第8話 鈴宮町の朝
第七位階中位
※第十二節、スタートデスヨ。
朝。
清々しい夏の早朝。いつも通りの軽い雑務を終えた。
天気予報によると、1週間はこのくらいの天気が続くらしい。
僅かな時間でアナザーにログインし、全体のレベリング状況を見たが、予想した数値よりも大きく下回っていた。
獄峰は魔物のリポップ時間が他より長く掛かる設定にされていた様だ。
仕方ないので、機神狩りは今夜から。それまでは各迷宮の魔物を駆逐してレベリングする様に指示を出した。
昼頃には一旦ログイン出来る筈なので、状況によって休憩の時間を決めるとしよう。
さて、それじゃあ——
「アヤ、タク。忘れ物は無いかな?」
「無いよぉっ〜!」
「あっても取りに戻れるだろ」
「それもそうだけど……ゲート・ギアも持っていくんだよね?」
「「当然だ《だよ》!!」」
ニコニコしながらギアを掲げるアヤと、口の端でニヤリと笑いながら小脇に抱えるギアを見せてくるタク。
かく言う僕も、背負ったリュックはまるまると膨れている。
「分かったからしまっといてね。多少傷付いても大丈夫だろうけど」
「はーいっ!」
「おう」
リュックにいそいそと仕舞うアヤと、何故か頭に装着させたタク。
タクはそのままバイクに跨った。
「いやまぁ、確かにヘルメットだけど……」
「だろ?」
ニヤッと笑うタク。
冠成の法律上ヘルメットは何でも良いと言うのは事実だし、ゲート・ギアはしっかりと頭に固定出来て衝撃を緩和出来る様に中も柔らかい。
そしてシールドみたいなのも目元の所だけ覆える様になっている。
あまり実物を見た人もいないし、一見すると普通にヘルメットに見えるのだろう。
「まぁ、良いや……」
「事故らないでねぇ〜」
「そんなに速度出さねぇって」
タクが去年、免許持ってない時からフライングで買って貰ったこのバイクは、ゴツくてデカくて速度もかなり出る。
最近じゃあどこの道路も数キロ毎に充電施設があるから、タクは良く御前通りを制限速度ギリギリまで出して1人ツーリングをしていた。
流石に高速道路以外でかっ飛ばす事はないと思うが……念の為。
「途中から2人乗りになるんだし、気を付けてね?」
「大丈夫だって……あぁ〜、ミサキん家どこ——」
「——鈴宮ニュータウン東」
「マンションの……」
「……桜の311だよ」
「そう、311だ」
思い出した風にポンッと手のひらへ握り拳を乗せているが……いや、良いや。
「それじゃあ、後でな」
「まぁ、気を付けてね?」
「いってらっしゃーい!」
僕はさっさと西へ走って行くバイクを見送った。
……やっぱりちょっと早いなぁ。まだ住宅街なのに。
「おにぃーぇちゃん! ……やっと2人っきりになれたね」
タクが居なくなって直ぐに、アヤが抱き着いてきた。
無駄にキメた可愛い低めな声が僕の耳元で囁かれる。
「はいはい、じゃあどんどん仲間を増やそうか」
「ふはっ、目指すは魔王のおわす地——」
目的地は——
——御鈴山。
「——ユリちゃん家」
……途中寄るけど、魔王がいるのは最終目的地じゃないのね。
と言うかユリちゃんが魔王なのか。
◇
ユリちゃん、チサト、桜庭姉妹と合流し、朝の麗らかな陽気の中を進んでいると、後ろから声をかけられた。
「鈴守くーん!」
ユミだ。
小走りで此方へ来るユミの後ろには、同じく小走りのミユちゃんがいる。
その更に後ろには、ケイとタケルがいた。
竜胆家と飯高家は近い所にあるから分かるけど……何でタケルがいるんだろう?
取り敢えずユミを迎える。
「おはよう、ユミ」
「おはよう!」
「おはようユミ、今日は、その……色々よろしくね?」
僕とユミとチサトが普通に挨拶する一方、ミユの方は。
「おっはよぉー!」
「おはよう御座います、ミユさん」
「おはよう。ほら、離れてっ」
「ふぇーぃ」
アヤに絡みつかれていた。
タケルの方はというと。
「へいへいへーい、たけるんるん!」
「たけるんるんよーおはー!」
「ちょちょい! ギター持ってるから待ってマジ待って!」
「「へいへいへーい」」
「お、おぉぅ……おはよぅ」
桜庭姉妹に集られていた。
桜庭姉妹はお祭り前でテンション高めであり、タケルの周りをグルグル回っている。
図らずも巻き込まれて籠の鳥となった大荷物のケイは、困惑しつつ2人に挨拶した。
これで取り敢えず現地・後発組は揃った。
先発は多分昨日から泊まり掛けで準備してる筈だから、後は他宮からの応援を待つばかりだ。
それで……。
「……タケル、何でいるの?」
「ぅえ、いや、そのぉ……へへ、ギター忘れちゃって……」
……何でウチの男はこうも忘れやすいかな。大雑把に生きてるのかな?
にへへ、とバツが悪そうに笑うタケルに、僕は肩をすくめて見せ、気を付けなよ。とだけ言っておいた。
◇
鈴守神社の第一外門前に差し掛かった所で、ちょうどタクとミサキが大型駐車場から出て来た。
「よぉ、ちょうどだな」
そう言って片手を上げる平常運転のタクの横で、ミサキは頰を朱色に染めている。
飛ばして来たのが良く分かる光景である。
そんなタクに最初に飛び付いたのは、タケルだ。
「タクー! 良かったっ、上までずっとこうなのかと……あん中に男1人はつれぇよぉ」
「あー、分かった分かった鬱陶しい。とっとと上行くぞ」
タクはそう言うと、纏わりつかんとするタケルを剥がし、ミサキの方へ手を伸ばした。
「ほら、ミサキ」
「ぇ、な、なによ?」
若干慌ててタクを見上げるミサキは、相変わらず頰を赤らめており、つり目だから睨んでいる様にも見える。
「荷物。持つぞ」
「え、ぁ……ひ、1人で持てる、から」
「ミサキ、上まで行った事無いだろ? こっからが長いんだよなぁ。取り敢えず、半分くらいは持たせろ」
タクはずいっとミサキへ手を伸ばし、引く気が無い事を示すと、ミサキはおずおずとタクへ荷物を手渡した。
それをタケルは死んだ目で見つめている。
「……ぼそっ《タク爆散しろ》」
「聞こえてるぞボケル」
「だぁれがボケルだっ! 爆発しろっ!!」
「騒がしいわ! お前もケイの荷物くらい持て!」
すると、タケル改めボケルは目を見開いた。
「はっ!? ……飯高さん。今更なんだけど……持とうか?」
「いや、私は大丈夫だよ。鍛えてるからね。タケル君こそギター重いだろう?」
「いやぁ、まぁ、そうなんだけど……なんかごめん」
「ははっ、謝る事は無いさ。タク君もタケル君もありがとう」
タケルよりも男らしいケイは、白い歯を見せてニコッと笑った。
そんなこんなで皆仲良く喋りつつ、僕等は鈴守神社の境内へと足を踏み出した。




