第29話 呪具
第七位階上位
配下を送還して迷宮から出ると、石碑に嵌っていた灰色のレリーフが僅かに白くなり、宙に溶ける様に消滅した。
人形姫の館は評価的には中々実入りの良い迷宮だったと言って良いだろう。
人形軍の戦闘経験にもなったし、宝珠も4つゲットした。
では改めて入手したアイテムの確認を行おう。
先ずは、6つのアイテム。『血塗れのウィンゼハルト』『縛愛のデルグレア』『生羨む草陰の亡霊』『渇望せし砂漠の遺志』『解放望む湖底の亡骸』『救い求む裏町の生霊』。
これらは全て……一般的には呪具と呼ばれる装備品である。
血塗れのウィンゼハルトは、真っ赤な剣。
一度でも血に触れれば、ウィンゼハルトの亡霊が満足するまで生き物を無差別に殺し続ける魔剣である。
亡霊と表現したそれは所謂怨念の一種で、それ自体にウィンゼハルト何某の魂がある訳では無い。
とは言え意思の塊である事は間違いないので、抗うには積もり積もった怨念よりも強力な意思が必要になる。
武器の魂にアクセスすれば、その来歴を多少は読み取る事が出来る。
ウィンゼハルトは、とある小さな国の王家だった。
民の為に自ら剣を持ち戦う英雄であり、光の魔剣を持つ聖騎士。それがウィンゼハルト。
しかし、その実ウィンゼハルトの者は代々呪いの様な殺戮衝動があり、自ら国宝の剣を振るって敵を殺す事でそれを抑えていたらしい。
呪いの原因はその剣だった。
初代ウィンゼハルトは上辺を取り繕うのが上手い快楽殺戮者で、魔物や他部族を殺し尽くし、開拓して国を興した。
その初代の遺志と、斬られた無数の魔物や人の怨念が剣を犯し、ウィンゼハルト家の者達に殺戮衝動を与え、狂わせた。
結局国が滅ぶ程の惨劇があった様だが、そこの所は良く分からない。
ただ一つはっきりと分かる事は……この呪具が本物では無い事。
正確には、本物から分離した力の欠片の様な物だと言う事である。
続いて、縛愛のデルグレア。これは鎖が付いた首輪である。
隷属、支配の力を持つ呪具で、血の契約によって対象を縛り隷属させる道具だ。
この呪具は歴史が浅いのか、大した情報は得られなかった。
少ない情報から鑑みるに、デルグレア王国とやらの王家でゴタゴタがあった様だが……パッと見た感じ、首輪を付けて隷属させたい者と、それを憎み苦しむ者、それから…………首輪を付けて貰いたい者等の、愉悦と憎しみと喜びが複雑に絡み合った良く分からん呪具であった。
もっと詳しく読み取ると、王が束縛の強い男で、王妃は無理やり結婚させられた者。
それから殺したり死んだりがあって、次の持ち主且つ唯一の王族である姫様が自由と責任の重みでパァになりそうで、両親の影を求めて首輪を付ける。みたいな。
こんな事で呪具になってたら世の中呪具だらけになってしまう。
勿論呪物化の原因は他にある。首輪に使われた魔物の素材等だ。
それこそ詳しい所はわからないが、王家だから金もあるし、闇属性のやや強い蛇の魔物素材を用い、高名な魔道具職人が作った事で、魔道具としてのレベルは元々高かったのだろう。
因みにこの呪具の効果は……主人の命令に逆らうと全身が強く締め付けられる様である。おそらく、嫉妬や束縛と蛇の魔物の残滓が結び付いた結果だろう。
…………あと命令を完遂すると内容に応じて特殊なカウントが成され、好きな時に締め付けを味わえる謎仕様が付いている。
これはあの子にあげようなどと安直な考えをすると、死神に寝首を掻かれる代物だ。
生羨む草陰の亡霊は、草兎のそれと同じく、足輪型の呪具だ。
このアンクレットは、装着すると根付く。
冗談でも何でも無く、足に根を張って外れなくなるのだ。
効果は草兎のそれを更に強化した物だが、使用する度に侵食が進み、やがては植物になってしまうと言う呪具である。
来歴は、森で死んだ無数の動物達の怨念。植物なのは死骸が森の栄養になる事と関係がある様だ。
兎の形なのは……主人の趣味かな?
渇望せし砂漠の遺志は、ブレスレット。装着すると腕輪が食い込み、更に皮膚が硬質化して外れなくなる。
その後は使用する度に体が干からびていき、最後は立派なミイラになって砂と消える。
怨念の根源は、砂漠で死んでヒモノになった者達だ。
解放望む湖底の亡骸は、青い紐が5本程付いた水色のベールで、装備すると紐が体に巻き付いて外せなくなる。
使っていると、次第に巻き付いている部分から変質が始まり、最後は青い蛇になってしまうらしい。
呪いの根源は湖で死んだ者達。
救い求める裏町の生霊は、やや大振りのブレスレット。
渇望せし砂漠の遺志と同様に、装着すると体に食い込み、皮膚が硬化して外せなくなる。
使い続けると次第に肉体が金属化していき、最後は物言わぬ像になってしまう様だ。
呪いの根源は、スラムでこき使われた上惨めに死んだ者達の怨念。
以上6つの呪具の内、後者4つは形代神が神になる以前に生成した呪いのゴーレムと関係が深い。
もっと言えば、本来なら時の果てに消える程度の怨念を掻き集めてゴーレム化したのである。
やってる事は邪神と同じだが、強力な駒を簡単に作ると言う点では合理的と言える。
何せ、後から成聖すれば良いだけだからね。
そう、怨念の原型たる嫉妬や怒り、悲しみ、それ自体は何も一概に邪悪と言う訳では無いのである。





