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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
恋人と友だちと知り合いと、初めましての微笑みを。
105/223

 このままでいたら、心臓が張り裂けてしまいそうだった。どうしよう。


 ①何か言う ②何か言って ③何も言わないで


 ーここは①を選択するとしましょうー


 コノちゃんの言葉を待っていたら、その前に、俺はもう限界を迎えてしまうに決まっている。

 何か言わなきゃ。何か、言わなきゃ。

 でも何かって何?

 何を言う、コノちゃんとどんな会話をしてたっけ?

 どんどんわからなくなっていく。頭がグルグルする。

「どうして嘘なんか吐いたのさ。コノちゃんの意地悪」

 普段の俺はこんな感じだっただろうか。

 絞り出した言葉に、コノちゃんは渇いた笑い声を漏らした。

「ちょっとした悪戯じゃないの、それくらい許して。代わりにコノも、アナタの嘘を許してあげるから」

 俺の嘘とは、どういうことなのだろう。どうしよう。


 ①訊ねる ②尋ねる ③探る


 ーここは②を選びますよー


 コノちゃんの言っている意味がわからず、俺は問い返す。

「代わりに俺の嘘もって、なんだよそれ」

 俺に帰ってきたコノちゃんの笑みは、先程までの彼女からは考えられないほどに冷めていた。

「遅くまでゲームをやってたって、嘘だよね。その他にも、アナタはコノにいっぱい嘘を吐いているでしょ。コノが知らないとでも思った? 最初に言ったじゃないの、重い彼女だよって、面倒な彼女だなって今更になってフるつもり? ねえ、やっぱりコノじゃ駄目なの?」

 怒っているというよりも、悲しんでいるといった印象を受ける。

 いかに俺がコノちゃんを傷付けてしまっていたかを、思い知らされるようだった。

 あのときは笑ってくれたけど、コノちゃんは気付いていたんだ、嘘だってこと。

 人生最初の彼女なのに、やっぱり俺じゃ無理なのだろうか。どうしよう。


 ①別れる ②別れて ③別れない


 ーここで①を選ばなくてはならないのですー


 これ以上は、コノちゃんを悪戯に傷付けてしまうだけなのだろう。

 まだ好きだったとしても、別れるのがコノちゃんのためだと、そういうこと?

 嫌だ。嫌だけれど、俺には無理だったんだから、コノちゃんを傷付けてしまうだけなんだから。

 どちらを選んでも辛いなんて、どちらを選んでも切ないなんて、何を選んでも気まずいなんて。

 友だちで限界なくせに、恋人なんて作るのは、俺にはどうにもオーバーだったか。

「駄目なわけない。俺の特別は、いつだってコノちゃんだった。ちゃんと彼女を幸せに出来る男になるから、修行を積むから、それまで待っていてはもらえませんか? そのときにもう一度、付き合ってはもらえませんか? 俺も頑張るから、それまで……友だちとして応援してもらえないかな」

 何も言ってくれないコノちゃんに、ドキドキして、もう泣きそうなくらいだった。

 これさえ断られてしまったなら、俺はもうどうしたら良いというのだろうか。

 今は力不足なのかもしれないけれど、そのままコノちゃんとは友だちでいようなんて、俺には諦められない耐えられない。

 友だちだって数少ない存在なのだし、大切ではあるのだけれど、俺にとってのコノちゃんはそれだけじゃない。

 大切なだけじゃなくて、大切の中でも特別な存在なんだよ。

「アナタが素敵な男性になるまで、コノはだれとも付き合わず、ただ待っていなくてはいけないの? ましてや友だちとはいえ、元カノの自分磨きのサポートなんてしなくちゃいけないの?」

 暫く考えていたが、やがてコノちゃんはそう返してくれた。どうしよう。


 ①命令 ②お願い ③別れを


 ーここは②を選びますー


 コノちゃんには少しも悪いところがなくて、それなのに、俺のために待っていろなんて勝手が過ぎるだろう。

 そんなことを言っても、だからってコノちゃんと別れるのは耐えられない。

 重い彼女だとコノちゃんは言うけれど、重い彼氏なのは俺だってそうなのかもしれない。

「お願い出来ないかな。俺にはコノちゃんが必要だから……」

 必死に頼んでいると、それが伝わってくれたのだろうか。

「コノが必要、か。そう言われちゃうと、断ろうにも断れなくなっちゃうから、ズルいものだよね」

 そう言ってコノちゃんが俺のことを抱き締めてくれた。

 ハグといった感じのもので、一瞬の後に離れてしまった温もりではあったが、俺にとってはなんとも幸せなものである。

「それは嘘じゃないんだよね。本当にコノのこと、迎えに来てくれるの? コノの王子様になってくれるんだよね?」

 不安そうに尋ねては来るけれど、コノちゃんはどうやら俺の言葉を信じてくれたようだ。表情はとても嬉しそう。

 嘘を見抜くスキルでも持っているのだろうか。

 俺が本気で言ったら、コノちゃんはすぐにわかってくれた。本気だってこと、信じてくれた。

 こんな良い子が俺のために隣にいてくれるのだ、すぐにそれに相応しい男にならないと。

「それじゃあ、もう時間も遅いし、コノは急いで帰るね」

 笑顔で手を振って、コノちゃんは走り去って行った。どうしよう。


 ①追い掛ける ②呼び止める ③帰る


 ーここは間違っても③以外を選ばないようにー


 最初に抱えていた、リア充になるという誓いからかなり進歩した、コノちゃんを幸せにするという誓い。

 誓いを新たに胸に刻み直し、俺は家への道を歩いた。

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