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寮の共用スペースでウォーレス達の治療を終えてから改めて事情を尋ねると
「…逃げたのは女のエルフだ。おそらく、アレがイーリー・モスの本当の姿だ」
とウォーレスが顔を顰めた。
(何故、顔を顰める?)
「?…イーリーの本当の姿って、そんなにブスだったんですか?」
「…いいや、アレはアレで美少女だと思う。だから何故耳と髪色を変えるだけでなく顔自体を変えていたのか理由が気になる。
不細工なエルフは好んで顔を変えるものだが、顔の良いエルフは地顔を活かす事が多いと聞いていたからな」
「…それだと、今までのイーリーの顔には何か意味があった、という事でしょうか?」
「どうだろうな。…エルフみたいな精神異常者の考える事を、俺達はどう頑張っても理解してやれないだろう?」
「そうですね…。きっと今回のような返り討ちに遭った事態も、彼らの脳内妄想では『何もしてないのに吸血鬼が不意打ちで襲いかかってきて殺された』みたいな感じに被害妄想的に御都合主義捏造されてるのかも知れないし…」
「冗談抜きで本当にそういう事をやってる節があるから、あの連中は手に負えないんだよな…」
「終わらない逆恨み…。多分、そういうものを向けられて狙われる状況が完全に他人事なら、私だって、エルフのような手口で一方的に他者に因縁をつけ続けるアタオカ種族がいるだなんて、真実を教えられても理解できず、嘘だと決めつけてたと思います」
「だよな。人間達は『邪悪な生き物の邪悪さの根源には嘘と欺瞞から生じた狂気がある』という真実に関しての理解が無さ過ぎる」
「ともかく、イーリーの本当の姿とかいうものを覚えてるなら、似顔絵とかに描けるんですよね?期待して良いですか?」
(基本的にこの人、器用貧乏なところがあるから何でもある程度できるんだよね…)
「…お前、俺に絵心があると思ってるのか?」
「…もしかして無いんですか?」
(絵だけは苦手だったのか…)
「…絵だけは苦手なんだよ」
「そうだったんですね」
「因みにレックスは泳げないという欠点がある。不思議なくらい水に浮かないヤツだから水辺で戦闘になれば確実に死ぬ」
「………」
「ノークスなんかは実は高い所が苦手だ。鳩の移動中は感覚共有は音しか聞いていない。
音だけで状況把握するようになったから魔力探知能力も上がったとか自慢してたが原因はそういった情けない理由からなんだ」
「………」
「カウリーなんかは閉所恐怖症だぞ?致命傷を受けて棺の中で休む事だってできないんだ。貴種として致命的欠点だろ?」
「………」
「…みんな欠点くらいあるんだ。絵が描けなくても問題ない」
「そうですね」
(なら私は今後も危険人物の素顔を知らないまま過ごす事になりそうだ…)
「…ヴィクター様なら読心ができて絵心もあるから指名手配犯の似顔絵もお手のものだろうな…。北部から今こちらに向かってるとかで数日中に着くだろうな」
(来るのかアイツが、王都に…)
「…そう言えば、モルガン侯爵城の公共掲示板に指名手配犯の似顔絵が張られてたけど、アレってヴィクター様が描いてたんでしょうか?」
「おそらくな」
「多芸な人がいると捜索とかもさぞや捗るんでしょうね…」
「だろうな。…それにしても、イーリーは登校してなかった。…女子寮からも姿を消してるらしいな…」
「そのまますまして居座るのかと思ってました。図太そうだし」
「レルフが返り討ちに遭ったんだ。幾ら楽観的でも関与が疑われる事くらい予想がつくだろう」
「…変身術の強制解除って、死んだ後でもできるものだったんですね…」
(レルフの本当の顔は全然美形じゃなかった…)
「…俺達が宙に魔法陣の図形を投射するだけで変身できるのは、元々変身術が貴種に備わった能力だからだ。
エルフの変身術は貴種の能力を模倣した猿真似だから、変身には変身の魔法陣を刻んだ魔道具が必要になるし、強制解除してやるのにも変身時に使った魔道具が必要になる。
エルフは自分の都合で姿を変えるから万が一を想定して、いつでも変身用魔道具を身に付けている事が多い。
レルフが俺に変身してたのは、お前がレルフの正体に気付いているかどうかカマをかけたかったから、というのもあるのだろう」
「アイツ、『不意打ちせずにいてやった』とか恩着せがましい事言ってたけど、『反応を見てから殺す』事で、こちらの情報網に関する情報を得たかったんですね。…やっぱりクズだ。本当にクズだ」
「クズはクズらしい最期だったんだろ?…ダンカン様がブチ切れてオーバーキルしたから、死体は結構グロかったんだってな」
「…ウォーレス様の顔のままの死体じゃ縁起が悪いんで、後片付けの際はエヴェリー様が真っ先に変身術の強制解除をしてました」
「そんな事に気を使うより、1秒でも早く駆けつけて欲しかったよ。お陰でイーリーに逃げられた。
アイツ、絶対、今まで以上に逆恨みを拗らせて陰湿に襲撃をしてくるぞ…。
絶対、逃しちゃいけなかったんだ…。アイツの目付き…。睨むだけでこちらを呪い殺そうとするような目だった…」
「…ウォーレス様も怯んだんですね。…私もエルフに『憎くて憎くてたまらない』って目つきで睨まれて、正直、怖かったです。
こちらは『ただ生きてる』だけなのに、あの人達は集団脳内妄想で『吸血鬼は生きてちゃいけない生き物だ』って激しく思い込んでる。
そんな風に吸血鬼を魔物扱いで差別して、一方的殺戮を『狩り』だなんて言ってるアイツらの方こそ『生きてちゃいけない生き物』に成り下がってるのに…」
「ホント、それ。俺もそう思った。実際に対峙して、『絶対、殺す』みたいな迷いない悪意を露骨に向けられて攻撃されると『何故、こんなに恨まれてるんだろう?』って戦闘に迷いが生じたんだ。お陰で怪我をさせられた」
「…イーリーには逃げられましたが、数年は平和に暮らせるんじゃないですか?
今回の襲撃犯達が『超加速』を実践で使えるメンツだったんでしょうし…。エルフの人材も決して無限じゃないでしょう。
新たに『超加速』を実践で使えるメンツが揃うまで無謀な襲撃は控えるんじゃないですか」
「まぁ、そうだろうが。その数年後が怖いよな。アイツらが筋金入りで狂ってて凶暴なんだって事、今日は骨身に染みて理解させられたよ…」
「エヴェリー様は追撃してくれるつもりなんでしょうか?」
「イーリーを探し出して始末しない事にはエルフに対して牽制にならないからな。『貴種を襲撃すればただでは済まない、と示しておく』事が北部貴種全体の安全性の維持に必要なケジメなんだ。
エルフが共謀してイーリーを隠せばイーリーは見つからない可能性は高い。
だからその時はエルフの里で一番魔力の多い者を身代わりに殺す事になる」
「エヴェリー様達は魔眼持ちじゃないですよね?魔力探知では体内魔力は見えない筈じゃ…」
「だからノークスは連れて行かれるだろうな…。或いは『監視の魔法陣』で不可視の使い魔が映し出す映像をチェックさせられるんじゃないか?」
「『監視の魔法陣』の映像でも魔眼の効果は発揮できるものなんですか?」
「『監視の魔法陣』を製作した者の魔力の質次第では映像越しでも何とか見えることは見えるらしい。だけどそれだと不可視の使い魔が見回した映像しか見れない。監視漏れが確実に出る」
「でしょうね」
「そもそもイーリーとレルフが生き残ってたのだって、昔、ジャンが襲撃された報復の際、エルフは報復がある事を予期していて、人間の魔術師をあらかじめ攫って来てて、イーリーとレルフの顔に変身させてたかららしい」
「…エルフども、報復されるって分かってて人間を攫って肉盾にしてたんだ…。でも人間をエルフに変身させてたなら変身術の痕跡が出てたんじゃ…」
「エルフはエルフの里にいる時でも顔を変えてるヤツも多い。髪も緑で耳も尖ってるのに変身術で顔だけ美形に変えてたりするんだ。
要は身内にさえ見栄を張る生き物だという事だ。貴種とは違う」
「なんて紛らわしい…」
「本物のイーリーとレルフが何処かに隠れてて姿を見せないなら、本物のイーリーとレルフが里でも顔だけ変えて過ごしてるヤツなのかすら分からないだろう?だから騙された。
こっちはエルフへの報復で、無関係の人間の魔術師を殺した事にされてる」
「…そういうのですら、自分達が攫って殺させたくせに、嘘と欺瞞で真実を歪曲して広めてるのかも知れないんですね?」
「そうだ。イーリーが俺達を襲ってきた時に『リンジーの仇!』とか言ってたんで、まさかと思って、エヴェリー様に確認したんだ。
7年前に報復でエルフの里の子供エルフを殺した際、同じ時期に教会から人間の魔術師がいなくなったりしてないかって…」
「まさか…」
「そのまさかさ。東部の教会から2人魔術師が消えてた。『リンジー』と『ルイス』だ。
その2人の顔を俺は当然知らないが…。もしかしたらイーリーとレルフが学院で変身してた顔が『リンジー』と『ルイス』の姿を成長させたものなんじゃないかと思ってる」
「…やっぱりエルフってどういう神経なのかって理解できません。もしもその推測が正しければ、要はイーリー達は『肉盾にして自分の身代わりに殺した人間の死』を、こちらのせいのように解釈して、更に逆恨みをこじつけてるんですよね?」
「そうなるな…」
「…やっぱり、イーリーは何が何でも見つけ出して殺しておかないと…」
「見つかると良いんだがな…」
ウォーレスが疲れたような表情で重い溜息を吐いた…。




