84
読心術師らしき亜人の騎士は
「ブランドン隊の隊長のマーティー・ブランドンです」
と名乗った。
「えっと、それで怪我をさせられた人は?」
「メートランド子爵家のエルマー・グローバーです。命の危険はありませんが重傷です」
「治癒に伺いましょうか?これでも魔力の治癒適性度は学年一位です」
「それは頼もしいですね。一応騎士団医務室所属の治癒師が治療してくれてますが後遺症が心配な状態らしいので、できれば是非」
「そうさせていただきます」
「それで?ルビー・ヒル嬢本人は一度も王国騎士団医務室へは研修に訪れておらず、研修先は国立総合診療所だった、という事でよろしいのですか?」
「はい。今日も国立総合診療所でただ働きして精神的に疲労して寮に戻ったところだったんです」
「一応、今、国立総合診療所の方へ部下を向かわせています」
「そうなんですね」
「残念ながら犯人達を現行犯で拘束できなかったので、こうやって事件時の所在確認をさせていただいている訳です」
「バルモーラル公爵邸へ集められたのは何故でしょう?」
「北部貴族家の上位貴族がいらっしゃるのが、このお屋敷なので、おそらくウォーレス・モルガン君もルビー・ヒル嬢も濡れ衣を着せられただけだろうとは思いつつも事情聴取させてもらう許可を得ようと思ったのです。
派閥によっては傘下の者に対する無断の手出しを『宣戦布告と見做す』ようなところもありますからね」
「そうですか?」
思わずエヴェリーの方を見た。
(…コイツは絶対、私が濡れ衣で逮捕されて処刑される事になっても助けないと思う…。寧ろ後出しで「冤罪だった!責任取れ!」と交渉カードの一つにでもしそうだ…)
と疑いの眼差しを向けてしまう。
(何せコイツは…コイツらはパパとママが殺された時に助けなかった。…しかも泥棒だ…)
「………」
エヴェリーがムッとした表情になったので
(コイツ、もしかして「読心術の魔法陣」を使ってる?)
という可能性に気がついて急に寒気がしてきた。
(殺気?…を飛ばされてる?のかな?)
マーティー・ブランドンが
「…ルビー嬢はとても素直な方なんですね。閉心術を使わずにいてくれるので、事情聴取に信憑性がある」
と言ってクスクス笑う。
が、それは聞き捨てならない。
「そう言えば、私の偽物は閉心術を使ってましたか?」
「ええ。上手に心を隠してましたよ」
「私は何故か閉心術を使えないんです」
「でしょうね」
「適性が無いと使えないんですよね?」
「そうですが…。魔力の質が高い方は閉心術の適性が高い方が多いので、ルビー嬢が適性が無いというのは不思議ですね」
「何か原因があるんでしょうか?」
「何か原因はあるのでしょうが…それは私にどうこうできる問題ではなさそうです」
「そうですか…」
そうこうしているうちに国立総合診療所へ聞き込みに行っていた騎士が戻って来て
「本物のルビー・ヒルの事件発生時の所在確認ができました」
と報告した。
(私本人がいる前で容疑者扱いでアリバイ確認が取れたとか報告されてもね…)
と、その騎士に対してデリカシーの無さを感じたが…
その辺の気遣いをすっ飛ばす事で捜査が進展しやすくなるのなら、それはそれで水に流すしかないのだろう。
「…ウォーレス・モルガン君も学院内で第三者による目撃証言もあるし、完全に『成りすまし』による犯行でしたね。
お騒がせして申し訳ありませんでした。また何か新情報が出て別の可能性を検討する事になりましたら、再度事情聴取させていただくかも知れませんが、今日のところはこれでお暇させていただきます」
騎士達がゾロゾロ引き上げていくのに対して
「あ、待ってください。私も一緒に行きます。怪我人の治療をしたいので」
と声をかけた。
「しかし、今から騎士団医務室まで行ってからだと寮の門限に間に合わなくなるんじゃないのか?」
ノークスが口を挟んだが…
「ファレル伯爵邸に泊まりますから大丈夫です」
と答えた。
「「「………」」」
騎士達は私とノークスの間の微妙な空気に違和感を覚えているようだが、いちいち説明する気はない。
「それなら伯爵邸まで送るよ」
「いえ、結構です。顔を見てると吐き気がしてくるんで、私の精神衛生を思いやってくださる気が少しでもあるのなら近寄らないでください」
「その言い草…。偽物もそういう事言って俺を追い払ったから、余計に発覚が遅れたんだ」
「それなら犯人を絞り込めますね。犯人はフィリス卿の事も貴方の事も知っていて私に変身していた。
騎士団内で私の事を一番よく知る貴方を追い払えば成りすましに気付ける者はいなくなるんだから」
「頼むから、言い訳くらい聞いてくれよ」
「…私をどこまでバカにすれば気が済むの?言い訳すれば許してもらえると思ってるのなら、それは私を『ちょろい』と侮ってるようなものですよ?」
「許してもらえなくても、言い訳はさせて欲しい…」
「スミマセンが聞きたくありません。黙ってください。皆さんにも迷惑です」
「…(ハァァーッ)」
王国騎士団は王都の北側にあり、中央の王城周りの貴族街とは離れている。
因みに王立学院もやや北側。
国立総合診療所は南側。
寮からバルモーラル公爵邸まで来た時は仕方なくノークスの馬に2人で騎乗して来たが、王国騎士団まで行くのにノークスの馬に2人で騎乗するのは嫌だった。
国立総合診療所まで私のアリバイを確認に行った騎士に対して
「容疑者扱いした分、迷惑料を払え」
という気持ちで
「馬に乗せて欲しい」
と要求しようかと思ったが…
考えてみれば馬が疲れている可能性がある。
隊長のブランドンとは相乗りしたくない。
(側によると潜在的記憶まで読まれるとかだったら嫌だもの…)
となると、容疑者が逃げないかどうかを見張るために部屋のドア付近で監視してた騎士に頼むのが一番無難だ。
くだんの騎士に
「乗せていただけるんですよね?まさか自分達だけ馬で移動して私には歩けとか言いませんよね?」
よ声をかけると
「へっ?」
と間の抜けた声が返ってきた。
「…あ、あの…えっと…」
と、たじろいで顔を真っ赤にして返事をいただけない…。
「?」
(コミュ障とか、そういう人だったのか?)
と訝しく思って首を傾げると
隊長のブランドンが
「責任を持ってお運び致しますよ」
とニッコリ笑って、私の手を取った…。




