1-7.フルートと共に
1-7.フルートと共に
「今日は、フルートを吹きたい気分だわ。」
ネリナがフルートを出してきた。彼女は、童謡、民謡、エチュードを次々と吹きこなしていった。指も滑らかで、息も安定している。ラルスはうっとりと耳を傾けた。
――子守唄みたい。
――安心して眠りそう。
――これが聞けただけでこの母の子で良かったと思える。
囁くようにピアニッシモ、情熱的にフォルテッシモ。
母のフルートは変幻自在だ。ラルスは、速いフレーズでドキドキしたり、大きな抑揚に身を委ねたりと、音楽の持つ不思議な力に引き込まれていた。
――なるほどなぁ。
――中身は熱い人かもしれない。
――音量みたいに、魔力量も操作できないかな?
ネリナが一旦楽器を置いた。
「ねぇ、母さん。」
「なぁに?」
「大きな音と、小さな音があったね。優しく話しかけるみたいな小さな音。雷様みたいなおっきな音。」
「そうね。」
「ちっちゃいな、と思ったらおっきくなったり、びっくりした。」
「よく聞いてるわね。その通りよ。」
「どうやってるの?」
「おっきい時はお腹に力を入れるのよ。ほら、お腹にげんこつ当ててご覧なさい?」
「えい、あ!いつも柔らかいのに堅~い。」
「そうよ。フルートはお腹で吹くのよ。」
「へぇ。」
「あのさ。」
「なぁに?」
「魔法もおっきい出し方、ちっさい出し方があるんだよね。プチファイヤみたいな。」
「まあ、賢い子。」
ネリナはラルスを撫でた。ラルスは身を預けて甘えた。
「実は、音楽も魔法も、小さい方をきちんと届けるのが難しいのよ。」
「ふーん?小さい方が難しいの?」
「針の穴に糸を通すっていうのかな。弱すぎると届かないし、小さくても芯があるようにしないといけないわ。」
「へぇ。どうやってやっているの?」
「それはフルート?魔法?」
「あ、どっちも。」
「まずは、フルートのお話ね。さっき触った腹筋で音の底力を支えるわ。」
「すごいや。」
「魔法も同じだけれど、力を入れるべき所以外はリラックスして、無駄な力みを取るの。」
「リラックス?」
「例えば、人は、ぐにゃぐにゃだと立っていられないでしょ。立っている時にどこかに力が入っている。でも、ずっと気をつけの姿勢じゃ、走り回ったり出来ないし急に虫が来ても逃げられないわ。」
「うん。わかる。」
「なので、姿勢を保てるくらいの力はあるんだけど、姿勢に関係ないところはゆったりした感じにしておくのよ。」
「ふーん。それってどうやってるのかな?」
ラルスの質問にネリナは一瞬、
――五歳児の質問かしらね?
と思ったが笑顔で答えた。
「楽な気持ちで力を抜いて、抜けない時はぶらぶら振ったり深呼吸しているわ。」
「ありがとう。母さん。」
――やばっ。質問しすぎたかな?
ラルスは問うことを止めて、母の説明を自分の中で消化していった。
――リラックスとコントロール。
ラルスはフルートを聞きながら、思考に沈んでいった。




