第22話 モモレスユキ
第七位階上位
さて、お祭り初日午後だ。
本来であれば、当主は守霊門を回ったり社を回ったり、何なら各地の分社を回ったりしなければならないらしいが、それも幾代か前の話。
守霊門は分家に任せてるし、社は各巫女やその補佐に回らせている。
4つある分社にしても、各分家の長が管理しているので問題は無く、祭り自体の管理も手は打ってある。
つまり……——
「——暇」
事前の備えを万全にしていたとは言え、僕がこれ程までに暇になるのは前代未聞だ。
謁見ももう一般向けの偶像崇拝しか無いし、夜の響鈴奉斎も僕は不要だし、明日の響鈴行脚も僕は要らない。
……僕、最終日までやる事無いんじゃない?
……いやいや、僕にはお祭りを率先して楽しむと言うスウコーなオシゴトがあるのだ。
後、子供組の纏め役はユミといいんちょだが、僕も色々と手を尽くした方が良い筈だ。多分。
と言う訳で、何か起きるまで入り口から見えるこの部屋で茶菓子でもつついておく事とする。
さて、そんな待機状態の僕の元に、最初に訪れた人は——
◇
「あら? ユキちゃん……こんな所でおやつですか?」
入り口からやや小走りで入って来たのは、巫女装束の女性。
彼女は、僕に気付くとニヘッと可愛らしく微笑んだ。
「うむぐ……やぁ、和海」
東川和海。
家柄的には鈴木同様鈴守の下っ端であり、一般的には知る人ぞ知るそこそこの名家だ。
東川と言う名前の通り、御鈴山から東へ流れる小川の下流域を管理していた御家である。
文献によると、西川と言う格上の家があったらしいが、野心が出たその家は当主の不幸が続いて断絶。
更に、鈴川と言う一番上も、治水の管理で権力が高く、色々と腐敗してその後不幸が重なり断絶した。
権力は足が早いから、自浄作用が働かないと直ぐに腐敗するんだよね。
現在の東川家は、そこそこに財力があり、鈴森の下で真面目に働いている。
家族構成は父、母、姉、弟の4人家族で、弟の東川光はタケルと一緒にバンドをやっている。
ヒカルはリナと同じで人見知りだが、桴を持つと人が変わった様に情熱的になる。
そんな東川家の長女、カズミは、草履を脱いで部屋に入ると、僕の前に一つの紙切れを出して来た。
「これって……誤送とか何かの間違いじゃないです、よね?」
その紙切れには、僕の注文でゲートギア×12をお届けと言う様な事が書かれており——
「ヘルメットが12個も届いたんですが……ユキちゃんの間違えと言う事は……?」
ちょっと苦笑いしつつ遠慮がちに聞いてくるカズミに、僕は指で輪っかを作って微笑んで見せた。
「うん、大丈夫……全部この部屋に持って来て欲しいかな」
「あ、はい、分かりましたっ。直ぐに届けさせますね!」
カズミは門の外へ走って行った。
倉庫番もね、受け取ったり目録作ったり、場合によっては上にモノの確認をしたりと、割と忙しいんだよねー。
外へ消え行くカズミを見送りつつ、僕はお茶を飲む。
暑い夏の真昼間、良く冷えたお茶はとても美味しい。
◇
僕の名義で届けられたゲートギアを部屋の片隅に積み上げ、序でに運んで貰った小型の冷蔵庫と冷凍庫、氷室から持ってきて貰った氷の塊に扇風機で風を当て、快適空間を演出した。
そんな所で、次にやって来たのは、キリカ。
「紗雪さん、ちょうど良い所に——」
「——今背に隠した物を出すんだ」
「ダメよ、皮ごと丸かじりなんて下品でしょう? 直ぐに用意させます」
そう言ってキリカは、桃の入った大きな箱を持って厨房の方へと消えて行った。じゅるり。
ようやく桃が来たか。
——あぁ。
あれからどれ程の時が経っただろう。
キリカはいつまで経っても戻ってくる事は無かった。僕は判断を間違えたのだ。
「……死ぬかもしれない」
「大袈裟よ」
僕が死んだ目で机に体を預けて外を見ていると、キリカがようやく現れた。
その後ろには、ココネちゃんとその友達がいる。
ココネちゃん達はゲートギアを抱えていた。
昨日ユミが言ってたが、直接合流の打診に来た様である。
そんな事は置いておいて、取り敢えず桃だ。
「もぐもぐ」
「ちょっと、紗雪さん。せめて置いてからにしてください」
教育に悪いです。そう続けるキリカにコクコク頷きつつ桃を齧る。甘美味い。
◇
東冠成産の翠玉を冠する高級桃を堪能した所で、ココネちゃん達の要件に移る。
——アナザーでの合流だ。
タク達とはレベル差や攻略進度差があるので、そこら辺はこの時間で上手く調節する。
キリカに妹の分と合わせてゲートギアを2つ渡し、ゲーム概要などの諸々を説明して僕達の体を見て貰っているので、1時間はアナザーを出来るだろう。
1時間あれば調節は容易い。
アレコレと計画を考えつつ、僕は鍛練島門前広場へと向かった。




