閑話 一歩前へ 二
第三位界下位
門前広場の端でログアウトすると早速来ていたメールを確認する。
「ほーん」
集合地点は南の門前。
犬がいる草原が南らしいので、今いる海岸側は東だ。
集合時間まではもう少しあるようだし……どうにかカバンを開けておかないとな。
荷物の処理に悩みつつ、軽く水分補給なんかをしてログインすると……太陽が目に飛び込んできた。
「う……」
手で視界を覆い、上体を起こす。
「痛つつ……なんだ……?」
若干頭が痛い中辺りを見ると、そこは変わらずログアウトした門前広場。
違う点は周りに何人も倒れているという事。それも全部革鎧、プレイヤーだ。
「これは……まさか……」
……ログアウトしたら体が残る……?
「……マジか」
多分リアルで寝転がってるのと同じように、ログアウト中は体が寝ているのだろう。
道理で頭が痛い訳だ。石の床に頭からダイナミック就寝したらそら痛くもなる。
となると、外でログアウトしたら敵に襲われるし、場合によっては犯罪レッドプレイヤーにやられるリスクもあるか、これは宿がいるな……。
「はぁ……」
唐突な出費の確定にいきなりドッと疲れた気がするが、まぁこれからはお楽しみの戦利品売却。
問題はどこで物を売れるかだが……NPCに聞くのが現状一番なんだろうなぁ。
リアルでも赤の他人に話しかけるのはハードル高いのに……いや、所詮はゲーム!
すごいリアルだが、ゲームのキャラにまで緊張する必要はない筈だ!
◇
自分を鼓舞しつつ話しかけたのは兵士のおっちゃん。
なんだかんだ親切だったおっちゃんに感謝し、近場の店でアイテムの売却を終えた。
魔石や肉なんかはどこでも売れるっぽかったが、毛皮は装備屋とか家具屋みたいなとこでしか売れなくて、スライムの粘液は薬屋で売れた。血はこの町ではあまり需要が無いみたいで、行商人か街の北西側にある冒険者ギルドくらいでしか買い取って貰えない感じだった。
幸いポーションを買うときに、薬屋のおばちゃんが買い取ってくれたので、在庫を抱える事はなかった。後で暇な時にギルドに売りに行くらしい。
幾らになったかは良く分からないが、とりあえず小銭入れの小さな革袋も買って、カバンにしまった。
後はできればポーションを入れるためのポーチなんかも欲しかったが、集合時間までもう少しだったので次回にし、集合場所に向かった。
着いたその場所で待っていたのは、複数のプレイヤーと俺たちのリーダー、コウキ。
β時代に多くのプレイヤーに呼びかけ、巨大チームを率いたマジもんのカリスマだ。
今はまだ無名だが、β時代の実績を聞けばそれだけで靡く層は一定数いる。
俺も最初は精々人が集まって狩りができるからと付いて行ったが、次第にその実力と指揮能力、何より人柄に惚れ込んだ口だ。
β時代の知り合いと話しつつ待つと、程なくして集合時間になった。
コウキが前に出る。
その周りには見知った人が数人。
「あー、こほん……ここに集まった全員、聞いてほしい」
相変わらずよく通る声。
周囲のプレイヤーの視線が集まる。
「俺たちはこれから、南の草原で犬狩りを行なう! 飛び入り参加は大歓迎だ! この後草原に出て、チーム編成をする! だがその前に、まずは俺の部下を紹介させて欲しい!」
そう言って紹介されたメンバーは、βにもいたコウキのリアルでの友人や家族。
その後草原に出て、フレンド登録の後、チーム編成と作戦説明が行われた。
どうやらまずは試しで一時間、狩りをしつつ門からまっすぐ進んでみるようだ。
軽くログアウト時の注意事項など、有益情報を何点か説明された後、早速狩りが始まった。
◇
「ふッ」
リーダーが軽々振り下ろした大剣が、飛びかかる犬の頭部を叩き割る。
サブリーダーの男は正確な投擲で犬を即死ないし行動不能にし、年下の女の子二人も鋭い剣技と棒術で犬を迎撃する。猫語の姐さんも見事な身のこなしで犬を引き付けた。
縦横無尽に動く的へ攻撃を当てられる正確性、確実に即死ないし行動不能にできる攻撃そのものの威力、突っ込んでくる敵を一ミリも臆さず迎え打つ胆力、どれをとっても凄すぎる。
「はぁ……」
これを見ると改めて、自分が逃げ腰で武器を振るっていたと気付かされる。
そりゃ武器に威力も乗らないし、考えてやってないから回避も防御もままならない。
中途半端に戦おうとしているから、攻撃も回避も中途半端。
だからと言って彼らの真似をしようとしても、一朝一夕の付け焼き刃でどうこうなる物でもない。
——日々の努力が大切だ。
武器を振るうならそのリーチや体の動かし方の把握、敵と向き合うなら動きに対応する定石の理解。もしくはそもそもの行動パターンの戦略的な推察。
カリスマ性に憧れるなら、声の出し方や掛け方、人やその行動の覚え方とかもあるか?
兎にも角にも積み重ね。
到底追いつける物では無い。
「まだ足りない、か」
β以来それなりに努力してみたし、そんなに悪くないじゃないかと自惚れていたが、改めて見た実物の背は遥かに遠かった。
その後の戦いは順調に進み、元からいた者や後から参入した者で百近い人数の大規模パーティーによる三時間程度の狩りで、小山程に積み上がる犬を撃破、事前に調べていたらしい各素材の売値を基準に均等分配し、今日のところは解散となった。
明日の午後に再度犬狩りを行なうらしい。
俺もそれなりにやる方だと自負があったが、こうしてパーティーを組むと、それが間違いじゃなかったと実感できる。
なんだかんだ犬は素早いし力も強い。
中高で習うような武術や運動の感覚だけだと、本気で襲い掛かってくる生物の対処は難しいようで、引きつけ役が足を噛まれて転がされ、危うく首に噛みつかれそうになる場面もあれば、それを防いで手に食いつかれている者もいた。
一対一でやってたら良いようにやられてしまう者もいる事だろう。
俺も二体に来られるとキツいので、今日のところは大人しく兎でも狩っていよう。
未熟を受け止めながら街を北上していると、そのメッセージは唐突に響き渡る。
《《【大陸コンティネントクエスト】『文字を習得せよ』を『匿名』がクリアしました》》
《《【大陸コンティネントクエスト】
『文字を習得せよ』
参加条件:文字を理解する事
達成条件:プレイヤー全体で文字を一定数理解する事
失敗条件:無し
達成報酬
参加者報酬
・スキルポイント5P
全体報酬
・新スキル解放・スキル屋の解放》》
「っ!?」
夕暮れの街中でそんな音声が響き、軽く跳び上がった。
「……」
軽く周りを見渡して、何人かのプレイヤーと目があったりしながらも、表示されたメッセージボードを見る。
「文字……?」
……そういえば、店とかに文字っぽい何かがあったが……あれって読める物だったのか。
全然フレーバー的な雰囲気醸す感じの模様とかみたいなもんだと思って見向きもしなかったが……この敵倒してレベル上げるゲームで、そんな事を気にして解読するような連中がいるとはな。
……まぁでも、割とゲーム界隈ではそういうのを作る変態と解読する変態はいるので、そう思えば然程変でも無い。
いや変だけど、おかしくは……あるけど、珍しい事ではない。
「変人ってのはまぁどこにでもいるもんだな」
少々驚きながらも、そこはかとなく愛すべき変人たちを賞賛し、街を北上した。





