↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧車物語  作者: 3気筒
PR
48/71

第48章 絹の道

赤城姉妹の双子が大暴れ(!?)です!!

「んー・・・やっぱ無い、かぁ」

「そんなに都合良く行かないね」

「全く、なんでRGのエンジンはあってGT380のパーツが1つも無いんだ?」

 ある日の午後。赤城凛と、双子の妹の紗耶香は自宅から程近い『赤城建設』の倉庫内で埃と汗に塗れながらため息をついていた。

 旭からサンパチに使える部品を探して、もしあったら売ってくれとの趣旨のメールが来たのが数日前。それを読んで、それから時間を見つけては倉庫内を姉妹で探す作業をしてきた。

 しかし、倉庫には父が長年掛けて集めたバイクのコレクションや部品に溢れ返っているため、その作業も至難を極めた。ちなみに長女の真子は大学の試験で来ていない。

「しかし・・・なぁ、こんだけ漁って出てこねーんじゃ、もう無いんじゃねーか・・・?」

 手を団扇にして仰ぐが一向に涼しくなる気配は無い。むしろ余計に暑くなってきた。窓無い倉庫内の気温は、夕暮れ時にも関わらず40度近くにまでなっていた。

「そうだね、お父さんはバイクは沢山集めてるけど、部品はほとんどカワサキのバイクだけだもん」

 紗耶香も短いツインテールの先まで汗に浸けてため息をつく。カワサキ党遺伝子は親子代々なのだ。

「仕方ねー!こんな汗かいてたら何にもヤル気になんねーし、いっちょ走り行こうぜ!!」

「ダメだよ?凛お姉ちゃん、もう明後日は試験なんだよ?」

 紗耶香が顔をしかめる。なんだかんだで試験直前。自分は時間を見つけてちょくちょく勉強をしているが、同い年の姉の凛は時間さえあればバイクに乗っていろんな所を走りに行く自由人。もちろん勉強など全くやっていない。

「前は頑張って勉強したから良い点取れたのに、ここでサボったらまた悪い点数になっちゃうよ?」

「むぐっ・・・」

 妹の的確な指摘に、凛は何も言い返せなかった。しかし、こうも埃臭い場所で作業して、さらにその後おとなしく勉強など凛には出来るはずも無かった。

「大丈夫大丈夫、ちょいとその辺を走って帰ってくるだけだって・・・」

「ダメ、そーやっていっつも遠回りして帰ってくるんだから」

 凛の説得も虚しく、紗耶香は首を横に振った。すでに信用されていない事に少し悲しくなるが、しかしこっちも意地がある。

 こんな暗くてただっ広くて埃まみれで、なおかつバイクに囲まれた場所で、鉄やオイルの匂いを嗅いできたのだ。今さら真っ直ぐ家に帰っておとなしく机と向き合って現国の復習をするなどと、そのような愚行、神が許しても自分は許さないと凛は固く心に誓うと、最終奥義である奥の手に出た。真剣そうな眼差しで紗耶香を見つめつつ倉庫内のバイク達を指さした。

「でも紗耶香?ちょっと見てくれよ」

「な、なに?」

「オレ達は今まで散々バイクに囲まれて作業してきた。目の前にザッパーとかW1とかカミナリマッハがある中」

「うぅ・・・」

 凛が言うと、紗耶香が少し表情を崩した。凛は心の中でニタリと笑うと、もう一息とばかりに押しに掛かる。

「もう我慢出来ないんだよ、欲求不満で・・・このままじゃ、オレなにするかわかんなくなる・・・」

「り、凛お姉ちゃん・・・わ、私も・・・が、我慢出来なくなっちゃうよぉ・・・」

「だろう・・・?さぁ、一緒に行こう・・・ピリオドの向こう側に・・・!」

「あぁ、ダメなのに・・・!ダメなのにぃ・・・!!」









 グァアアアアアアアアア!!!!バリバリバリバリ!!!



 パィィィイイイ・・・!!パリンパリンパリンパリン・・・!!


「うっひゃあ!!やっぱ、マッハは最高だぜぃ!!」

「うぅ・・・明後日試験なのに・・・乗せられちゃったぁ・・・」

 あの後、2人はそれはもう文字通りマッハで倉庫を施錠した後、愛車に跨がり走り出した。しばらく走った先の信号で停まった2人の反応が、2人の個性を表している。え?上の文章がなんかおかしいって?知らないなぁ・・・

「まぁまぁ、走り出したらなんとやらだぜ紗耶香!こうなったら今日はとことん走り尽くそうぜ!」

「だ、ダメだよ!!もう絶対にこれ以上は行かせないんだから・・・!!」

「へっへー!止められるもんなら止めてミソってな!!」

 信号が青になった瞬間、絶妙なクラッチ操作でスタートダッシュする赤い400SS。ショートイモ管から吐き出される異常な量の白煙と爆音を背後に残して走り出す。

「あ!狭い道でフル加速はダメって言ってるのに・・・!!待ってよ!!」

 ブルーの250SSマッハに鞭を入れて、姉を追い掛ける。しかし、排気量の差とノーマルとチューンドの差は平坦な道では埋まらず、徐々に離されていく。前を走る凛が後ろを振り向いて余裕綽々で言った。

「はっはぁ!!今のオレを止められる奴はどこにもいないぜぃ!!」

「凛お姉ちゃん!!危ないっ!!」

「へ・・・?」

 悔しがる妹の顔を拝んでやろうと思ってたのに、その表情はさながら自分の愛車と同じくらい真っ青にさせた妹を見て、凛は前を見た。すると・・・

「ひ、人っ・・・!?」

 横断歩道の無い車道を、杖をついて横断する人影が。向こうも気付いたようだが、恐怖のためか曲がった腰のためか、道路の真ん中で止まってしまっていた。

「っくしょう!!動くなよ!!」

 時速約50キロからのフルブレーキ。ブロー覚悟のエンジンブレーキも駆使して回避運動を始める。しかし、その距離はぐんぐん近づいてくる。相手の顔がわかるくらいの距離になって、凛は覚悟を決めると舌打ちした。

「上手く決まれ!!」

 叫び、クラッチを切ってアクセルを全開に煽るとリアブレーキのペダルを強く踏みしめる。リアがズルリと滑りだした。真横を向いた瞬間、ブレーキから足を離してクラッチを繋いだ。


 ギョババババババ・・・!!!!


 衝突まで残り数十センチで、マッハはその場で180度ターン、停車。しかし、バランスを崩して立ちコケしてしまった。

「凛お姉ちゃん!?大丈夫!?」

 ブラックマークの残るアスファルト。紗耶香がマッハから降りて叫ぶと、凛は苦笑いしながら手を挙げた。

「ははは・・・撥ねなくてよかった・・・ぜ、はぁ」

「本当だよ!もっと気を付けなきゃダメだよ!!あ、大丈夫でしたか?」

 普段のおとなしい態度から一変、凛を怒鳴り付けると道路に腰を抜かしている人影に声を掛けた。

 相手はかなりのお婆さんだった。

「いやぁ・・・もうダメかと思ったよ」

「ケガとかは無いですか?痛い所とか・・・」

「えぇ大丈夫・・・驚いて転んじゃっただけだからねェ・・・」

 紗耶香はお婆さんの肩を抱えると、そのまま立たせてあげた。

「いやぁありがとね〜・・・」

「いえこちらこそ・・・!ほら、凛お姉ちゃん!!」

「いたたた痛い・・・!耳千切れる・・・!!」

 お婆さんを避けた拍子の立ちコケで傷ついたステップゴムとクランクケースのカバーを見てため息をついていた双子の姉の耳をちぎる勢いで引っ張る。

「ほら、謝るのが先!今回の件は凛お姉ちゃんが全部悪いんだからね!?」

「わ、わかってるよ!!だから耳放して・・・!!」

 耳を解放されると、凛はあまりの痛さに涙目になりながらお婆さんに向き直ると頭を下げた。

「あ、その・・・よそ見運転してて・・・ほ、本当にすみませんでした・・・」

「いやいいよォ、あたしゃまだこうやって生きてるし」

 凛の謝罪を、笑顔で許してくれた。

「ほっ・・・よかったぜ・・・」

「良くないよ・・・?」

「うわっ!?」

 安堵のため息をついた凛に、紗耶香がボソッと呟いた。

「凛お姉ちゃん・・・?前にも言ったよね、狭い道でスピードは出しちゃダメだよって。ううん、こんな事、教習所でも習うよね?凛お姉ちゃん?」

 すごいニコニコ顔で、しかしどす黒いオーラをびんびんに張り巡らしながら、紗耶香がゆっくり口を開いた。

「今日はお家に帰ったら、学校の勉強の前に乗り物のルールと社会のルールをゆっくりみっちりたっぷり教えてあげるからね?あと今日の反省会も」

「え、いや、その・・・学校の勉強もやらなきゃ・・・」

「り・ん・お・ね・え・ちゃ・ん・・・♪」

「はい!わたくし、赤城凛!紗耶香様のありがたい自動車講習、喜んで受けさせてもらいますっ・・・!!」

 震え上がりながら、凛はおとなしく従うことにした。キレモードの紗耶香は、たとえ姉の真子ですら止められないのだ。もしここで逆らおうものならどんな目に遇うか・・・考えただけで鳥肌が立つ。

 そんな姉妹の騒動をよそに、お婆さんは何かを探しているのか辺りをキョロキョロと見渡し始めた。

「アレま・・・あたしの杖はどこ行ったかね?」

「杖・・・ですか?」

 紗耶香が復唱する。そういえば、確かに杖を持っていた気もするが・・・

「なぁ紗耶香・・・」

「なに?今おばあちゃんの杖を探してるんだよ?凛お姉ちゃんも・・・」

「お前のマッハのフロントタイヤに潰されてるのって・・・杖?」

「一緒に探して・・・・・・・・・え?」

 言葉が停止した。凛の指すのは、自分の自慢の愛車、250SSマッハⅠ。そのフロントタイヤの後ろに、真っ二つに折れた棒きれが一本、無惨にも転がっていた。

「おやまぁ・・・あたしの杖だわ」

 お婆さんが口に手を当てて言った。その瞬間・・・

「す、すみませんでしたぁっ!!!!」

 ビタン!と地面にへばりつき、土下座する紗耶香。焦っていて気付かなかったが、そういえば停まる瞬間、何か踏んだような気もしたのを、今思い出した。

「だ、大事な杖を折ってしまいました!す、すみませんすみません!!あ、後で絶対に弁償しますので・・・!!」

「ありゃりゃ、紗耶香ちゃん、やっちゃったねぇ〜、え〜?」

「っぐ・・・!!」

 土下座する紗耶香を見下ろす形で小馬鹿にしたような声で神経を逆撫でるのは、双子の姉の凛。

 凛からすれば、先ほどまで散々上から目線で怒られていたので少し仕返ししてやろうと思っただけであった。しかし・・・

「う・・・ぐすっ・・・!」

「・・・え?」

 見れば、紗耶香ががっつり涙目になっていた。マジで泣き出す5秒前!

「あ・・・わ、悪い、言い過ぎたって・・・そのだから、泣くなって・・・」

 泣き出す妹におろおろしながら声を掛ける。すると今まで見ていたお婆さんが紗耶香の前で屈むと、その皺くちゃな手を肩にポンッと乗せた。

「杖なんか家に帰りゃあるから、気にしなくてもええよぉ。それより、おばあちゃんはそうやって素直に謝ってくれただけで、もう嬉しくてねェ」

「え・・・?で、でも・・・」

「それより、杖を踏んで転ばなくてよかったねェ。杖は人を立たせてくれるけど、それ意外じゃあ人を転ばせる道具になっちまうからねェ」

「お・・・おばあちゃん・・・!!」

 だきっ!!

 おばあちゃんに抱きつき、ぎゅーっと抱きしめる紗耶香をおばあちゃんがまるで孫を可愛がるように頭を撫でる。

「え、ちょ・・・オレは・・・?」

 1人置いていかれた凛が、ぽつーんとつっ立っていた。

「しかし困ったねェ・・・杖が無くても歩けるにゃ歩けるけど・・・」

「大丈夫ですよおばあちゃん、私達が責任を持って送りますから」

「本当かい?」

 お婆さんが嬉しそうに言った。

「もちろんですよ。あ、ちなみにおばあちゃんは凛お姉ちゃんが背負って行きますから安心してくださいね?」

「うぉぉおおい!!なに背負うって!?」

「当たり前じゃない。それとも、凛お姉ちゃんはこのままおばあちゃんを置いていくつもり?」

「バイクがあるじゃねーかバイクが!」

「バイクの後ろって、おばあちゃんがバイクに乗れるわけないよ、だから凛お姉ちゃんは徒歩+おんぶ。私はマッハ」

「なんで!?流れ的にお前も徒歩だろ!?なにマッハって・・・!!」

 姉妹の言い争いが勃発。この場合どちらが正しいかと言えばどちらも正しくは無い。不毛な口論が続く。そんな中・・・

「よっこらせ・・・」

「だから、せめておばあちゃんをタクシーに乗せてあげるとかさ、あるだろいろいろ」

「ダメ、それじゃあ凛お姉ちゃん反省しないし」

「反省してるって!だいたい背負って歩いたらなんつーか・・・乗り心地とか悪いだろおばあちゃんが」

「じゃあバイクに乗せるの?おばあちゃんじゃあ絶対に振り落とされちゃうし、危ないよ。なによりまずシートに座れるかどうかって問題・・・が・・・?」

 紗耶香の口が止まった。見れば自分のブルーレインボーのマッハに、おばあちゃんが乗っていた。

「あたしゃあ大丈夫だよ、オートバイに跨がるくらいなんてこた無いさ」

「えぇ!おばあちゃん、乗れたんですか!?」

 口をあんぐりしてつっ立っている凛の横で、紗耶香が悲鳴にも似た叫びを上げた。そんな2人の反応を見て、お婆さんは笑った。

「あたしゃあ乗れないよぉ、こんな大きなオートバイなんて。ただ昔に息子が乗っていたのサ」

「あぁ、なるほどな」

 手を打って納得する凛。なるほどそれならば確かに納得だ。しかし・・・

「おばあちゃん・・・あの、ごめんなさい・・・乗ってから言うのも悪いんですが・・・」

「どうしたんだよ紗耶香?」

 紗耶香が申し訳なさそうな顔で頭を下げた。

「その・・・キック始動なので、降りてもらわないと・・・」

「あ・・・」

 凛が納得した。スターターなど無いマッハのエンジン始動はキックである。後ろに人がいる状態ではキックが出来ないのだ。

「よくわからんけど、そんなに疲れるワケでも無し、大丈夫だよ」

 お婆さんがリアシートからゆっくり降りる。紗耶香は「すみません・・・すぐ済みますから」と言って、マッハに跨がる。






 ・・・・・・スピード、タコの間にあるキーシリンダーに刺さったキーを捻る。するとぽわぁっとニュートラルランプが点滅する。暖まったエンジンはチョークを引く必要は無い。自分で組み上げた自慢の2ストトリプルのエンジンはキックと同時に、勢い良く吹け上がった。


 パァァァァァアン!!!

 パリパリパリパリ・・・!!


 あぁ、この爆発音・・・!排気音・・・!

 なんど聴いてもシビレてしまうこのサウンド・・・!!

 生まれた時から伝説の遺伝子を引き継いだ最強の250cc・・・操る者にしかわからないこの昂揚・・・パワーやスピードでは無い、素晴らしい世界・・・素晴らしき日々・・・!!

 そうだ、私のマッハが1番なによりも1番、そう、絶対無欠未来永劫に1番そして永久欠番!!

 さぁ、真白い白煙に包まれながら後続車は跪きなさい!?あっはっはっはっは・・・!!







「ーか・・・!さーやーかー!!」

「ふふふへ・・・顔面オイルシャワーでも食ら・・・て、あれ?凛お姉ちゃん・・・?」

「なにさっきからぶつぶつ言ってんだよ?エンジン掛けたら早くおばあちゃん乗せてやれよな」

「・・・っあ!?ご、ゴメンなさい!!」

 気付いたらいつものクセで脳内暴走を起こしてしまっていた。カワサキ愛もここまで来ると病気かも知れない・・・

 お婆さんを乗っけると、紗耶香は掛けてあったタンデム用のジェットヘルメットをお婆さんにかぶせる。

「それじゃあ行きますね?しっかり捕まっててくださいね?」

「うんうん、お願いねェ」

 ギヤを入れると、 先ほどの妄想とは真逆の操作で丁寧に発進した。

 お婆さんの家はどうやらすぐ近くの山の中腹にあるらしい。

 走り続けると途中、お婆さんの指示でわき道に入ると登り坂が現れた。マッハとは言え250ccの28馬力。ギヤを落として回転を上げるも、さすがに馬力が足りていないのを痛感させられる瞬間だ。

「ほらほら、あの畑の上にある家があたしのだよ」

 お婆さんが指を指す先には、古ぼけた木造の平屋があった。紗耶香はそれを確認すると、もう一踏張りと言わんばかりにアクセルを開けた。

 そしてまもなく、

 紗耶香達はお婆さんの家にたどり着いた。もう日も暮れてしまっていた。

「いやぁ、ありがとうねぇ」

「いえいえ、当然の事をしただけですよ」

 マッハから降りたお婆さんとのささやかな会話をする。するとお婆さんは玄関に向かって歩きだすと、双子の姉妹を手招きした。

「せっかくだからねェ、お茶でも飲んでいかんかね?」

「あ、いや・・・そこまでしてもらうのは悪いですよ」

 お婆さんの誘いを遠慮する紗耶香。予定外な外出な上、こちらが悪いのにお茶をご馳走になる訳にも行かない。

「若いんだから、遠慮するこた無いよ。それに、長く独り身でねぇ」

「む・・・うー・・・」

 お婆さんの表情に、心に迷いが生まれる。そこまで言われてしまうと、どうにも断れなくなってしまう。

 すると今の今まで隅でタンデムとは言えマッハに乗るお婆さんの姿に笑いを堪えていた凛がずいっと前に出てきて、紗耶香に耳打ちした。

「紗耶香よ、こういう時はな?素直にご厚意に甘えるのも大事なんだぜ?」

「うー、そうかも知れないけどぉ・・・」

「それに、おばあちゃんなんか寂しそうだし。少し話していく位問題ないだろ?」

「そんな事言って、本当は勉強がしたくないだけのくせに・・・」

「そ、そんなこと無いんだZE〜・・・♪」

 変な口笛を吹きながら、バレバレな嘘をつく。そんな姉にため息をつきつつ、紗耶香はお婆さんに言った。

「わかりました、お言葉に甘えさせて頂きますね」

「本当かい?ありがとうねぇ」

 お婆さんは嬉しそうに言うと、双子を家の中に案内した。

 2人が案内されたのはごくごく普通の居間であった。古い木造建築の家だけあって布団は外されているが掘りコタツがある。

 畳に腰を下ろしてしばらく待っていると、お婆さんが台所からお盆を持って現れた。

「あんまりいいモンじゃないけど、茶菓子に饅頭があるから食べなさい」

「お!お饅頭!!ありがとうおばちゃん!!」

「そ、そこまでしてもらわくても・・・」

 お盆に乗ったお饅頭に、凛が身を乗り出して喜ぶ。さすが圭太の誕生日に饅頭をプレゼントしただけのことはある。そして相変わらず紗耶香は遠慮気味に言うと、お婆さんはお茶とお饅頭を2人の前に置いてから言った。

「気にしなくても大丈夫だよ。ほらお食べ」

「いっただきまーす!!モガモガ・・・」

「あ、凛お姉ちゃんもっとお行儀良く・・・あぁもう・・・あ、それでは頂きますね」

 双子で同じ顔をしているはずなのに、こうも中身に違いがあるともうどちらが姉なのかわからなくなってくる。

 そんな双子を見つめながら、お婆さんは皺だらけの顔に笑みを浮かべながら話出した。

「仲がいいねぇ。そういえば、2人は双子なのかい?」

「もががが・・・あ、うん。因みにオレが姉でこっちが妹で・・・もぐもぐ・・・あと、上にもう1人姉貴がいんだ」

「凛お姉ちゃん、口に物入れたまま話しちゃダメだよ?」

 妹の紗耶香が姉以上に姉らしく凛に注意した。

「どっちがお姉ちゃんだかわかんないねぇ」

 お婆さんが笑いながら言うと、懐かしそうな顔で語りだした。

「ウチは1人息子だったから、兄弟姉妹ってのも良いモンだねぇ」

「ゴクゴク・・・ぷはぁ。んー、まぁ色々事情はあるみたいだけどなぁ」

 饅頭をお茶で流し込むと、凛は知り合いの兄弟を思い浮べて首を傾げた。旭と千尋は、詳しい話は知らないがいろいろと問題があったみたいだし、翔子は翔子で今いろいろと大問題だし。

「そういえば、姉妹はみんなオートバイに乗ってるの?」

「そうなんですよ。私と凛お姉ちゃん、2つ上の真子姉さんもみんな古いバイクに乗っているんです」

「今でもいるんだねぇ・・・最近の若い子はオートバイには興味が無いみたいだからねぇ。ウチの孫も興味が無いみたいでねぇ」

「おばあちゃん、バイクには反対とかしないの?」

 凛がお茶を飲み干しながらたずねると、お婆さんは気を利かせてお代わりのお茶を入れながら答えた。

「そりゃあね・・・当時は反対だったよ。あの時は暴走族とか増えてね、バイク事故もいっぱいだったんだからねェ・・・」

 昔を思い出しながら、お婆さんは続ける。

「あの子が高校に入ったころかねぇ、私にねぇ『頼むからオートバイを買わせてくれ』って言ってねぇ。お父さんとも最初は反対したのよ。でも、聞かなくってねぇ。日払いの仕事と学校を両立させて新車買ったのよ」

「し、新車・・・」

 紗耶香が驚きの声を上げた。当時の高校生の日払いの仕事でバイクを新車で買うと言うのは今よりもとんでもない事なのだ。

「いろんな所に友達と走りに行っててねぇ、沖縄以外は日本全部回ったね」

「す、すごい・・・」

 さすがの凛も驚いた。

「それから、何年もそのオートバイに乗ってねぇ。乗り換えたりしても、最初のオートバイだけは今でも大事に取っておいているんだよ」

「はぁ〜・・・そりゃスゲー・・・」

「やっぱり思い出がたくさん詰まってるんだろうなぁ・・・素敵なお話です」

 2人はその話を聞いて、想像した。自分達も、このマッハと一緒に、『旧車物語』の仲間と共にそんな旅をしてみたい。そう思うとなんだかワクワクしてきた。

「あー、因みにおばあちゃん。息子さんって、どんなバイクに乗ってたん?」

 凛がたずねると、お婆さんは難しそうな顔で首を傾げた。

「白いオートバイなんだけど・・・あたしゃオートバイには詳しく無いからねェ・・・」

「んー、白ってだけじゃあわかんねーなぁ・・・」

「ううん、一応絞ることは出来る」

 凛のあきらめの言葉を遮って、紗耶香が言った。

「だって、白いバイクって70年代後半まで発売禁止されてたんだから」

「あ、そういやそうだ・・・」

 紗耶香の言葉に、凛も納得した。

 1968年。世にも有名な三億円事件が発生。ヤマハのスポーツ350R1と言うバイクが青から白に塗られて偽白バイとして犯人に使用された。事件の詳しい話は省くがそれ以降、国内市販車の塗装に白は禁止されていたのだ。

 因みに500SSマッハⅢの初期型と言えば白を思い浮べる人も多いかと思うが、白いマッハは輸出専用カラーであり国内仕様は赤と黒・・・俗に言う赤マッハと黒マッハしか無く、白マッハが日本の道を走ったのは逆輸入が盛んになった80年代と、発売から10年以上後のことである。

 それらのことから考えて、その息子さんが乗っていたのはおそらく80年代のバイクである。その時代の白いバイク・・・紗耶香の脳裏に1台の車種が浮かび上がった。

「もしかしたら、RZとかかも・・・」

「あー、確かに!RZなら白いな。てか、その系統のヤマハって全部白くねー?」

「うん、多分間違い無いよね」

 姉妹は自分達の推理がそれなりに当たっていそうな予感にはしゃぎあう。

「しっかし、実際に見ないことにはなんとも言えねーよなぁ・・・」

「あの、写真とか無いんですか?私達、少し気になってしまって・・・」

 紗耶香が申し訳なさそうにたずねた。するとお婆さんは困ったように笑った。

「それがねぇ・・・写真は息子が全部もってっちゃったんだよ」

「そ、そんなぁ・・・!」

 凛が悔しそうに呟いた。気になりだすと止まらないのは旧車乗りの性(?)である。しかし写真が無いならばどうにもしようがない。2人が諦めムードになっていると、お婆さんが2人に言った。

「写真は無いけどね、バイクがあるんだよ実は」

「え・・・?」

「納屋にね、息子がしまっててねぇ」

「「えええぇぇぇぇぇぇえ!?」」

 双子の喜びの悲鳴が、山にこだました。










 3人が外に出ると外はすでに日が落ちていた。玄関の脇にある納屋の南京錠をあけるお婆さんを前に、凛達は期待に胸を膨らませた。

「なんだかワクワクしてきちまったなぁ・・・まさかここでこんな場面に遭遇するなんてなぁ」

 凛が浮かれきった表情で言う。紗耶香も期待を隠せないようで、どこか落ち着かない。

 しばらく待つと、南京錠が外れた。扉が開いて3人は中に入った。

「暗くてなんにも見えないなぁ」

「今電気つけるからね・・・よっしょ・・・」

 手探りでスイッチを見つけると、パチンと音と共に、古ぼけたオレンジ色の電球に光が灯る。

 そして、とうとう目的のバイクとご対面した。しかし・・・

「あれ・・・?なんだコレ」

「見たこと無いバイクだね」

 見慣れぬバイクが、そこにあった。

 エンジンと地上高のマージンがかなり広めに取られており、マフラーがエキパイからその場で180度向きを変えてシリンダーの脇から後ろに真っ直ぐ伸びている。前後ドラムブレーキで、マフラーが2本出ているがエンジンの大きさから250cc単気筒であることはわかった。

「なんだろう・・・オフ車か?」

 初めて見るバイクを凛がじっくり眺めながら呟く。よく整備されている様で、クラッチを握ると固着はしていないようでちゃんと握れたし、アクセルもブレーキもちゃんと操作出来るようだ。

「どこかで見た気がする・・・」

 一方紗耶香は腕を組んで唸りながら考える。サイドカバーには何か書いてあったのだろう。しかし色褪せが激しく読み取れず、クランクケースとタンクのHONDAのエンブレムだけが頼りだ。

 スズキのハスラーやカワサキのA1サムライスクランブラーなど、オフロード車をあげていくがなかなか思い出せない。その時・・・

「わかった!!」

「うわっ、なんだよ紗耶香」

 いきなり叫んだ紗耶香に凛がたずねると、紗耶香はニコニコ顔で答えた。

「このバイク、名前が分かったの」

「な・・・!本当かよ・・・」

 凛が驚きと呆れの交ざった顔で呟くと、紗耶香が笑いながら言った。

「これ、ホンダのシルクロードだよ!!」

「シルクロード・・・?なんだそりゃ・・・」

 紗耶香の自信満々の答えに、凛が?マークを浮かべる。


 ホンダ、シルクロードは81年に出たトレッキング(山登りの意味)バイクで、頑丈なエンジンとスーパーローギヤ。山道を走るのに適したサス周りにディスクでは無く砂埃に強いドラムブレーキを備えたバイクである。オフロードとは違い、街中も山道も走るバイクなのでシート高も当時のネイキッドとあまり変わらないのも、シルクロードの特徴である。

「かなり希少車だよ・・・はぁ、感激しちゃうなぁ・・・」

「よくわかんねーけど、とりあえずすごいバイクなんだな」

 うっとりしている紗耶香の言葉に凛はなんとなくだが珍しいモノなんだなぁ、と思いながら呟いた。

 今まで後ろで見ていたお婆さんも、その名前を聞いて思い出したらしい。昔を懐かしんでいるのか、柔かな表情で呟いた。

「そういえばそんな名前だったねェ・・・」

「なぁなぁ。コレ、今でも走ったりするの?」

 凛がワクワクしながらたずねると、お婆さんは頷いた。

「孫連れて帰ってくると、家族放っとって裏山を走りに行ってるよ。昔っから変わんないからねえ。2人もあのオートバイ、事故しないように大事にしなさいね?」

「「はい!」」









 それからしばらくしてから、凛と紗耶香はお婆さんの家を出た。お婆さんは「また来なさいね」と言って、最後まで手を振って2人を見送る。

 2台の姿が見えなくなり、家に入ると一本の電話が鳴り響いた。

 受話器を取ると、お婆さんは笑顔になった。

「そういえばねぇ、今日は可愛いお客さんが2人来たのよ。アンタの宝物見て、頑張るって言ってたねぇ・・・夏休みになったら、家族連れてウチに来なさいね」

 そしてその言葉に対する答えを聞いて、お婆さんはいっそう笑顔になった。








「あー楽しかったぁ!」

「全く・・・事故にならなかったから良かったよ・・・はぁ」

 帰宅後。ガレージに愛車を停めた凛の言葉に紗耶香がため息をついた。

「でも、あのおばちゃん。嬉しそうだったよなぁ」

「うん、また行こうね!凛お姉ちゃん!」

「おうよ!」

「えへへ・・・でも、帰りが遅くなっちゃったね」

 腕時計を見て紗耶香はまたため息。時刻はすでに9時を過ぎていた。

「今日はもう飯食って風呂入って歯ぁ磨いて早く寝るしかねーな!」

 がっはっは!と笑いながら凛が言う。すると・・・

「ダメだよ・・・凛お姉ちゃん?今日は学校のテスト勉強と私の自動車講習があるんだから」

 さっきまでの笑みはどこへやら。ジト目で凛を見る紗耶香。そして急に恐ろしい笑みを浮かべた。

「今夜は寝かせないよ・・・?凛お姉ちゃん・・・?」

 姉の襟首をがっちり掴んだ。

「まず部屋についたらそのまま勉強だよ?一問正解するごとにご飯一口ね?それからお風呂は明日の朝まで入れさせないんから。トイレ休憩は1時間に1回、1分以内に済ませてね?」

「そ、そんな・・・!そりゃあ無いぜ紗耶香ぁ・・・!!」

「フフフ・・・じゃあ早くお家に入ろうよ・・・?」

「ひ、ひぃぃぃぃああああああ!!!!」

 ズルズルと限界に引き摺られていく凛の断末魔の悲鳴は、ドアが閉まり切るまでの短い間、近所一帯に不気味に響き渡った。


 この時の状況を赤城真子氏は

「紗耶香の部屋から凛が啜り泣く声が聞こえて、たまに悲鳴が聞こえた。そういえば、最近私も凛をイジメていないな・・・フフフッ・・・」

 凛の明日はどっちだ。

 


後書き限定小話!!

『千尋の大冒険!?そのに』




「・・・」

拝啓おにーちゃん、お元気ですか?私は元気です。

何とか隣の駅で降りれたけど・・・結局また新宿に戻らないといけなくなりました・・・

そもそも、あんなにいっぱいホームがあるのが間違いなんだよ、うん、仕方ないよね。

・・・よね?

というわけで、今私は駅の改札に来ました。でもここじゃ降りません。駅員さんに道案内・・・違う、電車案内・・・?まぁ、とにかく上野の行き方を聞いてきます。

「あの~・・・」

「はいはいなんですか?」

何でだろう、制服を着た人と話すのって緊張するよね。

「上野に行きたいんですけど・・・何番線でのればいいんですか?」

「あぁ、上野ならそこの階段上がって。そしたら山手線に乗れば着くからね」

「あ、ありがとうございました」

ふぅ・・・何とか教えてもらえたよ・・・

ていうか、最初からこうしておけばこんなことにはならなかったのに・・・今度からわからなかったら聞くクセを付けよう。うん。

会談を上がったらちょうど山手線が来た。うん?電気屋さんのシールが貼ってある・・・都会はすごいなぁ。

電車に乗った。この時間は人が少ないんだね。とりあえず座ろうかなっぁ・・・!?

すごい!!電車のドアの上にテレビついてる!!すごっ!!

なんかニュースが流れてるよ!?あんまり良いニュースでないみたいだけど・・・


ぐぬぬ・・・私の住んでるトコの電車なんて中吊り広告しかないのに・・・テレビまでついてるなんて・・・さすが都会!侮れない・・・!!

まぁ、あんまり電車乗らないから良いんだけどね。へ?何でって?

それはおにーちゃんがバイクで送ってくれたりしてくれるからだよぉ・・・えへへ・・・

まぁ、しばらくは揺られてるだけだし・・・ニュースでも見ながら上野に着くのを待ってよう。

あれ、鷹〇爪だ・・・アセロラかぁ・・・






そんなことをしている間に、もう上野だって!!

ようし!ここまでくれば大丈夫だよ!お店までの地図もあるんだから!待っててねおにーちゃん!おねーちゃん!!





・・・あ、れ?

広くて・・・出口がいっぱい・・・

どこに出れば・・・あ、地図を見れば・・・!!乗ってない・・・

駅からの道のりしか書いてないよぅ・・・

どうしよう・・・



続く・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。