第21話 喪われた命、未来ある命
第七位階上位
「古き身は森の糧、その御霊は母なる大樹の袂へ……いつか来たる目覚めの日まで、安らぎの中にあらん事を——」
墓地のあちこちで、エルフ達のすすり泣く声が聞こえる。
親を喪った子、子を喪った親、恋人を亡くした女。友を亡くした男。
愛すべき人。帰るべき故郷。信仰を捧ぐ大樹。
彼等は一夜にして、その全てを奪われた。
……エルフ達にとって、死別と言う物はそう簡単に訪れる事では無い。彼等には時間が必要だろう。
エルミナの弔辞は続く。
「渇きが貴方を苦しめる時、水精の恵みが貴方を潤おすでしょう。飢えが貴方を蝕む時、土精の愛が貴方を満たすでしょう。永き時が貴方を苛む時、風精の囁きが貴方を癒やすでしょう。……もし貴方が望むなら、貴方は火精に抱かれ、天へと誘われる事でしょう——」
エルフの信仰は聖大樹にあるのだろうが、この言葉を聞くに、精霊神教と類似する点も幾らかあるのだろう。
元よりエルフは精霊を使役する。聖大樹の方が後から入って来たのだと推測される。
それと、エルフ達は全て土葬かと思っていたが……やはり火葬もある様だ。
森の浄化容量が足りない時は、アンデット対策として火葬したりするのだろう。
エルミナ姫殿下の弔辞は思いの外早く終わり、妖精達が作るのに協力した無数の花冠が墓碑に掛けられる。
後は、其々の別れの時間だ。
エルミナは両親の墓の前で泣き崩れ、護衛の騎士達は仲間の墓前で黙祷する。
——鐘の音が響いた。
それは決別の音色。
響く美色は憎しみを溶かし、哀しみを癒して行く。
エイジュとエルミェージュに手を振って、僕はその場を後にした。
……インヴェルノではまだやる事あるんだよね。
◇
建築改築後、整備、清掃ゴーレムの設置、警備兵の配置を終えた。
配置したゴーレム達は、整備清掃ゴーレムがおよそレベル20代。警備兵はレベル30程で、小隊長が35、中隊長が40、軍団長が65で、門番として配置した大型ゴーレム2体が80。
防衛力としては最低限と言えよう。
一応エルフ達も妖精達も戦闘力はあるし、多少の敵ならどうにかなると思われる。多少じゃない敵の方が多いので何とも言えないが。
新たに建築したのは、地下施設だ。
エルフや妖精は基本的に地下を好まない物だが、そこは建築次第である。
太陽と月の純結晶を利用した光源を作り、風の精霊結晶を使って通路に空気の流れを作る。
これで、居心地は良くなっただろう。
件の地下施設は、各家庭の地下室と繋がっており、避難用にインヴェルノ全体に通路が張り巡らされている。
通路はかつての地下墓地を避けて通る様に敷かれ、崖下の仮港へと続いている。
港は現状では漁くらいにしか使えないし、乗り手がいないので漁すら出来ないが、いずれ使う事になるかもしれないのでしっかりと作り込んでおこう。
聖大樹から採取した御霊と苗木は、植林場予定地の中心に植えた。
彼等の信仰が戻る日は、そう遠くは無いだろう。
また、今回の一件によってエルフが僕の支配下に降る事となった。
予定調和である。
◇
続いて向かったのは鉱山街。
ここで、ちょっとした調査と資料の作成を行い、ギルドストレージを経由して資料をスノーに送った。
この街もまぁ色々と問題を抱えているので、それらを解決させつつ、最終的にはティールを僕の支配下に置く事が目的である。
まぁ、それは置いておいて、今回鉱山街に来た目的は、シスターアルメリアの様子見だ。
町の西にある孤児院に向かうと、見えて来たのは大量の荷車。
見覚えのある顔も幾らかある。
その中の一つ、シスターアルメリアは、僕に気付くとニコッと微笑んだ。
「こんにちは、シスター」
「まぁ、ユキさん。ふふ、こんにちは」
アルメリアは僕と会えたからか嬉しそうである。うん。
子供達に懐かれているのは、シュタール子爵家のアスィミさんと、ヴェルツさんの娘のリリー。
それから、一陣の風と草原の風と言う少年パーティーに、僕の知らない少女パーティーが2つ。
見た感じ孤児院の子達とも親しそうだし、孤児院を卒業していった子達なのかもしれない。
それでこの状況は……街を越えてお引っ越しかな?
「それで……何処かに引っ越すのかな?」
「はい、ユキさんの所へ」
「ふむ……」
ユキサン? 誰だ? 僕か。
「成る程」
「はい」
「じゃあ先に準備しておくね」
ニコニコ微笑んでいるアルメリアと、わちゃわちゃやっている子供達に手を振って、僕はその場を後にした。
その後は、王都の屋敷にいるレリアに新しく子供達が来る旨を伝えて準備させたり、冒険者をもてなす用意をしたりして、後をレリアに任せて鍛練島に戻った。
一応オーバーワークのレリアには、新しく人を雇っても良いと言っておいたので、直ぐにでも雇おうとするだろう。




