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続・日常



「済まないが、数日留守にする。イラクシに依頼された素材を採ってくるよ。シャリナやマリナの事頼むな」


「幾ら近い場所だからって油断しないで下さいね」


「おじちゃん油断しないでねー♪」


 最近、お決まりになりつつあるやり取りを交わしてノルドは出掛けて行った。今日は食事当番と練習を兼ねてシンタとマリナ兄妹が台所に立っている。



 


 ―― 6号室でお待ちのフォルクさんお部屋が空きました。こちらが鍵になります。失くされた場合弁償となりますのでお気を付けて下さい。



 手馴れた仕草でサインを書き込みスタジオへと入る。


 部屋は防音仕様になっていて、高価な魔具が多数置かれ利用出来る様になっていた。基本、貧乏人なバンドマン達には有り難い。


 早速、機材を接続した僕とマリはギターを鳴らす。続いて音合わせを手早く終わらせてドラム調子も見る。


 調子は良好。ここなら全力を出しても迷惑にならない。僕達は今度は自分の意思で魔力を纏う。


 僕は闇の黒、マリは土の黄色、アギラオは焔の紅。定着した魔力は衣装と変じ、アギラオは何故か頭髪が伸びドレス姿に変わる。


 力強くドラムを打ち鳴らし旋律が場を満たす。攻撃的なマリのギターが唸りを上げアギラオのビブラートが強い高音ボイスが螺旋の様に寄り添いトラツグミの歌になる。


 時折、マリのコーラスが入り遊ぶ様に言葉が交じり合う。


 声の出ない僕も昔みたいに歌いたくなるが無理だ。替わりにとばかり汗を飛ばして奏で狂う。


 魔力の狂宴を歌い暮らす。



 最初は1曲ですら魔力が持たなかった僕とマリも、練習が終わるまで保つ様になって俄然楽しさが増した。実力がメキメキと伸びる。


 呪歌をディスクに取り込めないかと検証もやってるけれど、成果は無い。何故、生音でしか発動しないのか不思議だ。ディスクの質が悪いのかも分からない。


 後は時間一杯まで歌い倒し、併設された浴室で汗を流して帰るのが日課になった。


  

 数日に一遍は野外ライブで歌う。この時は魔力纏わない。害のある呪歌を無差別に路上で歌うのは違法行為だからね。


 すっかり腹ペコになった僕達は急ぎ家路に着き、夕飯が出来上がるまで自由に過ごす。



 今晩はシンタの当番だけど、マリナちゃんがメインで調理するって言ってたので楽しみだ。


 助け出した当初は大人に怯えて、体も痩せ細っていたけど体重も増え、良く笑う様になった。元々は明るい性格だったんだろうと思うと気の毒で回復して良かったと皆思っている。



 楽器の手入れを終えた僕は作曲に入る。


 メロディーラインを弾いてみては書き直し、ちょっとずつ形にしていく工程が楽しい。少し弄るだけで千変万化するコード、何時しか寝台で昼寝するマリの事も気にならなくなる。


 そう言えばマリと契約してもう10年にもなるか、彼女の本名はアイリン・津・マリと言って蛇精霊だ。女性体だけど生殖の概念が無い、僕の音が気に入ったと言っていたのは本心だろう。好物は生きた卵の丸呑み。


 おっと、考えがずれた。


 マリの寝顔をチラっと眺め作曲に戻った。



 

 シンタとマリナは2人料理を作っていた。まだぎこちない手つきで包丁を動かすマリナ。


 背の届かないマリナに踏み台を用意したり、作業の手順を指示したりしながら微笑むシンタ。


 妹と接してる間だけは眉間の皺がなりを潜める。


「そうだ、おっと! 猫手を添えるのを忘れるな?」


「こお? うんしょ。こんな感じー?」


「うん? 良いね。上手だ」


 飾り切りされた人参やきのこにざく切りの白菜。肉等が鍋に綺麗に並べられ隙間を埋めるべく豆腐や葱、白滝などがマリナの手で並べられる。



 口頭で分量を教えながら、調味料を合わせ割り下を流し込む。


 後は煮込むだけ。マリナには米を炊いて貰い配膳を済ます。卵は置いておくとマリが食ってしまうから後出しにしてすき焼きの完成。



 疲れて寝てるだろうアギラオを叩き起こし、フォルク達にも声を掛ける。元気を取り戻しつつあるシャリナも降りて来てノルドを抜かした全員が席に着いた。


「あれ? おっさんの姿が見えないけどどうした?」


「聞いてないんですか? 依頼で出てますよ」


 合点がいったと食事に取り掛かるアギラオ。


「野菜も食べるんですよー?」


 肉ばっかり取るアギラオにおっとりとマリナが窘める。


「マリナちゃんは偉いね。私もしっかりしないといけないね!」


 決意を決めたらしいシャリナが意気込み。ちゃっかり肉を確保しているフォルクは米と一緒にささっとかきこむ。


 賑やかな食卓。


 ゆっくりと食べられるご飯に感謝するマリナはにっこりと微笑んだ。


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