マ
俺にはある程度心を開いてくれているだろうし、雪乃さんと仲良くしているようにも見えた。
人見知りで引っ込み思案なコノちゃんでも、話し掛けるのを躊躇わないでいてくれるはず。どうしよう。
①誘う ②拒否る ③待つ
ーここも③になりましょうかー
話し掛けて来ないということは、特に用がないということなのだろう。
邪魔しちゃ悪いもんね。うん、これで、良いんだよね。
「うんうん、なんか、どの教科も満点取れるような気がするわ。ありがとう。もしかしたら、次のテストは、私が学年二位かもしれないわね」
結局、コノちゃんは入ってこないままだったが、時間が遅いということで、雪乃さんの区切りが良いところで解散となった。
どの教科も満点って、どういうことだよ。
万が一そんな人がいたとしても、満点だというのに、二位というのはどういうことなのさ。
他にも満点がいたって、同列一位になるに決まっているだろ。
はて、雪乃さんにはそんな発想はないのだろうか……。どうしよう。
①ツッコむ ②スルー ③乗る
ーここは①を選びますよー
そこまでボケられてしまったら、ツッコまなければいけないようじゃないか。
「どの教科って、勉強すらしていない教科もあるでしょう? 勉強した教科だって、満点なんて無理ですし。そもそも、全教科満点なのに二位って、一位は何点なんですか。何者です?」
一通り気になるところをツッコんで、疲れたと汗を拭う仕草をする。
「あぁ、そうだっけ? 全教科やった気になってたけど、何をやってないんだっけ? 忘れてたわ。でも、今回はわかった感あるから、満点も取れると思うんだけどなぁ」
諦めた国語も、そもそもやっていないいくつかの教科も、存在自体を忘れていたということか。
その前に、今日一緒にやったのは数学と英語だけなんだけど、他は全部忘れていたのかな?
テストの存在を今日になって知り、何教科あるのかも理解していない人が、満点を取ろうだなんて不可能だと思うんだけど。
それでどうしてこんなにも自信満々にドヤ顔が出来るのか、甚だ謎である。
「てか、一位ってあんたじゃないの? どれも百二十点くらい、むしろ二百点くらい? とにかく、私には考えられないくらい、高得点を取ってるんでしょ?」
「はぁっ?」
「はははっ」
意味のわからない雪乃さんの発言に、思わず俺は素っ頓狂な声が出てしまったし、コノちゃんだって笑ってしまっていた。
この人、俺のことを学年トップだと思っていたんだ……平均にも届くか届かないかなのに。
むしろってなんだよ、どういうことやねん。
満点が百点だということは理解しているみたいだけれど、満点の満が満ちる、つまり最大だってことは理解していないのだろう。
満点の上が存在していると思っているようだ。満点なのに。
二百点満点とかだとしても、百点のことを満点というと思っているんだろうな。満=百じゃないから。
「前回の私が、一番高かった数学が三十八点だったから、あんたは私の何倍取ってることになるんだろ。三倍くらい?」
一番高くて三十八点だったんだ。どうしてそういうこと、普通に言えちゃうんだろう。
自分の点数が悪いのはわかっているから、俺なら人に教えようとは思わないけどね。どうしよう。
①貶す ②ツッコむ ③スルー
ーツッコまないでどうします ②ですよー
そしてまたツッコミ待ちみたいな点数を言っているし。
算数だって駄目そうなのに、逆になんで数学で点数を取れたんだよ。
「そんなに取れるわけないでしょう。二倍だって取れていませんよ」
三十八の二倍は七十六。
コノちゃんも俺と同レベルだし、雪乃さんは三十八点が判明しているから、七十六点すら取れていないのだっさーとなることはない。
実際の点数は六十四点だったのだが、七十五点まで可能性が広がるのだから、高く見られることもあろう。
こういう誤魔化し方をするんだよ、普通ね。ピンポイントで点数は言わないから。
「えぇーっ? あ、いつもの自虐ね、わかったわかった。もう、ビックリさせないで頂戴よ。本当は三倍よりも上だけど、頭が良いから頭の良いのを隠して、そのふりをしているってことでしょ? ふっふーん、私にはわかっちゃうんだから」
本当のことを言っているんだけど、それを謙遜だと勝手に思い込んで、自虐だとか言い出す例のあれだね。
三倍よりも上って、本当は何点を取ってると思っているんだろう。
頭が良いから頭の良いのを隠してというのは、能ある鷹は爪を隠す的なことなのかな。
意味のわからない部分が多くて、会話がきちんと成立しているかさえ怪しいところだ。
「そうですよ。彼、本当はとっても頭が良いんです。同じクラスだから、コノは知っているんです」
「そっか、やっぱりそうだったのね。私の目は欺けないってことよ」
あ、コノちゃん、遊びやがったな。どうしよう。
①遊ぶ ②ツッコむ ③帰る
ーここもちゃんと②を選びますー
雪乃さんがあまりに素直に信じてくれるものだから、驚いてくれるものだから、遊びたくなる気持ちもわかる。
だけれどもコノちゃん、それはないんじゃないだろうか。
「もう、何を言っているのさ。人のテスト結果を勝手に見たくせに、だから知っているくせに、なんでそういうこと言うの。嘘は駄目だよ、コノちゃん?」
両ほっぺをぎゅーっと抓りながら、コノちゃんに言うのだけれど、全くの効果なしだった。
手を離した途端に、舌をペロッと出す。
最初はテヘペロで謝っているのだと思ったが、そうじゃなくて、あっかんべーだったんだ。
「本人も認めました通り、コノはテスト結果を見ているのですよ。そして彼の嘘を暴いたのです。ですから、彼に勉強を教われているので、満点も夢ではないと思います。それでは、コノたちはもう帰りますね」
コノちゃんに言われて、ドヤ顔をしているのだから、彼女は遊ばれているとは少しも思っていないんだろうね。
悪戯っぽいコノちゃんの笑みに、何を思ったことだろう。どうしよう。
①訂正する ②怒る ③帰ろう
ーここは③を選びますよー
もう疲れたし、雪乃さんと一緒にいる限りは、ツッコみ続けなければならないのだから体力が持たない。
コノちゃんまでそっちに付くものだしさ。
「そうだね、帰ろうか。それでは雪乃さん、さようなら。テスト勉強、自分でも頑張るんですよ」
二人で礼をして、雪乃さんの家が見えなくなるくらい歩いたところで、コノちゃんが俺の耳元に口を寄せてきた。
ドキドキする……。
吐息は掛かるけれど、彼女は何も言って来なかった。




