第28話 vs.スペードの王
第七位階上位
彼女は戦闘狂の類いなのではないだろうか?
そんな事を思いつつ、戦場を見守る。
スペードの王と戦っているのは、何気に対人戦闘力が高いミルちゃんとアトラ、それから鎌嵐の3人組。
ミルちゃんはワンマンタイプなので連携があまり上手くないが、鎌嵐の3人組は魂を共有しているので完璧。
そして合わせるのが上手いアトラと、全体を繋ぐ役割の黒霧がいる事で、最低限の連携は出来ている。
対するスペードの王は、武術においてシャングリラに一歩……二歩程劣る程度。
夢の世界特有の戦い方に精通しており、武器がいつの間にか変わっていたり、権能を用いたと思われる死を宿した剣撃を放ったりしてくる。
まぁ、死の一撃は十分厄介だが、僕的にはもっとやれと言いたい所。
ミルちゃんは一度死んで復活した身だし、アトラは魂を操る適性を持つ悪魔の近似種だし、鎌嵐は1人やられても根源が同じなので復活する。此方は準備万端なのである。
もっと死を。もっと鮮烈で強力な死の刃を、皆に突き立てて欲しい。
「頑張れー」
僕の応援に皆の攻撃の苛烈さが増し、そして思わずと言った様子でスペードの王の口端が吊り上がった。
被弾も構わず突っ込むウチカゼの一撃を紙一重で避け、ウチカゼの風刃とカマカゼの追撃を大きく飛び上がって回避する。
すれ違い様に斬られたのだろう、ウチカゼとカマカゼの2人からは血飛沫が上がった。
その次の瞬間には飛び上がったスペードの王へ向けてアトラとその部下、ミネロラとアグリールによる風圧、雷撃、そして空間操作による竜巻の様な収束が襲いかかる。
身動きが取れないスペードの王へ、間髪入れず次の攻撃が迫った。
——ミルちゃんだ。
空の制限ギリギリから、アトラとナギカゼの補助を受け、ミルちゃんは流星の如く飛翔する。
本来なら無理やりにでも束縛を解いて離脱する所だが、スペードの王は今度こそ堪え切れない笑顔を浮かべ、流星ミルちゃんパンチを正面から迎え撃った。
「は、ぁぁっ……!」
「あはっ!」
——衝突。
ミルちゃんの打属性の仙気と、直剣に込められた突属性の仙気がぶつかり合い、周囲へ飛散する。
果たして——
「ぐっ」
一瞬の膠着を得て、ミルちゃんの腕に剣が突き刺さった。
まぁ、相性的に見て順当な結果である。
しかし、ミルちゃんも然るもので、腕の内部に収まった剣へ向けて打属性の仙気を集約し、それを破壊。
同時に振り上げていた反対の拳を振り下ろした。
スペードの王は当然の様に粉砕された剣を手放し、ミルちゃんパンチを両腕でガード。
その反動を利用して、ミルちゃんは空へ離脱する。
——と、思った次の瞬間、翼を広げ空へと舞い上がる途中のミルちゃんが急に動きを止め、墜落した。
無防備に落ちるミルちゃんの頭を、スペードの王が蹴り飛ばす。
ミルちゃんが竜巻に巻き込まれる前に、アトラが空間転移で救出した。
然もありなん。
死が練り込まれた剣をその身に取り込んだミルちゃんは、僕が死の蛇に噛まれたのと同じ様にガタガタと痙攣していた。
幸いだったのは、直前の衝突で死属性が減衰していた事。
一度死から蘇ったミルちゃんなら……大丈夫だろう。
僕はニコニコとそれを見守り、此方をチラッと確認したアトラはそれで察したか戦場へと意識を戻した。
スペードの王を取り囲む竜巻が、アトラが両手を握るのと同時にスペードの王へ殺到し、雷撃と風刃、それからナギカゼが投じた毒が渦を巻いて収束する。
この攻撃ならば、レベル400代までは殆ど抵抗出来ずに肉の球になるだろう。
相性次第ではレベル500代でも致命傷になる筈だ。
しかし……次の瞬間には十字の剣撃が空間を裂き、無傷のスペードの王が飛び出して来た。
その手には破壊された筈の剣が握られている。
よく見ると服の装飾が殆ど無くなっているので、それらを素材に剣を再生させたのだろう。
状況は仕切り直し。
此方は1人脱落して4人。と見せ掛けて実は鎌嵐が三位一体の1人分で、アトラの両手が2人分なのでやっぱり4人。
対する一見無傷で1人のスペードの王は、その実……トランプ兵10人分の力とそれを強化した分の力、即ち機神にも匹敵する力を持っている戦闘狂。
現在の消耗率はトランプ兵4人分。おおよそ20%半ば程。
差し当たって僕は邪魔な痙攣しているミルちゃんを引き寄せ、虚空を掴もうと震えるその手を握った。
◇
ウチカゼが我武者羅に突っ込む。
大きく振るわれた棍の一撃は、当たれば大きなダメージを受ける事に相違ない。
しかし、先の衝突でハイになったのか、スペードの王はその一撃を避けなかった。
棍はスペードの王の胴にモロに直撃——刹那、スペードの王の直剣がエストックに変じ、錐の様な刃の一突きがウチカゼの頭部に迫る。
キィンと音が響いた。
カマカゼの刃が間に合ったからだ。
死を宿したエストックの一撃はウチカゼの頬を掠め、強力な死の欠片がウチカゼの動きを止めた。
次の瞬間、カマカゼに短剣が突き刺さっていた。
いつのまにか生成していたらしい、おおかた剣を再生させた時点で懐に忍ばせていたのだろう。
…………と言うかまぁ、持ってるなぁとは思ってたけど、そこまで読み取れる様になって欲しいのが僕の本心である。
スペードの王は、膝から崩れ落ちるカマカゼに突き刺さった短剣を捨て、返す刃の手刀でウチカゼを切り裂かんとする。
その背後から、ナギカゼは高速で忍び寄り——
——肘鉄がナギカゼを打ち据えた。
スペードの王は更に、肘鉄と手刀の勢いを利用して一回転し、硬直するウチカゼへ回し蹴りを叩き込む。それと同時に直剣に戻った剣も振るわれ、ナギカゼの胴を浅く斬る。
硬いものが砕ける音が聞こえた。
崩れ落ちるカマカゼ。骨を折られて吹き飛ぶウチカゼ。鼻先に肘を落とされた上に胴を死が掠めたナギカゼ。
何が悪いって、全員が死の力を浴びた事だ。
これが1人が重症だったり全員が軽傷ならどうとでもなるが、全員がそれを食らってしまったらもう駄目だ。
魂が1つだから一番重症の子から死属性が伝播してしまい、3人の処理能力が間に合わなくなる。
アトラは黒霧の指示の元3人を回収し、ガタガタ震え始めたイタチちゃん達を僕の周りに引き寄せる。
残ったのはアトラとその部下のみ。
対してスペードの王の消耗率は精々40%に届かないくらい。
さてさて……皆は勝てるかな?





