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「そこで有効打になったのが『読心の魔法陣』だったわけです。…エヴェリー様達がセルマさん親子の住んでいた森の隠れ家から押収してきた魔道具の中に『読心の魔法陣』があった事は知っていますか?
残念な事に図形の中に複製禁止の文字が含まれてでもいるのか、錬金術師が模倣品を作ろうとしても機能再現できなかったようです」
アルバート先生がエヴェリー達の側の事情を話してくれるが…
(…本当にそういう話、私に話しても大丈夫なのかな?)
と少し心配になった。
読心の魔法陣。
確かにレア魔道具だ。
コーネリアのお手製で、しかもコーネリアしか作れないから価値が高いのだとアラスターに教えられて成る程と思った。
「なのでエヴェリー様が原本をコッソリ所有しコッソリ使い続けていたらしいのですが…フィリス卿も何処かでエヴェリー様が『読心の魔法陣』を使用していると聞き齧っていたのでしょうね。随分と長い事尻尾を掴ませなかったようですよ。
ですが、エルフ側としては『コーネリア・スミッソンを許せない』『コーネリア・スミッソンの血を引く吸血鬼を許せない』という怨念を引きずっているらしくて、セルマさん憎さで少しずつボロを出していたらしいです。
セルマ・スミスとルビー・ファレルが同一人物だという情報はフィリス卿には隠されていた筈ですが、それも誰からか聞いてしまったようです。
だからノークス様に接触し、暗示をかけ、ルビーさんの情報を聞き出した上で操った」
そう言われて急にエルフへの憎しみが込み上げてきた。
「…すみません。エルフ側が『コーネリア・スミッソンが許せない』『コーネリア・スミッソンの血を引く吸血鬼を許せない』と思うのが、どうにもムカつくんですが?
許せないのはこちらの方なんですが?なんか本当にムカついて仕方ないです…」
「ですよね?まぁ、だからこそエルフは本当に呪われるべき種族なんでしょうね。自分達がやってはならない事をやったから粛正された、という事実を理解できない。
北部始祖が西部始祖に誑かされたから無害なエルフを粛正した、などと自己美化も激しい歪曲史実を捏造して、それを組織的に集団で信じている訳ですからね」
「…エルフ側の魂や自我を勝手に出し入れする技術を手に入れれば、フィリス卿を正気にできるんじゃないでしょうか?」
「その前にフィリス卿の中のエルフが致命的なタイミングで裏切って、こちら側に犠牲者が出る可能性が高いでしょうね。
エルフ側の技術を手に入れるには完全に彼らを淘汰してからという事になるでしょう。
超加速まで盗んだ連中です。油断するとこちらが狩られます」
「ノークス様の行動異常はフィリス卿が接触してのものですよね」
「そのようですね」
「暗示を解除すれば元に戻るのでは?」
「ええ。解除すれば元に戻るでしょうが、今回の事でイアン様はノークス様にルビーさんを任せられないとお思いになられたらしくて、ルビー・ヒルとして独りで生きていける目処が立ったなら、わざわざ婚約者をあてがって北部に引き戻す必要はないだろうと判断なさいました」
「新しく別の婚約者があてがわれるとかではないんですね?」
「ええ。セルマ・スミスは北部に引きこもっていて、ジャン・ファレルと結婚してファレル伯爵夫人になるという設定はこれまで通りですが…。
ルビー・ヒルは王立学院在籍中までファレル伯爵家の猶子として後ろ盾を与えられるが、その後は自由に暮らして良いという意向でした」
「…それは、なんというか…。嬉しくもあり、寂しくもありますね」
「寂しいのですか?自由になれるのに?」
「アルバート先生は『自由というしがらみの無さは絆の無さであり、寂しいものだ』と感じた事はないのですか?」
「…それは微妙ですね。誰であれ慕わしさを感じる相手には縛られたいし、そうじゃない相手からは縛られたくないと思う筈です」
「相手への感情次第で束縛の絆は意味を変えると?」
「そうです。他人を監視する役目一つをとってもそうです。微笑ましく見守りたくなる感情を覚える事もあれば、不安や悲しみを味わう事もあります。
そもそも何の感情も持たない監視なら、ただの仕事であり、喜びも苦痛もなく、ただただ職務遂行の義務感のみに埋め尽くされた機械的作業でしょうから、寂しさは起こらない」
「そうなんですね…」
そう言われて、ふと思う。
(この人の不可視の使い魔に対して、私は随分前から警戒しなくなってたんだよな…)
と。
多分、先生の魔力の気配がコーネリアの魔力の気配に似ているからなのだと思う。
(ハイスペックな魔術師というのは魔力の気配が似てくるものなのだろうか?)
考えてみると、この人は初めて会った7年前から姿も態度も何も変わらない。
先生の使い魔は既に
「いつも付いてくるのが当たり前」
になっていた。
いつかそれが無くなるのだとしたら…
ホッとするよりは寂しく感じるのかも知れない。
「…ですが、もしルビーさんの監視はもう必要ないと言われて、ルビーさんに付けてる使い魔を別の用途に回すようにしたら…。
ルビーさんが言うように『自由なのに寂しい』という気持ちになってしまうのかも知れませんね」
「…先生。今頃になってストーキングを自白するんですね」
「仕事ですから。趣味でしてる訳じゃありませんから、疾しい所は一切ありません。…私はロリコン趣味のジミー・ジャクソンとは、違いますから…」
「開き直るんですね…。まぁ、良いでしょう。許します…」
思わず苦笑が漏れた。
私はここ3年でようやく魔力探知能力を身に付けていた。
普通の魔力探知能力保持者は魔眼を持たないので体外放出された魔力しか探知できない。
つまり相手の前で魔力を使って何かしない限り使い魔の魔力との関連に気付かれる事はない。
でも私は魔眼と魔力探知能力を組み合わせて魔力分析するので、魔術師が魔力を使わずにいても、対面すれば使い魔の魔力との関連に気付ける。
お陰で自分に付き纏う不可視の使い魔6体のうち
3体が
コーネリア
アルバート先生
アンディー
のものだと判明しているのみならず
残りの3体のうち1体は
コールリッジ子爵家のジミー・ジャクソン
のものだという事も判った。
もう2体の不可視の使い魔の術師にはまだ実物に出会った事がない。
どうやらかなり用心深いようだ。
因みにコールリッジ子爵家のジミー・ジャクソンとコールリッジ男爵家のザック・ヒューストンは卒業している。
2人とも
「エルフの魔術師だった」
ことのみならず
「中身は老人だった(!)」
事も判っている。
(エルフの年寄りなんて気持ち悪い。生理的に受け付けない…)
「知性あるミミックに自分の子供役を演じさせる」
のがエルフの定番だと思っていたら…
「知性あるミミックに大人の自分を演じさせて、自分は子供役にハマる」
ような倒錯した趣味のエルフもいるという事だ。
(ホント気持ち悪い、死んで欲しい)
ロリコン趣味でもあったのか…
ジミー・ジャクソンは在学中に同級生の女子と親密なお付き合いをしていた。
(死ねば良いのに…)
思わず、衝動的に
「魔力を纏ったナイフでジミー・ジャクソンの使い魔を破壊してやろうか?」
と思ったのだけれど…
「そういうのは剣術の授業や自己鍛錬の時に『たまたま当たった』フリをして破壊するのが無難な対応です」
という先生のアドバイスに従って、剣術の授業の時に破壊したのだった。
とは言え、翌日には新しく別の使い魔が張り付けられていたのだが…。
着替えを覗かれるのは嫌なので、着替える際には露骨に結界を張って幻影の投影もせずに使い魔を閉め出していた。
「思ったよりも、ショックを受けて無さそうで安心しました」
と先生は言うが…
彼の目は節穴なのだと思う。
私はショックを受けてもそれを表現したりしない。
何故なら何人もの魔術師が使い魔を張り付けているのだ。
嘆いたり泣いたりするところを見られたくない。
自分の弱さを見られるのは屈辱だ。
それに転移魔法陣でメモが転送できなかった時点で
「心変わりされた」
と悟っていたのだ。
結界の中では誰にも見られず、泣くだけ泣いた…。
それこそ涙が枯れるまで…。
ショックを受けていないのではなく
既に割り切ったのだ。
「私を愛してくれるのは家族だけなのだ」
と…。
(新大陸へ行きたい…)
と、そう思うようになりながら…。




