第1話 悪夢の始まり
第七位階上位
虹色だった城は、少女の消滅と共に灰色に変わった。
ざざっと歪な音が鳴り、世界が明滅する。
《【運命クエスト】『奈落の世界の住人達』が発令されました》
ふと、顔を上げた。
何かを感じた訳ではない。
ただ、強いて言うならそれは予感。または直感。
見上げた先には、灰色の少女がいた。
幻想竜・ジャヴァウォック LV750
その背には竜翼を生やし、竜尾は垂れるがまま、頭部には竜角が髪留めの様に添えられている。
少女は血の様に赤く染まった瞳で、じっと僕を見ていた。
「むむっ」
今度こそ強い気配を感じ取り、辺りを見回す。
そこには、無数の灰色が立ち並んでいた。
悪夢を彷徨う・ル・ベルム LV700
悪夢を彷徨う・キングネイキッド LV700
悪夢を彷徨う・ジャック LV700
悪夢を彷徨う・ハートの王 LV700
悪夢を彷徨う・スペードの王 LV700
悪夢を彷徨う・リヨン LV700
悪夢を彷徨う・スイート・オ・ウィッチ LV700
悪夢を彷徨う・泉の女神 LV700
悪夢を彷徨う・赫夜妃愛 LV700
悪夢を彷徨う・釣竿法師 LV700
悪夢を彷徨う・金剛丸 LV700
コレはダメだ逃げなきゃ。レベル700オーバーが21体も——
「シャッ」
「っ」
牙を剥き、飛び掛かって来たベルベルを避ける。
避けた先で出現した断頭台を屈んで避け、放たれたガラスの弾丸を指で逸らし、僕を包もうとした結界を破壊する。
「ここデス!」
「むむむ」
「ぬんっ!」
地面から突き出して来た光る竹をバックステップで回避し、振り下ろされた巌の如き拳を紙一重で避け、それを蹴って更に離脱を図る。
「ははっ! ようやく君と——」
「ふっ!」
「ここっ!」
回避先を読んでいたらしいスペードの王の兜割を召喚した心器で受け流し、突き込まれたグンハの刀を床に這い蹲る様にして大きく回避。
デコイを残して視界から外れ、そのまま更に逃げようとしたら、今度はダイヤの王が立ち塞がる。
「逃がしませんわっ!」
「っ! はっ!」
「こっちだぉ——いっ!?」
大盾によるシールドバッシュの勢いを利用し、逃げると見せ掛けて接近していたジャックに蹴りをかます。
だがそこは流石に3代目夢想神候補。腕で受けたかと思いきや即座に剣が突き込まれる。
避けて拳を打ち込もうとするも、それを変更。飛び掛かって来ていた金剛丸の大斧を裏拳で押し逸らし、装飾を支点に勢いを貰って、蹴りで釣竿法師の拳を逸らす。
更に、足を絡めて拳の勢いを貰い、シャオロンの槍を回避しつつシャオロンに頭突き。飛来する愛属性の斬撃を受けてその場を脱し、おまけでまめちゃんの刃を拳に貰いつつ殴り飛ばす。
吹っ飛ばされるまま距離を取ろうと思ったが、急遽変更。
地面に心器を突き立て急制動を掛ける事で、飛来していた金と銀の斧を避け、バットを振る様にして振るわれたクラブの王の金棒に乗ってホームラン退避する。
飛来した樹木の槍とお菓子砲を迎撃し、着地。
不自然に皆の攻撃が止んだ。と思った次の瞬間——
「っ!?」
——ジャヴァウォックが目の前にいた。
おかしい、今の今までピクリとも動かなかった筈どうやって移動したいやそれよりも避けなければいや無理ならば迎撃あるのみ練気は間に合う操魔も間に合うでも、ちょっと斬られる。
——カッと虹色の光が瞬いた。
唐突に出現した虹色は、灰の剣を侵食する様にして押し返す。
ここぞとばかりに僕は蹴りを放つも、ジャヴァウォックは斬りかかって来た時と同じ様に、いつのまにか射程の遥か外にいた。
光の源、夢の星珠を握る。
「助かったよ。キッド」
取り敢えずの礼を言いつつ、考える。
じりじりと包囲を縮めて来る皆。
この状況。とにかく数を減らすしかない。
配下を召喚するのも悪い話では無いが、召喚出来るのは敵の数より1人多い22体だが、内3体はクリカ、イェガ、アラビスさんの超大型で、此処では召喚出来ない。
したがってこの状況では19体しか召喚出来ず、ジャヴァウォックは僕がやるとしても2人分程戦力が足らない。
更に言うと敵は基本的に全員格上で、この乱戦の中普通に戦ったら皆犬死だ。
僕がせめて2人やるしか、この状況を打破する方法は無い。
そう、思った次の瞬間だった。
僕と灰色の皆の間に、綺麗な赤や青でラッピングされたプレゼントボックスが出現したのは。
ボックスはポンッと音を立てて開くと、虹色の光を爆発させた。
視界が光に埋め尽くされた、刹那——気付くと僕は誰かに抱えられていた。
僕を抱えた誰かは、プレゼントボックスを周囲へ巻き散らしてあちこちで虹色の爆発を引き起こし、空間を夢属性で満たすと同時に視界を塞ぎながら、一直線に城の外へと飛び出した。
どうやら、懸念していた高さ制限は取っ払われたらしい。
そんな事を思いながら、僕は灰色の空を舞った。





