第32話 茶番、寸劇、シナリオ通り
第七位階上位
白夜が体だけ成長した様な美女をあやして持ち直させた。
「そうなんですぅ! こっちでもネズミ、あっちでもネズミ! これじゃあ私、泉の女神じゃなくてネズミの女神になっちゃいますよぉー!」
「うんうん、大変だったね。大丈夫、誰もそんな事思わないよ」
「ほんとですかー? ほんとに思わないですかー?」
「うん、思わないよ。君は立派な泉の女神さ」
にんまりと笑顔を浮かべる自称泉の女神は、どうやらもう一つ別のクエストを取り持っているらしい。
どちらもネズミに関わるクエストの様だ。
揃ったキーワード、笛。大量のネズミ。街。とくれば、もうあれしかない。
残念ながらネズミ達のクエストのコンセプトは、誰もが知るあのキャラクター、『眠りネズミ』では無く、『ハーメルンの笛吹き男』だった様だ。
彼女がしっかり持ち直し、それと無く情報を聞き出した所で、区切りも良いので寸劇を再開する。
「ところで……あぁ、笛を落としてしまった」
「はえ? ……あ、あぁ!」
一瞬首を傾げた女神は、間もなく自分の役割を思い出した様で、ぽんと手を打った。
そして、一つ先払いすると、先と同様にキラキラ演出を付け、厳かで静謐な気がする雰囲気を醸し出し始めた。
「えー、こほん……貴方が落としたのはこの金の斧ですか? それとも此方の銀の斧…………ですか?」
斧じゃない事に途中で気付いた彼女が顔を真っ赤にしつつ言い切る。
健闘を讃え、ここで軌道修正を謀る。
「いえ、僕が落としたのは金の魔笛でも銀の魔笛でも無く、黒い魔笛です」
「しょ、正直者の、貴方には……此方の金の魔笛と、銀の魔笛と、黒い魔笛を……差し上げますぅ……」
「うん、ありがとね。よしよーし」
「ふえーん、ユキさーん!」
うんうん。間違いは誰にでもあるよ。
◇
《【運命クエスト】『王様の服は識者にしか見えない』をクリアしました》
《【運命クエスト】『ネズミと女神と富と夢』をクリアしました》
程なくして、筋肉集団のクエストと自称女神のクエストをクリアした。
王達のクエストで入手したアイテムと合わせて確認する。
スキルポイントは合計11P。
アイテムは、装備すると体に幾何学模様が浮かびパワーが上がる『王拳の象徴』。
ラヴィング・ハートと同様勲章型で、筋肉の腕が象らているアイテム『マッスル・ボディ』は、筋肉の重要性を理解し、それへの愛が深ければ深い程力が増すアイテムだ。
魔笛の方は、小動物、とりわけネズミを操る『宵闇の魔笛』。小動物、とりわけネズミを強化する『夜月の魔笛』。小動物、とりわけネズミを進化させる『暁天の魔笛』。
王達の報酬は、それぞれのスートの宝珠。うまうま。
そしてニコラメダル4枚。
エクストラ評価報酬は、スキルポイント12P。
体表に強力な防御膜を形成する紋様系防具『見えざる鎧』。
多種多様な処刑具に変化する真っ赤な浮遊球体『執行する死』。
富とは即ち知識である。と表紙に書かれた金色の装丁の本『誰が為の富か』は、金銀財宝を核としたゴーレムを生成出来ると言う、何処かで見た事がある様な力を持つ魔典。
緑色の金棒『恵土混在棒』とやらは、叩いた地面が健康になる豊穣系の高位アイテム。
様々な武器に変化する真っ青な浮遊球体が『遍在する死因』。
入手したアイテムはそのほぼ全てが強力で、作成に特殊な素材や権能を必要とする、今の僕では作るのに相当な消耗を伴う物ばかり。
やはり、不思議の世界はうまうまな迷宮である。
そんなアイテムの確認を終えた所で、街エリアを抜け、森エリアに入った。
この森は、ベルベルの所と違って背が高く真っ直ぐな木が比較的多い様だ。ベルベルの森が浅い場所を舞台にしているのだとすると、この森はちょっと深い場所を舞台にしているのだろう。
そんな考察をしていると、不意に音が聞こえて来た。
キィン、キィンと金属がぶつかる様な高い音に聞こえるが……多分これは、銃声だ。
◇
特に急ぐ必要もないと思うので現場へふんわり急行すると、そこには1人の少女とクリスタルのゴーレムがいた。
ゴーレムはクリスタルの盾を構え、ジリジリと後退しており、一方少女はニヤニヤと笑みを浮かべながら、クリスタルの二丁拳銃をクリスタルのゴーレムへ向けて乱射している。
ざっと状況を確認するに、ゴーレムは半透明の重騎士型で、盾は所々ボロボロ。
少女は貧相な革鎧と革の帽子を被っているが、その肢体や青白い髪はよく手入れがされている。そして、両手に握られた拳銃や、ハイヒールの形をしたクリスタルのイヤリングは、身に付けている服とは比べ物にならない価値がある事だろう。
ここから推測されるシナリオは2つ。
1つは、少女がやんごとなき身分の人で、遠目に見える城を脱走してここまで来た所で保護者が迎えに来た。
2つ目は、少女がやんごとなき身分の人に変装した泥棒で、遠目に見える城から盗みを働いて、逃げている最中。
となると、僕が取るべき行動は一つ。
少女の背後から接近して意識を奪——
——いやまぁ、普通に考えて少女の味方をしろって事だろうけどねー。
こう……誰かの掌の上って、僕……嫌いみたいだ。
遊技神っぽい香りがするのが嫌なポイントである。
差し当たって、新たなクエストをクリアすべく、僕は一歩踏み出した。





