第58話 夢見の城
第七位階上位
《【運命クエスト】『闇穿つ七星』をクリアしました》
気付くと、最初に西を見下ろした崖の上にいた。
桃花は残心した後、力を失った様にガクリと態勢を崩す。
バターンと地面に倒れ伏す直前に、念動力で支え、引き寄せた。
「……おやすみ、桃花」
僕の声が聞こえたかは分からないが、ぐったりとする桃花を送還した。
最後の戦いは中々良かった。
僕くらいの者が見ると、グンハが合わせている部分がやや多いのが分かるが、それでも桃花は最初と比べてかなり成長したし、相手に合わせる事も出来る様になった。実に良い連携であった。
「……白羅、どうだった?」
傍らにいる白羅に、桃花はどうだったか問いを掛ける。
すると、白羅は目を瞑り——
「——ユキ殿、私に稽古を付けてくれ」
と、そう言った。
触発されたかな?
「じゃあ……明後日くらいにね」
ちょうどお祭りも終わるし、それくらいが良いだろう。
◇
入手した物は、スキルポイント5P。『勝利の宝珠』『仙桃の苗』『神変奇特盃』。
エクストラ評価は『幼き英雄』『天軍降臨』『無傷の支配者』で、スキルポイント9P。グンハが使っていた小太刀『破天荒解』。
あとは、おまけにヒメが使って変質した刀『赫夜新月』。
各アイテムの能力は、苗が桃の苗。多分美味しい。盃は強化バフが付くらしい酒が湧く盃。
破天荒解は聖剣の一種で、不浄や負の力に強い耐性のある強大な生命力で構成された小太刀。
赫夜新月は……魔力をチャージすると月属性に変換してどんどん光が増す竹の刀。魔力保持容量が凄まじく多いのは、多分ヒメが使ってる内に変質しただけでなく、改造もしていたのかもしれない。
激戦を制したクラディ達を労い休ませ、白羅には後で直ぐ召喚するかもと言い付けてから送還した。
本の中なら回復も早いし、裏面がどれ程かは知らないが、ベルベルの挙動から考えて、主役級達と戦う事になるだろう事は間違いないので、白羅の力は必要になるだろう。
おそらく、不思議の世界のクエストはこれで全部だろう。
隠しクエストでもない限り、目立つ場所には全て行った。
後はラスボスを残すのみ。
早速向かうとしよう。
◇
竹林を抜け、世界が変わった森を抜け、不思議の世界の中心近傍についた。
堀に囲まれた大きな城。
覗き込んだ堀は、底が見えない。真っ暗な堀へ手を伸ばしてみると、直ぐに壁にぶつかった。
やはり、飛んで行く事は出来ない仕様だ。
橋のある関所に入ってみる。
大きな門に触れると、門は自動で開いた。
目の前にあるのは、長い橋。
木と石で出来た無骨な、そしてボロボロの橋だ。
「むむ」
一歩踏み込んだ次の瞬間、また微妙に世界が変わった。
背後の関所が虹色の豪奢な作りに変わり、橋が無骨な物から一転、精緻な細工が施された赤と鉄色の刺々しい橋に変わる。
赤からはベルベルの魔力、鉄色からはジャックの魔力が感じられた。
暫く進むと、ボロボロの橋と赤鉄の橋の境目に来た。
踏み込めば、当然の様に世界が変ずる。
今度は、スートのデザインに赤、青、黄、緑の4色があしらわれたトランプの橋。
さり気なく金と銀の斧が並んでいる。
暫く進んでその次は、青白いガラスで出来た、宮殿の様なデザインの橋。
ガラス製のお菓子っぽい物やリンゴっぽい物、イバラっぽい物も見えるが、ガラスの主張が激しくて目立たない。
そして最後は、緋色の支柱に金色の桃、竹、熊、釣竿、お椀、箱が細工された、ややシンプルな橋。
「……」
無骨で大きな城の前に着いた。
後一歩踏み込めば、おそらく城の領域。ラスボスの領域に入る。
ざっと考察した感じ、橋はクエストを回らずに入った場合、崩れたりする仕様だったのかもしれない。
その場合は不可避の死が待っていたかもしれないので、ちゃんと最後に来て良かったと思っておく。
「……ふー」
気合を入れる。
僕の消耗率は半分程度、まだまだ十分やれる。
配下の子達も、主力の殆どが温存出来ている。
その他、外部の防衛は、黒霧クラスタがやってくれる。
問題は、無い。
「……よしっ」
僕は一歩、踏み込んだ。
◇
世界がキラキラと音を立てて変ずる。
ここから見える世界全てが変わっていく。
空に輝く太陽は、虹色の光を放つ不思議な星に。
空に掛かる雲は、ピンクに水色、黄色とわたあめの様。
黄色い星が虹の尾を引きながら、周囲をくるくると回っていた。
目の前の城は、無骨な城から豪奢な城へ変わり、七色の光を纏っている。
門が開いた。
「……」
招きに従い、中に入る。
赤いカーペットの長い廊下。
左右の壁には色取り取りの砂が入った小瓶がズラリと並んでいる。
赤や青、ピンク、水色、金色だったり茶色だったり、まるで地層の様だ。
空間湾曲により、長い廊下を数十歩で通り抜ける。
最奥にあったのは、広い空間。
そして、虹色の砂が入った巨大な砂時計の様な物。
廊下の小瓶と同じ形の瓶が2つ、口を重ねる様にして置かれ、金の柱で支えられている。
高い城の天井から4本、柱と同じ金色の、尖った何かが伸び、上の瓶の高い位置に添えられていた。
上の瓶の中、ちょうどその尖った何かが交錯する場所で、虹色の砂がさらさらと落ちて来ていた。
ざっと感知した所、どうやらこの城は城そのものが巨大な魔法道具……と言うよりも神器の様な物らしい。
大気中の魔力、神力……いや、信仰かな? それを吸収して砂、夢属性の結晶を生成している様だ。
これはつまり…………ヒメやリヨンから聞いた話から考察するに…………。
「……まさか」
…………夢想神を生み出す為の装置……?
大気中から信仰を回収し、膨大な神気を集積、それで『原典』を生成し、適性のある人に『原典』を渡す。
そうして作った『原典保持者』を争わせ、魂を磨いて大規模な世界改変を起こさせ、それによって変じた固有属性の夢属性神気を集積。
十分な量が集まれば、『原典』を作る要領で『神核』を生成、神足るに十分な成長を遂げた対象を神化させる事が可能。
……神作成装置だコレ。
いや、頑張ればいずれ僕にも同じ事が出来るだろうが……現状の僕の魂魄では星珠を神核に纏める事が出来ないので、あくまでもいずれ、いつか出来るだろうと言うだけ。
増してや、その様なシステムを持つ装置を作るのは……仮に神核を作れるレベルになっても、色々手を尽くさないと難しいだろう。
砂時計の周囲を調べ回り、城の構造を知覚し、考察をする。
ふむふむふむ……これなら、現状のレベルでは同じ性能の物はまず作れないが、範囲も性能も大きく落ちるが似た様な物は作れる。かも。
更なる解析と考察を——
その時、唐突に、頬を誰かにつつかれた。
振り返った先にいたのは、少女。
金髪に碧眼。水色のエプロンドレスに、同色の大きなリボン。
少女は可愛らしく微笑んで、青白い氷の剣を振り上げた。





