6.
──そう決意したまではよかったのだけれど。
翌朝、ベッドから起き上がった瞬間から、私の大パニックが幕を開けた。
「……何を着ていけばいいの!?」
クローゼットを開け放ち、ハンガーに掛かった服を次から次へと引っ張り出す。
いつもは職場の制服があるし、通勤服なんて誰も見ていないから「動きやすくてシンプルなもの」なら何でもよかった。お休みの日の映画やカフェ巡りだって、自分がリラックスできればそれで満足だったのだ。
手持ちの服は、どれも着心地を重視した無難なデザインばかり。
あまりに気合の入ったワンピースを着ていけば、職場の同僚に見つかったときに「神上さん、今日デート?」なんてからかわれるに決まっている。かといって、シンプルすぎて普段着感が強い格好では、彼と会うには少し恥ずかしい。
「これはシンプルすぎるし……あ、これはちょっと気合が入りすぎ……! ああっ、もう、普通って何!?」
ベッドの上が服の山で埋め尽くされていく。鏡の前で何度も合わせては首を振り、最終的に落ち着いたのは、ライトブルーのシャツにベージュのフレアスカート。
いつもは無造作に結ぶだけの黒髪も、今日だけは少し丁寧に櫛を通した。
……よし、これなら「ちょっとそこまで本を読みに来た一般の利用者」に見えるはず。
身支度を終え、最寄り駅へ向かう電車に揺られていると、今度は別の問題が頭を擡げてきた。
(……待って。私、図書館のどこで待てばいいんだろう?)
一度考え出すと、思考のループが止まらなくなる。
カウンターの周りでウロウロしていたら、職場の同僚に「神上さん、休みなのに何してるの?」と怪しまれるのは確実だ。
じゃあ、彼が向かうであろう『今週のおすすめ本』の特設コーナーの前にずっと立つ?
……いやいや、それじゃあ完全に待ち伏せしている不審者だ。彼だって気まずいに決まっている。
(……どうしよう、どこに席を取ればいいの!?)
一般書架の奥にある、外の雨が見える窓際の閲覧席。あそこなら、館内全体がそれとなく見渡せるし、本を読んでいるふりをしてカモフラージュできるかもしれない。でも、もし彼が私に気づかずにそのまま帰っちゃったら……?
気がつけば、電車は図書館の最寄り駅に到着していた。
心臓が口から飛び出しそうなほどの緊張と、手に汗握る慌てぶり。
家でのんびり映画を観ているはずだった私の休日は、人生最大のミッションへと変貌を遂げていた。




