老騎士の忠告
はぁっ……はぁっ……。もう走れない。
足を止めて、仰向けに地面に倒れこむ。青空に浮かぶ雲が視界に広がる。草を揺らす風が熱い体を冷ましてくれる。
俺たちは全速力で町と森の中間ぐらいまで走り続けた。足の感覚なんて大分前からなくなっている。皆ももうバテバテだ。俺の近くで息を荒くして動けないみたいだ。
とりあえず、ここまでくればもう追ってくることも無いと思う。今日はもうここで野宿にしよう。
しかし、俺が三田島を殺した事がすべてのプレイヤーに知られているみたいだ。さっきのプレイヤーも死んだだろうからそれも知られているんだろうな。
きっとすべての門が警戒されてる。どうやって町に入ろう……。
「なかなか足が速いですね」
先ほど聞いた声に急いで立ち上がり、右手を胸の前に構え辺りを窺う。空が茜色に染まっている。いつの間にか結構な時間が経っていたみたいだ。
「そんなに警戒しないでください。話をしに来ただけですから」
正面に壮年の男が1人で立っていた。獲物は槍、背中に大きな盾を背負っている。
「お前達に話すことなど無い!」
「ボクはさっきの男達の仲間ではありませんよ」
落ち着いた物腰の男。この声はさっき、男達に何をしてるのかと聞いていた男の声だった。確かに仲良しとゆうわけじゃ無さそうだったけど、知り合いみたいだった。まだ信用するわけにはいかない。
「ふむ。ではこれでどうでしょう?」
肩に背負っていた背負い袋を下ろしその中に槍と盾をしまってこちらに投げてよこした。少しは信用してもよさそうだ。
「一応、俺の仲間に囲ませるぞ」
「もちろん構いません」
男がその場に座ったのを見て俺も警戒を解いた。あの体勢なら、俺を襲う前に皆が何とかしてくれる。
「それで、何を聞きたい?」
「その前に、まずは自己紹介といきましょう。ボクはマトバ、ギルド【老練なる騎士団】のマスターをしています。あなたは?」
「俺のことは知っているだろう?」
「もちろん知っています。ですがこちらが自己紹介をしたんです、返すのが礼儀だと思いますよ」
「……俺の名前はダイチだ」
この男――マトバとは会話がしやすいな。俺の捻くれた返答でも気にせず返してくれる。
「では、本題に入りましょう。なぜ、PKなんてしたんですか?」
PK? プレイヤーキラーの略か。
「仲間を殺されたからだ」
「仲間――魔物のことですね」
「そうだ。あいつ等の撃った矢から俺をかばってララビィは死んだ」
「生き返りはしなかったのですか?」
生き返る? ララビィが? もう一度ララビィと過ごせるのか!?
「そんなことができるのか!? 方法は? 早く教えろ!!」
「落ち着いてください! ……βテストの時の話ですが従魔は死ぬと消えてしまいますが、時間が経過する事で勝手に生き返るというシステムだったそうです」
「βテスト?」
「発売前にゲームに問題が無いかきちんと遊べるか、プレイヤーを募集してテストするんです」
なんだ、ゲームでの話か。それも正式版ですらない。もしかしたらって、期待してしまった。
「そうか。だったらそれはゲームでしか出来ないんだろう」
「なぜですか? 試してみれば――」
「ララビィは死体が残った」
「なっ!? ホントですか?」
「疑うのか」
嘘なはずがない。今も、背負い袋の中で眠っているんだから。
「……そんな……他にも……」
マトバがなにやらぶつぶつと喋りだした。ゲームと違うことがそんなに驚くことなのか?
「もういいか?」
「いえ! 後二つほど聞きたいのですが」
「さっさとしろ」
「なぜ、彼等を襲ったのですか?」
襲った? なんの話だろう?
「彼等とは誰だ?」
「君の仲間、ララビィを殺したプレイヤー達のことです。君から襲わなければララビィも死ぬことは無かったんじゃないですか?」
甘沢達の事か。でも、何で俺が襲ったことになってるんだ?
「先に攻撃してきたのはあいつ等の方だ」
「そうなんですか?」
「あいつ等が奇襲して撃った矢がララビィの命を奪った」
「そうだったんですか。なぜ彼等は君に奇襲を?」
「さっきから聞いてばかりだな。少しは自分で考えろ」
「すみません。ボクが聞いた話とは真逆だったもので」
「まあいい。……あいつは、甘沢は俺を目の敵にしていた」
「甘沢……知り合いなんですか?」
「そうだ、クラスメートだった」
「そうですか。では、もう一つ。先ほど男性プレイヤーの胸を狙ったのはなぜですか」
最後に立ちふさがった斧の男のことか。あの時、なぜ胸を刺したのかなんて俺にもわからない。右手が勝手に動いたとしか言いようが無いんだから。
「あいつか。あいつはどうなった? やはり死んでしまったか?」
「薬があったので一命は取り留めました」
「そうか、邪魔さえしなければああなることもなかっただろうに」
「……悪い人間じゃなさそうですね」
「なに?」
「それじゃあ、ボクはこれで帰ります。質問に答えてくれたお礼に一つ忠告を。いくつかのグループがあなたとその仲間を狙っています。あの程度の奴等に負けるようじゃ、仲間を守ることは出来ませんよ?」
マトバは先ほど投げてよこした背負い袋を拾うと、そのまま立ち去っていった。1人で納得していたようだったけど、本当に話を聞きたいだけだったんだな。結局攻撃してくることは無く、逆に皆が襲うことも無かった。
そのまま、しばらくぼーっとしてたらフレンド申請と表示されたウィンドウが現れた。相手はついさっきまで話していたマトバ。どうしようか少しだけ悩んだが、俺は了承を押した。
夕食の片づけが済めば、今日ももう終わる。俺は横になってマトバの最後の言葉を思い出していた。
仲間を守るためにもっと強くならなければいけない。
(ララビィの復讐を成功させるためにもな)
そうだ。今のままじゃ甘沢たちを殺せない。
「くぅ~ん」
心配そうに俺の顔を覗き込むレイドッグ。大丈夫、もうお前達を傷つけさせたりなんてしない。そう想いを込めながら、レイドッグが眠るまでその頭を撫で続けた。
同シリーズ
【異世界のお節介な道化師】
【小さきマッドエンジニア】
もよろしくお願いします。




