深夜の制裁
見直してたら少し遅くなりました。
俺は目の前のウィンドウにサクラと入力した。新しく仲間にしたワイルドホースの名前だ。由来は桜肉から。そういえば競走馬にもサクラってつく名前が多いんだよな。
ワイルドホースを仲間にしようと考えたのは移動速度の問題からだ。魔物達が素早くなっていくのに比べて俺の速度はあまり変わっていない。長距離の移動で俺の速度に合わせてもらうのは大変だろうなとそう考えたんだ。
ワイルドホースを仲間にするのは簡単だった。三田島を倒したときの戦利品の中にあった人参を一本投げてやったら仲間になった。人参があってくれて助かった。なくても他の野菜でなんとでもなったとは思うけど。
それにしても仲間にするのが簡単だったな。最初の頃からこうだったら楽だったのに。まあ、苦労した分ララビィやレイドッグには特に思い入れがある。
ララビィ……。考えたらつらくなるな、やめておこう。
とにかく、ワイルドホースは掴まえたんだ。早速乗ってみよう。
「サクラ」
名前を呼ぶと俺の前にやってくるサクラ。近くで見ると結構大きい。
乗ろうとしてみたけど、鞍がないのでどうやって乗ったらいいのかがわからない。足を思いっきりあげたり跳んでみたりといろいろ試したけど1人では乗れそうにない。手伝ってもらうか。
「ゴブ、手伝ってくれ」
「ガフッ」
ゴブにサクラの横に立ってもらって、両手で足場を作ってもらう。そこに足をかけて身体を持ち上げた後、サクラの胴体を跨いで何とか乗ることが出来た。
が、今度は手綱がないのでどこを掴めばいいのかがわからない。……仕方ないこのまま歩いてみよう。
「サクラ、ゆっくり歩いてくれ」
俺の指示どおりゆっくりと歩き出すサクラ。うん、この速度なら問題なく乗れる。
次はもっと速度を出してもらおう。
「サクラ、軽く走ってみてくれ」
サクラの速度が一気に上がり、それに合わせて胴体も大きく揺れる。とてもじゃないけどバランスが取れない。
結局、10歩も走らずに俺は落馬してしまった。
これは乗りこなすのに相当時間がかかりそうだ。とりあえず今日一日練習してみて、駄目だったらしょうがないから走って移動だな。
そうして1日頑張った結果、俺は何も上達しなかったが、変わりにサクラが揺れを抑えて走れるようになった。
名 前:サクラ
種 族:ワイルドホース6(4)
スキル:戦闘1 人馬一体10(NEW)
多分この人馬一体ってスキルのおかげで乗りやすくなったんだろうな。とにかくこれで明日から狩場を移せる。長時間の移動に備えて今日は早く寝よう。
と思って早く寝たのに招いていない客がやって来た。
招かざる客は様子を窺っているのかゆっくりとしたスピードで俺達の方へと近づいてきている。気づけたのはモリーが俺の鼻に噛み付いて起こしてくれたからだ。他の皆もコウとモリーが起こして回っていた。
「……ほんと……ぴーけー……。ちがって……になら……」
「……わたし……はずが……」
「……だぐち……。……けいじば……なを……」
何か喋ってるけど声が小さくて聞き取ることが出来ない。ただ、こんな時間にやってきたのだ、友好的ではないはず。ぴーけーって聞こえたしな。
深夜の襲撃者に一番近い場所に寝ていたのはゴブだった。種族がゴブリンだから奇襲は得意だろう。俺がゴブリンに始めてあった時も奇襲だった。
後は俺の近くで寝ていたミツバも奇襲に向かわせよう。俺はミツバを叩いた後、指で襲撃者達のほうを指差す。ミツバならこれでわかってくれるはず。
ゴブの槍の間合いまで襲撃者が近づくのを待って仕掛ける!
「ゴブ! ミツバ! リザルド、火だ」
「ちっ! 気付かれ――ぎゃあ!」
「え!? なに!? いたっ!? ……痛いっ、痛いよおっ!?」
ゴブの槍が襲撃者の1人を貫いた。それと同時にミツバの針も誰かに刺さったみたいだ。
リザルドが焚き火跡に火をつける。緊急時、火吹きですぐに着火が出来るのは助かる。
焚き火の明かりで確認すると襲撃者は5人。男が刀、剣、斧の3人。女は杖持ち2人。剣持ちの男は腹から血を流しながらこちらを睨んでいて、女の1人は肩を押さえて痛いと叫びながら地面を転がっている。
仕留める事は出来なかったが戦力は削れた、奇襲は成功だ。
「こんな時間に押し掛けるなんて、何考えてるんだ?」
「ここにPKがいるって聞いたから倒しに来た」
やはり予想どおりだ。
「なぜ俺を狙う」
「お前が悪人だからさ。それに、お前を倒せば周りから一目置かれるようになる。そうすれば俺たちもトッププレイヤーの仲間入りだ」
「思った以上にくだらないな。見逃してやるから帰れ」
「はっ! 〈魔物使い〉が何を偉そうにしてやがる! まずはご自慢の魔物を1匹ずつ狩ってやるから、そこで大人しく見ていやがれ!」
こいつ等も俺の家族を傷つけるつもりらしい。そうゆうことなら容赦は出来ない。
(そうだ。家族を害するやつらにはこの包丁をお見舞いしてやれ)
「皆、返り討ちにしてやれ。余裕があったら生け捕りにしろ」
そう告げて、俺もハンモックから下りてサクラの側へ。戦闘スキルが1しかないから守ってやらないと危ない。
そうしているとカーも俺の近くに下りて来た。そしてなぜか不安定な端のほうにとまった。そういえば鳥って夜目が利かないんだっけ。とまる場所も間違えるくらいだ、これじゃ戦えないよな。
戦場に目を向けるとやはりこっちが押していた。地面を転がっていた女は既に糸で拘束され、他の襲撃者たちも満身創痍だ。
ん? さっき、腹を槍で貫かれた男が怪我人とは思えない動きをしている。よく見てみると、他の襲撃者も酷い怪我はその場で治っていっている。
……回復してるヤツがいるのか。襲撃者をもう一度よく見てみると無事なほうの女だけ前線に出ていない。多分あいつだな。
俺はコウとモリーとタランを呼んだ。3匹とも前線には出ないから抜けてもそこまで問題ではない。
「コウ、モリー。俺が合図したらタランの糸をあの女にくっつけて来い。くっつけたら鳴いて知らせてくれ。タランは2匹が鳴いたらくっつけた糸を目印に拘束用の糸を吐いてくれ」
3匹に指示を出し、俺は背負い袋から水の入った鍋を取り出した。俺の動きを見てれば何をするか丸わかりかも知れないけど、あいつらにこっちを見る余裕はない。
鍋に入った水を焚き火にぶっ掛けた。瞬間、周囲は暗闇に包まれる。
「な、なんだ!?」
「くそっ! 火を消しやがった!」
「行け! コウ、モリー」
コウとモリーが急な暗闇に混乱している襲撃者達の方へと飛んでいく。コウとモリーとタラン以外の魔物達も混乱しているようだけど、まあ問題はない。
「……なんか付けられたっ!?」
「「キー」」
コウとモリーの鳴き声だ。予定通りタランが拘束糸を吐く。
「え!? ちょっン!? ンー、ンーーー!!」
口がふさがったらしい。あいつ等の事だから首の付け根にでもくっつけたんだろうな。
「アミ!? どうした、アミ!! 大丈夫か!!」
「ンーーー!!」
なにやら男が1人騒ぎ出した。仲間思いなのかあるいは恋人同士なのかは知らないけどこれを利用しない手はない。
「タラン、騒いでる声のほうに拘束糸だ」
小声でそう言えば、すぐ側から糸を吐き出す音が聞こえた。
「アミ、今助けンー!? ン、ンーー!!」
あいつも口がふさがったのか。傍から聞いてると間抜けな台詞だな。
その後は目が暗闇になれる前にコウとモリーが敵の位置を鳴いて知らせ、全員拘束に成功した。コウに少し糸がついてしまって上手く飛べなくなっていたけど、水で洗い流してやったら元通り飛べるようになった。
さて、後処理の時間だ。
まずは背負い袋の位置を聞き出す。最初は抵抗されたがアミと呼ばれたプレイヤーに包丁を当てると、男の1人が教えてくれた。
背負い袋をひっくり返して中身を全部だし、食料だけ自分の背負い袋に移す。回復薬も欲しかったんだけど、治癒術があるから持ち歩いていないらしい。他はいらないので適当に袋に戻す。
次は――
(次は制裁だ。俺達を狙った事、後悔させてやれ!)
そうだ、制裁の時間だ。とりあえずアミと呼ばれた女はコウに血を吸わせて楽に終わらせた。
さっき背負い袋の位置を聞くのに使ったからな。ここで更に苦しめるのは公正じゃあない。それに、女性を乱暴に扱ったと知られると母に怒られてしまう。
そういった理由でもう1人の女性もコウに血を吸わせた。あれなら痛みとか感じず眠るような感じだからな。コウしか吸ってないのはモリーが拒否したからだ。
「お前ェ!! 何でアミを殺したぁ!! 背負い袋の場所は教えたのにっ!!」
「苦しくないようにしてやっただろうが」
「どうゆうことだっ!!」
「お前達は苦しんで死ぬって事だ」
制裁の事を簡単に説明すると、ゆっくりと時間をかけて心臓を一突き、だ。
手に残る肉を割く感触で吐きそうだ。
こんな残酷なことを自分がやったなんて――
(家族を狙った罰を与えたんだ。残酷なもんか)
そうだ、家族を狙うあいつ等が全て悪いんだ。残酷なはずがない。
(そう、それでいいんだ)
なにかモヤモヤしたものを感じながら、俺は寝直すことにした。
同シリーズ
【異世界のお節介な道化師】
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もよろしくお願いします。




