西の門番
「わんっ! わんわんっ!」
レイドッグに吠えられて目が覚めた。寝ている間に結構な汗をかいたみたいで、張り付いた服が気持ち悪い。今すぐ川まで戻って水浴びしに行きたい。
「くぅ~ん」
「わっ!? レイドッグ、やめろっ」
レイドッグが俺の顔を舐める。鳴き声から心配されているような、慰められているような感じだ。寝ている間に何かあったのだろうか。
あたりを見渡してもおかしいところは見当たらない。みんなこっちを眺めて、俺が起きるのを待っていたみたいだ。
ああ、今日は町に行くんだった。きっとみんなも楽しみなんだろうな。……ララビィの仇を討ちにいけるのだから。
そうと決まれば善は急げ。とっとと準備をしてしまおう。
日が真上にさしかかろうとした頃、俺たちは町の外壁が見える辺りまで来ていた。森が右手側に見えるから西側の門のはずだ。
更に近づくと門の前に立つ2人の男と、門から離れたところに沢山のテントが見える。なぜこんな町の近くにテント? とも思ったけどそっちのほうには用はない。
門に近づくと男の1人がこちらを手で制してきた。
「そこの男、止まれ!!」
どうやら門番らしい。南の門にはいなかったのに……って、あれはゲームだ。現実なら門番が立っていても不思議じゃないか。
わざわざ問題を起こす気はない。とりあえず門番の指示に従っておこう。
「その魔物はなんだ!」
「見てわからないのか? 俺の仲間に決まってるだろう」
「魔物が仲間だと? まだ使役のスキルは見つかっていないはずだ。嘘をつくな!」
そうなのか? だったらどうして俺はスキルを手に入れられたんだろう。思い当たるのはララビィを強引に撫でたことぐらいだけど……。
余計なことを考えていたら今まで黙っていたもう1人の男がなにやら耳打ちを始めた。なんだか不穏な雰囲気だな。
「お前、名前はなんだ!」
「人に名前を聞くときはまず自分から名乗るもんだと思うが。まあいい、俺の名前はダイチだ」
「ダイチ。やはり久瀬 大地か!!」
ん? 何でこいつらは俺の名前を知ってるんだ? 2人とも顔に見覚えは無い。初対面のはずだ。
耳打ちしたほうの男がテントのほうへと走っていった。なんだろう、嫌な予感がする。
「お前を拘束させてもらう!」
「拘束だと? なぜだ!」
「お前がプレイヤーキラーだからだ!」
プレイヤーキラー? 言葉をそのまま受け取るならプレイヤーを殺した者ってことか……まさか甘沢のことか!?
「あれは――」
「問答無用だ!」
背中にくくっていた槍を取った男は、そのままこちらに突撃してきた。咄嗟のことに俺は動くことが出来ない。しかし、偶然かそれともわざとなのか穂先は包丁に当たり身体には届いていなかった。
「包丁だと!? ふざけているのか!!」
「……なんだ? ――っ、応戦するぞ!!」
すぐさま魔物達が攻撃を開始した。カーに視界をふさがれ、タランの糸に体の動きを制限され、そしてリザルドが尻尾の一撃で相手を吹き飛ばす。相手が1人なら俺の仲間達の敵じゃあない。
「くそっ、あいつはまだか――」
「おいおい、マジで魔物が味方してんじゃん」
「助っ人参上。なんつってな」
いつの間にか10人くらいに囲まれている。話しぶりからして槍の男の仲間なんだろう、さっきの耳打ちの男もいる。あいつがテントに向かっていったのはこのためだったのか、厄介なことになったな。
それからの戦い、こちらは防戦一方になった。受けきれない攻撃をカーやコウとモリーが撹乱してくれているから何とか戦えているが、正直そろそろきつい。包囲網から抜け出そうにも攻めに転じれば誰かがやられる。くそっ、これじゃあどうしようもないじゃないか!!
(仲間を囮にすれば突破できる。甘沢達に復讐するためにも生き残らないといけないんじゃないか?)
あいつ等を囮にすなんて……でも、それ以外にここを切り抜ける方法は……。
「君達、何をしてるんですか?」
囲いの外から低い男と思われる声が響いた。その瞬間、俺を包囲していた全員の意識がそちらに向いたのがわかった。しめた、今なら突破できるかもしれない。
「チッ! もう戻ってきたのか」
「何をしてるのか聞いているんです」
俺は包丁を腰ダメに両手で構え、皆に目で合図を送った。皆も全力で走り出せるような姿勢をとる。
「噂のPKを掴まえようとしてんだよ。こいつを掴まえりゃああんた達にでかい顔されなくて済むだろうからな」
そして、その場から緊張した空気が消えた瞬間に、俺は後から来た男の声とは逆の方へ一気に駆け出した。
「ん? ――なっ!? てめぇ!!」
進路上にいる斧を持った男に気づかれてしまった。俺を止めようと男が斧を振り上げる姿はまるで分厚い壁のようだ。
それでも、今を逃せばもう逃げるチャンスは無い。そう思って俺は速度を落とすことなく肩から相手の胸にぶつかった。
左手が包丁から離れ操られているかのように右手が動く。その右手に握られた包丁は相手の右胸、心臓の辺りを突き刺した。
斧を振り上げたままの男の体が血しぶきを上げながらゆっくりと横に倒れていく。自分でもなぜこうなったのかわからなくて足が止まり体が前に崩れる。でも、今倒れるわけにはいかない。俺は強引に右脚を前に出して地面を踏んだ。
一歩が出れば後は問題なく走ることが出来た。
あいつ等もようやく正気を取り戻したのか。無事に囲いを突破して、走り続ける俺に混乱と静止の声が聞こえる。
「おい! 大丈夫か!」
「くそっ! 止まれPK野郎!」
「きみ! 待ちなさい!」
いまさら止まるわけがない。俺は皆の無事な姿を視界の端に確認して、そのまま森へ向けて走り続けた。
同シリーズ
【異世界のお節介な道化師】
【小さきマッドエンジニア】
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