人を交互に見てうろたえる紗耶香。
一方、この状況を作り出した圭太は未だになぜこうなったのかを理解出来ずにいる。首を傾げる圭太に凛がずいっと近づいた。
「なあなあお前、本当にわかんねーのか?なんでこんな状況になってんのか」
「うん・・・凛はわかるの?」
「ったりめーじゃん。むしろなんでわかんねーんだ?」
「そんなこと言ったってなぁ・・・」
本気で悩みはじめる圭太。そんな彼を見て、凛は思った。
「コイツ・・・本っ当に鈍ちんだな・・・」
いや、口に出ていた。
「ま、いつかそのうち由美か姉貴のどっちかが答えを教えてくれる時が来るだろうから、圭太もそれまでによく考えとけよな」
「・・・?よくわかんないけど、まあいいや」
凛の意味深な言葉にとりあえずうなずく圭太。すると、このもどかしすぎる空気に当てられたのか、紗耶香が究極の質問をぶつけた。
「そ、そういえばその・・・!圭太さんって、す、好きな人とかいるんですか!?」
「ちょ、お前・・・!!」
凛がマズイと思って紗耶香の肩を掴むと、部屋の隅に移動した。すると紗耶香が目に渦を巻かせながら小声で言った。
「だ、だって・・・!あそこまで鈍感だなんて・・・!」ヒソヒソ
「だからって直球すぎるだろ・・・!?ていうか暴投すぎんぞ!?」ヒソヒソ
「何してるの2人とも?」
「「な、なんでもないです!!」」
壁ぎわでヒソヒソ話をする2人に声を掛けると、さすが双子。こういう時は息もぴったりである。
そんな双子を見て首を傾げたあと、圭太はとりあえず質問に答えた。
「質問された意味がよくわからないけどそういう話はないよ。どうして?」
「いやその、なんとなくです・・・はい・・・」
首を傾げながら答えると、紗耶香はとりあえず慌てながらうなずいた。
すると圭太はニヤリと笑った。
「そういう紗耶香ちゃんは?そういう話はないの?」
「もちろん、ありませんよ?女子校ですからね。そういう話は友達にもほとんどいません。でも・・・」
そこで区切ると、隣にいる凛をチラリと見た。
「な、なんだよ・・・?」
「凛お姉ちゃんはそういう話はたくさんありますよ、ね?」
「なっ・・・!?紗耶香テメっ・・・!!」
妹の突然の爆弾発言に、凛が一気に顔が真っ赤になる。あたふたと紗耶香と圭太な間で何か弁解しようとするが、紗耶香は意地の悪い笑みを浮かべると、構わず話を続けた。
「凛お姉ちゃんはですね、男勝りな性格でうちの女子校では先輩からも後輩からもそれはもう人気がありまして・・・それはもう数え切れない程ラブレターやら告白やらをされたんですよ?」
「え?でも2人って同じ女子校なんだよね?」
「はい!ですから、凛お姉ちゃんは同性からモテモテなんですよ!」
悪意のなさそうなニッコニコ顔で紗耶香が言った。まぁ内心ではお茶目な悪魔がケラケラ笑っているのだが。
そんな感じで紗耶香が視線を凛に向けると、凛は熟れたトマトのように身体中まで真っ赤にしてぶるぶる震えながら。
「あばばばばばばばばば・・・!!」
と、壊れていた。が、すぐに目を渦巻かせたまま叫んだ。
「さ、紗耶香ぁ!!お、お前なに勘違いさせるようなこと言ってんだよ!!!!」
「まぁまぁ凛お姉ちゃん。凛お姉ちゃんにそういう気が無いのはちゃんと知ってるから」
「そーいう問題じゃなくて!!」
恥ずかしさ7割、怒り3割で怒鳴る。
今まで黙って聞いていた圭太が、まぁまぁとなだめると、凛は肩で息をしながらなんとか落ち着きを取り戻した。
「あ、ちなみに凛お姉ちゃんの名誉の為に言っておくと、凛お姉ちゃんもそういう話はないですよ?」
「お前が言うなよな、ったく・・・!」
まだ肩で息をしている凛が言った。
すると、圭太が笑った。
「あはは・・・でももし2人がウチの学校にいたら、多分そういう事がいっぱいあったと思うよ?」
「いや、そんなことないですよ・・・」
「いやいや、紗耶香ちゃんは僕の学校の誰かさんと違って礼儀正しいし」
その時、その誰かさんの耳がピクリと動いた。
「そんな、圭太さん・・・誉めても何も出ません」
「別にそんなんじゃないよ?」
「本当ですか・・・?しょうがないですね・・・今度FXの当時のカタログをプレゼントしてあげましょう」
「え?いいよ別に、そういう意味で言ったんじゃないし・・・」
「なぁなぁ・・・圭太、オレは?オレだったらどうなってたかな・・・!?」
今まで会話を黙って聞いていた凛が、何故か興奮気味に圭太に詰め寄る。
「うん・・・?凛も多分、大丈夫なんじゃないかな?可愛いしさ」
「なっ!?かかか、可愛い・・・!?」
その時、後ろの方でまたピクリと耳を動かした人物が1人・・・
「凛お姉ちゃん顔真っ赤〜」
「そ、そんなんじゃねーよバカ!!ただちょっと、あの・・・あれだよ・・・その・・・あ」
凛の言葉が途中で途切れた。そしてその時、3人の背後で、2つの黒い影が動きだした。
「『学校の誰かさん』って一体誰のことかしら・・・?ねぇ圭太ぁ・・・?」
「なにが『あれ』なんだ・・・?なあ?凛」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・!!!!!!
「圭太ぁ?なに凛と紗耶香ちゃん口説こうとしてるのかしら・・・?」
「凛・・・貴様、圭太君に誉められて鼻の下を伸ばすとは・・・死刑に値するぞ」
鬼の形相で迫る2人。対する圭太と凛は、とりあえず平和的解決をするために2人を落ち着かせようとした。
「あ、あの・・・由美?べ、別にそういう意味で言ったわけじゃ・・・お、落ち着いて、ね・・・?」
「そ、そうだぜ。あ、姉貴も・・・!」
「「問答無用ッ!!」」
数分後、由美達は中山家の前にいた。
「また決着はつかず・・・か。まぁいい、次こそ必ず圭太君を・・・」
「ふん、言ってなさい。真子さんなんかに圭太はあげないんだから」
マッハに跨がる真子と、仁王立ちする由美はしばらく睨み合うと、どちらからとも無く不敵に笑いあった。一方・・・
「・・・・・・」
「り、凛お姉ちゃん・・・?大丈夫?」
頭にアイスクリームの三段重ねのようなたんこぶが面白おかしく出来上がっていた。
その後しばらく話をしてから、3人は快音を響かせながら走り去っていった。
それを見送った由美は、「うーっん!」と背伸びすると、すっかり暗くなった空を見上げてから。
「はーあ・・・私も帰ろうかしら・・・」
言って、向かい斜めにある自宅へと歩いて向かった。
それから半時後。
「たたたたっ!たたたたっ!!たっだいまぁ〜!!ヒッハァ!!」
中山家に、圭太の姉である茶子が何か戯けながら帰宅してきた。
「あっれぇ〜?誰もいない?圭太のバイクあったよねぇ?」
玄関先からリビングまで真っ暗な自宅を見て不思議がりながら階段を登っていく。すると、圭太の部屋から光が漏れていた。
「なぁんだいるじゃんいるじゃん!圭太ー!たっだいまぁぁぁあ!?」
部屋に飛び込みながら圭太に声をかけた瞬間、茶子は驚きひっくり返った。
そこには、部屋の主である圭太がうつ伏せで床に倒れていた。しかも、何故か頭にたんこぶが5つ乗っかっていた。
「こ、これはいったい・・・!?あ、前からやりたかった警察ごっこが出来るチャンス!!まず遺体の位置を確認する白いテープと指紋採取セットを部屋から取りに行かねば・・・!待ってろ圭太ぁ!!」
介抱すること無く、無駄に元気に部屋を飛び出す姉。そんな中、圭太は薄れ行く意識の中で、ただ一言つぶやいた。
「な、なんだったんだ・・・がくっ・・・」
そして再び気を失った。
教訓、冤罪は恐ろしい。
ちなみに、前日の件で勉強をすっかり忘れていた由美はテスト当日になって慌てて勉強するも、赤点ギリギリが平均点で1教科落とした為、夏休みの補習1教科分の参加が決定。
そして圭太はあれから由美と口を聞かず、1週間たった頃に何度目かわからない由美からの謝罪でようやく口を開いたという・・・
いや、ほんとうに更新できずすみませんでした汗
今回は後書き小説はお休みにします汗
次回は早くお届け出来るように頑張りたいと思います!!




