【エイデン視点】エイデンの過去
『フレイムジールの王となるのは、最も炎の力の強い者とする』
こんな決まりを作ったのはおそらく昔の王の誰かだろう。この決まりがあったおかげで、俺は生かされていたのかもしれない。
俺とレオナルドが産まれる前、炎の力を持つ者は王である祖父しかいなかった。そこに赤髪の赤子である俺が産まれ、皆は新たな王を期待し喜んだ。
だが俺はの力は皆の期待を遥かに超える桁外れのものだった。もしかしたらレオナルドの分まで俺が奪って生まれてきたのかもしれない。きっと俺以外にも王位を継げる者がいたら、俺は危険人物として処分されていたはずだ。
感情の起伏で力を暴走させてしまう俺は、他人はもちろん母にすら疎まれた。
「側に寄るな。この化け物め」
母から何度も言われるうちに、いつしか自分は化け物だと思うようになっていた。それでも乳母と父の妹である叔母がいたので、諦める事なく生きていたのかもしれない。
俺が10歳になった頃、俺の存在に我慢できなくなった母に封印の森に閉じ込められた。名目上は力をコントロールする術を身につけるためというものだったが、要は面倒な俺を閉じこめておきたかったのだろう。
一人には慣れていた。どうせ城でも一人きりなのだから、森の中でも変わりはしない。森の中に用意された屋敷の中で、ただ息をしているだけのような生活がしばらく続いた。
ある日そんな生活に耐えられなくなって屋敷を抜け出した。フラフラ歩いて、いつの間にか封印の森の端まで来ていた。立ち入り禁止の札をまたぎ外へ出ると、何だか自由になった気がしたものだ。
封印の森は普通の森の中に囲まれている。その森にレイナは住んでいた。
どうしてそうなったのか……気付けばレイナと二人で魚を釣っていた。
レイナは奇妙な子だった。顔を見られたくないのか、茶色のフードを頭からすっぽりと被ったまま決してはずさない。それでも時折フードからのぞく金色のクリクリした瞳が綺麗で印象的でだった。訳ありだなとは思ったが、別に興味はない。他人の身の上など、どうでもいいことだ。
初めての魚釣り、レイナは大量で俺は一匹も釣れなかった。それでも楽しかったという事は覚えている。その魚を調理するために火を起こそうとしているレイナを見て、つい炎の力を使って火をつけてしまった。
しまった。化け物だとバレてしまった。
驚いて金色の目を丸くするレイナの前で、罵られる事を覚悟した。けれどレイナの言葉は俺の想像していたものとはまるで違っていた。
「すごいすごい!! あなたが火をつけてくれたんでしょ? ありがとう」
ありがとう……
今まで生きてきて、誰かにお礼を言われた事なんてあっただろうか?
俺の事を怖がることなく嬉しそうに笑っているレイナの顔が、眩しくてたまらなかった。涙が出るほど嬉しいというのは、きっとああいうのを言うんだろう。
それからは毎日のようにレイナの元に通い続けた。レイナとその母親が受け入れてくれたお陰で心が安定したからだろうか、炎の力はある程度コントロールできるようになっていた。自分が火を点けることでレイナを喜ばせることができる。そのことは俺の自信になった。
レイナと一緒に魚を釣って、焼いて、食べる。それだけのことがとても楽しく幸せだった。もうレイナのいない生活は考えられない。王位も何もいらないから、このままこうしてレイナと笑って生きていたい。幼い俺は本気でそう思っていた。
けれど幸せの終わりは突然やってきた。
その日俺は森の中でレイナが数人の男達に追いかけられているのを目撃した。
「やめろ!!」
男の手がレイナに触れそうな瞬間、俺の叫びに反応して炎が男達をとり囲んだ。
「うおっ!! なんだこれは?」
「とりあえず引けっ」
勢いよく燃えあがる炎に怯んだ男達が走り去っていく。
「レイナ、大丈夫か?」
「エイデン……ありがとう」
駆け寄った俺を見て安心したような顔をするレイナの手を取り、その場を離れようとするが……すでに遅かった。俺が点けた火は燃え広がり、俺とレイナは火に囲まれていた。
炎の力があれば火を起こすだけでなく、火を消すこともできる。火が消えるよう祈りながら力を使う。
「どうして消えないんだ?」
焦りからなのか、まだ自分に炎を抑え込む力がないのか……炎は弱まるどころか勢いを増していく。
どうしよう? どうしたらいい? レイナを助けたかったのに、逆にレイナを危険な目に合わせてしまっている。
「すまない、俺が化け物だから悪いんだ……俺のせいでレイナまでこんな目に」
悔しさで涙が滲む。
「エイデン、泣かないで」
レイナの小さな手が俺の涙に触れた。
「レ、レイナ?」
突然フードを外したレイナを見て目が釘付けになる。
「エイデンが化け物なら、私も化け物だわ」
レイナが両手を広げ、空を仰いだ。途端に黒い雲が空を覆い尽くし、空から大粒の雨が降ってきた。勢いよく降り出した雨は炎を消し去り、俺達は無事だった。
その時に俺はレイナが何者で、なぜ隠れて暮らしているのか理解した。
ガードランドには禁忌とされる龍族と人との間に生まれた子がいる。ただの都市伝説だと思っていたが、本当の話だったのだ。
力を使ったレイナは眠りに落ちた。レイナの母親が言うには、龍族の力は体が人間であるレイナには強すぎてしまうらしい。レイナを目覚めさせるため、そして普通の生活を送らせてやるため、俺はレイナの母親から教えられた方法で、炎の力をレイナの中に注ぎ込んだ。
力を吹きこむなんて、今までに経験のないことだ。うまくできるか不安に思いながらも、レイナが助かるよう祈りをこめながら慎重に力を吹き込んでいく。
レイナの体に俺の力が入り込み封印ができあがると、レイナの髪は白銀から金茶色へと色をかえた。
「う、ん……」
ムニャムニャと言うレイナを見ながら体から力が抜けていくのを感じた。死んだように眠りについていたレイナの息遣いを感じられることだけでも嬉しかった。
「よかった。これでレイナと一緒にいられるよな?」
レイナの母親は少し困った顔をしていた。
「今はまだ無理かな」
「どうしてだ?」
髪の色も変わり、龍族の力も使えなくしたんだ。もう追われる心配はないじゃないか。
「この封印で、レイナはあなたのことも忘れてしまっているのよ」
「そんなのは平気だ。忘れられても、また一緒にいれさえすれば新しい記憶は作れるんだから」
「そうね……でもやっぱり今は無理よ。あなたがレイナを大切に思ってくれていても、あなたの周りの人達はどうかしら? レイナを利用しないと言い切れる?」
返す言葉が見つからなかった。なんせ自分は屋敷に閉じ込められているだけのただの子供なのだから。どうしてもレイナと離れなくてはいけないことが分かり、涙が静かに頬を伝った。
「あなたがこの国の王になった時、まだレイナを思ってくれているなら……その時はレイナを見つけてくれるかしら?」
「ああ。絶対だ。世界のどこにいても絶対に迎えにいくから待っててくれ。今度は絶対に俺がレイナを守るから」
絶対にこの炎の力コントロールして、誰も口を出せないほど強い王になってみせる。レイナ、次に会う時には俺が守ってやるからな。だから一生俺の側にいてくれ……
溢れ出る涙をふき、レイナの金茶色に変わった綺麗な髪を優しく撫でた。
「約束だ……」
いつか再び会える日を夢見ながら、レイナの額に別れのキスをした。




