掌話 浮遊都市の試運転 四
第四位階上位
振り下ろされた炎の戦斧を避ける。
凄まじい風圧に、背筋がゾクリと震えた。
一撃でもまともに喰らったら終わりだ。
そんなちょっとした恐怖を捻じ伏せ、限界突破を発動させた。
一足飛びに頭部へ接近すると、守りの薄い首目掛けて剣を振った。
しかし——
「くそっマジか!」
ミノタウロスが少し首を傾けただけで、その赤い角に剣撃を防がれた。
そうなる可能性を考慮して、出来る限りの闘気を込めたのに、剣は半ばまで斬り込んで止まる。
抜いてる暇はねぇ。掴まれる前に離脱した。
片手で無造作に振るわれた斧を避け、叩き潰さんとする拳を回避する。
「くっそ、何コレ強くねっ!? ほんとにレベル75なのか?」
俺がそんな悲鳴じみた声を上げるのも仕方ないだろう。何せ、このミノタウロスは、全身を防具で守ってる上に、戦闘開始と同時に斧を振るい、炎の小型ミノタウロスを5体も出して来やがったからだ。
アコが3体引き付け、アケミが1体抑え、タダトがその攻略法を探す形で戦闘が展開しているが、ミノタウロスが斧を振るう度に炎が魔物化して増えて行く。
趨勢はリエが参戦する事で現状問題なく回っているが、それも敵の保有魔力量次第だ。
答えを求めるでも無い俺の声に、オーダムが応えた。
「うむ、門番はレベル100ずつだと王が言っていたぞ」
「同格かよ!? いやでもそれ以上に強くねっ!?」
「人は魔物と比べて弱いらしいからな。おそらく人と比較したら150くらいはあるのではないか?」
あぁ、はいはい、なーる。人が弱すぎるって話ね。
道理でレベル70辺りの奴にも少し苦戦する訳だ。
レベルってあんま指標になんねぇのな。
「ただ今回の場合は、数的不利があるのだから、ユウイチ殿が劣勢なのも当然だろう」
「ふーん……」
……数的不利……? 俺よりミノの方が数が多い……?
俺はミノが持つ戦斧を見上げた。
そこには、赤い結晶が埋め込まれていた。
「ってお前かぁーっ!?」
そりゃ苦戦するわ。2対1じゃん。オーダムがレベル100ずつとか言ってたし、レベル100が2体ってこったろ?
じゃあ全然死なない炎のミノは、斧の結晶壊さないとダメって事か。
武器と使い手で別々の生き物ってのは盲点だった。
適切な対処法は、先ず結晶を破壊して援軍を防ぐ。次に全員で親玉ミノをヤる。コレしか無い。
黒霧さんの念話チャンネルを貸して貰い、作戦を通達する。
『——っう訳で、タダトが前線上がり、アコは柔分身で時間稼ぎ、リエとアケミはそれの援護。エミリーは回復最優先だ。行くぞ!』
『『『『『応!』』』』』
種が分かりゃこっちのもんだ。援軍潰せば勝ったも同然! 一気に仕留めっぞ!
◇
「あぁー! 強かったー!」
床に転がり、そんな声を上げる。
誰だよっ、援軍潰せば勝ったも同然とか言った奴! ……俺だよっ!
予備の剣をクランインベントリから取り出し、戦いを再開して間も無く。
どうにかこうにか隙を作り、結晶を破壊した。
その結晶が硬いのなんのって、タダトの剣でも傷が付くぐらいで済む様な硬さだった。
こればっかりはもう、単純なパワー不足って訳で、俺がぶっ叩くしか無い。
都合3回。
タダトに全力でミノを攻撃して貰い、隙を作って全力でぶち込んだ回数だ。
罅が入り、それが広がり、砕け散る。
炎の魔物が立ち消え、よっしゃっ勝ったと思った次の瞬間。ミノが狂った様に暴れ始めた。
オーダム曰く、狂戦士化のスキルを発動させたらしい。
そこからはもう、てんやわんや。
ミノは斬っても斬れないし、斬れても直ぐ回復するし、凄まじいパワーでモロに牛な突進をしてくるもんだから、隊列が意味をなさない地獄絵図。
リエがエミリーを抱えて逃げ回り、アコが分身を撒いて誘導する。
タダトはすれ違い様に斬り付けるも大したダメージにならず、アケミは走り回りながらも魔眼でミノの動きを阻害した。
唯一ギリまともにやりあえる俺は、足を引っ掛けてみたり防具の隙間から剣を差し込んでみたり、はたまた顔を狙ってみたりと色々やったが、殆どダメージを与えられない。
勝負を分けたのは……ミノがオーダムに突っ込んで行った一件だ。
体格が違いすぎると言うのに、オーダムは一蹴りでミノをぶっ飛ばした。
それでもミノは立ち上がったが、一撃でだいぶ持ってかれたらしく、その後暫くしてガス欠になり、弱ったミノを全員で滅多斬りにして勝利した。
今までの迷宮探索の疲れもあってか、皆へたり込んでいる。
「ほんと、強過ぎだよね」
「ここだけ難易度上がり過ぎじゃないっすか?」
「怪我が少なくて良かったです……」
「擦り傷でも大ダメージですし、怪我は無くて本当に良かったですね」
座り込んで話す女子を横目に、俺の横で平然と立っているタダトに問い掛ける。
「……毎度の事だが……平気そうだな」
「そうでもない……楽をさせて貰っているだけさ」
「そりゃどう致しまして」
ふっと爽やかに笑うタダト。
こいつが笑ってる時は本当に全力出し切った時だ。
タダトの技量でも疲労するくらいなんだから、今回の敵は相当だぞ。
なんで急に難易度が上がったんじゃろ?
スタミナ回復に努めつつ、何とは無しに考えていると、コツコツと小気味の良い音を立て、オーダムが近付いて来た。
オーダムは俺の前で屈むと、手を伸ばして来る。
俺はそれを掴み、上体を起こした。
「中々良い戦いだったぞ」
「オーダムこそ、良い蹴りだったぜ」
通り一遍健闘を称え、疲労回復なる魔法を掛けて貰った。
……コレ、なんか良いな。自前で使える様になると戦術の幅が広がるぞ。
後で誰かに教えて貰おう。
体の調子を確認した所で、立ち上がる。
「サンキューオーダム。助かったわ」
「コレくらいは構わん。次の部屋に行って終わりだろう? 休むのなら拠点の方が良い」
「それもそうだな」
もっともだぜ。黒霧さんの話によると戦いはここまでの筈だし、迷宮探索報告書を上げないといけないからな。
「んじゃまぁ皆、さっさと進もうか!」
「「「「応!」」」」
「あぁ、行こう」
女子4名の声が大きいのは、その後に都市観光視察が待ち受けているからだろう。
逆にいつもピシッとしてるタダトがどこかぽやっとしてるのは余韻に浸っているからだ。
まぁ、何はともあれ皆無事で迷宮攻略完了だ。





