1-10.昏倒
1-10.昏倒
――私のポケットの中にある「三枚目の銀貨」は、何?
ネリナは鳥肌が立った。
「ピウス…。ごめん。もう一度、銀貨、見せてくれないかな?」
「ん?いいぜ?何ならネリナが管理しといてくれよ。」
ピウスは無造作にテーブルの上に銀貨を置いた。
「わ…分かったわ。」
ネリナはまだ自分の疑問を言い出せず、エプロンのポケットにそれをしまった。
――やっぱり三枚ある。
「それにしても良く寝てやがるな。ラルス、朝だぞ?」
ラルスは、揺らしても軽く叩いても起きる気配がなかった。ただ、顔色も良く、幸せそうにすやすやと眠っていた。
「寝る子は育つっていうしな。リビングで、銀貨が珍しくてずっと見てたのかもしれんぞ。」
「そ…そうね。悪いけど、二階のベッドに寝かせてきてくれる?」
「お安いご用だ。」
ピウスはラルスを背負うと、ゆっくりと二階に上がっていった。
その間にネリナは三枚の銀貨を取り出した。
ラルスの手から剝がしたものだけが、鋳造所から出て来たばかりのような輝きだった。天秤に掛けたわけではないが、体感、重さも、弾いた時のチンチンという涼しい音も、変わりがなかった。
ピウスの降りてくる音がしたので、ネリナはまた銀貨をポケットにしまい込んだ。
「全く、ラルスは良く寝てるよ。じゃ、今日も行ってくるぜ。」
ピウスは優しくネリナにキスをすると、仕事へ行った。
ネリナはその日、洗濯し、洗い終えた服を干したり、機を織ったり、昼食を作ったりとくるくると家事をこなしたが、昼になってもラルスは一向に起きなかった。
「大丈夫かしらね?」
午後には1時間おきにラルスを起こしに行くのだが、すやすや、むにゃむにゃとしたまま、一向に起きる気配がなかった。おでこに手を当てて熱を測ってみたり、脈を取ってみたり、ちょっとペチペチと頬を叩いたりもしたが、ラルスはついに夕食の時間になっても起きなかった。
「ただいま、ネリナ、帰ったぜ。」
「お帰りなさい。ピウス。ラルスちゃん、起きないのよ。」
「え?まだ寝てるのか?」
「そうなの。午後は一時間ごとに見に行っているんだけど。」
「全く、どうなってやがるんだ。」
「このまま起きなかったらどうしましょう。私…。私…。」
「さすがに起きるんじゃないか。」
半泣きのネリナの背をピウスがさすっているところに、とてとてと、かわいい足音がした。
「おはようございます。」
日没も過ぎたというのにラルスがようやく起きてきた。




