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4年生になった事で研修が始まった。
正確には研修という名のタダ働き、か…。
王立学院の存在価値が平民達に認められている唯一の美点。
それこそが治癒適性魔力持ちの派遣による無償治癒活動である。
勿論、広い範囲で無償治癒活動が施される事はない。
各地で既定の料金を設定している治癒師達の収入源を奪わないためだ。
「王都までの旅費のほうが高くつく」
なら、わざわざ王都内で行われる無償治癒を受けようと思う人はいない。
余程、治癒力に格差があるのでなければ。
「1年間頑張ってください」
と教師陣から激励を受けた。
引率の教師が付き添うのは初回のみ。
次からは学院の教室へ出向く代わりに自分で研修先へ出向く事になる。
研修先は
王城医務室
王国騎士団医務室
王立記念病院
国立総合診療所
の4箇所。
研修生は5名。
王城医務室へ2人。
王国騎士団医務室へ1人。
王立記念病院へ1人。
国立総合診療所へ1人。
という振り分けになった。
私は子爵家の養女ではなくなっているので研修生の中で身分が一番下。
なので一番ランクの低い研修先である国立総合診療所へ派遣される事になった。
身分が一番下だと言っても、治癒適性は一番高くて、ポーションの出来も、認識阻害魔道具を使った治癒促進も一番優秀。
教師陣からは
「くれぐれも傷を完璧に治癒したりなどしないでください。人攫いの対象にされるような目立つ行動は控えるように」
と言い渡されている。
「一人一人にかける魔力・労力をケチって、効果を抑えた治療を、数多くの患者に施す」
というのが国立総合診療所のような平民向け医療機関での働き方のようだ。
患者数自体が少ない王城医務室とかだと、一人一人に魔力をふんだんに使って、可能な限りの治癒を施す勤務態度になるのだろうから、それとは真逆だという事。
そういった
「効果を抑えた治療」
はジョエルの診療所でも慣れている。
理由はやっぱり
「腕の良い治癒師は攫われて盗賊団・海賊団の専属にさせられる」
という横暴が降りかかるから。
なので患者が身内の場合だけ効果を抑えずに治療できる。
勿論、口止めは必要だ。
患者はそういった不平等を何よりも憎む。
「精一杯やってます」
という姿勢を見せておかないと
「よくも手を抜きやがったな!」
と、タダで癒してもらっておきながら逆恨みしかねない。
案の定、国立総合診療所でもジョエルの診療所と同様に患者が大量に集まった。
「見習いの治療なので無料です」
というのが効いているらしい。
勿論、怪我人や病人にとっては
「診療所まで来る」
という事自体が大変なので
「無料の治癒が受けられても感謝の念は湧かない」
という心理の人が多い。
「見習いに経験を積ませてやってるんだ。ありがたく思え」
みたいな事を言う人も一定数いて、流石に驚いた。
ジョエルのところのような個人の診療所だと行儀の悪い患者は即座に警備隊を呼ぶ対象にされるのだが…
総合診療所のような医師も複数なら助手も看護師も複数、治癒師も複数いる大規模な空間はかなり雑多で、各個人の言動がチェックされる基準も甘い。
要は無頼漢が入り込みやすい…。
一方で診療所をお見合い仲介所だとでも勘違いする男も湧く。
ちょっとした切り傷を作って毎日通ってくる人達なんかは
「一体何の仕事をしてるのだろうか?」
と謎だ。
「名前、なんて言うの?」
「歳、幾つ?」
「ここに勤める前は何してたの?」
「何処に住んでるの?」
「休日は何してるの?」
「付き合ってるヤツとかいるの?」
とか訊いてくる。
更に悪質なのは
「お父さんの名前はなんていうの?」
「お金に困ってたりとかしない?」
「稼げる仕事があるんだけど?」
とか言ってくる人。
いかにも怪しい裏の仕事に引き込もうとしている。
(世の中、悪人が野放しの社会って怖いよな…)
と、しみじみ思う。
通勤も帰宅も当然透明化・気配隠蔽でコソコソ移動してるので連中がハイスペックじゃない限り、このまま無事でいられるとは思うが…
連中の仲間にハイスペックなやつがいた場合
「認識阻害看破魔道具を使って尾ければ住まいを嗅ぎつけられる」
と気が付いてしまうかも知れない。
今や超加速で10倍くらいの速度で動けるようになっているので相手がそれ以上の速度で対応できるとかじゃなければ戦闘になっても負ける事は無いし、逃げ切れるとは思う。
吸血鬼を狩るために日々精進しているエルフの魔術師とかが相手じゃない限りは、そう簡単に殺される事もないだろう。
ただ、煩わしいだけだ…。
「あと約10ヶ月もこんな事に気をつかいながら毎日バカみたいに魔力使って大量の患者に無償奉仕しなきゃならないのかぁ…」
と思うと、少しずつ萎えていった…。
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金持ったキチガイという生き物は本当に恐ろしい。
東部の一部の貴族はエルフに完全に乗っ取られてしまっているらしく
「森の樹木を守ろう!」
「無断での樹木伐採には厳罰を!」
という不条理規則が一部の領地で実施されているという噂を聞いた。
無断で木の皮を剥いだという罪で、腸を引きずり出され、その腸が樹皮の代わりに木に巻かれたり…
無断で木を切ったという罪で、斬首され、見せしめとして、生首が切り株の上に置かれたり…
とんでもない事が行われているらしい。
「よく、そんな異常な森林保護に従ってしまえるものだなぁ…。やっぱり東部人って頭が弱いのかしら?」
と首を傾げたくなる。
商人ギルドや冒険者ギルドで使われる高性能ギルドカード。
そのシステムを構築したオズバート・ガードナー。
「知的財産権の相続を認めない」
という法律のお陰でエルフ達が天井知らずの富を手に入れる最悪の危機は免れているらしいが…
エルフ達がオズバートの遺産で相当な金持ちになっていて好き放題にエルフ都合の法律を広げようとしているのには変わりない。
しかも
「無断で樹皮を剥いだ」
という罪で腹を裂かれて腸を引きずり出された被害者が
「実は無実だった!」
「野生の鹿の仕業だった!」
と、後から発覚したケースも多発。
そうした悲劇の原因がエルフにある、という事実を
「東部人だけが情報規制で知らされずにいるのだ」
という話だが…。
情報規制がそこにあったとしても、真実は真実であるがゆえに必ず規制の綻びから漏れ出るものだと思うのだ…。
(人間の側に「エルフ都合の世界観・価値観」を気持ちの悪いモノだと見抜く知性が備わっているのなら…)




