47.突然の訪問者
アダムの兄であるデイビッドの結婚式まであと数日となった日、ビビアンとミア、そしてアダムは私のドレス選びで賑やかだった。
「やっぱりここは大胆に、背中ががっつりあいたドレスでセクシーさを演出するっていうのはどうだい?」
はぁ? アダムってば私に何を着せるつもり?
「きゃー。素敵ですね」
「セクシーなレイナ様も見てみたいですね」
あ、あれ? ビビアンとミアってば、何でアダムに賛成してるのよ。反対してよ反対!!
何だか前にも増して二人のアダムに寄せる信頼が厚い気がする。おかげで私が着るドレスなのに、私の意見なんて全く反映されずに決まっていく。
でもまぁいっか。ビビアンもミアも楽しそうだし。アダムもアンジェリーナ様の結婚式前で思う事は色々あると思うけど、いつも通り飄々としている。
そんな賑やかながらも穏やかな時間を過ごしている時だった。なんとなく部屋の外が騒がしい気がした瞬間、ノックもなく部屋の扉が勢いよく開かれた。
「あなたがレイナ?」
突然部屋に入ってきた女性が、全く遠慮することなく私をジロジロ観察している。その失礼な態度は彼女の見た目のゴージャスさとマッチしていて、私はただ狼狽えることしかできない。
「ジョアンナ様!?」
「あーら、ビビアンじゃない。久しぶりねぇ」
「ジョアンナ様、一体どうしてここにいらっしゃるんですか?」
ビビアンの問いかけには答えず、女性はズカズカと歩いてアダムの前に立った。
「あなたがアダムかしら?」
不躾な質問に気を悪くする風もなくアダムが頷いた。その顔はどちらかというと、この状況を楽しんでいるようにも見える。
「ふーん……噂通りのいい男ね」
「あなたの様な美しいレディに褒められて光栄ですよ」
えっと……いまいち状況についていけないんだけど……
彼女が誰なのか分からないのは私だけじゃないようだ。アダムが素晴らしく美しい作り笑いを浮かべ、女性に問いかけた。
「美しいお嬢さん、あなたの名前を教えていただけますか?」
「私? 私はジョアンナ。ジョアンナ フレイムジールよ」
「フレイムジール?」
アダムの眉がピクリと動いた。
フレイムジールって……答えを求めるようにビビアンに視線を向けると、ビビアンは静かに頷いた。
「ジョアンナ様はエイデン様の叔母様でいらっしゃいます」
わーお。エイデンの叔母様が現れるなんて想定外!!
「エイデンの叔母様とは存じ上げなくて……私はレイナ……
「くだらない自己紹介なんかいらないわ。でもいい? よく覚えといて!! 次におばさんなんて言ったら引っ叩くからね」
おばさんなんて言ったつもりはないんだけど……
ジョアンナ様って何歳なのかしら? 30歳くらいに見えるけど、おばさんって言葉に反応するってことは、もっと上なのかも。
「レオナルドも人が悪い。こんな綺麗な女性が身内にいるなら教えてくれればいいものを」
「私は王宮を出てのんびり暮らしてるからね」
なんだろ、このやりとり。アダムの引いた椅子に腰掛けながら、ジョアンナはまんざらでもなさそうに笑った。
「それがどうしてノースローザンヌに?」
アダムは私にも座るよう促し、自らもジョアンナの前の椅子に腰掛けた。
「可愛くない甥っ子達に頼まれたから仕方なくよ。全く……父からしばらくあなたを預かって欲しいと言われたから待ってたのに、攫われてノースローザンヌに連れて行かれたなんて有り得ないわよね」
そういえばお祖父様が準備してくれた私の滞在先って、エイデンの叔母さんの所だったっけ。そっかそっか、それはこのジョアンナの所だったのね。
「別に攫ったわけではありませんよ。こっそり行き先を変更してもらっただけです」
悪びれもせずにっこりと笑うアダムを見て、ジョアンナはフンっと鼻で笑った。
「まぁ言いたいことは山程あるけど、私がわざわざここまで来たのは、これをあなた達に渡してほしいと頼まれたからなのよね」
ジョアンナは取り出した二通の手紙のうち一通を私に、もう一通をアダムへと手渡した。アダムが手紙を読み始めたのを見て私も封を開ける。
「えっ!?」
思わず声を上げた私に皆の視線が集まった。
「どうかしたのかい?」
「い、いいえ……」
どうかしたどころじゃないわよ。大問題、大事件よ!! だけどフレイムジールの不利益になる事を他国のアダムには話せないし……
「エイデンの具合が悪いから、すぐ国に帰れとでも書いてあったかい?」
「どうしてそれを……?」
「私への手紙に書いてあったからね」
ジョアンナから受け取った手紙はカイルからだった。内容はエイデンの病を報せるものだ。エリザベスに刺された傷が感染症を起こしてしまったエイデンの熱がさがらないらしい。もしものためにすぐに帰って来てはどうかと書いてある。
もしものためって……そんなに悪いの?
エイデンが死んじゃったらどうしよう……
「アダム様、お願いがあります」
「帰りたいんだろう? 構わないよ」
「いいんですか?」
あんまりにもあっさりオッケーされたもんだから拍子抜けしちゃった。ダメとは言わないまでも、てっきり何かしら言われるかと思ってたから。
「レイナが帰ってしまうのは寂しいけれど、結婚式はジョアンナ様にパートナーになってもらうから大丈夫だよ」
指名されたジョアンナは、特に気にする様子もなくのんびりとお茶を楽しんでいる。でも大丈夫なのかしら?
「えっと……ジョアンナ様、お願いしてもよろしいんですか?」
「大丈夫よ。そのつもりで来たから。あなたはすぐに帰りなさい。でも侍女は置いていってね。私の手伝いをしてもらわないといけないから」
ふふっと意味あり気な笑みを浮かべてジョアンナがアダムを見た。
「女好きで有名なノースローザンヌのアダム王子のエスコートが試せるなんてね。満足させてもらえるといいんだけど」
「今までで一番素敵だったと言わせてみせますよ」
アダムが髪の毛をさらっとかきあげながら答えた。
何なのこの会話……
この調子なら二人で楽しくやってくれるだろうと、私は急いでフレイムジールに帰る準備を始めた。それからはバタバタだ。荷物をまとめ、一時間もしないうちに私は馬車に乗り込んでいた。
「アダム様ありがとうございました」
「気をつけて帰るんだよ」
デイビッドとアンジェリーナの結婚式では、アダムが少しでも明るい気分でいられるようがんばろうと思っていた。それなのに何の役にも立てなくてごめんなさい。
早脚の馬車の激しい揺れに耐えながら、祈るような思いでフレイムジールへ向かう。
エイデン、お願い無事でいて……
こんなことになるなら、嫌われててもいいからエイデンの側にいればよかった。後悔の念に駆られながら窓の外を眺める。勢いよく流れていく景色は、少しずつフレイムジールへ近づいていくことを示していた。




