精神の牢獄1
「んで……。さっきの奴とはどんな繋がりがあるの? キリキリ白状せいや!」
一連の騒動で殆んど活躍出来なかったアギラオが八つ当たり気味にノルドにヘッドロックを掛ける。
「ぐぅ、待った。ちぬ、極まってるから!!」
「自業自得ですね」とフォルクがカードを掲げ。
「俺も気になりますよ」とシンタが馬車を操りながら声だけを寄越す。
「済まない言いたくない……、てのは無しか。もう巻き込まれてるもんな」
またヘッドロックを掛けれる体勢に構えたアギラオに苦笑する。
「わかった、苦しいのは勘弁」
ヘラリと笑いあしらうノルド。
「そう急くな。あいつの名はグンズと言ってな。あいつとは昔、同じ隊のメンバーだったんだ。俺達は同期入隊で歳も近く親しい仲になるのに何の障害も無かった。俺がこんなだろう? だから良く世話焼き女房なんて言われてさ……、馬鹿みたいだろう?」
楽しかった日々を思い出してるのか懐かしげなノルドに少し複雑な気持ちになる。
「そんなに仲良かったのになんで?」
当然の疑問が浮かぶ。
「あいつはさ、姉を化け物に殺されてるんだ。目の前でと言う話しだ」
フォルク達は察したらしく、気不味い雰囲気を醸し出していたけど俺には分からなかった。
理解出来てない俺にノルドは苦笑する。
「答えを言うとだ、俺が隊長を殺したんだ。化け物になってしまった時にな」
寂しそうな眼でノルドが告げた。言わせてしまった自分に腹が立った。
掛ける言葉が無いなんて初めてで、どうしたら良いか分からない。
そんな戸惑う俺の手助けとばかりフォルクが徐に演奏を始める。更にマリが珍しくサブに回り落ち着いた曲調を奏でる。
馬車は賑やかな声を響かせて道無き道をひた走る。
いつの間にか雰囲気の直った馬車内。俺も遂には一緒になってバラードを歌い上げた。マリナもキャッキャと笑い、一緒に歌う。マリナは兄と違って歌が上手く良いアクセントになっている。
気絶したままのシャリナも心なしか気持ち良さそうだ。
歌い走る馬車を突然の振動が襲う、刹那。巨大な手の平が馬車ごと俺達を虚空に引き込み、消失。
目撃した者が居れば、馬車が消えた付近にはひっそりと墓石の様な石が建てられているのを見るだろう。
――数時間後
ノルドが目を覚ますと見慣れない風景が飛び込んで来た。全方位を材質不明の壁が覆う小部屋、それが全てだった。直前の光景を思い出し辺りを見回すと馬車が横転し幌が破れていたが破損は軽微、馬と仲間達は地べたに放り出されていた。
嫌な予感に素早く全員の脈と息の有無を確認するが、馬を含め誰にも異常は無かった。
一先ずは安心するノルド。
化創化もしてみるがそちらも無事に済んだ。
「何だ、ここ?」
ここに至って初めて疑問に思ったが、自分の頭で答えなぞ出ないので倒れた車体を元に戻し歪んだ幌の鉄材を修理して防水布を被せ直し皆を収容。馬の脚の骨が大丈夫か触診してみる。
幸い折れてもいない。ここ迄で結構な時間が経過したが起きる者は皆無。
少しおかしいな? 不安になってきてアギラオを揺すってみるが反応無し。そんな事をしてると虚しくなって来た。
「うぁ……痛っ。ここはいったい?」
焦点の合わない様子で呻きシンタが目を覚ました。次いでがばりと音をさせながら慌てふためいたシャリナも目を覚ました……、が直ぐに蹲る。
「おいおい、無理するな。そんな体じゃどうにもならないって、横になれ」
「あっ、すみません。私達どうして?」
流石に環境が変わり過ぎて混乱もしている様だ。シャリナがガレオと相打ちになった後の事をざっと話しておく。
「起きている内に怒っとくぞ。化創士の体質を誰に聞いたか知らないが体を痛めつける戦い方なんてするなよ」
「だって、あの時後悔しない為にはああするしか……」
悲痛な表情をするシャリナ。
「だっても何も無い、俺達だってシャリナを失ったら後悔するんだよ」
「……俺達もう仲間だろう?」
思ってもみなかった返答に硬直するシャリナ。
「アギラオなんて家族だって公言して憚らない、そう言うこった」
しんみりとするシャリナにシンタも告げる。
「俺だって仲間ですよ! 心配したんですからね。妹だって一緒だと思います」
「あ、う……ありがとう……ございます」
「"ありがとう"ですよ。遠慮なんて要らない」
ちょっと気障っぽくシンタが笑う。安心した様にシャリナも本来の明るい笑顔を浮かべた。最後には3人で笑い倒す。
ちょっと優しい時間が流れた。
こんなに騒いでもアギラオとフォルク、マリ、マリナに起きる気配が無い。
「流石にこの眠りは不自然ですね」
シンタが言う様に気を失ってから時間が経ち過ぎている。正確には分からないが腹ごなし的には半日は経過している感じがある。
起きるのを待つ間、シンタに部屋の探索をやってもらい部屋の壁が一枚脆く奥が有る事が確認出来た。ノルドが殴りつけると簡単に崩れ通路が見えたが今は身動きが取れない。
時間ばかりが過ぎていく。これはもう状態異常と見て良いでしょうとシンタが言う。まだ体調の整わないシャリナに皆の護衛を頼み、少し不安だがシンタと2人通路の先へと足を進めた。
通路は左にカーブを描き先は暗く見通しが悪い。
恐る恐る進んだ先は暫く歩くと左右に別れ道が現れた。慎重に聞き耳をするシンタ。
「音は聞こえない、か。不気味な場所ですね」
緊張からか掠れる声音。どちらに曲がるか相談した結果、悩んでも無駄だと右に曲がる。
通路はさっきより広くなり湿り気を帯びる。
「どうやら水源が在るみたいだな」
更に進むとまた分かれ道似た様な道が続き、2人の集中力は割りと散漫になっていた。




