第28話 形代神
第七位階上位
背後でジョキジョキと音が鳴り、ふわりと頭が軽くなる。
「ふふ、素敵ね」
僕の髪束を持ってニコニコしている彼女は、人形の魔王。レベルは800。
名前は知らない。僕には聞き取れなかったので、例によって神霊の類いである。
彼女は二房目の髪束を大事そうに抱え、クンクンスリスリした後、おそらくインベントリの様な物に仕舞った。
僕はポーションを飲んで髪を元の状態に戻し、改めて問う。
「で、戦うの?」
僕の問いに、少女は無言で僕の背後を取ると、髪を一房取って、匂いを嗅ぐ様な仕草をした。
「やっぱり生えたては駄目ね。本音を言えばもう一セット欲しかったんだけど…………戦いは貴方の勝ちよ。私は生産職だもの」
暫く僕の髪を弄った後、応える。どうやら、手持ちの戦力を使い切ったら終わりと言う仕様だったらしい。
「一部戦って無いのもいたけど?」
主に鬼と蝶だ。
「良いのよ。その試練は貴方の部下にでも譲ってあげて」
「ふーん」
まぁ、頭が良いと言うなら良いのだろう。
クエストクリアになっていないのは……質問タイムだから?
「幾つか聞いて良いかな?」
椅子から立ち上がりながら聞くと、少女は人形を作り始めながらそれに応じた。
「どうぞ。人形が完成するまでなら答えましょう」
何やら光ったり浮いたりしているそれを横目に、考える。
……何から聞こうか。知りたい事は多いが、神域の事情はきっと聞き出せないだろうし……。
「……差し当たって……神懸かりと神降ろしについて聞きたいな」
「加護の仮免」
「……うん、もう少し詳しく」
「簡単に言うと、形が定まっていない神気を付与する事ね。信仰を横流しするだけだから簡単に出来るわ。注意点は多々あるけど、言わなくても分かるでしょう?」
「ふむ」
信仰により獲得した神気を活性化させて他者へ与え強化する、付与型の神霊化とでも言うべき技術か。
注意点は、与えた神気は戻らない事。与えた対象の属性が神性にそぐわない場合、神気は劇薬と同義な事。仮に適性が高かったとしても、用法用量を守らないと性質が神性に飲み込まれて元に戻らなくなったり、最悪器が崩壊してしまう危険性がある事。……くらいかな?
……ちょっと神域の事情を聞いてみよう。
「大体分かった。次は……神ってどのくらいいるの?」
「ごめんなさい、それは私も把握していないのよ。大神級なら7柱くらいはいたけど……後ーーが同じく7柱いるらしいのだけれど、詳しくは知らないの」
「金の神ってどんな人?」
「優しくて強くて……凄く軟派な人たらしよ。気に入った相手は男だろうが女だろうが幼児老人関係なく、口説いて直ぐ甘やかそうとするらしいわね」
ふーん。軟派なのか……ふーん。
「……口説かれたの?」
「……それは貴方が神域に辿り着いたら嫌でも分かる事よ。この話はおしまい」
……嫌でも分かるってどう言う事だろうか。神域に立ったらいきなり口説かれるのかな? ……気になるが、おしまいなら仕方ない。
「……敵になりそうな神っているの?」
「そう言うのは見かけないわね……緑や黄、無色の界域には盗賊紛いの神群がいるらしいけど」
「邪神も?」
「……そんなのもいたわね……うーん、どうせ聞こえないだろうから言わないでおく」
つまり邪神との遭遇はあり得ると言う事か。要警戒だね。
「……一応言っておくけれど、ここはーーー様やお姉様方の縄張りだから、強い邪神はそう簡単にはやって来れない筈よ。……ちょっとーーけど……どのーーーのーーーから。ーなーーーーーてるわね」
「殆ど聞き取れない」
「でしょうね。それもーーよ。……別に意地悪で言ってるんじゃないのよ。ーーのーーー。ーーはーーのーーーなーーーーーている」
駄目だこりゃ。規制が酷い。別の話題にしよう。
神々の話や邪神の話はやっぱりダメそうだし……そうだ。
「イヴ・ハルモニアって知ってる?」
「ーーはーーもーにーーーーーるーーー。ーーーーは——」
「——ごめん全然聞こえないや。……じゃあベルツェリーアとかはどう?」
「神霊の試練ね。東西南北四方の大陸にいるわ。それ以上は言えないの」
うーん。まぁ、良いか。どこぞの大陸にベルツェリーアクラスの化け物が受け持つ試練があると分かっただけで十分である。
とは言え神霊以外で気になる事は…………。
「……目の色が赤くなったり黒に戻ったりするのは何で?」
「色魔眼は誰にでも使い熟せる物では無いのよ。金や銀の神性を持たない者には特にね」
僕が持ってるらしい青系の魔眼と言うのは、僕に銀の因子があるから使えていた様である。
いやまぁ、使えているのかどうかも良く分からないのだけども。
「……人形の魔王さんは何神なの? あだ名みたいな奴」
「『形代神』と言う名前でやらせて貰っているわ。主に使う名前は『人形の魔王』だけどね」
……やっぱり彼女やさっきの鬼と蝶の人は……白兎商店で出品してた人なんだろう。
となると今作ってる人形は販売用?
「それ、売るの?」
「今作ってるのは私のコレクション。サキュちゃんよ」
「おっと、そのアナグラムは良くない」
事実無根だ。許すまじ遊技神。何が特別に決めておいたよだ。感謝なんてしないわっ。滅べば良いのに。
「後で作るのは双子のサリアちゃん」
「ほう?」
「本当は3体作りたかったんだけどね」
ふむふむ、そっか……そう言う事ね。
ここはちょっと気合いを入れて、髪の毛に文字通り僕の気を馴染ませてみようか。
◇
《【運命クエスト】『人形姫の館』をクリアしました》
《レベルが上がりました》
形代神は、ギリギリ間に合った馴染ませた僕の髪を使い、リーナとサヤを作ると言って消えた。
何でも3つ子の三姉妹らしい。
一体目の人形が出来るまでの短い間は、特に身のない話をした。
形代神は沢山の自作コレクションを持っていて、全てに名を付けて、それぞれの物語を作っているんだとか。
『今日は楽しかったわ。ありがと』と微笑んでいたので……好感度アップ作戦は成功である。
報酬は良い物をあげると言っていたので、ありがたく頂戴しておこう。
入手した物は、スキルポイント10P。『人形の宝珠』×4。エクストラ評価報酬で、スキルポイント10P。『形代金』『生羨む草陰の亡霊』『渇望せし砂漠の遺志』『解放望む湖底の亡骸』『救い求む裏町の生霊』『小人形・三姉妹』『黒森館の鍵』。
片端から確認して行こうか。





