第26話 人形姫の館 四
第七位階上位
それを言の葉に紡ぐなら——流星。
精鋭たるクラディとゼーレが補助に徹し、切り札を切った宝石ゴーレムくん達が強固な結界を張り、イェガの演算能力全てを分析に回して。
それと相対するのは、エヴァ。
それは凡ゆる遠距離攻撃を、その細腕と空間操作で無効化した。
だからこそ、エヴァは近接戦闘をするしか無かったのだ。
彼女の両手に握られたのは、更なる改造を施された剣、『麗震・五式』。
輝く光の乱舞は、空を流れる流星群の如く閃いた。
対するそれは、両手に握った蒼銀の剣で霊震を弾き、逸らし、時に蹴りを、時に魔法を放ってエヴァと互角に渡り合っていた。
——それ、偽僕は、心器を召喚した。
——偽僕、彼女は、限界突破を発動した。
——彼女、幼き神の偽物は、試練の魔物の力を解放した。
そして奴は——周囲の精霊を喰らい尽くした。
森は立ち枯れ、大地は死に、空は静寂に包まれて。
静かに、その化け物は産声を上げた。
……実際強化補正は僕の物と比べて大きく弱体化しているが、全強化スキルを発動させた状態の瞬発力だけ見ると……アム達、即ちレベル800にも匹敵する正真正銘の化け物になっていた。
対するエヴァは、直前の連戦で大きく消耗している筈で、常識的に考えて、敵僕はエヴァにどうこう出来る存在では無い。
なのに互角。
オカシイ。
もっと頑張るんだ偽僕。
原子レベルで考えて回避しろ、表皮なんてくれてやれ。
首を斬れ、心臓を貫け、コアを割り砕け、両手で足りないなら牙を剥け。強敵相手ならもっと頭を使え。魔力を一欠片も無駄にするな。
楽をするなっ。妥協するなっ。思考を止めるなっ。魂を燃やせっ。
足りない。足りないっ。足りないっ! ……これ、本当に僕のコピーな訳?
極限戦闘だからこそ際立つ拙さが、コピー僕の弱さを物語っている。
一瞬一瞬の熱量が足りない。
御し易い筈の魔力を無駄に膨れ上がらせて満足に処理も出来ず、振るわれる刃には仙気こそ宿っているものの、斬ると言う意思が『剣』に留まり細部まで行き渡っていない。
相手は同格かそれ以上だと言うのに……意思が足りない。本気が足りない。起死回生の闘気が足りない。
……きっと精神力の数値が足りていないのだろう。
…………だがまぁ、ミラードールで僕を量産するのは良いかもしれない。計画を練っておこう。
それはともかくとして……近接戦闘と言う物は日々の積み重ねと同じだ。
力量が圧倒的に乖離していれば虚を突いて一瞬の内に勝負を決めるのが楽だが、ある一定以上の実力者と戦う場合は、一回一回の斬撃をどれ程正確に振るえるかが鍵となる。
先を読んで攻撃するのは当たり前。誘導するのもそれを回避するのも当たり前。であれば後は如何に敵の斬撃を乱すか、如何に敵へ疲労を蓄積させるかが戦いの分水嶺だ。
ほんの僅かな、誤差程度の誘導を繰り返し、塵を積み上げ山とするかの如く剣戟を交わらせ、完璧のままに死を与える。
極限の近接戦闘と言うのはそう言う物だ。
それが出来てない偽僕と、まぁまぁ出来てる謎覚醒エヴァでは、魔力量こそ偽僕の方が圧倒していてもエヴァが勝つだろうと言う物。
逃亡対策の結界とバフ、デバフ。
万一の為の結界を守り逃亡をその身で防ぐクラディ&ゼーレ。
遥か上空から戦場の全てを分析しベストとベターを演算するイェガ。
後はエヴァのトドメ待ち。
二重の防御が無ければ偽僕はもっと厄介だったろう。イェガの演算が無ければ逃亡を許しただろう。エヴァがいなければ多数の戦線離脱者を出していただろう。
この組み合わせだからこそ、偽僕を追い詰める事が出来た。
王と王妃を相手に戦った子達も、偽僕を相手に戦った子達も、これで十分な戦闘経験を得られただろう。
最後は、狂戦神化を発動させて一閃が更に雑になった偽僕を、イェガの超収束主砲とエヴァの麗震五式が討ち取り、終了。
本物僕なら魂魄だけになっても牙を剥くが、流石にミラードールの精神力ではそんな事は出来なかった様だ。
入手した物は、スキルポイント10P。『虚構のウィンゼハルト』『虚飾のデルグレア』。それから『偽りの煌剣』『偽りの燭杖』を10個ずつ。エクストラ評価報酬『永遠の無限虚像』。
それぞれ、光の巨剣とその小さい物。光の杖とその小さい物。それから入った者の劣化コピーを作る鏡に覆われた家が入ったスノードームみたいな道具。
剣と杖は指輪と比べるとやや強力だが、一般に流しても良いレベルの範疇だ。
現在の消耗は、ざっと7、8割程。そして人形姫の館は未だクリアになっていない。
仕方ない。仕方ないので全員を後方に残しつつ、僕が突入するとしよう。
……あわよくばミラードールの改良方法や魔人形の製造法。神懸かり状態の秘密等を聞き出してくれる。
待っていろよ、人形達の創造主。僕が行くぞ。





