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思い出しちゃダメ!? 溺愛してくる俺様王の事がどうしても思い出せません  作者: 紅花うさぎ


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60.マルコの昔話

 春の気持ちの良い風が私とマルコの間を吹き抜けていく。


 私が産まれてから、ガードランドが滅びるまでの物語……聞きたいようで、聞くのが怖い。


「私が産まれた時の事を知ってるの?」


「あぁ。よく覚えてるよ。あの日はひどい雨だった」


 マルコが私を見てクスっと笑った。


「産まれた日だけじゃない。レイナがまだ赤ん坊だった頃は、レイナが泣くと必ず雨が降ってたんだ」


「何それ? 私ってばそんなに雨女だったの?」


「いや……それはお前が……人間と龍族の間に産まれた子だからだろう」


 ん?


「レイナ、お前の父親は龍族だ。お前はガードランド王女と龍族の長との間に産まれた禁忌の子なんだよ」


「マルコってば変な事言わないで。私の父親は龍族なんかじゃ……」


 あれ? 私の父親ってどんな人だったっけ?

 記憶の中にあるはずの父の姿がまるで思い出せない。ただ禁忌の子というマルコの言葉が重苦しく心にのしかかる。


 龍族の血が入った私には産まれた時から天候を操る力があったらしい。私の力をめぐって争いが起こってはいけない。心配した祖父と母によって、私は他国の者には知られぬようひっそりとガードランドで暮らしていたようだ。

 

「お前は一生この国で、俺と一緒に生きる予定だったんだ」


 マルコが愛おしむように私の髪に触れた。


 だから私を嫌ってるの? 一緒に生きるどころか、私がマルコの事を全く覚えていないから?


「ねぇマルコ……じゃなくて、マルクスはどうしてお祖父様がガードランドを滅ぼしたのか理由を知ってるの?」


 ガードランドが滅んだのは、私が6歳でマルコは10歳の時だって言ってたっけ? 10歳で大人の事情全てを把握しきれているとは思えないけど……

 

「……多分俺の親父のせいだ。親父はレイナの力に異様に執着してたから……」


 マルコは言いにくそうに言葉をとめた。その顔はとても辛そうだ。


「親父が何をしたのか俺は知らない。ただ俺が知っているのは、怒った龍族によってガードランドの人間は全滅させられそうだったことだけだ」


 全滅って、皆殺しになるところだったってことよね。うわぁ、恐ろしい……


「結局お前の父親と俺達の祖父のアルバートが話し合って何とか全滅は免れたが、二度と人間と龍族が関わる事のないようにと竜の門が壊されたんだ」


 私の父は二度と母と会わない約束をして、自ら天に閉じ込もった。


 祖父はガードランドの民と私と母の命を助ける代わりに竜の門を自ら壊し、ガードランドを滅ぼした。


 マルコの父は騒動を起こした罪で龍族に連れて行かれてしまい、母は行方不明らしい。


 淡々と語るマルコの口調に切なさを覚える。


「それで残ったガードランドの民衆は記憶を消されてしまったの?」


「記憶を消したというよりは、ほんの少し改竄したんだ」


 皆作られた記憶と共に新たな生活を始めたらしい。けれど龍族の力を使っても、残る世界中の人の記憶を一度に消すのは無理だったようだ。残ってしまった記憶のせいで、ガードランドは伝説の存在になってしまった。


 それで私にもガードランドの記憶がなかったのね。あれ? でもちょっと待って!! 


「マルクスにはどうしてガードランドの記憶があるの?」


 さっきガードランドの民は記憶を変えられ普通に生活していると言ってたのに、なぜマルコはガードランドの事を覚えているんだろう?


「俺だけは記憶が残されたままだったからな。きっと記憶を持ったまま生きることが俺への罰だったんだろう」


 本当は騒ぎを起こした両親と一緒に捕まるはずだったマルクスは、まだ子供だということで許されたらしい。


 マルコは今までどうやって生きて来たんだろう。10歳の子が一人で背負うにはあまりに辛い罰だ。マルコの親が起こした問題であってマルコのせいじゃないのに。


「ごめんね。私なんにも知らなくて……一人で寂しかったわよね」


 私も結構苦労したと思うけど、私には母がいた。小さなマルコが一人ぼっちで寂しい思いをしていることを考えると胸が苦しくなってくる。


「マルクスが私を嫌いなのも当然ね」


 涙が頬を伝う。マルコのツラい生活の元凶は私なんだから、憎まれたって文句は言えない。


 マルコの手がそっと私の涙を拭った。


「あの日レイナが森から飛び出してきた時には驚いたな。あの小さかった姫が、こんなに大きくなってたんだから」


「なんですぐ言ってくれなかったの?」


 言ってくれれば、もっと色んな話ができたのに……


「言えるわけないだろ。お前に悲しい思いさせたくないからな」


 何それ……涙がポロポロと溢れてくる。


「私を嫌いなんじゃなかったの?」


「あぁ、憎んでるよ」


 そう答えたマルコの瞳は、とても優しく、とても悲しそうに見えた。


 私の事を憎んでるなら、なおさら本当の話をして悲しませればよかったじゃない。


 まるで安心させるかのように私の頭を撫でるマルコの大きな手はとても優しい。


「……お前が全部忘れて幸せになれるんなら、別にそれでもいいと思ってたんだ。レオ様に仕えながら、密かにお前を見守り続けるつもりだった……だけど……」


 マルコが悲しみを帯びた瞳で私を見つめた。


「でもお前がエイデン王に向かって微笑むたびに俺の心は壊れていった……本当ならお前の隣にいるのは俺だったはずなのに……」


 マルコの静かな叫びが胸に突き刺さる。


「ごめんなさい」


 謝ってもマルコの気持ちが晴れるとは思わないけど、もう他の言葉が出てこない。


「……大きくなったら君は僕のお嫁さんになるんだよ……」


 それってさっきの夢の……

 マルクスの小さな呟きが、さっき見た夢を思い出させる。


「小さい頃の他愛ない約束だけどな、俺にとっては生きる支えだったんだ」


 辛く寂しい毎日の中で、キラキラ光る宝物のような思い出だとマルコは微かに笑った。


 不意にマルコがぐいっと私を引き寄せた。その大きな胸の中にぎゅっと押し込められる。


「レイナが俺を思い出すことはないと分かっていても、その絶望に耐えるにはお前を憎むことしかできなかった」


 マルコの絞り出すような言葉に、私は何も言えない。


「レイナを見つめていたいのに、レイナの側にいればいるほど、お前が憎くなっていく……」


 マルコの悲しみと寂しさを少しでも癒してあげることができたら……


 マルコの背中に腕をまわし、マルコを抱きしめ返した。


「レイナ……私の可愛い龍のお姫様……」


 マルコが愛おしそうに私の名前を呼んだ。

 きっとマルコの中では、私はまだ小さな子供のままなんだろう。マルコが求めているのは、小さい頃に失ってしまった幸せな日々の続きなのかもしれない。


「ごめんね……」


 マルコがこんなにも深い悲しみの中にいると分かっても、やっぱり私はエイデンを愛してる。マルコが望むようには生きてあげられない。


「マルクス、ごめんなさい」


「分かってるさ。でも……」


 再び謝った私を抱くマルコの腕に力が入った。


「俺はもう、お前を憎むことに疲れちまったんだ……」


 耳元でマルコの掠れた声が弱々しく響いた。


「マルクス……フレイムジールに帰ろう。帰って一緒に幸せになりましょうよ」


 私はマルコと結婚する事はできないけど、マルコを幸せにしてあげることはできる。もう絶対にマルコを一人になんてしないんだから。


「俺は……」

 

 マルクスが何かを言いかけた時、大きな破裂音と爆風が私達を襲った。


「レイナ!! 無事か?」


 この声……もしかしてエイデン!?


 聞き覚えのある重低音で色気のある声に、夢中でマルコの腕の中から抜け出した。


「エイデン!!」


 って、なんでそんな所から現れたの?

 見ると、竜の門のどデカい破片が粉々に砕け、その中からエイデンやレオナルド達が現れていた。


「マルコ、よかった。無事だったんだね」

 

 レオナルドはマルコを見てほっとしたように笑っている。


「おい、マルコ!! 一体どういうつもり……」


「!!」


 砕けた岩を踏みつけながら私の方へエイデンが足を進めるのを見た途端、マルコが私を引き寄せ唇を重ねた。


「んんっ」


 何? 何かが口の中に入ってきた!!


 マルコの口から私の口の中へとドロリとした何かが流れこんでくる。飲み込みたくないのに、がっちりと身体を抱きしめられたまま唇まで塞がれてしまっては逃げようがない。苦い液体は喉の奥へと落ちていった。


「お前……俺のレイナに何しやがる!!」


 エイデンが私を抱きしめたままのマルコを投げ飛ばすと、怒りと心配の入り混じった顔で私の顔を覗きこんだ。


「レイナ、大丈夫か?」


 大丈夫じゃないかも……

 喉が灼けるように熱くて声が出ない。息を吸うのも苦しくて、はぁはぁと呼吸が早くなってくる。


「おい、レイナ? マルコお前、レイナに一体何したんだ?」

 

 マルコに詰め寄るエイデンの姿が霞んでいく。


 エイデン……


 名前を呼びたいのに……立っていられなくて膝をつき、エイデンに向かって手を伸ばした。


「レイナ、大丈夫。絶対大丈夫だからな」


 エイデンが必死に私の手を握り返してくれる。涙で霞んだ視線の先で、マルクスが私を見て微笑んだ気がした。


「マルコー!!」


 レオナルドの叫び声が聞こえる。様子を見たくても、もう目が見えない。真っ暗な闇の中に落ちていく。でも何故だか怖くも苦しくもなかった。


「一緒にいこう……私の可愛い龍のお姫様……」


 エイデンの私を呼ぶ声に混じって、マルコの声が聞こえた気がした。

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