化け物被害者の会の復讐
「うに……。うにゅう~。」
頑張って料理して疲れたんだろう、熟睡するマリナが寝言で幸せそうに微笑む。
何故か目の覚めたシンタは、気持ち良さそうに眠る妹を見て、改めて共に過ごせる幸運に感謝した。
柔らかく髪を梳くとにっこりと微笑むマリナ。
まだ夜は長い。もう一度寝ようと寝台に戻ろうとした瞬間。轟く爆音と振動。
「どおおおおおっせえええぃ!」
突然の大声と異変に驚いて飛び起きるマリナ。
明らかな異常にブレイカーを腰に巻き、マリナを抱えて部屋を飛び出す。皆も流石に不審に思い武装して部屋を出て来た。
「皆さん、火の手が! 家が燃えてます!」
間断無く続く振動と破砕音、怒声が外から聞こえ、燃え盛る炎に木造家屋を瞬く間に燃やす。
「ヒャッハー!! 汚物は消毒だーー、ゴラァ!!」
あまりの事に硬直して動けない俺達。
目前の壁が赤熱し破砕、火に包まれた木片と一緒に飛び込んで来る黒い巨体に身が竦む。
体ごと巻き込む大剣の一撃を、辛くも察知したマリが円盾で咄嗟に攻撃を受けてしまう。
「くぅう」
フォルクを庇って身を引けないマリの腕に重い負担が掛かる。
ひび割れる円盾。
耐え切れず崩れ落ちる廊下をもつれながら落下する2人。
じっくり見ている暇は無かったけど俺達が見間違う筈も無い、奴は山賊頭ガレオの顔をしていた。
「崩れるぞ。速く外に出ろ」
アギラオの声にハッとする俺達、階下に下りようとするが既に遅く焼け落ちる階段。
「これじゃあ通れないな」
それでも突貫しようとするアギラオの襟首を捕まえ引き止める。
「おにいちゃん、熱いよぅ」
マリナの言う通り、いつの間にか室内には黒煙が流れ酷く暑い、このままでは不味いと俺達は2人の空けた穴に躍り込んだ。
飛び降りた階下も火に撒かれていたが、既にノルドの私室が吹き飛び風通しが良くされていた。損壊部分から家の前に陣取る夜盗達とかち合った。
見るからに卑しい笑みを貼り付けた顔に自然、嫌悪が浮かぶ。
こいつ等を蹴散らしてやりたいが多勢に無勢、1番の戦力は封じられシャリナは戦えるか不明ときた。
俺がマリナを降ろしたら脚の速さの関係で逃げる事すら困難だ。
「手前ら後ろの女を寄越しな。そしたら殺さないで置いてやるよ」
猫背で一際柄の悪い男がダガーを舐め一方的な要求を突きつけてくる。演出だとしても気持ち悪い奴だな。
俺達が引いてるとマリが戻って来た。
「信じる、無い」
槍を抱えたマリが空から振って来て夜盗を攻撃。その脳天を串刺し反動を付けてバク転。
華麗に俺達の先頭に降り立つ。
きもい奴を狙ったみたいだが偶然、きもい奴はかわして無事だった、なのに。
「邪魔だ、無粋だぜー」
と、遅れて飛び込んで来たガレオがきもい奴の頭を鷲掴みにして後ろに放り投げる。
情けない悲鳴を上げきもい奴は空を舞い、俺達は奴を見失った。
「俺としてはお前らを殺してやっと依頼完了なんでなぁ、ヒャハ」
奮発する様に纏う火が奮い立つ。
フルスイングの要領で両手剣を振り抜くガレオ。剣の軌道に炎が幕を引き、俺達の肌を熱気が舐める。強くなってないか?
雑魚だと思っていた夜盗達も意外に強く舐められない。
防戦一方の俺達はジリジリと追い込まれていく。フォルクも呪歌【エール】で倍速効果をアギラオは個人的な呪歌で【バトルソング】を歌いながら力の底上げを図っているがガレオが強過ぎて辛い。
―― サイド・シャリナ。
私は守られてる。おそらく、この中の誰よりも強い筈の私の心はこの中で1番弱い。記憶にある限り誰にも襲われた事も無いし、大事に育てられた私に争い事なんてお義母さんとの言い合いだけ。
気持ちが萎縮する。
勇気が欲しい!
悩む私に視線を合わせる少女・マリナちゃんが、自分も怖いのだろう小刻みに震えている。こわばる口元を精一杯歪め笑おうとする。
「お姉ちゃんなら……絶対……大丈夫だよ」
極限の中の応援。頑なな私の心に痛く突き刺さる。
こんなので良い訳無い、私にだって出来るもん!
かっちりと決心に芯が入った気がした。
ゆっくりと獣の仮面を被り化創化。
仮面は私の肉と同化して猫のおもてに生気の色が付く。全身が硬い毛皮に覆われ体格が肥大。
両腕が割状線から割れ広がりボウガンに変化して生体矢が装填される。
化創化完了と共にばら撒かれた矢が夜盗達を次々に蜂の巣にして絶命させる。
「やっと本性を現しおったな、化け物め!!」
後方で怨念を込めて睨む、片腕の無い中年男性が口角から泡を飛ばし叫ぶ。我等、<化け物被害者の会>がくびり殺してくれるわ。
狂気を含んだ哄笑。
「もしかしたら私が起こした事件で傷付けてしまったのかもしれない。でも私はまだ生きて居たいよ!」
「戯言を、あの子だってまだ存在出来た筈なのだ! 行けーー、皆殺せーーー!」
生き残った夜盗達が一斉に飛び掛る。こちらからもアギラオが斧で切り掛かり、マリが【鋭岩発破】で鋭い岩を打ち出し当たった奴が弾け飛ぶ。自衛に徹したシンタは頭上でボーラを振り回しては投擲。拾っては投擲と妨害する。
私だって負けていられない。
遅く見える様になったガレオの攻撃に爪を伸ばして打ち合わせる。
「くっそ。覚醒とか、めんどくさい女だな。お前らと遣り合うと予定外が起きやがる」
両手剣を切り上げ、シャリナにぶち当てるが毛皮が硬くて切り裂けない。
シャリナも化創化の動きに慣れたのか、速い動きでガレオを翻弄。次第に関節などの柔らかい所を狙い足爪を蹴り刺したりして攻撃を通す。アギラオが振り回す斧も力を上乗せされガレオの体を叩き切る。
ガレオの唸る両手剣も、軽傷だが皆を切り裂き火傷を負わす。
戦況はどうにかこちらが有利に運べている。
距離を再び広げたシャリナがボウガンの矢を打ち込みガレオの腕が千切れ飛ぶ。
どよめく夜盗。
「ち、痛----な! このアマ!【爆裂紅蓮砲】だ喰らえ」
ガレオの胸部装甲が扉の様に割れ開き、火炎の奔流がシャリナを襲う。シャリナは毛皮の防御を信じて両手から無数の矢を打ち出し続ける。
火炎流が直撃したシャリナの体は燃え上がり、流石に仮面が割れ砕ける。ボウガンの繋がる皮膚も爛れ、焼け落ちた。
無茶のお陰か、ガレオの胴体にもモロに矢が突き刺さり粉砕。化創化が解けて倒れ伏した。時間差でシャリナの化創化も解け昏倒。
最大の難敵を倒し、形勢が決した。
「今回は負けたが、次は絶対に殺す。首を洗って待っていろ」
往生際悪く逃げようとする親玉。
逃がすか?と言う所に、イラクシを伴ったノルドが現れた。




