精神の牢獄2
代わり映えしない通路を進む2人。
ともすれば警戒を解いてしまうのが普通だと思うが、そこはシンタ。隊、唯一の斥候として動き道順を覚える。
「にしても代わり映えしないなー、心底」
「こんなに何も無いとなんか化かされてるんじゃないかと思っちまうかな」
「え゛? 嫌な事言わないで下さいよ。何だかそんな気がするじゃないすか。けど、残して来た組から離れすぎてるかも。一度戻って合流しますか?」
「してみるか?」
不安になった2人は引き返すべく来た道を戻り始める。
「とー、そうは問屋が卸さないってか」
引き返して早々見覚えの無い部屋に出る2人。シンタの脳内マッピングにも狂いが生じている様だ。
「戻れるか?」
「無理臭いですね。俺のマッピングの術式が騙されてます。」
「つっと……そこ!」
不審な気配を感じたシンタがナイフを投擲、隠れた姿を暴きだす。現れたのはアルビノの巨大な昆虫達。醜悪な見た目に反して実害はそれ程でも無い様でシンタでも楽に狩れる。ノルドも化創化の必要無く一刀に伏す。
ただ、矢鱈と数が多い。切っても切っても湧き出す昆虫に嫌気が差す。切り捨てた昆虫は死骸を晒す事無く塵となって新たな昆虫に生まれ変わっている様子だ。
「こっちもきりが無いな敵の攻撃が当たらないのは良いが、これじゃな」
「ですね」
留まっても益は無いなと倒しつつ駆け抜け距離を稼ぐ。最早、何処かも分からない道を出鱈目に走り抜けるが虫が振り切れない。
「奴等速いな、振り切れん」
「ナイフももう無いですよ!」
思ったより余裕の無いシンタが喘ぐ様に言葉を吐き出す。
「おっ、前方に扉発見、押し通ーる!」
宣言通り両開きの扉に蹴りかかるノルド。えーいままよとシンタも、もう半分の扉を蹴り開ける。中は細長くちょっとした運動場位の広さがあった。扉中央に紅い絨毯が敷かれ花道を作っている。
反動で閉まりかけた扉を素早く押さえ付け、シンタが【ロック】を掛ける。
魔力で閉じられた扉を虫が叩く振動が絶え間無く響くが破られる気配は無く一息吐く。お互いの無事を確認出来た所で部屋を探索。
ここにも何も無く、入った扉の向かいに似た扉があるばかり。
扉を調べるシンタ。罠は見当たらないが鍵があるらしく苦戦しながらも開錠、開け放つ。
中は無骨な石材調の壁の大部屋で殺風景な部屋だった。奥に青白く輝く光球が浮かぶだけ。
「行き止まりみたいですね。あの物体が気になりますが触って大丈夫ですかね?」
静かに接近するが反応は皆無。剣で突いてみようと剣先を向けた瞬間。頭上から人らしき物体が複数落下して来た。
時間は少し遡る。
シャリナは眠り込む仲間達に囲まれて毛布に包まっていた。
「2人が出掛けてから随分経ちますね……、誰か起きないかしら?」
気持ちが弱っている所為か独りは心細い。
底冷えのするの寒さに遂に毛布を出してしまったが誰が責められようか。温い毛布に埋まり馬にもたれかかる。
突然の天啓。
「あれ。もしかして覚醒ポーションを飲ませたら起きるかも?」
悪い考えじゃないと思い積荷から人数分のポーションを引っ張り出す。いきなり人は怖いのでまずはお馬さんにポーションを投与。
額を撫でつつ待つ事数分。ピクリと瞼が痙攣したかと思うと嘶きつつ立ち上がった。数歩よろめいたが意識もはっきりしてきた様で私の顔を舐める。
水を出してやると貪る様に飲む馬、そう言えばなんて名前なんだろう?
今度聞いてみようと思いながら、正解の確信に次々と薬品を投与していくシャリナ。
程無くして全員が目を覚ますと、なんでこんな所に居るか説明する。
「そんな事が……。」
まだ朦朧とするのか、ぼんやりと答えるアギラオ。寝起きだけど、お腹の空いた私達は保存食を齧りながら今後の行動を相談する。
「差し当たって、早急に2人と合流するべきだと思います」
フォルクがカードをかざす。特に考える様子も無くコクコク頷くマリさん。
私も悪くないと思い賛成。
「通路が狭いので馬車を持っていく事は出来ないけどお馬さんは可哀想だから連れて行きませんか?」
提案する私に、本心では可愛がっている皆も反論出来ずに同行を決めた。お馬さんにはマリナちゃんに乗ってもらって歩き出す。
先程言った様に道が狭いので先頭をマリさんとアギラオ、中衛にフォルクさん。騎乗してマリナちゃんと私の順で並んで歩く。
道なりに右に曲がり奥へと進んで行く私達。拍子抜けする安全さで眠気を誘う。うねる道をかなり進んだ先に大きく開けた部屋に辿り着いた。
ここまで分かれ道も無かったからまだ2人は先に居るのでしょう。
進入した部屋の両端には等間隔に石像が立っていて威圧感がある。
「なんか動き出しそうですね?」
「ちょ、変なフラグ建てんなよな」
「なんですか、それ? 美味しいの?」
「なんと言う天然」フォルクがささやかにカードを見せる。
和やかな空気とは裏腹に、やはり石像が動き出す。左は男性型で手槍と盾を右は女性型で鎖鎌を持って襲い掛かる。
「フラグ通りじゃないさ!」
憤慨しながら作業用の手斧を男性型に叩きつけるアギラオ。同時に【バトルソング】フォルクは【エール】を歌い演奏する。
2人の演奏で身体能力を増したマリさんが、密かに投擲されていた鎖分銅を弾き返し、返す石突きで男性型を払う。
飛び出して化創化した私が女性型の脇腹に獣爪を突き刺しめくり投げの要領で切り上げる。
切り裂かれる地の土塊を飛ばす傷口。
「腹一杯、なる」
レベルが上がり短挙動で放てる様になった【鋭岩発破】を放つマリ。
そんなマリをあざ笑う様に、体勢を戻した女性型が鎖をたわめ岩を受け止め弾き返した。
カウンターの岩に驚いたマリは反応出来ずにモロに岩を受け沈黙。
「マリさん!?」
驚く私に、余裕の笑みを浮かべるフォルクの顔が映る。
ニィっと口元を歪めたマリさんが男性型に、女性型から打ち返された岩を更に打ち出す。
掲げた盾を打ち砕かれ頭部まで失う男性型。
信じて動かなかったアギラオが斧を力一杯振り下ろし胴体半ばまで断つ傷口を作り出す。
その激しい一撃は攻撃に使った斧すら砕いた。
砕ける木片舞う闇に私の矢が翔り、女性型の腕を腹を肩を破壊してバラバラに破壊した。
念の為頭部も潰すと石造は石屑へ姿を変える。その場には古い手槍と鎖鎌が残り、ガラガラと耳障りな騒音を上げて奥の壁も崩れ落ちた。
「奥に進めって事?」
こういう事に慣れてなくて戸惑う私。
「ふぅ、何とか片付いたな。おっ、この鎖鎌使えそう」
適当に相槌を打つなり落ちた武器を拾い上げるアギラオ。数回振ったり、回したりと具合を確かめ使えるのを確認すると頷き、もって帰る事にしたのが分かった。
槍の方は使い手も運び手も居ないので捨て置く事に。
「と言うか、マリさん大丈夫なんですか?」
疑問の残る私が仮面を外して尋ねる。
「問題、無い。私、精霊」
もうわかったかと言う風に素っ気無い答えが返る。
「悪気なんて無いんですよ。あれは素です。土の精霊は土属性で傷を負わないんです」
フォルクが説明のカードを見せる。
そう言うものなのかーと思いつつ常識の薄い彼女達は闇に踏み込む。
沈み込む地面。
迂闊にも不用意に進んだメンバーを飲み込んでいき皆姿を消した、驚いた私はマリナちゃんを抱き上げ跳躍。逃れたと思ったけど部屋から出る事は叶わず同じ末路を辿った。
一瞬の暗転。
光を感じ、まだ抱いている感触があったから化創化して着地。衝撃を殺す。
聞き慣れた声がする。
一緒の場所に生きて出られたんだろう事に感謝。
「シャリナちゃん、アギに皆も!?」
慌てた雰囲気のノルドとシンタの声。
目を開けた先に2人が居る。
見回すと全員居るようだが、変な体勢で転けてるシンタとお馬さんの上に光る光球が浮遊して炸裂、1人と1匹を飲み込み、光と闇が反転した。




