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思い出しちゃダメ!? 溺愛してくる俺様王の事がどうしても思い出せません  作者: 紅花うさぎ


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61.闇の中の救い 

 暗い暗い闇の中へと落ちていく。闇の中は無音で何の音も聞こえない。


 あーあ。私、死んじゃったのかなぁ? できれば最後にもっとエイデンの顔を見たかった。


 せっかくエイデンが迎えに来てくれたのに、一瞬しか会えなかったのが残念でならない。


 私はこれからどうなるんだろ? このまま闇の中に意識だけ存在し続けるのか、それともこの意識もいずれ消えてしまうのか?


 まぁ、どっちでもいっか。元の世界に戻れないなら、暗闇の中で意識だけあっても仕方ないし。


 っと、闇の中にぼんやりとした光が見えた。意識だけになっても目って見えるんだ……なんてことをぼんやりと考えながら、その光に吸い寄せられていく。


「……レイナ……」


 段々と大きくなる白銀の光が私の名前を呼ぶ。


「レイナ……」


 あなたは誰?

 聞き覚えのない声が、なぜか妙に懐かしい。


「レイナ、迎えに来たよ」


 大きく膨れ上がった光が私の体を飲み込んだ。温かな光に包まれた瞬間、唐突に光の正体を理解した。


 ……お父さん……


 細胞が記憶していたんだろうか? 私の記憶にはない父の姿が、はっきりと思い出される。


「レイナ……ごめんね。私のせいで君にも君のお母さんにも苦労をかけてしまったね」


 大丈夫だよ、お父さん。たしかに大変な事も多かったけど、私もお母さんも不幸なんかじゃなかったもの。


「……お母さんはあなたのお父さんのことが大好きだったの」


 小さい頃母はそう言って悲しそうに笑っていたっけ。


「一緒に生きることは許されなかったけれど、あなたを残してくれた。お母さんはレイナがいて幸せよ」


 私の記憶は虫食い状態で忘れてしまった事も多いけど、抱きしめてくれた母のぬくもりは今でもはっきりと覚えている。


「さぁレイナ、行きなさい。元の世界に還るんだ」


 温かな光が私の意識を上へと押しやった。意識が上へ上へと昇るにつれ、父の気配が遠ざかっていく。


 お父さんは? 一緒じゃないの?


「残念だけど一緒には行けないよ。君とマルクスを元の世界に還すだけで精一杯なんだ」


 はっきりとは言われなくても、父が私とマルコを生き返らせるのに全ての力を使い切ってしまったのだと分かった。


 じゃあ私達を生き返らせたせいで、お父さんは死んじゃうってこと?


 いやだ。やだやだ。そんなのやだ!! せっかく会えたのに、お別れなんて嫌だよ。


「レイナ……可愛いレイナ……」


 あぁ、もう光が遠くて……


「レイナ、幸せになるんだよ」


 暗い闇の世界から輝く世界へと押し出される瞬間、白銀の長い髪をした男性がこちらに向かって幸福そうに微笑んでいるのが見えた気がした。







     ☆      ☆      ☆


 





 ここは……私の部屋?


 見慣れた天蓋に見慣れた室内。よかった。全部夢だったみたい。


 でも、おかしいなぁ。いつものように体を起こそうとしても体に力が入らない。ベッドでもごもごしている私に気づいたのか、慌てたようにミアが飛んで来た。


「レイナ、目が覚めたのね。ビビアン、ビビアーン!!」


 涙を浮かべながら、ミアが大声でビビアンを呼んだ。


「ちょ、ちょっと。どうしたのよ二人とも」


 二人揃ってなんでそんなに泣いてるの?


「もう、レイナったら。なかなか起きないから心配したのよ」


「本当に……本当に無事に目覚められて良かったです」


 そっか……夢じゃなかったんだ……


 二人の泣いて喜ぶ姿から、全て現実だった事を実感する。


「ああ、もう。早くエイデン様をお呼びしなくちゃ」 


 ミアが慌てた様子で部屋から駆け出していく。どうやらエイデンは溜まっている仕事を終わらせるため、執務室に閉じ込もっているようだ。


 ミアが部屋を出て数分後、盛大な音をたててドアが開いた。走って来たのだろう。エイデンの息が上がっている。


「よかった。目が覚めたんだな」


 エイデンが嬉しそうな顔をして私の手をきつく握った。


「よかった……本当によかった……」


 エイデンの安堵したような掠れた呟きに胸が苦しくなる。


「心配かけてごめんね」


 エイデンが私の手を離し、両手で私の頬を包んだ。私の様子を観察するかのように瞳の中を覗きこむ。


「体はおかしくないか? どこか痛いとか……」


 うーん……どこも痛くはないんだけど、体に力が入らないのよね。今だって本当は起き上がりたいのに、動けないから寝たまんまだし。


「まぁ一回死んだんだし、普通に戻るには少し時間がかかるだろうな」


 そうね。一回死んじゃったんだもんね。


 ガードランドで死んだ私は謎の光に包まれ奇跡的にに蘇ったらしい。そしてさっき目覚めるまで10日程眠っていたようだ。


「それよりエイデンは大丈夫なの?」


 久しぶりに見るエイデンは何だか薄汚れているというか、げっそりしているというか……よく見ると目の下のクマもひどい。


「仕事が溜まってるって聞いたけど、そんなに忙しいの?」


「大丈夫だ。レイナが心配することは何もない。」


 そう言ってエイデンの大きな手が私の頭を優しく撫でた。


「……レイナ……」 


 エイデンの顔がゆっくりと近づいて来るのを感じて静かに瞳を閉じた。


 トントントン


「陛下、少々よろしいでしょうか?」


 エイデンの唇が私の唇に到達するより前に、カイルの声が聞こえて慌てて目をあけた。


「おまえなぁ……」


 エイデンがフルフルと小刻みに震えながら入口を振りり返る。


「おいカイル!! 絶対に邪魔しに来るなと言っておいただろ」


 エイデンの怒鳴り声に全く動じることなく、カイルは淡々と仕事の話を始めた。


「よろしいですか? 私に邪魔されずにゆっくりイチャイチャしたいのならば、書類だけでも片付けてからにしてください」


 ゆっくりイチャイチャって……そんな風に言われたら恥ずかしいじゃない。


「お前は少しくらい待ってやろうと思わないのか?」

 

「ではお待ちしますので、さっさとキスしてください」


「あー!! もういい。書類なんてさっさと終わらせてやる。レイナ、また後で来るからな」


 不愉快そうな顔のままエイデンがカイルを引き連れ部屋を出ていった。と、一度閉じたドアがもう一度開き、カイルだけが姿を見せる。


「レイナ様、陛下がやつれておいでなのは仕事が忙しいからではありません。陛下はレイナ様が眠っておられる間、心配であまり寝ておられないのです」


「えっ? そうだったの?」


 私が眠っている間、エイデンは仕事も手につかない、食事も喉を通らない、眠りも浅い……と最悪な状態だったそうだ。


「今日は急ぎの書類が済み次第陛下を解放しますので、どうか陛下を安心させて早く寝かせてください」


 そう言い残しカイルはもう一度扉の向こうに消えた。


 そんなにエイデンに心配かけたんなら、早く起き上がれるようになってもう大丈夫な事をアピールしなきゃ……と思ってたのに……


「いやぁ、本当によかったですね」

「ほんとよね。一時はどうなることかと思ったわ」

 

 私が目覚めた事を知ったレオナルドとジョアンナがお見舞いに来て、そのまま私のベッド脇で昼食をとり始めてしまった。


 長い間入浴もしてないし歯も磨いてない。エイデンが来る前に早く体を綺麗にして、身支度を整えたいんだけど。でもレオナルド達だって私の事を心配してくれてるんだから、追い出すわけにはいかないし。


 でもまぁレオナルドとジョアンナはまだいいとして……あれは誰なの?


 当たり前のように席に着いて、レオナルドと共に笑っている少年が気になって仕方がない。


「あの、えっと……そちらはどなたでしょうか?」


「僕ですか?」


 ベッドに座ったままの私の問いかけに、少年が立ち上がり側へ来た。


「アランです。どうぞよろしく」


 どうやらアランは私が眠っている間に何度も私の顔を見ていたらしく、すでに知り合いのような気になっていたそうだ。

 

 って、私が眠ってる間に知らない人を部屋にいれて寝顔を見せてるなんて、レオナルドったらひどくない? 無邪気な笑みを浮かべるアランは悪人には見えないけど、やっぱり寝顔を見られるのは嫌だ。


「アラン様はレオナルド様のお友達ですか?」

 

「友達というか叔父ですかね。僕はジョアンナ様の夫ですから」


「ジョ、ジョアンナ様!? 結婚されたんですか?」


 私が寝てたのって10日間って言ったわよね。恋人もいないって言ってたジョアンナがその間に結婚したなんて、顎が外れるくらい驚きよ。


「バカね!! 結婚なんてするわけないでしょ。この子が勝手に言ってるだけだから無視しといて」

 

「えー、ひどいなぁ。僕との結婚、考えてくれるって言ったじゃないですかぁ〜?」


 ニコリともしないジョアンナに擦り寄るように、アランがジョアンナの隣に座り椅子を近づけた。


「ええ。考えたわよ。考えて、やっぱり結婚なんて有り得ないって思ったわけ」


「そんなぁ……」


 心底がっかりした様子でうなだれているアランを無視し、ジョアンナは何食わぬ顔でパクパクと昼食のマフィンを平らげていく。


 だ、だめだぁ。驚きすぎて何から聞いたらいいか分かんない。私が攫われてから今日までの数日に一体何があったのよ?


 あー、気になる。気になりすぎてたまらない。でも今私が聞かなきゃいけない話は別にある。


「レオナルド様、マルクス……じゃなくて、マルコは生きてますか?」


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