1-9. 銀貨事件
1-9. 銀貨事件
リビングに無造作に放り出してある銀貨が気になった。窓から入る月明かりに照らすと、白銀の硬貨は不思議な輝きを放っていた。
「綺麗だなぁ。それにしても、お金をこんな所に放り出したままベッドに行くなんて。二人とも不用心な。ま、熱々なのは良いんだけどさ。その内弟か妹も生まれる日が来るかもな。」
などと言いながら、銀貨を矯めつ眇めつ眺めていた。
――ウチにもこれがもう一枚増えたらなぁ…。
その時だった。
まばゆい光と共に、ラルスの左手にはもう一枚の銀貨が握られていた。
「あれ?三枚ある?二枚じゃなかったっけ?ってかやばい、猛烈に眠い。」
ラルスは右手の硬貨を元の場所に戻した。しかし、耐えきれなくなってそのままソファーの上で丸くなって眠り落ちた。
朝が来た。
「ラルスちゃあん!朝よー。母さんのキスとハグで目を覚まして!」
ラルスの布団はぐしゃっとしていた。ネリナは元気よくラルスの布団を剥がした。
「って、いない。あなた!」
「何だい?」
「ラルスがいないの?」
「ションベンかな?リビングに行ってみよう。」
ピウスは体を起こしてパジャマのまま階下に降りた。
「いるじゃねぇか。」
「ラルス、ラルス?起きないわ。」
「その内起きるよ。」
「こいつ、銀貨握りしめてやがる。よっぽど珍しかったんだな。」
「まあ、私達もちゃんとお財布にしまわずに寝てしまったから。今度からきちんと管理しないとね。」
「そうだな。昨日は熱い夜だったから勘弁な?」
などと言って、またネリナにキスをした。
「もう、朝から!」
ネリナも耳まで真っ赤である。
「さて、ラルスちゃん、銀貨は返してもらうわよ。」
指を一本ずつ剥がして、ネリナは銀貨を回収し、エプロンのポケットに一旦しまった。
「ねえあなた。どうしても起きないみたいだから、ラルスちゃん、また寝室に連れて行ってくれない?」
「おうよ。」
ピウスはラルスを抱っこすると、二階へ上がっていった。
そして、二人は着替え、朝食を摂り、やがてピウスは自警団に出かけていった。台所を片付け、洗濯を干し、テーブルを拭いて、床を掃き、窓を拭いたりとネリナはいそいそと働いた。
ラルスは昼になっても起きてこなかった。
「大丈夫かしら?」
おでこを触っても熱はない。幸せそうにむにゃむにゃと寝ている。しかし、ゆすろうが叩こうが一向に起きなかった。ネリナは心配で何度か様子を見ては起こしにかかったが、どうしても起きぬため、ついに諦めて夕食の準備をした。ラルスは、夕食にも起きてこなかった。
また少し飲んで帰って来たピウスが言った。
「寝る子は育つと言うが寝過ぎじゃないのか。夜眠れなくなっちまう。」
などと言っている時に、眠い目をこすってラルスが起きてきた。
「父さん母さんおはよう。何か暗いね。まだ夜中かな?お腹すいちゃった。ぺこぺこ。」
「ああ、晩飯食うか。」
「うん。」
「それにしても大人の夕食も済んだ時間だぞ。」
「そんなに寝てたの?何だかすごく眠くって。」
「もう良いのか?」
「うん。めちゃくちゃお腹すいているだけ。」
「じゃあ、沢山召し上がれ。」
ネリナはラルスの皿を大盛りに盛った。
「ああ、まだ銀貨、出しっぱなしだったな。」
思い出したようにピウスが言った。
「確かに二枚、しまっておくぜ。」
「ええ。」
ネリナは何気なく答えた。
――二枚?
ネリナは思わずエプロンのポケットを探った。




