第50章 夏の始まり
本当にお待たせしました!!申し訳ありません!!!!
季節はすっかり冬ですが、お楽しみください!!!
夏休みに入り、7月も佳境に入ったある日。太陽の下で圭太はFXを洗車していた。
「だいぶ綺麗になったかな・・・」
純正には無いパールブルーに塗られたZ400FXを見下ろして呟く。
腕を組ながらタンクを覗込きみ、シートに手をかけ、そして跨がってみた。
「はぁ・・・」
思わずため息が出た。
父親からもらった当初はあまり愛着も無かったのだが、乗っていくうちにだんだんと愛着が湧き、周りには言わないが今ではこのバイクがお気に入りになってしまっていた。
しかしいつまでも跨がっている暇は無い。圭太はFXから降りると時計を確認して車庫にFXを戻し、ハンドルロックと念のためにチェーンロックを掛けた。そして家の前の道路に出ると斜め向かいにある一軒家に歩き出した。
たどり着くと、玄関脇にある赤いバイクに目が行く。自分のと同じ見た目の、しかし少し大きいバイクを横目にインターホンを押して待つこと数秒。扉の向こうからバタバタと騒がしい音と共にまだ若干寝癖が残った由美が出てきた。そして。
「ち、ちょっと待って!もうすぐ、あと5分で終わらすから!」
それだけ言うと、バタンと扉を閉められてしまった。圭太はその場で回れ右をしてまた元の場所に歩いていった。
それから待つこと10分。家の前で待っていると、由美が慌ただしく走ってきた。
「おはよう由美」
「ええ、待たせたわね」
「いいよいつものとこだしね。それより・・・」
圭太は由美を上から下まで見回した。
セミロングの髪は先ほどの寝癖など嘘のように整えられているのはもちろんだが、普段バイクに乗るときは適当なシャツに薄い長袖の上着とジーパンなのに、今日はなんと真っ白なワンピース。靴もお洒落なサンダルである。
圭太の視線の意図を汲んだのか、由美は含み笑いを浮かべた。
「どう!?似合ってるでしょう!?」
その場でクルリと回って見せる。
「うん似合ってる。そんな服も持ってたんだね」
「たまにはこういう服も着るわよ。それに今日はバイクには乗らないしね」
由美のいうとおり、今日は由美が溺愛して止まない赤いゼファー改FX仕様は家の敷地内にあり、自前の物は肩に掛けられた小さなポーチのみ。ちなみに由美はこういう服を実は多く持っている。普段はジーンズやズボン物を好むのであまり着ないが、こういう時の為に古雑誌やマンガを売ったり喫茶店でバイトしたりしていくつかポツポツと揃えているのだ。
「それじゃあ出発しましょう?今日は大忙しよ!!」
「徒歩で出掛けるってなんか新鮮・・・って!?」
「早く行くわよ!?」
圭太の言葉が終わるより早く、由美は圭太の腕を掴むと笑顔で走りだした。
今年も、暑い夏がやってきた・・・
「あづい〜・・・」
場所は変わり、ここは街道沿いにあるラーメン店真田屋。
その二階にある家の一室にてぐったりしているのは、この店の1人娘である真田美春だ。べったりと汗をかいて真夏のアスファルトで生涯を終えたミミズのように弱々しい。
「しっかりしてくださいよ美春姐様、さっきおみやげに持ってきたアイス食べたばっかじゃないすか」
その横で美春にうちわを仰ぐのはなぜか榛名玲花。すると美春は折れて固定されている左腕を振り上げた。
「だーってぇ!コレ凄く蒸れるんだよぅ!治るまであんまり洗えないし冷房も使えないぃ!!」
美春はうやうやしそうに部屋に取り付けてあるエアコンを見据えた。
別に壊れているわけでもないのにエアコンを使えない理由は、下で働いている両親から「厨房の中で暑苦し想いをしているんだから、その間は我慢しなさい」と言い付けられているのだ。実にラーメン屋が実家なだけある。
「あぅ〜・・・あっくんとちーちゃんはいないし、腕はこんなんだし・・・」
「あたいの立場は・・・でもその腕も順調に行けばあと数日で治るんすよね?」
少しガッカリした後、玲花が言った。
「霧島先輩と妹様がいなくてさみしいのはわかりますけど、あたいが全身全霊で看病しますから!」
「うん、なんか少し悪いけどねぇ・・・」
いつもより少し頬を赤く染めながら玲花が言うと、その介護精神に、少し申し訳なくなってきて美春。しかし玲花はかまわず言った。
「いえいえお気になさらずに!むしろ美春姐様の側にいられるだけであたいは幸せモンです!!」
「いやだなぁ・・・♪褒めてもなにもでないよぉ?・・・あ」
美春がいつものようにおちゃらけてみせると、左腕を固定してる包帯がズレてしまった。
「また外れちゃった。包帯替えなきゃダメかなぁ?」
包帯は長くつけているとだんだんほつれてきてしまい、このように外れやすくなってしまうことがある。
美春はため息をつき、片手で馴た手つきで包帯を直そうとすると、ズイッと玲花が手を差し伸べた。
「姐様!あ、あたいがやりますから!」
「本当?ありがとー♪」
美春の側に寄り、腕に手を掛ける。肩から腕を吊しているのでそれを直す玲花は美春とかなり密着する形になる。
すると・・・
「すんすん・・・はぁ♪姐様ぁ・・・♪」
「んー?どったのー?」
なにやらカタカタした動きで包帯を巻き直す玲花。美春が不思議そうに見ているうちに作業が終わった。が、玲花は美春の側から離れなかった。
「あ・・・あ・・・」
「れ、レイにゃん・・・?」
怪しげな雰囲気の玲花を見て、よくわからないが美春一応心配そうに呼び掛けた瞬間。玲花は「ふにゃあ・・・」と言って真後ろに倒れた。
「ち、ちょっとぉ!?レイにゃん大丈夫っ!?」
いくらバカでも、いきなり目の前で人が倒れれば驚くワケで、それが自分を慕ってくれてる友人ならば尚更なワケで美春が近づくと、なにか聞き取れないくらいの小声で玲花はなにかを呟いていた。
「あ、姐様のにほひ・・・・・・はっ・・・ぃ」
微かに聞き取れたその言葉を聞いて、美春はがく然とした。
まさか・・・自分は・・・!!
「そ、そんなに・・・臭うのか・・・な?え?、あれ・・・?目の前が見えないよぉ・・・?」
自分の匂いを嗅いで倒れた友人を見て始まる壮絶な勘違い・・・・・・美春は涙を流しながら自分の匂いを嗅ぐという虚しくもキモい行動をしばらく繰り返すことになる。そしてその脇で先ほど美春親衛隊から変態予備軍に格上げした玲花が幸せそうにヨダレを垂らしていた。
その頃、とある市内の病院では・・・
「ったくよぉ・・・!」
「まぁまぁ、おにーちゃんてば・・・」
駐車場に停めてある赤いサンパチの横でタバコを吸いながら、苛立つ旭を千尋がなだめていた。
旭は短くなったショートピースを、以前美春にポイ捨てを注意されて買った安物の携帯灰皿にねじ込むと不機嫌そうに病院をにらみつけてから千尋を見た。
「おめーが急に『意識不明で倒れた』っつーから来てみりゃ・・・ただの盲腸じゃねーか!」
「だ、だって・・・!おとーさんいきなりバタンっ!!て倒れたんだよ!?」
「むちゃくちゃ元気だったじゃねーか」
「そ、それは・・・点滴とか打ったし、多分・・・」
「なんだよ多分て・・・つか、盲腸の分際で看護師にセクハラまがいなことすんなって言っとけ」
呆れ顔で千尋に言うと、旭はサンパチのキーシリンダーを捻り、シートに跨がった。
「おにーちゃん、これからどこ行くの?」
「ダチの単車直しに行くんだよ。ったく、面倒だぜ」
千尋の問に旭が答えたその時、いきなりポケットの中のケータイ電話が震えた。旭はディスプレーの名前を見て電話に出た。
「なんか用か?・・・あ?普段臭うかって?・・・榛名・・・?あぁ、横浜の・・・失神?・・・ふーん・・・臭いんじゃねぇ?・・・泣いてる暇あんなら風呂でも入れ、んじゃな」
適当な相づちをうち、残酷に電話を切った。旭の会話の内容が聞こえていた千尋が不思議そうにたずねる。
「美春おねーちゃん?」
「あぁ、なんかヤツの体臭で1人失神したらしい」
「ど、どーいう状況!?」サラッと答える旭に千尋が驚愕した。が、もちろん旭も千尋も美春が普段臭いなどと感じたこともないし、何か他の原因だろうと考えてから、面倒になって考えるのを止めた。
「ま、そんなワケでオレはちょいと行ってくら。おめーもすぐ帰れよ」
言いながら旭がサンパチのキックを踏み下ろすと、いつものような快調な2ストの爆音を発してエンジンが掛かった。
数回吹かしてからクラッチを繋ぎ、走りだした。
「ばいばーい!」
辺りにもうもうと立ちこめる白煙が自分にかからない位置に立って千尋が旭に手を振ると、旭も手を振り返した。
駐車場を出て右折して見えなくなり、遠くに聞こえるGT380の爆音をバックミュージックに、千尋は空を見上げた。
「夏だなぁ・・・」
少し涼しい風が吹いた気がした。
そしてまたその頃。国道沿いにある自動車工場で・・・
「・・・翔子ちゃん、そこのメガネ取って」
「はい」
羽黒洋介と衣笠翔子が、仲良くCB350Fourのフロントタイヤの前で胡坐を掻きながらなにやら作業していた。
洋介は翔子から受け取ったメガネレンチをフロントフェンダーを支えるナットにあてがい、右に締めていく。
「あー、やっぱゆるんでたな」
「フロントフェンダーが原因なんですか?」
以前、フロント周りが若干ブレる症状に見舞われたCB。その症状の原因がフロントフェンダーと知って意外そうに首を捻る翔子に、洋介はナットを締め付けながら言った。
「昔のこういうフェンダーはスタビの役割を持ってるからね。だからそこの取り付け部のブレース(旧車のフロントフェンダーによく見られる前後に伸びるフレーム)がゆるむと、微妙だけどもブレたり歪んだりすんだよ。サンパンに限らずオレ達の乗ってるのはかなり古いし、こういう隠れたトラブルってのは日々メンテしなきゃわかんないんだよな・・・ほら、終わり」
説明をしながら修理を終えると、メガネレンチを工具箱に戻す。立ち上がってハンドルを握るとフロントに荷重を掛けてフォークの沈み具合などを確認する。
「フォークはまだ大丈夫かな・・・」
「いつもありがとうございます」
翔子が頭を下げると、洋介は短く刈られた髪の毛をポリポリ掻きながら顔を少し赤くした。
「なははっ・・・!ま、まぁいいってことよ!同じホンダ党だしさ!!」
照れ隠ししながらいそいそと後片付けに入る。そんな洋介を見て翔子は微笑むと、油と傷に覆われた工場の床をなんとなく見つめてから口を開いた。
「洋介さん・・・」
「ん?なに?」
「義兄さんの件の時・・・本当にありがとうございました」
「ん・・・?あぁ、気にしすぎだよ。構わないよ。むしろオレも少し暴走しちゃったしね・・・やりすぎた感が・・・」
頭を下げた翔子に、洋介もあの時を思い出して頭を下げた。あの後で翔子から聞いた話では弘毅はあばらと歯が一本が折れ、殴られたことにより高熱と全治1ヶ月のケガをしたらしい。
「それよりあの時由美ちゃんや圭太、そしてなにより翔子ちゃんにケガが無くてよかったよ」
その言葉を聞いて、翔子は少し俯いた。が、少し頬に朱色掛かっている。
「まぁ、暗い話はここまでにして・・・ちょっとオレのフォア見てよ!」
話を途中で切り上げて洋介が指さす先には、深紅のCB400Fourが今は静かにたたずんでいた。
「今までスーパーバイクのグリップだったんだけど、一昨日トマゼリの生ゴムに換えたんだ」
些細な変更点をうれしそうに説明する。
2人でヨンフォアの前でしゃがみ込むと、しばらく洋介のマシンガントークが炸裂。変更した足回りの評価やボアアップしたエンジンの性能を声高らかに説明しはじめ、翔子も嬉々としてそれを楽しそうに聞き始め、それは長い時間にわたり続いた。
「さて!ようやく着いたわ!!」
場所は変わり、とあるショッピングモール。
大きな入り口から中に入っていくと、雑貨売り場から電化製品、生活用品、衣類や食料品など数十店以上が出店している。夏休みシーズンもまだ一回表ということで、たくさんの買い物客で賑わっている。
「とりあえず夏休みの旅行で使う物を買いに来たわけだけど・・・まずはどこから見て回る?」
「そうねぇ・・・とりあえずは適当に見て回りましょう」
由美達はとりあえず店内をふらつくことにした。サマーセールの名のもとに様々な所でいろいろな物を売っている店をぶらつきながら、まず由美の目に止まったのはレジャーコーナーであった。
「ねぇ圭太!これ!」
由美が手に取ったのはビニール製のビーチボールだ。手でバンバン叩いたりつぶしたりしながら遊んでいる。
「これがあったらみんなでビーチバレーができるわ」
「でもビーチバレーやるにしても、場所取り出来るかわかんないよ?この時期は混むだろうし」
「なに言ってるのよ、取られる前に場所を確保すればいいだけの話よ!よーし、これに決めたわ!!」
圭太の助言は耳から反対の耳へ通り抜け、由美はボールの色を物色して、赤とクリアの色合いのビーチボールの入った箱をかごにいれる。
「さぁ次行くわよ!!」
「不安だなぁ・・・」
その時の気分と感性で突き進む由美に少し不安を抱きながら圭太は彼女の後を追った。
またしばらくレジャーコーナーを回っていると由美がまた何かを発見した。
「夏と言えば海だけじゃないわ!!山も登るわよ!!」
「で・・・?」
「夏の山と言えばカブトムシ!!」
呆れ顔の圭太の前には、わんぱく小学生みたいな笑顔で虫取り網とカゴを手に仁王立ちする由美。コイツはどんだけ遊びたいのかと圭太は呆れるが、ニッコニコ顔全開で笑う目の前の困ったさんを落ち着かせるために圭太はとりあえず由美の肩をポンっと叩いた。
「虫取り網くらい向こうにもあるだろうし、そもそもバイクで行くんだよ?釣竿とか網とか長い物を持ってくのはいろいろダメだと思う」
「えー」
「えー、じゃないし・・・ちょっと想像してみなよ、洋介さんに借りるパニアケースに入り切らない虫取り網を手に持って高速道路を走る自分の姿を」
圭太に言われて走行風でなびく網を想像して確かにマヌケな絵であることに気付く。
「それに、その網とカゴ。2つで1000円もするじゃん。ガソリン代もあるんだからあんまり無駄使いは・・・」
「そ、それくらいわかってるわよ・・・!」
圭太が言い終わるより早く、自分の浮かれ具合に恥ずかしくなった由美は虫取りセットを元の位置に戻した。
「もう次!次行くわよ!!」
まだ少し顔を赤くさせながら、圭太の腕を掴むと強引に引っ張って行く。圭太はおかしくなって笑いを堪えながら、由美に逆らうことなくついていった。
「次は何にしようかしら・・・」
「一通りの道具は向こうに用意してあるって真子さんも言ってたし・・・とりあえず必要最低限の物を揃えようよ」
店内を隈無く見渡す由美に圭太が言う。そもそも移動手段はバイクである。パニアケースがあるとは言え大きな物は運べないし、それが入ったとしても他の物が入らない。必要最低限の物を頭に浮かべて指折り数えてみた。
「着替え・・・歯ブラシ・・・ビーチボール・・・サンダル・・・ん・・・海・・・」
指を4つ折り畳んだ時、何かに気付いた。そして。
「あー!!」
「いきなり叫ばない。どうしたの?」
慣れた手つきで圭太が由美をなだめると、由美は見振り手振りしながら言った。
「あー、なんで忘れてたのかしら・・・圭太、ここからは別行動よ!!」
言うより早く、由美は今買う予定だったものを圭太に押しつけると、上のフロアに続くエスカレーターに滑り込んだ。
「あ!由美ー!これどうす・・・って早っ!?」
ビーチボールの箱を抱え圭太が叫ぶも、由美の耳には入らず。圭太は1人ポツンと取り残された。
「とりあえず買っておくか・・・」
そうつぶやくとそばにあるレジに箱を抱えてとぼとぼ歩いていった。
きっちり一時間後、店内のベンチに自分の買い物と、由美に押しつけられたビーチボールの箱を抱えた圭太が1人座っている図が出来上がった。
「全く・・・」
上の階に消えた由美を待っているのだが、なかなか戻って来る気配が無い。連絡も無い。
圭太はエスカレーター脇にあった案内表示板を見て、上の階に何があるのかを確認すると、由美が飛び出していった理由がわかった。
「水着売場・・・かな・・?」
こうなると面倒くさそうだ。かなり時間が掛かるだろうことは間違いない。
こうして1人ベンチで暇を潰すのも時間が勿体ない。しかし、由美と一緒になって水着売場に行く度胸も、残念ながら持ち合わせていない。
あまりに暇だったので、もう一度買い忘れが無いかなどを確認した。特には無かった。
「ここに居ても仕方ないなぁ・・・メール打っておくか」
圭太は携帯を取り出すと、パチパチと由美宛てにメールを書いた。
「『下のフードコートにいます。そこで待っているので、買い物が終わったら連絡ください』・・・っと、送信」
何故か敬語でメールを書くと、そのまま送信ボタンを押した。荷物を抱えてエスカレーターに乗って下の階にあるフードコートに向かった。
このショッピングモール内には、市内でも最大級のフードコートがある。フードコート内には某有名ラーメン店や某有名ファーストフード店に某有名アイスクリーム屋等の大型チェーン店から地元などの有名な飲食店の出張店など数店舗以上の出店がある。
早速座席を探すが、休日と言うのもあってか人が多くなかなか見つけられない。人で賑わう中を荷物を持って歩いて、なんとか2人座れる座席を確保した。由美が座る予定の椅子に荷物を置くと、自分は座らずにフードコート内を見渡す。
「何か食べようかなぁ」
思えば今日は朝から何も食べていなかった。とは言え元々少食なのもあってがっつり食べたいわけでもない。まぁ、夏の旅費のために節約したいというのもあるのだが。
「ん・・・?」
その時にふと、最近異様に嗅ぎ慣れてしまったスパイスの香りに交ざって油っぽい香りが鼻をついた。匂いのする方向を向くと、市内外れにある有名B級グルメ店からのものらしい。圭太は興味半分に覗いてみる。
「な・・・これは!?『カツカレーうどん定食ライス付き※カツの衣は湿ってます』!?い、意味がわからない・・・!カレーうどんで食べてその汁をカツにかけてご飯と食べるのか、はたまたカツカレーうどんで食べてご飯を汁に入れて食べるのか・・・!!というか、衣湿ってるんだ・・・」
あまりの衝撃につい驚いてしまった。
正直かなり興味が湧いてきたが、そこまで空腹でも無いしなによりこのB級グルメ店のメニューはアタリハズレが激しいことで有名だったので、今回はパスすることにした。まぁどっかの大食いカレーバカ2人ならば迷わずトライしたのだろうが、圭太にその勇気は無かった。
そしてまた店内を見渡すと、某有名たこ焼きチェーン店を発見。カツカレーうどん定食の看板を尻目に圭太はそちらに並んだ。スタンダード万歳である。
数分並んで、ようやくたこ焼きを一パックとコーラのLサイズを手に入れて席に付いた。携帯を確認して、未だに連絡などが無いことを確認すると、袋からパックを取り出した。
「いっただきまーす・・・あむ・・・はふはふ・・・」
一口頬張ると、カリっとした表面の中から熱々とろとろの中身が口内で広がり、ソースや鰹節、そして程よい大きさのタコの絶妙な味わいが広がった。
「もぐもふ・・・たこ焼きって美味しいよね」
誰に言うでもなくひとりごちて、また一口。『たこ焼きは地球だ!』の名言もさながら納得の味に圭太が満足していると、突然携帯が鳴り響いた。
「由美かな・・・?」
熱々のたこ焼きを飲み込むと、携帯の液晶を見る。しかし液晶には由美の名ではなく、真子の名前が表示されていた。圭太はとりあえず携帯を開くと、通話ボタンを押した。
『やぁ圭太君、久しぶり』
開口一番、真子が言った。
「この前会ったばかりな気もしますけど・・・」
先日、由美が勉強しようと圭太宅に押し掛けた際に偶然(だと圭太は今も信じている)やってきた真子達赤城3姉妹。日が経っていないので真顔でツッコミを入れた。しかしそれにはかまわず、真子は話を続けた。
『と、ところで・・・その、少し聞きたいことがあるんだ・・・』
「・・・?僕にですか・・・?」
『あぁ・・・』
どこか歯切れの悪い調子の真子。しばらく『んー、』とか『その・・・』などとうなっていたが、しばらくして口を開いた。
『わ・・・私の水着は何色が似合うと思う・・・!?』
「・・・・・・はい?」
どうしちゃったんだこの人は・・・と思った。圭太は次に口に運ぼうとつまようじに引っ掛けていたたこ焼きをパックに落としてしまった。今何て言ったこの人?
「あの・・・?真子さん・・・?」
『い、いや!他意は無いんだ!その・・・!と、とにかく何色が似合うと思う・・・!?』
「そんな・・・え〜」
自分で決めればいいのに何故自分に聞くのかと問いたかったが、圭太はとりあえずなんとなーく想像してみた・・・が、いきなりの事でなかなかイメージが浮かばない。受話器の向こうからは真子の鼻息と思われる雑音が耳に響く。マズイ、何か適当にでも答えないと・・・。
心の内で真子に謝りつつ、圭太は口を開いた。
「し・・・白とかってどうですか・・・?マッハのカラーのイメージですけど・・・」
なんとか適当に理由をつけて言ってみた。すると向こうから、しばらく何も聞こえなくなった。なにかマズイことを言ってしまったかと心配していると、やがて受話器の向こう側から普段の真子のテンションで
『白か・・・ありがとう』
と、言って通話を切られた。
「な、なんだったんだろう・・・?」
携帯をしまうとしばらく考えていたが、気を取り直してたこ焼きを一口食べた。
「白・・・」
一方こちらは赤城家のとある一室。もちろんそこは赤城家長女の真子の部屋である。真子は握り締めていた携帯電話の画面をそっと閉じると、机に置いた。
するとそのまま立ち上がり、背後にあるクローゼットの扉を開けた。ちなみに真子の部屋は12畳。クローゼットの中は旭のアパートの部屋と大差が無いくらいに広く、中には衣替えしたての夏服がほとんどだが、中には革パンやジャケット。そして隅の方に2、3着の水着などが掛かっている。
真子は数の少ない水着のある場所から白いビキニを取り出した。
「ふっふっふ・・・」
ニヤリとしながらつぶやくと、水着を手に部屋をくるくると回りだした。
「まばゆいばかりの太陽が浮かぶ空・・・!青い海に白い砂浜・・・!!」
変なポーズを取りながらなにやら戯けたことを吐かすと、瞬きした間くらいの超すばやい動きで真子は一瞬のうちに水着に着替えていた。人間離れしたスピードである。
そして備え付けの等身大鏡の前でポーズを取る。腰に手を当てる典型的なポーズをしてから、胸を寄せて上げていわゆる「だっちゅーのポーズ」を決めて、ニヤリ。
「ふっ・・・あのぺちゃパイには真似出来まい・・・」
ぺちゃパイとは、間違いなく由美のことである。旧車物語メンバーの中でもトップのバストサイズを誇る真子はしばし鏡の前で夏の浜辺を妄想した・・・
そこは2人だけの世界・・・夕焼けの照らす赤い光に映し出された2人の男女・・・
『真子さん・・・僕、言わなきゃいけないことがあるんです・・・』
圭太は恥ずかしそうにうつむきながら言うと、真子は圭太に近づき、うつむいた彼の顔を優しく上げた。
『あら・・・なら私の顔を見て・・・?』
『だ、ダメです・・・!は、恥ずかしくて見れないんです・・・!』
近づいたことで、前を見れば夕焼けに染まった真子の顔、うつむけば誰かさんのちっぱいとは比べものにならないアンデス山脈が・・・圭太が目を瞑ってしまうと、真子は大人っぽく笑った。
『所で圭太君・・・私のコレ、どう思う?』
自慢の胸に強調させながら問うと、圭太は夕日の中でもわかるほどに顔を赤くさせながら
『すごく・・・大きいです・・・』
と答えた。
『好きよ・・・』
『ま、真子さん・・・』
艶やかに愛の言葉を紡ぐと、圭太もうなずいた。
『もぅ・・・本当に圭太君は奥手なんだから・・・私から言わせたんだから、後はあなたからお・ね・が・い・・・』
言って瞳を閉じる。
『ま・・・真子さんっ!』
そして重なる唇。抱き合う2人を邪魔するものはいない・・・あるのはさざ波の穏やかな音だけであった・・・
「うぇへへへ・・・なんつってな!なんつってな・・・!!」
そしてこちらは現実世界。
真子は相変わらず水着のまんま、普段愛用している抱き枕をこれでもかと言わんばかりに抱き締めながら・・・アヘ顔寸前のとてもお見せ出来ない顔で笑っていた・・・。
「よし!シチュエーションはバッチリ!!これで圭太君は私の物よ!!おーっほっほっほっほっ!!!!!!!」
抱き枕を抱き締めたまま、部屋中を駆け回る19歳の女子大生が果たしてこの世にいるだろうか。いや、いない。普段のクールさなどどこ吹く風である。
そんな真子の部屋の外で、双子の妹である凛と紗耶香が聞き耳をたてていた。
「あ・・・姉貴が・・・」
凛はがっくしとうなだれながら床に突っ伏していた。その立ち振舞いやライディングテクニックに尊敬すら抱いていた凛にとって、最近の真子の壊れ具合は衝撃的であった。
「だ、大丈夫だよ凛お姉ちゃん・・・!多分そのうち元に戻るから・・・!!」
おろおろしながら、凛を励ます紗耶香。今日の赤城家は普段より少しばかり騒がしくなりそうだ。
場所は戻って、ここはフードコート。圭太がたこ焼きを全て食べてからしばらくして、ようやく由美がやってきた。
「待たせたわね!」
どっかりと向かいの椅子に座ると、自慢気に大きな紙袋をぶら下げる。
「凄く迷っちゃったのよねぇ・・・でも今日はすっごくいい買い物をしたわ!!」
そして満面の笑みである。何を買ったのかは聞かないし聞かなくてもわかるので何も言わなかった。圭太は時間を確認すると、まだ余裕があるので由美に聞いてみた。
「ところでこの後はどうしようか?他になにか買うものとかある?」
すると由美はたらーっと汗を流し、圭太から視線を外しながらつぶやいた。
「あの・・・ね。ちょっと、ほんのちょっぴり予算オーバーしちゃって・・・だから買い物は・・・」
「・・・」
たはは、と笑ってごまかす由美を見て、圭太はただただ頷いた。こういう時の由美のちょっぴりは、全然ちょっぴりでは無いのだ。ビーチボールの箱を横目に見て、今日は立て替えておこうと少し考えてから口を開いた。
「海まであんまり日が無いよ?」
「だ、大丈夫よ!それまでフルで喫茶店で働くわ!!」
なるほど、どうやらあと数日は死に物狂いで働く生活を送るらしい。ふーんと言いながらコーラに手を伸ばそうとすると、由美が羨ましそうにこちらを見てきた。圭太は少し意地悪を思いついた。
「どうしたの?」
「私も飲みたい」
「買ってきなよ?あそこにあるよ?」
「うぅ〜っ」
これ見よがしに喉を鳴らしながらコーラを飲む。氷で幾分かさましされているが、その分冷えたコーラは格別である。悔しそうにこちらをにらみつけてくるが、圭太は痛くもかゆくもない。したり顔でコーラを飲み続ける。
しかしいつまでもやっていると由美の逆襲が怖いし、なにより少しかわいそうに見えてきたので、圭太はまだ中身の半分残っている紙コップを由美の前に差し出した。
「これ以上飲んだらお腹壊しそうだし、あげるよ」
「本当!?」
すると言うより先に紙コップを掴む由美。素直だなぁ、と思いながら圭太が眺めていると、由美の動きがピタリと止まった。
「どうしたの?」
「な、なんでもないわよ・・・?あはははは・・・」
不自然に笑いながらこくこくと喉を鳴らす由美。気のせいかほんの少しばかり顔が赤い気がした。
「どうかしたの?」
「う、うるさいわね・・・乙女の純情くらい察しなさいよバカっ」
少し照れたような感じでつぶやいた。どうやら由美は俗に言う『間接キス』とやらに少し照れていたらしい。なんともウブな感じが可愛らしい。しかし相手は史上最強の鈍感鈍チンの圭太である。そんな意図など知る由も無く、ため息をついた。
「どこに乙女がいるのさ・・・んみゃっ・・・!」
「ふーん?そんなこという口はどの口かしらぁ?」
びよーんと圭太の頬っぺたを引っ張りジト目でにらみつける。しばらくそんな状態が続き、そろそろ許そうと思い由美は手を頬っぺたから放した。
「あー痛かった・・・」
伸びた頬っぺたを擦りながら圭太が不満を言う。
「からかったバツよバツ。さ、見るものもほとんど無いし帰りましょ?」
「お金が無いだけじゃ・・・うん帰ろう」
また由美がジト目で見てきたので、圭太は何も言わずに頷いた。
食べたモノを片付けると、ショッピングモールから外に出た。するともはや地球からの悪意すら感じさせるほどの太陽光線がアスファルトに日照り、跳ね返り、2人に襲い掛かる。
「あっついわねぇ・・・」
「そりゃあ夏だしね」
数時間前に来た道を戻りながら並んで歩く2人。ポツリと由美が口を開いた。
「ねぇ、圭太はもう進路決まってるの?」
「そりゃあね。もうこの時期だし」
今さら何を聞いているんだと思いながら圭太が言う。
「そういえば由美は?もうそろそろ進路決めないと・・・」
「それなのよ、圭太は何大学に行きたいわけ?」
由美の質問に圭太が大学名を告げると、由美は飛び上がらんばかりに驚いた。
「すっごく頭のいい大学じゃない!?」
「だから僕も、最近じゃあ家に帰ったらずっと勉強してる」
「そう・・・」
しばらく沈黙が続く。歩き続けて、2人の自宅まであと半分の道のりまで来た頃に、また由美から口を開いた。
「そっか・・・幼稚園から高校まで続いた記録も、今年が最後なのね」
昔を懐かしむように由美が言った。初めて会った頃から今日まで。10年以上一緒だった関係が、今年で終わる。そう考えると、由美は悲しくなった。
「もう来年からは今みたいに遊べなくなっちゃう・・・」
「そんなこと無いよ。家は目の前なんだし、いつでも遊べるよ。多分ね」
傍から見ててもわかるくらい落ち込んでいる由美を圭太が励ます。実家通いだし、『旧車物語』もある。ならば今までとそんなに変わらないのだ。
「えぇ・・・」
由美も頷いた。しかしやはり表情は暗い。またしばらく無言の状態で歩き続けてる。歩くペースの遅さもあって日が傾いてきた頃に、隣から嗚咽が聞こえはじめた。
「うっ・・・ひっ、」
「ちょ、泣かないでよ・・・別に何も変わらないから大丈夫だよ」
「だって・・・らってぇ・・・!」
顔をあげると、由美の表情は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「ずっと・・・ずっと一緒にいたのよ・・・!?なんか・・・ぐずっ・・・想像したら・・・!!」
「まだ泣くの早いって・・・はぁ」
困ったように立ち往生してしまう圭太。しかし内心、不思議なことにどこか心が締め付けられるような思いだった。
その原因がわからぬまましばらくおろおろしていりと、意外にも由美が口を開いた。
「っ・・・ゴメンなさい・・・泣いたら暗い雰囲気になっちゃうわよね!暗いのはこれで終わりよ!勉強頑張りなさいよ!?」
そう言って涙を拭くと、夕焼けをバックに照らされた、少し目が赤いがいつもの由美がそこにいた。
それを見た圭太は、少し心臓がドキッとしたのを感じた。嬉しいような悲しくような、はたまた恥ずかしいような・・・複雑な気持ちが渦巻いた。
すると、圭太は自分でもわからなかったが急に由美の手を取ると、走りだした。
「ち、ちょっと圭太・・・!?どうしたのよいきなり!!」
片手にもつ荷物をバタバタさせながら圭太が由美を引いて走りついたのは、近所の広い公園だった。そこで立ち止まると、圭太は深呼吸して・・・
「よぉーし!!今年は一緒に沢山思い出を作るぞぉ!!」
叫んだ。
隣では由美がポカーンとつっ立っていて、間が空いて少し恥ずかしくなった頃に、由美がようやく笑った。いや、大爆笑した。
「あっはははははははっ!!!!圭太ったら・・・!くぷぷっ・・・!!」
「そ、そんなに笑わなくったって・・・」
自分も急に恥ずかしくなって俯く。今考えても、なぜ走りだしたのか、なぜ叫んだのか・・・よくわからなかった。
ただ、夕日に染まった彼女を見た時に、凄く綺麗に見えたような気がしたから・・・
「!?」
そこで圭太は現実に引き戻される。今、答えが出たような気がする・・・しかしそれが思い出せない・・・起きる直前まで見ていた夢を、起きた瞬間に忘れてしまったかのような状態に似ていた。
頭が混乱している圭太の横で、由美はまだクスクスと笑っていたが、やがて満面の笑顔で頷いた。
「それなら圭太・・・今年は忙しい半年になるわよ!?」
夕焼けに照らされた由美は、真夏の太陽よりまぶしく見えた。
今年は、いつもより暑く、そして短い夏がやってきた・・・
本当に遅れてしまい申し訳ありませんでした・・・
次回はいよいよ海!!!の予定です!!!!!(ぁ
更新のろのろですが、これからもよろしくお願いします!!!!!!!!!!




