【エイデン視点】本編58から60話 ⑥
ガードランドへの道は俺の祖父だって?
一体どういう意味だと思いながら、全速力で祖父の部屋へ向かう。
バタン
「まぁ、エイデン様!! どうされたんですか?」
勢いよく開けた扉がぶつかる大きな音に、祖父の侍女が驚いたような顔でこちらを見た。
しまった。あまりにも急ぎすぎて、ノックをするのを忘れてしまったようだ。ちょうどお茶の時間だったらしく、祖父はカップを手にしたまま非常に不愉快そうな顔をしている。
「一体何の騒ぎだ?」
相変わらずの威圧感にたじろぎそうになるが、こんなところで怯んで時間を無駄にするわけにはいかない。
「ガードランドへの行き方を教えてください」
「ガードランドへの行き方だと?」
怪訝な顔で俺の顔を見た祖父がため息をついた。
「いきなり人の部屋に押し入って来て何なんだ。そんなもの、ワシは知らん」
「本当ですか? もし知っているなら隠さず教えてください。レイナがガードランドにいるかもしれないんです」
「レイナが?」
祖父は静かにカップを置いた。レイナが行方不明なことは、カイルから祖父の耳にも入っているはずだ。
「何故レイナがガードランドにいると思ったんだ? 何の手がかりもなかったんじゃなかったのか?」
何故と言われたら説明するのが難しい。あえて言うとしたら……
「お告げ……ですかね」
「お告げだと?」
まぁ、そりゃそんな反応になっても仕方ないよな。何くだらない事を言ってるんだと顔をしかめる祖父に、先程の不思議な現象を説明する。
「とにかくあの耳鳴りは、ガードランドへの道はあなただと言ったんです」
俺の訴えに祖父は何かを考えこんでいたようだったが、すぐに顔をあげ言った。
「分かった……ガードランドへの道を教えてやろう。出発の準備をしてから戻って来い」
まさか本当に祖父がガードランドへの行き方を知っていたとは。だが今はのんびり驚いている暇なんかない。すぐさまカイルを呼び出発の準備を整える。
待ってろよ、レイナ……
とにかく無事でいてほしい。そう願いながら急いで出発の準備をし、再び祖父の元へ向かった。
「おいお前ら、ピクニックに行くわけじゃないんだぞ」
祖父の部屋の前に集まった面々を見ながら思わずため息が漏れた。レイナ救出に人手は多い方がいいと思って声をかけたが、やっぱりカイルと二人で行くべきだったかもしれない。
「レオナルド様、一体何を持って行くおつもりですか?」
カイルの問いに、びっくりする程大きなリュックを背負ったレオナルドが自信満々な顔をして見せた。
「何って旅の必需品ですよ。私はバックパッカーでしたからね。旅の事なら任せてください」
「そんな事言って、どうせ半分以上は甘い物なんでしょ」
ジョアンナの指摘を否定することなく、レオナルドはリュックをポンっと叩いた。
「ジョアンナの分もありますから、安心してくださいね」
「レオナルド様、僕の分もありますかぁ?」
「もちろんだよ。アランの分も用意しているよ」
こいつらはやっぱりピクニックか何かに行くと思ってんじゃないのか? 楽しそうなアランとレオナルドの様子に頭が痛くなってくる。
その様子を見ていた祖父が口を開いた。
「おい、エイデン。あの若いのは誰なんだ?」
そう言えば、まだ祖父にアランを紹介していなかった。祖父の視線に気づいたアランが、人懐っこい笑みを浮かべる。
「はじめまして。ジョアンナ様のお父様ですよね? 僕は……」
ヤバい!!
厄介なことになりそうな予感がして、アランの口を慌てて塞いだ。
こいつのことだ。またジョアンナの未来の夫だと言うに決まっている。それをジョアンナが否定して……
お決まりの会話が繰り返されるのが目に見えている。
こんなジャジャ馬でも、ジョアンナは祖父にとって一応可愛い娘なのだ。常々早く結婚しろとは言っているが、アランの言葉にショックを受けて倒れられたらたまらない。
「エイデン様、もう何するんですかぁ!!」
俺の手を取り除き、祖父に挨拶しようとするアランを押しやった。
「挨拶は帰ってからにしましょう。今はレイナを見つけ出す方が重要です」
「それもそうだな……」
はぁ……出発前からすでに疲れてしまった。
だいたいこいつらは今から未知の国へ行く自覚があるのか? いつもの事とはいえ、緊張感がなさすぎる。
祖父が歩き出したのに続き、俺達も歩き出した。
「ガードランドへの道というのは何ですか?」
「それはついてくれば分かる」
詳しい説明は何もせず、祖父は先を急いだ。年のわりに早足な祖父が立ち止まったのは、祖父個人のガーデンの隅だった。
「ここだ。これがガードランドへの道だ」
「この岩が……ですか?」
いや、これが道って言われても……どう見てもただの大きな岩にしか見えない。
「これはな。竜の門に使われていた岩の一部なんだ」
祖父が岩を優しく撫でるように触った。
「素晴らしいですね。伝説の竜の門が、このフレイムジールにあったとは……」
「これって、どう見てもただの岩ですよね。こんなので本当にガードランドに行けるんですか?」
岩を見た者の反応も様々だ。カイルのように目を輝かせ興奮する者もいれば、アランのように全く興味を示さない者もいる。
「……ワシは使ったことはないが、アルバートはこれでガードランドに行けると言っておった」
「アルバートとはレイナの……?」
「そうだ。レイナの祖父のアルバートだ。あいつが竜の門を破壊した時に、預かってくれと言って持って来たんだ」
岩を見つめる祖父の瞳が、懐かしそうに細まった。
「あいつにレイナを保護する約束をしていたからな。いつかレイナがガードランドへ行きたいと言った時に使えるよう預かっていたんだ」
祖父が俺を見て少し笑った。
「本当はお前達の結婚祝いとして教えてやる予定だったのに……全く想定外だな」
「すいません」
頭を下げる俺に祖父が竜の門を作動させる秘密の言葉を告げた。
「エイデン、これを持って行け」
祖父から渡されたのは、透明なガラスのような玉で作られたブレスレットだった。ガードランド王家の力を持たないレイナのために、レイナの祖父が力を封じ込めておいたものらしい。これがあれば俺でも竜の門を使うことができる。
「さぁ、さっさとガードランドに行ってレイナを見つけて来るんだ。わしはお前達の結婚を楽しみにしているんだからな」
静かに頷いて岩の前に立った。岩肌に手をのせると、思いの外ツヤツヤした岩の表面はとても冷たかった。
本当にレイナがガードランドにいるかどうかは分からない。あの怪しい耳鳴りの正体だってはっきりしないのだから、罠だという可能性もある。
それでも何となくだが、レイナはガードランドにいると確信めいたものを感じている自分もいる。
大丈夫だ。レイナはきっと見つかる。頼む、俺達をレイナの所へ、ガードランドへ導いてくれ。
祈るような気持ちで瞳を閉じた。
「ザルーシア」
祖父から教えられた秘密の言葉が空に響いた。途端に、くにゃりと視界が歪むのを感じた。
「カイル、飛ぶぞ!! 手を出せ!!」
歪み行く世界に耐えながら、差し出した手をカイルが掴んだ。きっとカイルはレオナルド達の手を握り連れて来てくれるだろう。
「エイデン様、どうかご無事で……」
「必ずレイナを連れて帰ってくださいね」
見送りに来ていたビビアンとミアの祈るような声がだんだんと遠くなっていった。




