ミ
このままでいたら、心臓が張り裂けてしまいそうだった。どうしよう。
①何か言う ②何か言って ③何も言わないで
ーここは①を選択するとしましょうー
コノちゃんの言葉を待っていたら、その前に、俺はもう限界を迎えてしまうに決まっている。
何か言わなきゃ。何か、言わなきゃ。
でも何かって何?
何を言う、コノちゃんとどんな会話をしてたっけ?
どんどんわからなくなっていく。頭がグルグルする。
「どうして嘘なんか吐いたのさ。コノちゃんの意地悪」
普段の俺はこんな感じだっただろうか。
絞り出した言葉に、コノちゃんは渇いた笑い声を漏らした。
「ちょっとした悪戯じゃないの、それくらい許して。代わりにコノも、アナタの嘘を許してあげるから」
俺の嘘とは、どういうことなのだろう。どうしよう。
①訊ねる ②尋ねる ③探る
ーここは②を選びますよー
コノちゃんの言っている意味がわからず、俺は問い返す。
「代わりに俺の嘘もって、なんだよそれ」
俺に帰ってきたコノちゃんの笑みは、先程までの彼女からは考えられないほどに冷めていた。
「遅くまでゲームをやってたって、嘘だよね。その他にも、アナタはコノにいっぱい嘘を吐いているでしょ。コノが知らないとでも思った? 最初に言ったじゃないの、重い彼女だよって、面倒な彼女だなって今更になってフるつもり? ねえ、やっぱりコノじゃ駄目なの?」
怒っているというよりも、悲しんでいるといった印象を受ける。
いかに俺がコノちゃんを傷付けてしまっていたかを、思い知らされるようだった。
あのときは笑ってくれたけど、コノちゃんは気付いていたんだ、嘘だってこと。
人生最初の彼女なのに、やっぱり俺じゃ無理なのだろうか。どうしよう。
①別れる ②別れて ③別れない
ーここで①を選ばなくてはならないのですー
これ以上は、コノちゃんを悪戯に傷付けてしまうだけなのだろう。
まだ好きだったとしても、別れるのがコノちゃんのためだと、そういうこと?
嫌だ。嫌だけれど、俺には無理だったんだから、コノちゃんを傷付けてしまうだけなんだから。
どちらを選んでも辛いなんて、どちらを選んでも切ないなんて、何を選んでも気まずいなんて。
友だちで限界なくせに、恋人なんて作るのは、俺にはどうにもオーバーだったか。
「駄目なわけない。俺の特別は、いつだってコノちゃんだった。ちゃんと彼女を幸せに出来る男になるから、修行を積むから、それまで待っていてはもらえませんか? そのときにもう一度、付き合ってはもらえませんか? 俺も頑張るから、それまで……友だちとして応援してもらえないかな」
何も言ってくれないコノちゃんに、ドキドキして、もう泣きそうなくらいだった。
これさえ断られてしまったなら、俺はもうどうしたら良いというのだろうか。
今は力不足なのかもしれないけれど、そのままコノちゃんとは友だちでいようなんて、俺には諦められない耐えられない。
友だちだって数少ない存在なのだし、大切ではあるのだけれど、俺にとってのコノちゃんはそれだけじゃない。
大切なだけじゃなくて、大切の中でも特別な存在なんだよ。
「アナタが素敵な男性になるまで、コノはだれとも付き合わず、ただ待っていなくてはいけないの? ましてや友だちとはいえ、元カノの自分磨きのサポートなんてしなくちゃいけないの?」
暫く考えていたが、やがてコノちゃんはそう返してくれた。どうしよう。
①命令 ②お願い ③別れを
ーここは②を選びますー
コノちゃんには少しも悪いところがなくて、それなのに、俺のために待っていろなんて勝手が過ぎるだろう。
そんなことを言っても、だからってコノちゃんと別れるのは耐えられない。
重い彼女だとコノちゃんは言うけれど、重い彼氏なのは俺だってそうなのかもしれない。
「お願い出来ないかな。俺にはコノちゃんが必要だから……」
必死に頼んでいると、それが伝わってくれたのだろうか。
「コノが必要、か。そう言われちゃうと、断ろうにも断れなくなっちゃうから、ズルいものだよね」
そう言ってコノちゃんが俺のことを抱き締めてくれた。
ハグといった感じのもので、一瞬の後に離れてしまった温もりではあったが、俺にとってはなんとも幸せなものである。
「それは嘘じゃないんだよね。本当にコノのこと、迎えに来てくれるの? コノの王子様になってくれるんだよね?」
不安そうに尋ねては来るけれど、コノちゃんはどうやら俺の言葉を信じてくれたようだ。表情はとても嬉しそう。
嘘を見抜くスキルでも持っているのだろうか。
俺が本気で言ったら、コノちゃんはすぐにわかってくれた。本気だってこと、信じてくれた。
こんな良い子が俺のために隣にいてくれるのだ、すぐにそれに相応しい男にならないと。
「それじゃあ、もう時間も遅いし、コノは急いで帰るね」
笑顔で手を振って、コノちゃんは走り去って行った。どうしよう。
①追い掛ける ②呼び止める ③帰る
ーここは間違っても③以外を選ばないようにー
最初に抱えていた、リア充になるという誓いからかなり進歩した、コノちゃんを幸せにするという誓い。
誓いを新たに胸に刻み直し、俺は家への道を歩いた。




