第26話 終の火
第七位階上位
火。
燃え盛る炎。
——暴れ狂う猛炎。
火と言う物は厄介なモノで、時として小さな種火でも人の理性を奪い去る事がある。
それじゃあ大きな炎はどうか?
……答えは簡単だ。
——阿鼻叫喚。
「ぎゃぁぁあっ!」
「あつっ、熱いっ、誰かぁっ!!」
「水魔法だっ! 水魔法使える奴はいねぇのかっ!!」
「わ、私が使えるっ、水よ、寄り集ま——きゃぁっ!?」
思えば……掲示板で集めたと言う事は現在のプレイヤー情勢を考えると、その多くは大きなチームに属さないエンジョイ勢で、属性迷宮のボス回り中。
ボス戦が初めてと言う人はいないだろうが、フレアイーグル戦が初めてと言う人は多いのだろう。
開幕およそ10秒で、戦線は一気に瓦解した。
戦闘開始と共にフレアイーグルが放ったブレス。
それは威力こそ低いが範囲が広く、燃えやすい素材に引火した。
ここまではまだ持ち直せただろうが……次は『小火弾』の雨。
爆裂系の攻撃をしてくる魔物は、低レベル帯ならフレアイーグルが初めてだろう。
爆発して軽く吹き飛ばされたり、火耐性の無い装備類に火が付いたり。
ここまで来ると、最早個々での立て直しは不可能に近い。
しかし、リーダーのヨウは動揺して何故か拳に練気を溜めている。飛ばせる程の濃度じゃないし……無意味だよね。
ヨウのパーティーのマイト氏ともう1人の盾持ちは、ヨウを守る布陣で動かないし、魔法使いらしき女は水魔法が使えない様でおろおろしてるし、弓持った女は半端な風魔法で攻撃して火勢を強めてるし……。
多分ね、ヨウのパーティーだけだったらどうにか勝てたんだろうけど、他が混乱しているせいでヨウ達まで混乱し始めている。
じゃあどうするのかって……まぁ、2番手がどうにかするしかない訳で……。
件の2番手一行は、ヒヨリン&ココネ&ノアがおろおろしてて、アキちゃんが冷静にボスへ矢を放ち外し続けている。
うん。皆落ち着け。
一番ダメージ受けてる人でも3割くらいしか削られてないから……とか大声で言った所で、混乱した皆が落ち着くとも思えないので、先ずは身内から正気に戻して行こう。
『はい、集合』
フレンドチャットによる声掛けをすると、ココネちゃん達はわらわらと集まって来た。
フレンドチャットは念話なので、周りが煩くてもちゃんと聞こえるのだ。
『先ずアキちゃんは矢あげるから落ち着いて狙ってね』
『ぅぃ、ありがとうございます』
『ココネちゃんとヒヨリンは、他の人を無視して良いからボスに攻撃』
『了解!』
『わっかりましたー!』
『ノアちゃんは2人がボスを撃ち落としたら直ぐに叩きに行ってね』
『は、はい!』
まぁ、言われなくてもやっただろうが、言った方が気持ちに迷いが無いからね。
『僕は全体の援護に徹するから、何なら4人で倒しちゃって良いよ。それじゃあ、戦闘開始っ!』
『『『『はいっ!』』』』
ココネちゃん達が散開すると同時に僕は槍杖をそれっぽく振り、口をパクパクしてから水の魔法を行使した。
分類上は中級に該当する、雨雲を作って雨を降らせる魔法だ。
「『小さな雨雲!!』」
本来ならポツポツと降る程度だが、今回はやや強めにしてある。
直ぐに鎮火する訳では無いが、火勢を緩める事が出来るくらいだ。
狙いはプレイヤーの冷静さを取り戻す事である。
わざと大声を出した理由は、誰がやったかを印象付ける為と、魔法である事を暗に示す為。
もっと言うと、誰がやったとか何をやったとかの無駄な混乱を避ける為。
続いて、今度はそれっぽく槍杖をプロペラの様に回し、石突きを地面にドンッと置いて、アップ系の上位互換であるブースト系の補助魔法を範囲指定で付与する。
「『全能力強化陣』」
言い切ると同時に虹色のサークルが僕を中心に広がり、味方の攻撃力、防御力、魔法防御力、敏捷、治癒力、集中力が強化された。
精神面に関して言えば、恐怖耐性と少々ばかりの戦意高揚が付与されて戦いへの集中力が高まった形だ。
それら以外にも、基本の4属性と光、闇の属性への耐性を少し付与する。
尚、この魔法は設置型の魔法で、自動的に魔法を掛ける魔法なので、サークル圏外に出ても魔法自体は付与されている為強化効果は維持される。
続いて味方の体力値の回復。
「『癒しの輪』」
此方の魔法は、サークル圏内にいる味方に生命力を注入すると言う効果なので、圏外に出れば回復しない。
ただし、戦場の7割がサークル圏内なので、多少暴れ回っても問題ない。
そして、最後……ちょうどうちの3人の攻撃で落下し始めたフレアイーグルへ、デバフを掛ける。
穂先をボスに向けて——
「『黒き縄』」
例によって黒鎖の下位互換だ。
範囲と量を増やして、もがき易いが逃れ難い様に調節してある。
仕上げは——
『——今ですっ!』
——攻撃のタイミングを指示する事。
ノアちゃんに頭をブン殴られまくっている巨大鷲に、正気に戻ったプレイヤーの群れが襲い掛かった。
勝ったな。




