新たな化創士
寝過ぎた時の様に違和感の強い目を開ける。
視界は黄色く不確かで気持ち悪い。
無意識に漏れた呻きに気付いたノルドさんが眼鏡を渡してくれた。どうにも寂しいと思ったらこれか、と一緒に手渡された水を飲みながら思う。
あの後どうなったかの顛末を聞いて、青褪めるシンタ。
もう離さないと言わんばかりに抱き付いて来るマリナを受け入れて、安心させる様に軽く頭を撫でる。
アギラオの悪気の無い罵声もあえて受けながら自身の体調を確認する。
どうやら俺は土に直接寝ていたみたいで微かに痛む体をほぐすと、痛みは有るが疲労と言っても良い程度で怪我も無い。
程無くして、同時に目覚めたアスガルドも起き上がる。
2重写しになる視界に気付き、アスガルドとの同調を自然に解除した俺は、次々に魔文字を配置して魔法を発動、水の満たされた桶や固形塩にと彼の為の飼料を引き寄せる。
「「「!?」」」
数名が驚いて呻くが俺はきょとんとしてしまった。
理由が思い付かない俺に、ノルドが「お前もか」と嘆息する。
「お前、魔法使ってる事に気付けよ!?」
本当は自分も使ってみたいんだろうなーと見抜けるテンションでアギラオからツッコミが入る。
今度こそしっかりと覚醒した俺は試しに仮面を呼び出してみる。呼び出された仮面は口元と眼窩に大きな穴の開いたシンプルな形をしていた。
まだ受け入れ難いけど結果が手の中に有るのに否定は困難で、躊躇いつつ仮面を顔に装着してみた。
突如、知らん顔で飼料を食んでいたアスガルドの体が魔文字の帯束に解けてシンタに絡み付き包み込む。
一瞬後にはローブを目深に被った魔術師風のケンタウロスに変化した化創士が現れた。
「やっぱ、そうなるか」
訳知り顔のノルド。
「お兄ちゃん……お馬さんだ!!」
大きな瞳に好奇心を乗せて手を叩くマリナに同意の音色を奏でるフォルク。
自らも体を捻って後ろ脚を確認してちょっと唖然としてしまう。慣れない脚の動きに戸惑い何度かバランスを崩すが、動き回るうち動きに思い切りが付いて問題無く操る事が出来る様になった。
ふざけて背に乗ろうとするアギラオに、理由の無い不愉快さが沸いて振り落としたけど俺は悪くないよな?
自問自答に完結を用意して腕を組む。
「魔法の方はどうなってるんですか?」
「私と一緒、無い」
フォルクとマリからの質問だけど、皆も気になってるみたいだから内面に集中してみる。
「どうも感覚で使ってるみたいで全ての原理は分からないけど、属性や現象に抵抗が無いので出来そうなものは何でも出来るのでは? しいて言えば無節操……ですかね?」
俺自身、半信半疑で答える。
試しに魔文字を配置して標的を定めると脳内に出来る行動が浮かぶ。標的を変えて行くと脳内の出来る事も連動して変化するみたいだ。
その中から実行を念じると【火炎弾】が発動、指先に火の玉が生まれ自動的に飛翔、標的に着弾して炎上した。
「おおぅ」
思ったより大音声がしてビビる。やるならやるって言えと怒られたが今は捨て置いて知識欲を満たす事にした。
今度は化創化を解除してから同じ事をしてみる。すると規模がしょぼくなりそれなりの大きさの【火球】が控えめに弾けた。
次だ、楽しくなってきた俺に自重は無い。今度は別のスキルに気付いたので試してみる。
まずは【積載】。持ち歩けるだけの物体を別空間に納める能力らしい。
拾い上げた小石を収納してみる。
一瞬、微妙なスキルかと思ったけど、これはアスガルドと一緒に発現するスキルだと気付いたら話が変わってくる。
馬の積載量が適用されるなら大いに役立てる事が出来そうだと結論付けた。
更に浮かぶのはアスガルドのスキル【御車】。生体装備の派生みたいで鎧馬具に懸架される箱馬車を呼び出すスキルになる。
アスガルドの本能が滲み出してるな。
基本的にアスガルドと俺は魂レベルで一体化しているらしく、全感覚の共有を感じる。念じれば先刻みたく視覚や触覚などを遮断も出来るけど普段、感覚は切断しておく方が精神的に良いと思った。
特に精力的な意味で……。誤爆は勘弁願いたい、俺の精神がマッハで死んでしまう。
意識を逸らしつつ、内面を洗いざらい調べて把握した事をノルドさんに報告していくと、やはり反則気味な【積載】と【御車】スキルに食い付いた。
「俺達が目覚めた時には体と装備だけしか無かったから助かるよ。小さい子も居るし、正直どうしようかとね」
ケンタウロスになった所為か運搬力を頼られると何だか嬉しい。
変な気分だなと感じながらも快く引き受ける。
早速、生体装備を呼び出し俺は御者台へ、仲間を箱部屋に乗せる。
「おお、中も充実してるんだな」
「お家みた~い」
マリナがはしゃぐのをノルドが優しい目で見ていた。
最近、父性に磨きが掛かってないですか? と思うシンタ。
部屋は5人が広く寛いでもまだ余裕があり、既に走り出しているにも関わらず、振動を感じ無い。
座席も柔らかく座り心地が良い。
常々、馬車に不満のあったシンタの拘りも反映しているに違いないと確信する。
更にシンタが座る御者台も柔らかい座席を備え、格段に居心地が良くなっている。
「んで、走ってるけど何処に向かってんの?」
「うん? 魔法で生き物の気配の密集度を調べたから町かな?」
アギラオの尤もな疑問にシンタが即答。
なら、頼むって事で俺達は一路。暫定、町に向かって進路をとった。




