46.誕生日
「レイナ、お誕生日おめでとう!!」
「おめでとうございます、レイナ様」
誕生日って何歳になってもやっぱり特別で嬉しいものだ。笑顔でお祝いの言葉をくれるビビアンとミアにとびっきりの笑顔を返す。
「20歳の誕生日をノースローザンヌで過ごすことになるなんて、思ってもみなかったわ」
本当に人生は何が起こるか分からない。私には欠けた記憶も多いけど、覚えているだけでも色々な事があった。悲しい事も、嬉しい事も、驚く事も。
トントントンとドアがノックされ、城のメイドが顔をのぞかせる。対応したビビアンから一通の封筒を渡された。
バースデーカードでも入ってるのかしら?
差出人の名前はないけど、もしかしたらエイデンからお祝いのメッセージかも。そんな淡い期待をしながらカードを開く。
「レイナ? 誰からだったの?」
「……エイデンからだったわ」
エイデンからと聞いて、嬉しそうにカードをのぞきこんだミアとビビアンの顔が一瞬で曇った。
「さっさと帰って来い」
綺麗な花柄のカードにはたった一言、エイデンの字でそう書いてあった。
「誕生日だし……お祝いの言葉があるんじゃないかとつい期待しちゃったわ」
「言葉はぶっきらぼうですが、エイデン様はレイナ様に早く帰って欲しいとおっしゃってるわけですから……」
いっけない。また気を遣わせてしまったみたい。気をつけなきゃっと思いつつ、二人がいつも私に優しくしてくれるからつい甘えてばかりになってしまう。
「時間もあるし、返事でも書こうかな。カイルにも今の状況を説明したいし、お祖父様が心配してたら悪いもんね」
お祖父様の娘の城に行くはずがノースローザンヌに来ちゃったんだもん。お祖父様はきっと心配してるわよね。アダムはきちんと連絡をしてくれたみたいだけど、色々と手筈を整えてくれたエイデンの祖父に、私は無事だと自分で書いて知らせたい。
さぁて何て書こうかしら?
お祖父様への手紙はスラスラ書けた。カイルへの報告もまぁ大丈夫。問題はエイデンへの手紙よ。
「エイデン、お元気ですか?」
くしゃっ。
書いたばかり紙を握りつぶした。
ダメだ。書きたい事はたくさんあるのに、書くべき言葉が出て来ない。書いては握りつぶし、また書いては握りつぶして、ゴミ箱は私の書き損じの便箋でいっぱいになってしまった。
「おはよう、レイナ。難しい顔してどうしたんだい?」
机に座って便箋を睨みつけている私に、アダムは持っていた大きな薔薇の花束を差し出した。
「レイナ、誕生日おめでとう」
「わぁ、とっても綺麗。ありがとうございます」
白とピンクの混じった大きな薔薇は、ゴージャスでもあり可愛らしくもあった。嬉しい事に、アダムは私のために大きなケーキまで用意してくれていた。
いちごたっぷりのショートケーキはスポンジがとてもふんわりしていてとても美味しい。コクのある甘い生クリームが、トップだけでなく断面にまでゴロゴロと入っているいちごの酸味とマッチして、もう手が止まらない。
ケーキに夢中の私を見て微笑んでいたアダムがふとゴミ箱に目を向けた。くしゃくしゃになった便箋から、私がエイデンへの手紙を書くのに苦労している事を悟ったのだろう。
「書くことがないなら、私と楽しく過ごしてるって書いてみたらどうだい? エイデン王の事だし、嫉妬して飛んでくるんじゃないかな?」
残念ながら今のエイデンは私に嫉妬なんてしてくれないわ。全く興味がないか、清々したって思われるに決まってる。
「アダム様……私……エイデンの所に帰ってもいいんでしょうか?」
「どういう意味だい?」
「エイデンは婚約解消したいって言ったんですから、このまま姿を消した方がエイデンにとってはいいんじゃないかって思ってて……」
もちろんフレイムジールには帰りたい。もちろん今でもエイデンのことは大好きだし、できるならこれからも一緒にいたい。
でも私が側にいない方がエイデンにとって幸せなら、私はこのままエイデンに会えなくても構わない。もちろんめちゃくちゃ悲しいし、かなり痩せ我慢しなきゃいけないけど。
じっと私の表情を見つめていたアダムが仕方ないなっとでもいうように小さなため息をついた。
「まったく……そんな顔してよく姿を消すなんて言えたね。エイデンの所に帰りたくて仕方ないって書いてあるよ」
「えっ!?」
そんな馬鹿な。
慌てて両手を頬に当てる私を見てアダムはおかしそうに笑った。
「レイナはさ、私とは違ってまだ間に合うんだから、エイデンの所に帰ってもいいんじゃないかな? レイナがもう無理だと思うまで頑張って、それでもダメだったらまた考えればいいんだよ」
優しいアダムの言葉にじんわり目頭が熱くなる。
そうよね。私はまだやり切ったと胸を張って言えるほど頑張ってないわよね。エイデンには好きな人がいるわけじゃないんだから、私にも可能性はまだ残っている。ここで諦めたら、もう頑張ることすらできないアダムに失礼だ。
「アダム様ありがとうございます。何だかやる気が出てきました」
「そりゃよかった。手紙は書けそうかい?」
ううん。エイデンに手紙は書かないわ。だって手紙じゃエイデンが読んでくれたかも、どんな反応したかも分からないじゃない。そのかわり手紙に書きたい事全部、帰ってからエイデンに話すもん。嫌がられるのは怖いけど、たくさん話して私の事をもっともっと知ってもらわなきゃ。
「大丈夫だよ」
アダムがにっこりと微笑んだ。
「もしエイデンとの婚約が元に戻らなかったら、私と結婚すればいいんだから」
「もうアダム様ってば……そんな冗談言って、私が本気にしたらどうするんですか?」
さすがに本気にするほど私はおめでたくはない。
「私は本気だから構わないよ」
えっ!? 本当に本気なの? これも冗談だよね?
穏やかに微笑むアダムの表情からは、本気なのか冗談なのか判断がつかない。
「もしレイナがエイデンに振られたら、傷心につけこんでレイナを落としたいからね。すぐここに来るんだよ」
「は、はい……」
やっぱり最後までアダムの本心は分からなかった。でも失恋で傷ついた心をアダムに慰めてもらうのも悪くないかもしれないなぁ、なんてことを思いながらケーキのお代わりを平らげた。




