第59話 夢の終わり
第七位階上位
避けた。
斬撃が迸り、刃の直線状に濃密な氷属性魔力で構成された氷の膜が張られる。
それは白雪の力をも凌ぐ絶対の氷結概念。
続け様に放たれた蹴りを蹴りで相殺する。
ーーー・ーーー LV700
尖った柄頭で殴り掛かって来たので、払い退け——
——ようとした手を引っ込めて、バックステップで距離を取った。
謎の少女は、柄の直線状に生じた氷を難なく創造力で霧散させる。
……危うく手を凍らされる所だった。
少女はニコニコ笑顔で口を開いた。
「こんばんは、ーーーだよ。よろしくね!」
無垢な少女の様に可愛らしく微笑むが、名前が聞き取れない以上、強大な力を持つ神の一柱だ。
そして多分、名前はアリス——
「——っ!? ……?」
その瞬間、ゾクリと体が震えた。
この感覚には覚えがある。沢山の神権を僕に掻き集めて死にかけた時と同じだ。どうして急に……?
幸いにしてあの時程酷くは無く、痛みも寒気もしてこない。
疑問に思いつつも少女の様子を窺っていると、少女は口元に手をやり、クスクスと笑った。
「ふふふ、おもしろ〜い」
「……何が?」
「ん〜? あはっ……やっぱりおもしろ〜い!」
…………まさか、神の名前は思考するだけでもダメなのか? いやでも…………そうか、本人がいる前だともっとダメなのか。
戦神の名前を呼んだら神気が現れた様に、力を持つ神の名前を呼べばその神の固有属性神気が現れる。
それが神から遠ければ問題ないだろうが、近い時に呼べば、その対処がまだ未熟な僕では、神気に侵されて壊れてしまうかもしれない。
そりゃ笑われて当然だ。神の初歩だ。
僕が気付いた事に気付いたか、少女は一層笑みを深めて——刹那、剣を横なぎに振るった。
軽く飛んで避けた僕は、氷上に着地。
氷結概念の侵食を防ぎながら少女に接近する。
心器を召喚し、大剣に変化させて振りかぶり、少女へと飛び掛かった。
少女は剣を逆袈裟に斬り上げ、僕を両断する。
だが、それはデコイだ。
僕の魔力を分けて動かし、僕自身は隠密で存在隠蔽する事で、こう言う事も出来るのである。ハートの王の攻撃を回避する時にも使ったやつだが……。
……どうやら見抜かれてたっぽい。
振り上げた剣の柄頭が僕の方を向いて——
「っっ!!」
氷結概念が頬を掠める。
侵食する力を防ぎつつ、少女の胴へ心器の剣を振るった。
——カツンと小さな音が鳴る。
いつのまにか、少女は2本目の剣を生成し、少女と剣の間に滑り込ませていたのだ。
しかし、斬撃の余波で少女は弾き飛ばされる。
少女は吹き飛ばされながらも、宙でクルリと回転しつつ、僕へ斬撃を放って来た。
おそらく、氷結概念をばら撒くのが目的だろう。
僕は難なくそれを避け、少女は壁に着地する。
そこで少女は一振り剣を振るった。
僕の左右には氷結概念により生じた氷の壁が立ち塞がる。
決して壊せない事も無いが、侵食を起こす程の超高濃度属性魔力の壁は並大抵では粉砕出来ないのだ。
それをしている間に、少女にやられてしまうのは目に見えている。
唯一突破口があるとすれば、この世界特有の変質しやすい特性を利用し、創造力で氷を変質させる事だが……正直言って、無理である。
既に試してみたが、少女の創造力がそれを妨害していた。不慣れな僕では彼女の意識が外れない限り、創造力による脱出は不可能である。
囚われた僕に対し、少女は壁を蹴り、剣を振りかぶって一直線に接近する。
僕はそれを迎え撃——いや、コレ、デコイ——
——ふわりと消えた少女の偽物。
遠目に見える壁の下。
そこには、剣を振り切った姿勢の、半分しか見えない少女がいた。
見下ろした僕の胴体は、少女と同じく半分しか見えない。
氷結概念によって、上下に両断されたのだ。
少女は更に追撃を行う。
今度は僕の首を狙って剣を振った。
僕はそれを同じ様に剣を振る事で斬撃を防ぐ。ついでに周りの氷を練り上げた仙気で粉砕した。
即座に、くっ付け直した胴体を縛る氷を粉砕しようとするも、少女が急速接近してくるので断念。
練り上げた仙気は、少女の迎撃に回す。
——剣戟。
体の自由が効かないと言うハンデを背負っても、幸いな事に少女の技量は大した事がなく、氷結概念にだけ注意していれば問題なかった。
デコイを真似て来たり、斬撃を防がれて直ぐに近接攻撃に切り替えたりする辺り、戦闘経験は多い。
剣術こそ二流三流だが、脅威としては十二分だ。
繋がった足で氷を粉砕すべく仙気を編んでいて、ふと気付いた。
コレ……氷結概念じゃない……?
氷は間違いなく氷だ。
だが、その根幹に存在する物が氷じゃない。
一体これは……?
いや、今は兎に角状況の打破だ。
このままやられっぱなしだと、流石に不味い。
◇
少女は横なぎに剣を振るった。
僕はそれを倒れ込む様にして回避し、最初よりも高レベルのデコイを生成、少女の元へ飛ばし、僕は停止して隠密に専念する。
すると、少女は今度こそ騙されてくれた様で、下方から来る斬撃を飛んで回避すると、デコイを両断する形で氷を走らせた。
氷上へ着地した少女へ、隠密を維持したまま急速接近。
貯め込んだ仙気を解き放つ。
流石に気付いたか、少女は回避行動に移るが、遅い。
放たれた斬撃は氷を貫き、少女の足を切り飛ばした。
掌底で氷を砕き、追撃を行う。
飛び出して来た僕に、少女は剣を振るうが、問題ない。
回避は無理だが、迎撃するのに十分な仙気は既に練られている。
「はっ!」
僕は気合と共に心器を振るい、少女の斬撃を粉砕。
続けて各種魔眼を発動、更に魔宝典から属性魔法を適当にばら撒き、少女の動きを阻害、僕は氷上に着地すると体勢を整え——構えた。
放つのは迅斬の一撃。
肉体、操魔、スキルを用い放つ、現状最速最大の一突き。否、一投——
——閃光。
放たれた剣は、一直線に少女へ向かう。
義体とは言え流石は神、少女は不安定な姿勢のまま、その一投に剣を合わせ——
——粉砕。
砕け散った氷の剣。
胸に風穴が空いた少女は、氷上へ落下した。
「…………ふー」
一応勝った。筈だ。
少女も最初から短期決戦が狙いだった様で、既にその義体には魔力が殆ど残っていない。
かく言う僕も、全力攻撃の迎撃で残魔力量は心許ない。
警戒しながら、倒れる少女に歩み寄る。
少女は最初から変わらず、ニコニコと微笑んでいた。
「えへ……負けちゃった」
……どうやら勝ったらしい。
そうと分かれば、もう剣を振るう必要は無い。
僕は心器を送還すると、少女の横に膝を着いた。
微笑む少女の手を握る。
「……会えて良かった」
僕は少女に微笑む。
すると、全てを分かっているらしい少女は、嬉しそうに微笑んでくれた。
「んふふ」
「いつかちゃんと名前を呼べる様になるから、その時にまた会いたいな」
「んふ、ふふ、あはは——」
僕の言葉に、少女は和かな微笑みを崩し、急に笑い出して——
「あははははっ! ……まだお別れじゃないよー♪」
——宙に溶ける様に消滅した。
《【運命クエスト】『不思議の世界の住人達』をクリアしました》
刹那、虹色の世界は灰に染まる。
第十三節:第二項、そこで見た夢 ——完





