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思い出しちゃダメ!? 溺愛してくる俺様王の事がどうしても思い出せません  作者: 紅花うさぎ


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48.分かるだろ?

「エ、エイデン!?」


 バタバタと廊下を走り、息を切らせながら飛び込んだ執務室の中を見て思わず固まってしまった。


「エイデン、寝てなくて大丈夫なの? 体は? 傷は大丈夫なの?」

 

「そんなものとっくに治っている」


 よかったぁ。

 

 ほっとしてヘナヘナとその場にへたり込んだ私を見て、エイデンはバカにしたように鼻で笑った。


「じゃああの手紙は何だったの?」


「お前を呼び戻すための嘘に決まってるだろう。本当に俺の具合が悪かったら知らせるわけがない。わざわざ他国に俺の弱みを握らせる必要はないからな」


「ひどい……」


 心配で心配で、胸が張り裂けるかと思うほど心配したのに。慌てて帰って来た私が馬鹿みたいじゃない。


「元はといえばお前が勝手にノースローザンヌなんかに行くから、こんな面倒なことになったんだろ」


「だからって病気だなんて嘘をつくのはひどいわ」

 

「すぐに帰れと手紙を出したのに、すぐ帰って来なかったお前が悪い」


 ダメだ……

 何を言ってもエイデンには伝わらない。きっと私が心配していたことなんて、まるで興味がないのよね。


「……馬車で疲れたから、少し部屋で休むわね」


「おい、レイナ……」

 

 私を呼び止めるエイデンの声を無視して逃げるように執務室を後にした。


「なんで……」


 私が心配した事を分かってもらえない悔しさと、エイデンが無事でよかったという安堵からか、瞳には涙が浮かんでいた。


 寝室に入りベッドに横になる。ここを留守にしたのは少しの間だったのに、この空間を妙に懐かしく感じる。


 静かだわ……

 やっぱりビビアンとミアがいないと寂しい。


 速脚の馬車で戻ったせいで体はとてもしんどい。もう何も考えたくないと瞳を閉じるとすぐに深い眠りに落ちた。





 ん? もう朝?


 微かに眩しさを感じて重たい目を開けると、いつの間にか部屋の中はカーテンの隙間から差し込む陽の光で明るくなっていた。


 えっ!? な、なんでエイデンが一緒に寝てるの?


 私の隣で気持ちよさそうな寝息をたてているエイデンを見て、一瞬で目が覚めた。


「んあ、なんだ?」


 私が飛び起きた振動で目を覚ましたのだろう。気だるそうな声を出したエイデンと目があった。


「うおっ!! な、なんでお前がいるんだ?」


「何でって、これは私のベッドなんですけど……何で私達一緒に寝てるの?」


 昨日寝る時は間違いなく私一人だったはずよ。


「一緒に寝てるって……」


 そう言った途端、茹でタコのように真っ赤になったエイデンの顔を見て、私まで体が熱くなった。


「べ、別にお前と一緒に寝てたわけじゃないぞ。寒かったから暖をとろうと思っただけで……」


 いやいや、思いっきり眠ってましたけど。だいたい人のベッドで暖をとらなくても、いくらでも暖房器具があるじゃない。


 エイデンは恥ずかしいのか、私の方を見ようともしない。


「何笑ってんだよ!!」

「別に笑ってなんか……」


 何だかエイデンが拗ねた子供のようで、思わず口元が緩んでしまう。


「だいたいお前が悪いんだからな」


 寝起きの少し乱れた髪を片手でかきあげるエイデンの仕草がセクシーすぎて、ドキドキしながらも目が離せない。


「一緒に飯にしようと思って呼びに来てやったのに寝てやがる。起きるのを待ってたら、俺まで寝ちまったんじゃねーか」


「それなら起こしてくれれば良かったのに」


 昨日夕飯を食べてないから、もうお腹はぺこぺこよ。


「お前なぁ、あんな可愛い寝顔を見せられて起こせるわけないだろ」


「えっ?」


 私が驚いた瞬間、エイデンがしまったという顔をした。


 今、エイデンってば私の事可愛いって言ったわよね?

 

 寝顔を見られていたのも、可愛いいと言ってもらえたのも同じくらいに照れ臭い。


「まぁ、あの、別に深い意味は……いや、だから……」


「レイナ、起きてますか?」


 エイデンのしどろもどろの言葉が終わる前に寝室の扉が開き、レオナルドが顔を覗かせた。


「話声がすると思ったら、エイデンが来てたんですね」


 ベッドの中で二人して真っ赤になっている私達を見て、レオナルドは嬉しそうにうんうんと頷いた。


「ビビアン達がいませんから不便ではないかと思って来てみたんですが、エイデンがいるなら大丈夫ですね」


「お、おい、レオナルド!!」


「昨日二人がケンカしたって聞いてましたけど、いやぁ、本当に良かったですねぇ」


「おい!!」


「あっ、朝食は寝室に運ぶよう言っておきますから、どうぞ二人きりでごゆっくり」


「おいレオナルド、聞けって!!」


 喜んでいるレオナルドに、エイデンの呼びかけは全く聞こえないようだ。最後までご機嫌でウィンクまでして去って行った。


「だから聞けって……」

 エイデンの嘆きのような呟きが、静かになった部屋に響いた。



 




     ☆      ☆      ☆






「くしゅん」


 肌に当たる冷たい風で、鼻と耳がとても冷たい。


「寒いか?」


 耳元で響く低音の声に心臓がきゅっとなる。お腹にまわされたエイデンの腕に微かに力が入った気がして体が固まってしまう。


「だ、大丈夫よ」


 だって背中にぴったりくっついたエイデンの広い胸が気になって気になって……体はのぼせそうに熱いんだもん。


「ところでエイデン? 一体どこに向かっているの?」

「この先にある湖だ」


 エイデンが出かけると言い出したのは昼食が済んだ頃だった。あまりに突然で、準備も整わないうちに城の外に連れ出される。


「急にどうしたの?」

「もう耐えきれん。どいつもこいつも、誤解してニヤニヤしてやがって」


 エイデンが吐き捨てるように言った。


「挙句に料理長がお祝いのケーキを用意するとか言い出しやがった」


「そう言えばお祝いにケーキを用意するから、どんなケーキが食べたいかって聞かれたわ。何のお祝いなの?」


「お前なぁ……」


 分かってなかったのかと、エイデンがあきれたように小さくため意をついた。


「私が無事にフレイムジールに帰ったお祝いかな〜なんて思ってたんだけど……」


 エイデンの様子からして私の考えはハズレみたいね。


「もしかして……私の誕生日とか?」


 うーん。これもちがうのか……

 私は自分に都合のよいお祝いばかり考えてたみたいね。


「で、結局なんのお祝いなの?」


「……帰ったら自分で聞いてみろ。それよりもうすぐ着くぞ」


 エイデンが馬をとめたのは、黒い石がたくさん落ちている岩山の手前だった。


 何でこんな寂しいところで崖登りをしてるんだろう?


 カラカラと崩れていく石に足をとられそうになりながら、前を行くエイデンに必死でついていく。一足先に頂上に到着したエイデンの差し出した手をつかみ、ひっぱりあげられるようにして山頂に足をつけた。


「やっと着い……うわぁ」


 目の前には今までの寂しい光景からは想像できないほど美しい湖が広がっていた。冬だというのに湖のほとりは小さな赤紫の花が満開だ。


「不思議ね。あんなに寒かったのが嘘みたい」


 崖の下は痺れるほど冷たかった風が、何故だか今は心地よい暖かさだ。


「湖から熱が出てるからな」


 エイデンが指を向けた先では、湖がコポコポと沸きだっている。


「湖の真ん中は熱湯だが、端の方は温くなってるから触ってみろ」


「本当だ。あったかぁぁい」


 岸辺に座り込み湖に足を浸す。少し熱めの湯が足元から体を温めていく。うーん。最高!!


「気に入ったか?」


 私の隣に座り、同じように足を湖に浸しながらエイデンが私の顔を見た。


「ええ。連れて来てくれてありがとう」


 エイデンが微かに嬉しそうな顔をした。


「……悪かったな……その……嘘ついて……」


 エイデンはきっと、あの嘘の手紙の事を謝っているんだろう。あんまりにも小さい声だから聞き逃す所だった。


「本当に心配したんだからね」

 

「悪かった……でも帰って来いって言ったのに、お前が帰って来ないのが悪いんだろ」


 謝ってるのかと思ったのに、また私のせいにするの? せっかく二人で遠出しているのにケンカなんてしてたらもったいないじゃない。


「……嘘なんてつかなくても、アダムのお兄さんの結婚式が終われば帰って来たのに」


「自分の婚約者が他の男の恋人になってる状況を許せるわけないだろう」


 エイデンってば何でそんなに腹立たしそうな声出してるの? 恋人っていってもただのフリだし。それに……

 

「エイデンは私との婚約は解消するって言ったじゃない!!」


「それは……」


 エイデンが真面目な顔で私の顔を見つめた。長い腕が伸び、私の肩を引き寄せる。エイデンの形のよい唇が私の唇に優しく触れた。


「分かるだろ?」


 分かんない。全く分かんないよ。

 だけど、どうしよう……エイデンの囁き声が色っぽくてゾクゾクしちゃう。緊張して顔があげられない。


「わ、分かんない」


 かろうじて絞り出した小さな声は、エイデンの唇に吸い取られた。


「じゃあ分からせてやるよ」


 エイデンの腕が私の体を包み込む。繰り返される熱い口付けに目眩がする。優しく噛むようなエイデンのキスが、私の心も身体も溶かしていく。


 エイデン……


 私を抱きしめるエイデンの腕の中で、私は確かにエイデン深い愛情を感じた。

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