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マーティー・ブランドンの馬に乗せられて
「落馬しては大変ですから」
と言われてガッチリとホールドされた。
(え?容疑は晴れてるんだよね?)
と少し怖くなって思わずウォーレスの方へ救いを求める視線を向けたが…
ウォーレスはそれには気付かず
「そう言えばダンカン様はどこをほっつき歩いてるんでしょうね」
と呑気にダンカン・モルガンの所在を気にしていた。
騎士の1人が言いにくそうに
「…ダンカン・モルガン様でしたら、国立総合診療所でお会いしました。傷害事件の加害者扱いで警備隊から事情聴取を受けてましたが『恋人がストーカーに付き纏われて困っていたから牽制しただけだ』と仰ってて無罪放免になってらっしゃいましたよ」
と答えたので
「へぇ〜…。『恋人』。…へぇ〜…」
とエヴェリー・モルガンが私を見ながら皮肉そうに口元を歪めた。
「…私は無関係です。ストーカーに関しては『追っ払ってやろうか?』とか言われましたが、お断りしてます。
無償の親切とかじゃなく、見返りを求める気満々の押し付けがましい善行など施されると、後が怖いですから」
「…へぇ〜…」
「そういう事を話し合う仲だったのか…」
とウォーレスとノークスまで白い目を向けてきたので
「…ストーカーに付き纏われるのも、ストーカーがストーカーを牽制するのも、私には関係ありませんよ?不可抗力です」
と一応言い訳は述べたが
「言い訳は見苦しいぞ」
とエヴェリーに言われて
「………」
(もう、何も言うまい…)
と思った。
マーティー・ブランドンの胸元に顔を埋めて
(コイツらとは、もう話さない…)
と決めて、嫌なヤツらを無視する事にした。
ブランドンとエヴェリーがその後も言葉を交わしていたが
(聞こえないフリをしよう)
とした…
ものの、ブランドンの心音がやたらと喧しく、本当に彼らの会話は意識に入って来なかった…。
******************
暴行を受けた騎士はメートランド子爵家のエルマー・グローバー。
命に関わる類の怪我ではなかったが、顔が分からない。
暴行犯はエルマーの顔をぐちゃぐちゃに潰していた。
このままでは視力は失われたままになり顔の裂傷も残るだろう。
(…なんでこんな酷い事ができるんだろう…)
というのが真っ先に思った事だ。
事故じゃない。
犯人が故意にやった暴行だ。
事故で酷い怪我をした怪我人なら師匠のジョエルの診療所でも見た事はある。
誰かにやられたとかじゃない怪我に対しては、ただひたすら治療に専念するだけだが…
誰かにやられた怪我に対しては犯人への怒りと軽蔑が先ず湧き上がる…。
(この人を絶対に治癒させよう…)
そう決意して、自作のポーションを内部空間拡張収納袋から取り出してエルマーの顔へゆっくり回しかけた。
認識阻害魔道具を稼働させ、傷が癒えた状態をイメージし、投影。
投影はあくまでも投影。
細胞の側で
「正常な状態こそが自分のあるべき在り方だ」
と騙されてくれなければ治癒は進まない。
それでも
「我が望みのままに」
と願いながら魔力を注いでいると…
不意に、自分が違う場所にいるような錯覚を覚えた。
天窓から一条の光が差し込む暗い聖なる部屋ーー。
細かい埃が光の差す箇所だけ光を纏ってフワフワとうねりながら舞い踊っている。
不思議な感覚…。
(共感覚フィールド…)
これまでにも何度となく、この状態になった。
そのうちに
「『使用魔力を制限せずに魔力を使う』と決意してから治療を始めると、意識が共感覚フィールドに入る事ができる」
と気がついた。
魔力量は増えてるので魔力枯渇は怖くない。
気を引き締めて
「この人は在るべき姿を取り戻す…」
そう呟くと…
光を纏った粒子がうねり舞いながら、私とエルマーを包んだ。
「悲劇など要らない。悲劇の痕跡など要らない…」
そう祈りながらエルマーに魔力を注ぎ続けた…。
すると魔力の消費と共に、エルマーは徐々に本来の顔形を取り戻していった…。
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メートランド子爵家は代々王家に取り入るのが巧みで
「小判鮫のように富のおこぼれに預かるのが得意な家柄だ」
と言われているのだが…
そういった気質の貴族家の特徴として
「王家が愛妾との間に設けた庶子をなすりつけるので、実は王家の血が混じっている」
という事が挙げられている。
(だからおいそれと暗殺もできない)
エルマーはそうしたお家事情を露骨に体現したような容姿だった…。
つまりエルマー・グローバーは、王太子として立太子なさった御歳15歳のマーカス王子に瓜二つの容貌だったのだ。
「…私、つい先日のパレードでマーカス王太子殿下のお顔を知ったばかりですけど…。エルマー様ってマーカス王太子殿下にそっくりなんですね」
と、ついつい本音の声が漏れた。
エルマーが狙われた理由も、実在する人物の偽物が襲撃者だった理由も、エルマーの容姿にあったのだろうと私でも理解できた。
「犯人側はずっと前からエルマーを狙ってたんだろうな…」
とマーティー・ブランドンが溜息を吐いた。
「こういう容姿だからという事もあって、エルマーは王太子殿下のお気に入りだったんだがな…」
パレードの時の王太子も、目の前のエルマーも、変身術を使った痕跡はない。
魔力回路は2人とも平凡な人間の魔力持ちの特徴を示しているし、本当に見分けがつかない。
敢えて言うなら、魔力探知能力で魔力のイメージを色に擬えて見ると、王太子とエルマーとでは少し魔力の色が違うと言える。
(そう言えば、個人識別を遺伝子で識別してるギルドカードって本当に高性能だよなぁ〜…)
と今更、オズバート・ガードナーの偉大さに気付いた。
だが、そのオズバートこそが超加速をエルフ側へ流出させてエルフの鬼畜化を後押ししてしまった男だ。
しかも莫大な遺産をエルフに遺した。
全然反省もしてなかったであろうキチガイに思える…。
そこまで連想してしまうと、個人識別を遺伝子で識別するシステムそのものまで胡散臭く思えるのだから、私は相当にエルフが嫌いなのだろう…。
「ともかく、エルマー様の治療が可能で良かったです」
「エルマーが目覚めたら『本物のルビー嬢が癒してくれた』とちゃんと伝えておきますよ」
エルマーの友人らしき騎士見習いがそう言ってくれたので
「それじゃ、用件も済みましたしファレル伯爵邸へ帰ります」
と言ってお暇する事にした。
ノークスが何か言いたげに、こちらに手を伸ばそうとしたが…
「それでは責任を持ってお運び致します」
と、すかさずブランドンが私の手を取ったのでノークスの手は宙を切っただけとなった…。




