第34話 崩壊世界
第七位階上位
「もぅ、コユキったら〜。そんな事出来るなら事前に言っといて欲しいわね! それだからあなたはコユキなのよ? そこの所分かってる?」
先程から僕を抱き寄せ胸元を拳でグリグリやって来るのが、ついさっきまで不穏な事をぶつぶつ言っていたリヨン。
絡みが鬱陶しい事この上ないが、神々の中で僕の情報は行き渡っている様で、皆親戚のお兄さんやお姉さんみたいに接してくるので致し方なし。
リヨンのウザ絡みも甘んじて受けよう。
強いて問題点を言うなら、僕を膝に乗せて抱いている白雪が間に入られて凄く苛ついているが……仕方ないのである。
そうこうしてる内に、馬車は目的地に到着した。
そこには、ガラスで出来た兵士、騎士、重騎士が陣を敷いていた。
◇
ガラスの騎士は、その性質柄非常に硬く、物理的に撃破するのは困難だ。
ただし、単純な攻撃力は低く、装備しているガラスの剣も、硬いだけのほぼ鈍器。戦闘技術は精々並から毛が生えた程度。
そして何より……動きが全体的に鈍い。
相対した場合普通に武器を振るって来るが、移動速度が遅く、騎兵もいない為包囲されにくいのだ。
まぁ、即ち……彼等は非常に優秀なサンドバックと言う事である。
とは言え、素のレベルが一番下等の兵士でも300、上位の重騎士で400を越えて来るので、攻撃力が貧弱とは言えレベル200以下の子達には戦わせられない。
戦闘技術が並以下でも、万が一当たれば即死となると訓練にもならないのだ。
では誰を呼ぶのが適切か。それは考えるまでも無く明白である。
ちょうど良く、筋肉達の修行を終えたメンバーがいるからだ。
呼び出したのは、ラース。ルーベル。アッセリア。キース。リオン。付き添い……したそうだから付き添わせるレーベ。紅花。同白夜。それから蟹三兄妹。四熊。六仙。
まぁ、敵の数が数なので、彼等に加え、アッセリア麾下のアンデット50名。鹿達。猪達。ミュリアを除く狼達。元宝石ゴーレムの6名に、ルクス君。ミスティ。そして氷白とルメール、ノゥ、ネィ、ララの、合計おおよそ100名の軍勢である。
目標は、一人一殺。
敵は堅牢だが決して壊せない訳では無いのは僕の打撃で判明している。
仙気を十全に扱えれば勝てる相手だ。
そんな訳で、馬車の中から皆を見守る。
「はぁー、こんな楽で良いのかしら? 良いのよね? だって私は次期夢想神! コユキは私の召使いにしてあげるわ!」
「遠慮しとくね」
「遠慮なんてしなくて良いのよぉ? コユキみたいな器量よしなら着せ替え人形係にして——」
「——遠慮しとくね」
「……ちっ」
舌打ちしよった。
まぁ、それはともかくとして、リヨンの言葉から推測するに……どうやらこの迷宮は、下位の者の進化支援や亜神の神化支援だけではない別の目的もある様だ。
評価がどうのとか3代目がどうのとか言っていたが……夢想神って今のところ二柱しかいないのかな? 一柱はアデュナトンだと分かっているけど……。
「夢想神ってアデュナトンの事だよね? どんな神なの?」
「は?」
何言ってんだコイツと言わんばかりの目で僕を見るリヨン。
僕はそんなに変な事を言ったのだろうか?
リヨンはしばらく悩んだそぶりを見せると、話始めた。
「……あぁ、うーん、そうね……アデュナトンが夢想神って呼ばれている理由は、果ての世界と呼ばれる場所にいるだろうと考えられているからよ」
「果ての世界?」
ルカナは魔界の下の混沌とか言ってたが、それが果ての世界なのだろうか?
「因みに果ての世界と呼んでいるのは今のところ私だけよ!」
「おい」
「お、怒んないでよ! そこはまだ名前が定まって無いのっ、つまり私の考えた名前が採用されれば私の名が更に売れると言う事なのよ! だからコユキも果ての世界って呼びなさい! 良いわね!」
まだ名前が定まって無い? 突然現れた訳でもあるまいに……或いは何か事情があるのだろう。例えば……混沌と呼ばれるくらいだし、全容が把握されていない、とか?
「それじゃあ、別名は何て言うの?」
僕の問いに、リヨンはニコッと笑って答えてくれた。
「そうねー、堕ちし世界とか神眠る地とか色々呼ばれてるけど、暫定的に崩壊世界と呼ばれてるわね」
「ふむ……」
どれも危険な香りがする名前だ。
「崩壊世界に行くとどうなるの?」
「果ての世界は心を壊すとか言ってたわね……なんでも並大抵の凡百な神では二十日くらいで気が狂う世界らしいの」
…………並大抵の凡百な神では二十日で気が狂う。そもそも神の時点で凡百じゃないのに、それが二十日で死ぬって? ……やばくない?
「因みにだけど……崩壊世界は何処にあるの?」
近くだとちょっと……凄く不安なんだけど。
果たして、リヨンはニヤニヤと意地悪な笑みで口を開いた。
「——何処にでもあるわよ?」
……ドコニデモアルノ?
「ぷふふ。やっぱりコユキは面白いわねぇ……ま、真面目な話ねっ、果ての世界は全世界に繋がってるらしいのよ!」
僕のジト目を受け、リヨンは少し慌てつつそう言った。
その後のリヨンの説明を纏めると、こうだ。
僕が住む世界、所謂現界は、山の様な物。
その上に山頂、天界と呼ばれる場所がある世界や無い世界があるが、その下の陸地、即ち魔界はどの世界にも存在する。
そしてその更に下、海、又は深海、或いは地中が、崩壊世界に該当するのだとか。
これを『階層型世界観測』と呼び、その他に『星海型世界観測』、『重筒型世界観測』等があるらしい。
まぁ要するに、僕が世界と呼んでいる場所、現界は、全て崩壊世界とやらと繋がっている訳だ。
因みに、ベルベルやリヨンが住む夢の世界は、その崩壊世界と魔界、現界が奇妙に混じり合った、比較的崩壊世界に近い位置にある不可思議な世界らしい。
道理で妙な理が存在している訳である。
なんでも、夢の世界は崩壊世界に最も性質が近い世界らしく、かつては崩壊世界の一部と考えられていた時もあるとの事。
その為、夢の世界の神が夢想神と呼ばれる様に、崩壊世界に存在するだろうと考えられている神々も夢想神と呼ばれる様になってしまったらしい。
そこら辺、リヨンは拘りがある様で、あくまでも夢想神は夢の世界の神! と、しきりに主張していた。





