第27話 人形の魔王
第七位階上位
迷宮『人形姫の館』の北端には城がある。
——無人の城だ。
そこに創造主がいない事は、最初から分かっていた。
何故なら、城の後ろの小さな黒い森、最北端のそこに、黒い森と同化する様に黒い館が存在するからだ。
では何故城に入ったのか。
……単なる墓荒らし、もとい城荒らしである。
三重の防壁に囲まれた城は、入って直ぐに長い廊下があった。
廊下の壁際には22個の台座が存在し、突き当たりの大扉の前には他よりやや豪華な台座がある。
台座にはおそらくミラードールが設置されていたのだろう。
また廊下の左右にはいくつか通路があり、それぞれの先には数十の小部屋、突き当たりには地下への階段があった。
地下にあったのは、城よりも大きな広間。
おそらく、小部屋にはやや強めのドールやゴーレムが、大広間には雑兵のドールやゴーレムが設置されていたのだろう。
廊下の大扉の先は、玉座の間。
赤い絨毯の先には王と王妃が安置されていたと思われる玉座が並んでおり、天井の採光窓から差す陽光が静かに玉座を照らしていた。
玉座を押し除けると、そこには当たり前の様に隠し扉があり、『血塗れのウィンゼハルト』と『縛愛のデルグレア』を手に入れた。
それぞれ、豪華で真っ赤な剣と、鎖の付いた首輪である。
また、赤い絨毯を引っ剥がすと、そこにも大きな隠し扉があり、その先の地下へと続く階段を降りると……金銀財宝とちょっとした魔道具があった。
魔道具は、火矢を飛ばすとか清水を出すとかそう言う程度の便利道具である。
尚、廊下の絨毯の下には何も無かった。
◇
城荒らしでちょこっと私腹を肥やし、いよいよボス戦である。
黒い森の館の前に立つと、僕を招く様に、館の扉が開いた。
そこにいたのは2人の美女。
ニィル・フェルニル LV700 状態:神降ろし
酒客童子 LV700 状態:神降ろし
片や黒いドレスにトンガリ帽子の黒髪青目の美少女。片や黒い和装の黒髪赤目、三角の鬼人美女。
状態は神懸かりならぬ神降ろし。それでいて、光を発していない事から分かる通り、大きな力を制御し切っている。
そんな2人は僕を見るなり声を揃えて——
「「ここを通りたければ——」」
「——甘いお菓子を渡しなさい!」
「——美味い酒を寄越しな!」
取り敢えず一石程出してみた。
◇
ニィル・フェルニルは、至福の表情でスイートパンプキンを食べ、酒客童子は人の頭よりも大きな樽ジョッキで僕謹製の酒をがぶ飲みしている。
マレビト招致と僕の配下の為に大量生産をしていた私財を投じて、ニィル・フェルニルには人の一生では食べ切れない程のお菓子の山を、酒客童子には同様の酒をあげた。
2人曰くこうだ。
ここを通りたくばなどと宣言しておいて何だが、何を出されても満足したとは言わないつもりだった。
と言うか、なぜこんなに一杯美味い物を持っているのか、これでは言い訳が通らない。
取り敢えずこれらは有り難く頂く。別途報酬を用意するので、試練は後日にでも受けて貰いたい。
そんな訳で、クエスト『黒い森に蝶は舞う』と『斯くも酒客は御し難い』をクリアした。
報酬は、スキルポイント20P。『フェルニルの蒼翼』『童子の鬼珠』。エクストラ評価報酬で、『ニィル・フェルニルの試練』『酒客童子の試練』。それから『夜天の雫』『弑竜酒』を10個。
それぞれ、蒼翼は綺麗な青い蝶の羽が生える装備。鬼珠は竜玉等の鬼バージョン。各種試練は絵画系のそれと同じ物だが、一度倒すと消えるらしい。
後は、雫とやらが涙滴型の瓶に入った黒い蜂蜜、酒は一升瓶に入った透明なお酒だ。
他にも、幾つか些細な情報を得た。
例えば、ニィル・フェルニルと言うのは、ニィルベルグと言う所謂地獄の様な場所を、フェルニルと言う闇系統の強力な蝶の魔物が統べているから付いた名前だとか。
つまり、ニィル・フェルニルは特別な土地を支配して進化したユニーク個体と言う事だ。
後、童子は鬼神候補者に付けられる名前で名前自体に神気を宿しているとか何とか。
適当に白夜と紅花に童子等と付けたが……つまりそれは自称神的な状態と言う事だろうか? まぁ、白夜と紅花を特別鍛えてちゃんとした鬼神候補に育てれば万事解決である。
他は規制があるので多くは喋れないと言う事だった。
多分イヴ・ハルモニアの船やヴェルツェリーアの知識の様に、高位の神が色々やっているのだろう。
幸せそうな2人は迷宮がクリアされるまでのんびり暴飲暴食をしているとの事。
得る物も得て、特に背後から襲われると言う事も無さそうなので、早速ボスの元へと向かおうか。
◇
人形が安置された豪華な倉庫と言っても過言では無い城と違って、屋敷は人の気配を感じさせる場所だった。
埃一つない客室、カレーの香りがする厨房、手前だけ綺麗に掃除された屋根裏の倉庫。
屋敷内を歩くドールは非敵性で、僕が近づくと掃除の手を止め、僕が歩き去るまで礼を続ける。
ここは至って普通の人形屋敷だ。
そんな館の主人は西の工房にいた。
黒い瞳に濡れ羽色の長髪、黒いリボン。フリフリなゴスロリ服に包まれた、人形の様な美少女。
彼女は僕が工房に入ると、抱いていた人形を掲げた。
「後は髪だけなのよ」
ニコニコと微笑む彼女の傍らには、大振りの赤黒いハサミ。
「貴方のそれ、ちょうだい?」
微笑みを絶やさず、じっと僕を見詰める少女の瞳は、いつの間にか真っ赤に染まっていた。
人形の魔王 LV800





