第33話 ガラスの少女
第七位階上位
《【運命クエスト】『ガラスの靴は砕けない』が発令されました》
《
【運命クエスト】
『ガラスの靴は砕けない』
参加条件
・少女に遭遇する
達成条件
・ボスを倒す
失敗条件
・無し
・備考
砕け散った魔法の欠片を集め、遥かなる頂きに登れ。
・主な出現魔物
硝子騎士
硝子の魔女
》
戦場へ入るや否や、少女は振り返った。
「遅いじゃないっ、ずっと待ってたんだから!」
「うん、ごめんね。首切られたり殴られたりしてて」
「え、何それ、怖っ」
つり目を尖らせた少女にかくかく弁明すると、少女は引き気味に目を丸くした。
実際はダイヤの王の所で歓待を受けていた時間が一番長いが、それは言わない。
「ま、まぁ良いわ……私は、そうね……リヨンとでも名乗っておくわ。よろしくね、コユキ」
「よろしく、リヨン」
コユキと言う呼ばれ方は初めてだが、気にせず握手を交わす。
最後の方、彼女は凄く意地悪なニヨニヨ笑いだったので、態々名前にコを付けたのは彼女なりに悪口のつもりなのだろう。
リヨンはそのまま悪い笑顔でガラスの騎士を指差した。
「それじゃあ早速アレを倒して貰うわね」
ニヤニヤ笑いが何とも怪しいが、それがシナリオなら仕方ない。
銃をホルスターに仕舞ってニヤニヤしているリヨンの横を通り、高速でガラスの騎士へ接近すると、試しに軽く2発殴ってみた。
カシャーンと爽快な音が響いて盾が砕け散る。続いてゴッと鈍い音がして騎士が一歩後ずさった。
「ふむむ」
妙な手応えだった。
全くの手抜きとは言え、軽く吹っ飛ばすつもりで殴ったと言うのに、ガラスの騎士は僅かに押しやられたと言う程度で罅割れ一つ無くピンピンしている。
原因は、殴ると同時に注入した僕の固有属性魔力の流れで理解した。
このゴーレムには、おそらく『透過』と『分散』……いや『屈折』の神性が宿っているのだろう。
僕の打撃と注入魔力の9割前後がガラスの騎士を突き抜けて霧散し、残りもガラスの騎士の内部でバラバラに分散、完全に受け切られてしまった。
元々の防御力も高いし、魔力の分解能力も比較的優秀な部類……表皮に纏う硬属性防御膜も何気に見事なハニカム構造。
技術的にも概念的にも鉄壁と言うに相応しいガラス兵である。
その防御力は、硬性神金に比肩する。
特に『屈折』の力が凄い。
流れ込んだエネルギーが一気に分散する為、単純計算ガラスの量が増えれば増えるほど硬くなって行く。
その点ではアダマンタイトをすら越える防御力を発揮するだろう。
おそらく『透過』と『屈折』の力は、素材がガラスだったからこそゴーレムに付与出来たのだと考えられる。
なので、この力を他の金属に流用させるのは難しいだろう。
さて、そんな鉄壁ゴーレムの倒し方だが……。
先ず以って、このゴーレムには打撃も斬撃も刺突も大した違いは無いだろう。
同じく、魔力そのものによる攻撃も大きなダメージは与えられまい。
他に考えられる方法は……全く同じ物をぶつけ合わせるか……或いは熱変動かな?
空間を閉じて内部を熱したり冷やしたりすれば、恒常的なダメージを与える事が可能となり、『透過』の力をほぼ無効化出来る筈だ。
熱膨張と縮小による崩壊は『屈折』の力で防がれる公算が大きいが……ガラスの騎士の操魔力次第では『屈折』が間に合わなくなるかもしれないし、試してみても良いだろう。
差し当たって、自信満々にニヨニヨ笑っているリヨンに目を向ける。
「ふへへ、あらあら? もうギブアップかしら? コユキは軟弱ねぇ? 何なら私が代わってあげても良いのよ?」
「いや、いいよ。それよりコレ、壊して良いだよね?」
「へぇ? 壊せるつもりなの? ぷふふ、壊しちゃっても良いけど? 壊せるんならねぇ?」
と言う訳で進行役の許可も降りたので、早速配下を召喚する。
本を開き、呼び出したのは、アルフ君と白雪。火と氷の2人。
「ユキ!」
召喚されるなり飛び付いて来た白雪は、十分な魔力の供給もあってか、今やユミくらいの身長になっている。
最初は僕と同じくらいで、時には幼女にもなっていたと言うのに、今はおおよそ頭一つ分程僕より大きいのである。
まぁ、サイズ変更は割と自由が効く様だが。
ともあれ、膝をつくアルフ君と抱き付いて来た白雪に指示を出す。
「先ずはアルフ君、焼いてみて」
◇
燃え盛る炎。高熱に歪む空間。
高い声で高らかに雄叫びをあげるレティの猛火がガラスの騎士を焼いた。
迸る閃光。万物を凍らせる一閃。
僕を抱いたまま、白雪は空間を凍らせ、叩きつける様に凍てつく魔力を流し込んだ。
そして今、リヨンは砕け散ったガラスの騎士の前で膝を折り、涙目で叫んでいた。
「あ、ああ……うそ、うそ!? こ、壊れちゃった、壊れちゃったっ!? ど、どどどうすんのよぉこれぇ〜!? え? もしかして……クエスト失敗? じょ、冗談じゃないわ!!」
リヨンはぶつぶつ言った後、慌てて銃を引き抜き、砕け散ったガラスの騎士へ銃口を向けた。
「こ、こんな所で躓いてなんていられないのよ! お願い、上手くいって!」
放たれた弾丸はガラスの騎士へ突き刺さり……何も起きない。そして——
「……おしまいだわ」
——リヨンは死んだ様に地面へ突っ伏した。
「……まさか、私の完璧な計画がこんな所で潰えるなんて。コレで3代目の座は星になったの。赤い星よ。名前はル・ベルム。なんで赤ずきんなんかが3代目なのよおかしいじゃない。私以上に相応しい存在なんて無い筈よ。あぁもう! なんで壊れるかなぁ!! ……ふふ、いっそ全て破壊してやろうかしら? どうせ評価は低いだろうし。ふふ、ふふふふふ」
ぶつぶつと何かを言い、怒ったり笑ったりと壊れたリヨンを横目に、僕は密かに回収して解析していたガラスの騎士のコアと魂魄を地面に置き、リヨンが放心している隙に抜き取った銃を使ってコアを撃ち抜いた。
刹那、発生した光が膨れ上がり、形を成す。
元々の仕様通りだと、コアの神気に加えてガラスの騎士の肉体を消費して新たな形になる設定なので、その分のそこそこに多い魔力を供給してやり、その代わり僅かな神性が定着しているガラスの騎士の体は僕が頂いておいた。
光が収まると、そこにあったのはややコンパクトなカボチャの馬車と、立派な2頭のガラスの馬。
アルフ君はサイズ的に馬車の中には入れないので御者台に座って貰い、僕と白雪は馬車に乗る。
「ユキ、アレは置いて行くの?」
白雪は未だに地面に突っ伏して笑っているリヨンを指した。
「進行役だから持っていくよ」
そう言うと、僕は念動力でリヨンを馬車に乗せる。
心ここにあらずなリヨンを他所に、馬は嘶き車輪は回る。
目的地はガラスの馬達が知っている。
さぁ、さっさとクエストを進めようか。





