第25話 ヨウ
第七位階上位
道中幾度か戦闘を経て、ボス部屋前に到着した。
そこには25名程のプレイヤーが集まり、ちょっとした休憩所が出来ていた。
装備は色取り取りで、プレイヤー達の研鑽を感じられる。
そんなプレイヤー集団の中から、一際小柄な少女が歩みでた。
「マイト、遅い!」
ツリ目の少女は人目も憚らずマイト氏を怒鳴り付けた。
ただし、大分ちびっ子なので迫力が無い。
容姿は、僕と同じくらいの身長で僕と同じくらいの長さの青い髪をポニーテールにした青い瞳で小麦肌な美少女。
装備は、身体強化系と環境適応系の魔法が付与された黒いロングコート。
手に装着されている可愛らしいデザインの腕甲は……魔拳・ネコパンチだ。間違いない。
「いやぁ、鳥に遭遇しちゃってね」
「ふん……ふん……」
ちびっ子は柔和なマイト氏をひと睨みしてから鼻を鳴らすと、次に僕等を見てもう一度鼻を鳴らした。
「まぁ良いわ。どうせボスは私だけで倒せるんだし、精々役に立ってよね」
「はぁ」
少女は上から目線で一番身長の高いココネちゃんを下から見上げている。
おそらく一番年上に見えたからだろう、ターゲットにされたココネちゃんは困り顔である。
そこへ助け舟を出したのが、柔和なマイト氏。
「まぁまぁ、彼女等、結構強いよ?」
「ふーん……マイトがそう言うなら覚えておいてあげる」
「それはどうも」
当たり障りないココネちゃんの言葉に対し、少女は特に反応を見せず、相変わらず胸を張って見上げている。
2秒程経過した所で、少女が眉根を寄せた。
反応したのはマイト氏だ。
「あぁ、ごめんね、ヨウは名前を知りたいってさ」
「ふん」
どうやら少女の名前はヨウと言うらしい。
特に断る理由も無いので、それぞれが挨拶をしていく。
最後は僕の番。
「僕の名前はユキだよ。よろしく」
「はぁ? ……ふんっ」
名乗った瞬間、急に機嫌が悪くなったヨウは、今までで一番強い『ふんっ』をした後、僕が差し出した手を無視して門の方へと歩き出した。
「マイトっ! さっさと行くわよ!」
ヨウは歩く途中一瞬だけ僕を睨み付け、小さな、しかし憎しみすら感じる声で、『不敬な奴』と呟いた。
「いやーごめんね、ユキさん。ヨウはちょっとユキって言う言葉に敏感でね、って言っても分からないか……悪い子じゃ無いんだけどね」
「うん、僕は気にしないよ」
「そう? でも一応謝っておくよ。ごめんね」
そう言ってヨウの後を追い掛けるマイト氏。
彼には悪いが、本当に気にしてない。
ヨウと言う名前の少女は……多分チアキの妹のチエ。つまり僕の縁者だから。
僕は鈴守の分家筋は顔と名前だけ把握してるので、ちゃんと顔を突き合わせれば分かるのである。
更に、周りの囁き声から鑑みて、ヨウが拳姫だ。
やっぱり強い人全員鈴守の関係者じゃないか。
取り敢えず、僕リスペクトなヨウちゃんはふんふん鼻息の荒い狂犬だけど、しっかり可愛がってやろう。
◇
ヨウをリーダーとしたレギオンが結成され、全員が門の中に入った事でエレベーターが動き始めた。
……と言う風に見せかけて別のエリアに転送された。
タクメールによると他のパーティーが戦闘中は門が開かないと書いてあった筈だが……改良したのかな? 回転率を上げるのは良い事だ。
事前の取り決めで、ドロップアイテムは現在の主流らしいオークション形式とやらを取る事が決まった。
何でも、戦闘履歴と言う便利スキルを使って貢献度数値を出し、オークションで素材を誰かが購入する、もしくは購入者がいない時には普通に店で売る等して、貢献度毎に全員にマナ貨幣を分配するらしい。
つまり、僕の財力なら買おうと思えば全部買えると言う事だ。
何故なら、今此処にいる僕以外の全員は、地上に出れば僕のお店にお金を落として行くからである。
むしろ経済を回す意味でお金を出してやっても良いだろう。
レギオンの編成は、大剣士の様なちゃんとした編成では無く、各パーティー毎でそれぞれ別々に戦う仕様だ。
……本当にただ数を揃えただけと言う事である。
差し当たって今は……少し緊張気味のココネちゃん達の面倒を見ようか。
「「ヒッヒッフー。ヒッヒッフー」」
「……はぁ……足りるかな……?」
「胃が……痛いです……」
「矢の補給分預けとくね。ココネちゃんは気のせいだから気をしっかり持って。後の2人は出産中かな?」
「あぁ、ありがとうございます」
「気をしっかり持つって……どうやるんでしょうかね……」
「ふー……やっぱり間違ってたか」
「ふぇぇ? ど、どう言う事ですか!?」
彼女等はレベルから見て集団戦が初めてと言う訳では無いだろうが、そう経験が多いと言う事でも無いのだろう。
これが大剣士の指揮下なら、微に入り細を穿つ綿密な作戦を組むから安心出来るのだろうが、特攻タイプの拳姫がリーダーなら不安になるのも致し方ない。
ましてや今回の敵は飛行型で高機動。不安も一層強まると言う物だ。
不安があるから緊張する。
不安を取り除く方法は至極簡単だ。
「一応言っておくけど……この中で君達が2番目に強いパーティーだから。あと君達だけで十分討伐出来るボスだからね?」
「え!? そうなんですか?」
酷く驚いた様子で聞いてくるヒヨリン。どうやら周りの防具を見て少し萎縮していた様だ。
防具は武器より見える範囲が大きいからね、仕方ない。
「ボスと聞くと強そうに感じるかもしれないし、周りが緊張してるから不安になるのも分かるけど……君達には二層から出るようになったレッドホークの方が強敵だよ」
「あぁ、成る程……ボスは大きいから攻撃が当たるって事ですか」
割と冷静なアキちゃんの言う通り、図体がデカい分被弾率はどうしても上がってしまう物だ。
「御名答。それに盾も多いからね。しっかり狙って攻撃すれば、直ぐに撃ち落とせると思うよ?」
「落としたら勝ったも同然ですね!」
「うんうん。そしたら翼の付け根とか頭を狙うと良い。ノアちゃんの『衝撃』とかを頭に入れれば直ぐに終わるんじゃないかな?」
「は、はい! 頑張ります!」
うむ。良い感じに緊張がほぐれている様でなにより。
そうこうしてる内に、薄赤い石造りの壁が途切れ、広大な空間が広がった。
フレアイーグル LV40
空を舞うのは、僕の2〜3倍はあろうかと言う巨大な猛禽類。
大きな翼を広げ、火の粉を散らしながら舞う姿に、多くのプレイヤーが及び腰だ。
でもさぁ……レベル30代が20もいるんだから。負ける方がおかしいんだよね。




