【エイデン視点】本編58から60話 ⑤
「レオナルド!!」
馬車を飛ばしてフレイムジールへ帰るとすぐ執務室へ駆けこんだ。
「エイデン!? どうしたんですか?」
手にしたプチシュークリームを口に放り込もうとしていたレオナルドが驚いたように目を丸くする。
「マルコは戻ってるか?」
「まだ戻って来てませんけど……何かあったんですか?」
じゃあレイナが消えた事にマルコが関わっているということか? まさかマルコがレイナを攫ったとか?母の言った通り、マルコがレイナを憎んでいるのだとしたら危険じゃないか。
「レイナがいなくなっちゃったのよ」
頭の整理が追いつかない俺に代わり、ジョアンナが軽くサンドピークでの出来事を説明すると、カイルが大きなため息をついた。
「どうしていつもいつも厄介な問題が起こるんでしょう……」
そんな呆れた様な顔で見られても。俺が望んで問題を起こしているわけじゃない。
「レオナルド!! マルコがレイナを憎んでる可能性はあるか?」
「そうですね……正直私もマルコについてはあまりよく知らないんですよ」
はぁ? 何だそりゃ。よく知りもしない奴を側に置いていたのか? 信じられない奴だ。
「マルコとはこの国を出て放浪中に出会ったんです」
「それで何も知らないまま従者にしたの?」
レオナルドの前に山積みされていたプチシュークリームに手をのばしながらジョアンナが聞いた。
「まぁそんな感じですね。マルコはとても悲しい瞳をしていましたから……人には知られたくないことがあるだろうと思って聞いていません」
「さっきも聞いたが、俺が知りたいのはマルコがレイナを憎んでいたかどうかだ」
レイナと同時にマルコがいなくなったのだから、マルコが怪しいのだが……まだマルコがレイナを攫ったと決まったわけではない。
「確認ですけど、母はマルコのレイナを見る瞳で憎んでいると判断したんですよね?」
「ああ。憎しみのこもった目で見ていたと言ってたな」
「そうですか……でもそれは違うと思いますよ。マルコがレイナを見る目は憎んでいると言うより……」
「レオナルド様!」
カイルがキツイ口調でレオナルドの言葉を遮った。
なんだ?
二人の様子が少しおかしい。
「今は少しでも情報が必要なんだし、下手に隠さない方がいいんじゃない?」
状況を把握しているのだろうか、何故だかジョアンナが口を挟んだ。
「しかし……」
それでも渋るカイルの言葉をジョアンナは無視し、俺を真っ直ぐに見つめた。
「マルコはレイナを愛しそうに見つめてたわよ。そしてそれをバレないよう必死で冷たい表情で隠してたって感じだったわね」
頭をガンっと殴られたような衝撃を感じる。
愛おしそうにって……マルコはレイナの事が好きだったのか?
「お前達、そのこと知ってたのか?」
俺の問いかけに、レオナルドとカイルが気まずそうな表情で顔を見合わせた。
「秘めた恋って奴ですね」
なぜだかフレイムジールまでくっついて来たアランが楽しそうな声をあげた。
「レオナルドもカイルも、何でそんな大切なこと俺に知らせなかったんだ?」
「知らせなかったわけではありません。てっきりご存知かと思ってましたので……」
カイルの言葉にレオナルドも頷いている。
「結構あからさまでしたからね」
俺が知っているわけないだろう。もし知っていたら、マルコをサンドピークに同行させたりしていない。そもそもレイナに近づけるはずがないじゃないか。
「エイデンはレイナだけしか見てないので、気付けなかったのかもしれませんね」
レオナルドがジョアンナに取られまいと、プチシューをぽいぽいぽいっと勢いよく3つ頬張った。
「エイデン様って、出来る男に見えて意外と間抜けなんですね」
こいつ……ムカつくが、いちいち相手をするのも面倒なのでアランの事は無視しよう。
「じゃあマルコがレイナを自分のものにしたくて連れ去った可能性があるんだな?」
レオナルドが難しい顔で首を捻る。
「うーん……でもマルコがそんなことをするとは思えないんですよね……」
「じゃあレイナはどこに行ったんだ?」
誰も答えが分からず黙ってしまう。俺が知りたいのはレイナの居場所なのだ。
「まぁエイデン、少し落ちついて」
レオナルドが残りの少なくなったプチシュークリームの皿を俺の前に移動した。
「糖分不足だとイライラしますよ。エイデンも食べたらどうですか?」
全く危機感のない奴め。
ため息しか出ない俺にカイルが言った。
「ところで陛下、この方はどなたでしょう?」
「えっ? 僕?」
っとアランが自分を指差した。
そう言えばカイル達にまだ紹介してなかったな。
「あっ、カイルにも見えてましたか? 誰も何も言わないから、私にしか見えない亡霊なのかと思って怖かったんですよ」
レオナルドがほっとしたように笑った。
「やだなー、僕は生きてる人間ですよ」
って、何皆して楽しそうに笑ってんだ?
ああ、もう。頭が痛い。
結局レイナの行方について何の手がかりも得られないまま、俺は一人レイナの部屋に移動した。
レイナ……無事でいてくれ!!
大丈夫だ。レイナはきっと見つかる。もしこのまま行方が分からないなら、世界中しらみ潰しに探せばいいだけだ。
はぁ。疲れた……
サンドピークから急ピッチで帰ってきたので体はクタクタだった。
レイナのベッドに倒れこむと、枕からふわっと微かにレイナの香りが漂ってくる。その甘い匂いに、切なさが込み上げる。
やばいな……
残り香を嗅いでるなんてレイナに知られたら、引かれちまうだろうな。そう思いながらもレイナのいない寂しさに耐えられず、レイナの枕に顔を埋めた。
好きな女の枕を嗅ぐなんて、今までの俺からは考えられないことだな。俺って変態だったのか? いやいや枕の匂いなんて、皆嗅いでるだろ……
どれくらいそうしていただろうか。その室内に何かの気配を感じて頭を上げた。
なんだ、これは?
自分が見ているものが、夢なのか現実なのかすら分からない。
人と言うべきなのか、物体と言うべきなのか……
なんとも言えないそれは、ぼやっと微かに光輝いて俺の目の前に存在している。
一体なんなんだ。
怪しみながらもなぜか不思議な魅力を感じ、引き寄せられるようにしてその微かな光に近づいた。
「うっ!!」
突然キーンと不快な耳鳴りがして思わず顔をしかめた。
「……レイナは……ガードランド……いる……」
その耳鳴りに混じり小さな声が聞こえた気がした。慌てて辺りを見回すが人の姿は見えない。
耳鳴りは激しさを増していく。鋭い音に頭が割れそうだ。
「助けておくれ……ガードランド……道……君の祖父……」
プツン
まるで何かのスイッチを切ったかのように、いきなり耳鳴りは消えた。同時に微かに聞こえていた声も消えてしまっていた。
「おい。続きは何だよ?」
俺の叫びに返事はなかった。部屋はしんとしたまま、人の気配もない。
「くそっ!!」
レイナはガードランドにいる?
今聞こえた耳鳴りも声も、本物かどうかなんて分からない。もしかしたら手がかりが欲しいと思うあまり、俺自信が作り出した幻、もしくは夢だったのかもしれない。
それでもいい。ダメで元々だ。とにかく今すぐガードランドに出発だ。って、ガードランドはどこにあるんだよ!!
「くそっ」
こんな事になるなら、ガードランドの場所をもっと本気で調べておけばよかった。レイナが城の蔵書でガードランドについて調べているのを知っていたのに。全く協力してやらなかった事が悔やまれる。
耳鳴りは何て言った? そう耳鳴りはたしか……




