【エイデン視点】本編58から60話①
レイナがクリスティーナを刺した。
そんな信じられない報せが届いたのはもう1時間も前のことだ。拘束、連行されてしまったレイナには未だに会わせてもらえない。
「……申し訳ありませんでした。私がついていたのに……」
涙を流して謝り続けるビビアンの背中をジョアンナが優しく撫でた。
「ビビアンは何も悪くないわ。でも失礼しちゃうわよね。これじゃ私達まで疑われてるみたいじゃない」
俺と共に見張り付きの部屋に入れられ、半ば軟禁状態なことにジョアンナは腹を立てている。
「仕方ないだろ。シャーナにとっちゃ、俺達は一番の邪魔者だろうからな」
ビビアンから話を聞いた時は驚いた。まさか母がレイナを陥れるためにクリスティーナを殺そうとするなんて!! 母に嫌われていると思ってはいたが、ここまでとは思ってもみなかった。
「それじゃあ、あんたはこのままレイナが犯人にされてもいいの?」
「いいわけないだろ!!」
険悪な雰囲気の俺とジョアンナを、ビビアンが心配そうな顔で見つめている。イライラしても無駄だと分かってはいるが、何もできない事が腹立たしい。
「それにしてもシャーナはなんでフレイムジールとサンドピークを争わせたいんだ?」
「そんなの決まってるわ。シャーナはフレイムジールを滅ぼしたいのよ」
「はあ? フレイムジールを滅ぼしたいって、何だそりゃ?」
そんなバカげた理由があるかと笑う俺に、ジョアンナは複雑な表情を浮かべた。
「仕方ないのよ。シャーナはお兄様を愛しすぎていたから……」
「それはどういう……」
ジョアンナの言葉の意味を確認したかったが、扉をノックする音に口をつぐんだ。誰が来たのか……部屋に緊張がはしる。
「少しよろしいですか?」
顔をのぞかせたのは、アストラスタ王とレイクスター国王だった。
「ええ。もちろんですよ」
一体どうしたというんだ? 特に親しいわけでもない二人の王が、この状況で俺に会いに来る理由はなんだ?
はじめに口を開いたのはアストラスタ王だった。
「……レイナ様のことご心配でしょう。私も情報を集めてはいるのですが、なかなかはっきりしたことが分からなくて……」
アストラスタ王の表情は、本当にレイナのことを案じているように見える。
そう言えば、アストラスタの姫とレイナは仲が良かったな。それでわざわざ気にかけてやって来てくれたのか。アストラスタ王の気遣いが非常にありがたい。
次に口を開いたのは、レイクスター国王だ。
「エイデン王は、今回の件に関してどう思っておられますか?」
「どうとは?」
「本当にレイナ様がクリスティーナ様を刺したとお思いですか?」
これは正直に答えてよいものだろうか?
レイクスター国王の質問の意図が分からない以上、本心を語るのは危険かもしれない。それでもレイナがクリスティーナを刺したなんてバカげたこと、俺には否定以外できない。
「レイナがクリスティーナ姫を殺そうとするはずありません」
「そうですか……それではレイナ様は、どなたかに嵌められたんですね?
「それは……」
ビビアンの話からしてシャーナの企みであることは明らかだったが、それをここで話してしまうのは抵抗がある。今はまだ、誰がシャーナと繋がっているかなんて事は分からないのだ。
「言えませんか……」
レイクスター国王はそれも仕方ないという顔をした。
「それでは私の話を聞いてください。アストラスタ王の耳にも入っているかもしれませんが、昨年我が娘ジャスミンが、エイデン王やレイナ様に大変ご迷惑をおかけした事がありました」
そう言えば……ジャスミンとエリザベスが組んで、レイナを殺そうとしたと聞いた気がする。その時に俺が刺されたんだったか? なんせ記憶がないものだからいまいちピンとこない。
「言い訳に聞こえるかもしれませんが、娘がそのようなことをしでかしたのはある人物に唆されたからなのです」
「一体誰に唆されたと言うんです?」
まさかな……さすがに母なわけはないよな……
俺の質問に一瞬言いにくそうな顔をしたレイクスター国王だったが、意を決したかのようにはっきりとその名を告げた。
「サンドピーク王妃のシャーナ様です。ジャスミンはシャーナ様に唆されたのです」
「まさかっ!? シャーナ様はエイデン様の母君ではありませんか?」
もしかしたらという思いがゼロではなかった俺とは違い、アストラスタ王にとって、シャーナの名前が出た事は驚愕だったようだ。
ふぅっと一つ息をつく。
レイクスター国王が嘘を言っているようには思えない。本気でシャーナがジャスミンを唆したと思っているのだろう。国王の瞳からは怒りが滲み出ていた。
となると、こちらの事情を話してみるのもありかもしれない。
「私もですよ。私もレイナは母、シャーナに嵌められたと思っています」
アストラスタ王が驚いて目を見開き、レイクスター国王が息を飲むのがわかった。
「実は……」
ビビアンから聞いて今分かっている情報を二人に伝えた。
「なんと……あの美しいシャーナ様がその様な恐ろしいことをするなんて、到底信じられませんね」
そうだろう。この話を聞いた者の多くはアストラスタ王のような反応を示すだろう。これが母の厄介なところなのだ。
だいぶ年はとったものの、それでもやはり人を惹きつける美貌は未だ健在だ。虫も殺さぬ優しげな眼差しと、おとなしく出しゃばらない態度は人に好感と安心感を与えている。
そのシャーナがレイナを陥れるためにクリスティーナを傷つけたなど、夫であるエメリッヒ国王が信じるはずがない。そしてそれは事情を知らない全ての人にも当てはまるはずだ。
「相手がシャーナ様ではレイナ様を救うのはなかなか難しそうですね。我々が何を言ってもエメリッヒ国王やサンドピークの家臣達はシャーナ様の方を信じるでしょうから」
アストラスタ王はシャーナが黒幕である事についてはまだ半信半疑のようだが、レイナが犯人でない事は信じてくれたようだ。
「やはりクリスティーナ様本人が回復されて、直接話をしていただくしかないようですね」
レイクスター国王がそう言ってため息をついた。
「無事に回復されるといいのですが……クリスティーナ様にもしものことがあれば、ジャスミンがどうなるか……」
クリスティーナが事の次第を説明できるほど回復するのはいつのことだろうか? そもそもシャーナはクリスティーナの回復を許すのだろうか? 話ができるようになる前に消されてしまうんじゃないだろうか。
重苦しい雰囲気を壊したのは、それまで静かに口を閉ざしていたジョアンナだった。
「私にいい考えがあるわよ」
「いい考えだって?」
「それはどんなことですか?」
尋ねる俺達に意味深な視線を向けながらジョアンナが言った。
「それはねぇ……うふふっ。秘密よ」
はぁ? 何言ってんだ、こんな時に!!
「秘密って言うよりは、話すと長くなるから面倒なの。とりあえず、この部屋から出られるよう協力してもらえるかしら?」
協力を求められたアストラスタ王とレイクスター国王は顔を見合わせて困惑している。
そりゃそうだ。ジョアンナには何をしでかすか分からない危うさがある。しかしこんな時に悪ふざけをするような人物でないことは確かだ。
「ジョアンナが何をするつもりかは分かりませんが、お二人に協力をお願いしたい」
レイナが助かるためなら……そう思い二人の王に頭を下げた。
「私達にできることならなんでもいたしますよ」
「ではジョアンナ様には私付きのメイドのふりをしてこの部屋を出ていただきましょう。服を着替えて顔を隠せば見張りも誤魔化せるでしょう」
二人の王の言葉にすぐさま用意にとりかかった。
そんなバタバタしている間のことだった。レイナが牢から消えてしまったという報告が届いたのは……




